この手を離さない 作:八銀はジャスティス
合い言葉は、八銀はジャスティス
銀子ちゃんと無事にまた出会うことができた僕は、その後桂香さんに呼ばれ、銀子ちゃんと共に1階に降りてきていた。そこには、にこやかな笑顔を浮かべている桂香さんと、同じく笑顔を浮かべながらも若干、いやかなり顔が引きつってる師匠が座って待っていた。
何があったのかは怖くて聞けない。まぁ、聞かなくても大体わかるけど。
「なんや。手まで繋いで、もう仲良うなったんか」
師匠に言われるまで忘れていた。そういえば、あれからずっと銀子ちゃんの手を握ったままだった。久しぶりに握れたこの手の感覚が嬉しすぎて、うっかりしてた。
「あ、ごめん」
慌てて僕は手を離す。銀子ちゃんの反応は一切無い。この頃の銀子ちゃんは、無表情がデフォルトだ。表情から、感情の変化を読み解くのは難しい。まぁ、成長するにつれて、段々とわかりやすい子にはなっていくのだが。それでも、僕は銀子ちゃんの想いを知るまでは、全くわからなかったけどね。
「なるほど。八一には女誑しの才能がありそうやな。桂香、お前も気をつけとけよ」
「流石に6歳の子とは何も起こらないわよ……起こらないわよね?」
なんでそこで疑問系になるんですか。起こりません。桂香さんには悪いけど、僕には銀子ちゃんが既にいてるんです。起こりません。後師匠。女誑しなんて不名誉なこと言ってくれてますけど、僕は銀子ちゃんに一途なんです。他の女性には食いつきません。
「まぁその様子やと、自己紹介は大丈夫そうやな。2週間だけやが、弟子入りしたんは銀子の方が先や。やから、銀子が姉弟子、八一が弟弟子になる」
姉弟子。実に懐かしい響きだ。前生では、そう、あの一度手を離してしまったあの日から、しばらく僕は銀子ちゃんのことを姉弟子と呼んでいた時期があった。銀子ちゃんの、名前を失ってしまっていた期間。その期間、約5年。僕は、5年という長い期間、銀子ちゃんを苦しめ続けたのだ。僕にとって、消えない後悔の記憶。その後悔を消すために、僕は今生きているんだ。今生では、絶対あの手を離さない。離してなるものか。
「さてと、それじゃ夕飯の支度をするわね。八一君、好きな食べ物は?」
「ぎ……餃子」
「餃子が好きとか、将来酒飲みになりそうやな」
危ない。危うく銀子ちゃんが作る手料理ならなんでも、なんてとんでもないことを口走りかけた。でも、銀子ちゃんの手料理が恋しい。銀子ちゃん、中学の頃は料理が得意だって自分で言ってたが、実際にはそんなことはなく、自信満々に隠し味を投入しては、いつも失敗するような子だった。だけど、高校時代に僕の実家に行って以来、母さんの教えもあってメキメキと料理の腕が上達していった。そして気づいたら、僕の胃袋は完璧に掴まれていた。あの味が恋しい。
なんだか、今日はさっきからずっと銀子ちゃんのことばっか考えてる気がする。久しぶりに会えて、やっぱり僕の心は舞い上がってるのだろう。今も僕の隣には銀子ちゃんがいる。そのせいか、余計に僕の心は銀子ちゃんで埋め尽くされている。
「じゃあ嫌いな食べ物は?」
「ありません!」
「ほう、嫌いな食べ物は無いんか。銀子と一緒やな。こら二人とも大成するわ」
あんた達のお陰で無くなったんだよ!と言いたいが、ここはグッと堪える。未だに、前生の椎茸の恨みは忘れていない。まぁ、お陰で普通に食べれるようにはなったけど。
「それじゃ、今日は餃子にしましょうか」
「せやな。こらビールが進んでたまらんわ」
そして、今日の晩飯は僕の大好物ということで餃子に決まった。本当はカレーの方がもっと好きだが。そういえば、前生においてあいの作ってくれた金沢カレー、あれは絶品だった。思い出すと無性に金沢に行きたくなってきた。
その後は、桂香さんが作ってくれた実に美味しい餃子をいただいた。師匠は弟子もいる中で実に美味しそうにビールを飲んでいる。僕も飲みたいが、そんなこと言えるわけがない。今生の年齢よ、早く20歳になってくれ。
そして銀子ちゃんは、餃子にも相変わらずソースをドバドバとかけていた。それを桂香さんに咎められるという、懐かしいやり取りも見れて、無性に嬉しくなってしまった。
そして美味しい晩飯をいただいたら、次は風呂の時間だ。さて、パッパと入って、また銀子ちゃんと将棋を指そう。次は絶対に負けない。と、思っていたのだが、僕は一つ、とんでもなく重大なことを忘れていた。本当に重要なことだ。僕の今生の過ごし方にも影響しかねない重要なことだ。あぁ、なんで僕はこんなことを忘れていたんだろう。
「それじゃ、八一君、今日はお姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうね?」
初めてのお風呂といえば、桂香さんと入ったんじゃないか!これはまずい。非常事態だ。何がまずいって、僕のドラゴンが目覚めかねない。前生では、マセガキながらも、幼さ故に性に目覚めていなかった僕のドラゴンは、眠ったままだった。
だが今はまずい。ジジイになってもケダモノ並の性欲を持ってる僕の精神と、若返った僕のドラゴンが融合してしまえばまずい。目覚め、巨大化してしまう恐れがある。そうなってしまえば、僕の今生における、清滝家での生活は終わる。銀子ちゃんとの今生における生活が終わる。それは、ダメだ。だからといって、断るわけにもいかない。ええい、九頭竜八一、覚悟を決めろ!お前は男だろ!男なら潔く死地に飛び込んで見せろ!ま、男だから困ってるんだけどね!
「どうしたの八一君?早く行きましょう」
「あ、は、はい!」
桂香さんに催促され、僕は天国のような地獄へと向かって歩を進める。その後ろからは、銀子ちゃんも着いてくる。前門の桂香さん、後門の銀子ちゃん。後門の銀子ちゃんはまだいい。いくら最愛の人とはいえ、まだ今は4歳の幼女だ。流石に発情することはない。僕は決してロリコンでは無いのだ。決して、ロリコンでは無いのだ。
というわけで、問題は前門の桂香さんだ。いくら考えても、回避する方法が全く思いつかない。どうやら、信じるしかないようだ。僕のドラゴンに秘められた耐性を。さぁ桂香さん、勝負と行こう。僕は覚悟を決め、桂香さんに続き脱衣所に入る。
「よいしょ」
何も気にせず服を脱ぎ出す桂香さん。露わになった二つの双丘。正に飛車角級。ええ、大変な大駒です。あんな大駒乱舞に勝てるわけない。その証拠に、今この瞬間も少しずつ僕のドラゴンは、覚醒を始めていた。ここは潔く、投了いたします。
「ぼ、僕先におトイレ行ってくるね!」
敵前逃亡だ。永世七冠にまで上り詰めた僕が、まさかの敵前逃亡だ。初めから、こんな闘い無謀だったんだ。近しい戦力差で言うならこれは、人間対ソフトの対決だ。人間である僕が、AIならぬPIに勝てる訳がない。完敗だ。
だけどな、九頭竜八一。お前、こんなところで諦めていいのか?こんなところで諦めるようなやつに、未来を変えることができると思ってるのか?できるわけないだろ。立ち上がれ、九頭竜八一。あの手を掴むために、何度でも。
そうだ。こんなの所詮、番勝負の初戦を落としただけにすぎない。闘いはまだまだ続くんだ。さぁ、第2局といこうか!僕は、再び覚悟を決めた。衣服を脱ぎ捨て、天国とも地獄とも判断が付かない浴室へと足を踏み入れる。
「あら?やっと来たわね」
「う、うん、晩ご飯食べ過ぎちゃったかな?お腹が痛くて」
「大丈夫?無理しちゃダメよ?」
「うん。ありがとう」
よし。会話は滞り無くできている。僕は、シャワーを浴びてる桂香さんの方を見ないように、かけ湯を済ませると銀子ちゃんが先に浸かってる浴槽へと入った。しかし桂香さん、本当にデカい。高一でこのプロポーション。これは他の男が放っておかないだろう。銀子ちゃんとは大違いだ。銀子ちゃんは、結局何歳になっても成長することが無かった。無だった。いや、銀子ちゃんの名誉のために、ここは微と言っておこう。まぁ、桂香さんと比べると雲泥の差だ。月とすっぽんだ。同じ盤上にすら立てていない。……って、なんか足が痛いんですけど!
「あの、銀子ちゃん、どうして僕の足を蹴ってるの?」
浴槽の反対側に座る銀子ちゃんが、僕の足をガシガシと蹴っていた。割と本気で痛いんだけど。
「蹴らないといけない気がした」
そうか。なら仕方ない。なんて言うわけない。まさか、僕の考えてることが見抜かれたわけでもないだろうし、もし仮に見抜かれたとしても、4歳の子が気にするだろうか?しないだろう。まぁ、銀子ちゃんの考えてることは気にしても仕方のないことだろう。僕にはわからない。だけど、あえてこのタイミングで言わせてほしい。僕は、銀子ちゃんのPIの方が、もっと好きだよ。なんて考えると、銀子ちゃんの攻撃は止まった。やっぱり、バレてるんじゃないよね?
「さぁ、八一君。おいで、洗ってあげるわ」
「え?」
思わず声が裏返りそうになってしまった。あぁ、そういえばそんなこともありましたね。前生でも洗っていただきましたね。忘れてたよこんちくしょう。さて、間違いなくここからが今日の最大の山場だろう。洗ってもらう側はもちろんマズいが、さらにマズいのは、洗う側だ。洗うってことはつまりあれだ。桂香さんのあんなところやこんなところに触れてしまうということだ。こんなもの、僕のドラゴンが燃えよドラゴン状態になってしまう。非常にマズい。だが、断ることもできないし、どうすることもできない。もう、僕のドラゴンを信じるしかないのか?
まぁ、考えても解決策が浮かぶわけでも無いし、僕は意を決して敵の懐に飛び込む。まぁ、桂香さんは敵じゃないけど。浴槽から出て、桂香さんを見ないようにして風呂椅子に座る。背中から桂香さんの圧を感じる。
「それじゃ、ゴシゴシするわね」
「っ、はい!」
スポンジ越しにだが、桂香さんの手が背中に当たる。あぁ、凄いゾクゾクきちゃう。銀子ちゃんにも背中を流して貰ったことはあるけど、それとも背中に感じる感触が違う。なんだか、こそばゆい。だけど、視覚情報も特にないし、まだ、まだ今は耐えられる。
「はい、背中は大丈夫!じゃあ、反対向いて」
「え?」
そちら側はマズいです。ダメです。耐えられる自信がありません。
「ま、前は大丈夫だよ」
「遠慮しなくていいのよ。お姉さんが洗ってあげる!」
遠慮してるわけではないんです。本音言うと是非とも洗っていただきたいのです。何のしがらみもなければ、是非とも洗って頂きたいのです。何のしがらみもなければ。だけどしがらみだらけの今の状況では、それは悪魔の所行だ。あぁ、なるほど。やっぱりそうか。僕は、今の今まで、自分が天国にいるのか地獄にいるのかをわかっていなかった。だけど今ハッキリとわかった。悪鬼羅刹が住まう、地獄だったのだ。地獄の鬼に、生身の人間が勝てる訳が無い。マトモな勝負がしたければ、金棒なんて捨てて駒で勝負しろ。まぁ、つまりそういうわけなのだ。僕は諦めたのだ。後は、もう流れに身を任せよう。さらば、今生の僕。ごめんね、銀子ちゃん。
「じー」
……なんてことを考えてたら、何故か浴槽に浸かる銀子ちゃんから凄い視線を喰らう。その視線が凄く痛い。僕の良心にグサグサくる。良心が一瞬で剣山状態になってしまった。あぁ、そうだよな。僕には銀子ちゃんがいるんだもんな。こんなところで、いくら桂香さんとはいえ、他の女性に
僕はもう一度、覚悟を決めた。今胸の内にあるのは、銀子ちゃんへの想いだけ。さぁ、桂香さん。どこからでもかかってきなさい。僕はもう、逃げも隠れもしない。真っ向から勝負しよう。そして僕と、地獄の鬼との番勝負第2局が開幕した。
今回は、序盤から僕の優勢で手が進んだ。定石も何も無い局面を、己の内に宿る熱い想いだけで切り抜けていく。途中、桂香さんの手が僕の龍王に触れる危険な局面もあったけど、最後まで優勢を保った僕が、勝利を手にした。これで一勝一敗の指し分けとなった。
「じゃあ今度は、八一君が洗ってくれる?」
そして、休む間もなく3番勝負の第3局が始まる。まるで、2局目3局目が連日で行われる山城桜花戦を彷彿とさせる連戦。だけど、もう僕に恐れるものは何も無かった。今の僕は、銀子ちゃんへの想いという最強の囲いで玉を守っている。いくら桂香さんでも、この囲いは崩せないだろう。この勝負もらった。僕は勝利を確信し、桂香さんのPIに触れ……
「ごめん桂香さん!僕やっぱりお腹の調子悪いから先に出るね!」
「え?ちょっと八一君!?」
そして僕は2度目の敵前逃亡を成し遂げた。あぁ、鬼には勝ててもPIには勝てなかったよ。ごめん銀子ちゃん。僕は銀子ちゃんの夫である以前に、一人の男だったんだ。浴室を後にする頃には、僕のドラゴンは完璧に目覚めていたのであった。
風呂を出た僕は、トイレに立てこもっていた。別に、本当に用を足している訳ではない。ただ、気持ちを落ち着かせているだけだ。幾分か時間が経ち、僕のドラゴンも再び眠りに着いた。もう、しばらく目覚めることはないだろう。
外から話し声が聞こえてくる。どうやら、桂香さん達が出てきたようだ。僕は、桂香さん達がトイレの手前に来るのを見計らって、外に出た。
「あら?八一君。もうお腹は大丈夫なの?」
「うん!もう大丈夫!」
桂香さんが、僕のことを心配して声をかけてくれる。その優しさに、僕の良心にまたもグサリと棘が刺さる。
「そう。なら良かったわ。八一君、明日からはお風呂銀子ちゃんと二人で入れる?」
「うん!大丈夫だよ!」
明日もってなったら、僕は絶対に耐えられない。是非とも、こんなことは今回限りにしていただきたい。それにしても、本当に天国のような地獄のような体験だった。正直に言うと、もう二度と体験したくないと思ってしまった。桂香さんとのお風呂、昔の、それこそ銀子ちゃんと付き合う前の俺だったら喜んで飛び込んでいっただろう。だけど、今は違う。どうも、銀子ちゃんに申し訳ない気持ちになってくる。だから、残念、非常に残念だが、桂香さんとのお風呂は今回限りだ。あのPIの感触だけはこの手に保存しておこう。そう密かに決めた、清滝家初日の風呂事情であった。
と、今日の出来事を締めようとしたら、後ろから服の袖をクイクイと引っ張られる。振り返るとそこにいたのは、銀子ちゃんだった。
「銀子ちゃん?どうしたの?」
「ケダモノ」
おい幼女。なんでそんな言葉を知っている。
ギャグ回もとい下ネタ回
りゅうおう(いみしん)のおしごと!
昨晩しらび先生のツベ配信見てたら、見事に寝不足になってしまいました。
しらび先生の銀子ちゃん誕生日イラスト、可愛すぎて悶えました。
次の投稿もあさって予定
八銀はジャスティス