この手を離さない   作:八銀はジャスティス

16 / 54
11月発売のゲームは、限定版をゲーマーズさんで予約してあります
元々、早々に違うところで予約してたのですが、ゲーマーズさんの店舗特典に射貫かれたので、店舗特典公表後直ぐに予約先を変えました
あの銀子ちゃんタオルはヤバイ
でも、楽天ブックスさんの銀子ちゃんアクキーも欲しい
いっそのこと二つ予約しちゃおうかな?
合い言葉は、八銀はジャスティス


第9局 未来への第一歩

歳を越した一月のことだ。

この日、僕は朝から関西将棋会館にやってきていた。ここに来た理由はもちろん、将棋を指すためなのだが、普段の対局とは大きく違う点がある。

今日は、大会なのだ。清滝家にお世話になってから初めて参加する大会なのだ。

 

その大会の名は……小学生名人戦。

前生において、僕が小学三年生で優勝した大会だ。その記録は、当時の最年少記録だった。翌年に銀子ちゃんに更新されたわけだが。その大会に僕は、幼稚園児として出場する。とは言っても、今日はあくまで、都道府県予選に過ぎない。この大会の本大会は4月なのだ。大会規定としては、4月からの新年度に小学生になっていれば参加することができるのだ。なので、4月から小学生になる僕にも参加資格はある。前生において三年生で優勝した大会で、一年生での優勝を目指す。

 

目指す理由は、奨励会入りのためだ。小学生名人になれた場合、入会試験の一次試験が免除される。まぁ、免除されなくても別に問題は無いのだが、楽できるならそれに越したことはない。

 

「ほな、そろそろ始めるで」

 

師匠がそう言う。師匠は今日の大会の審判長を務めている。師匠が見ている前で無様な将棋は指せない。それに……

 

「それじゃ、そろそろ行ってくるよ」

 

僕は、隣で佇んでいる銀子ちゃんに声をかける。今日は銀子ちゃんも応援に来てくれているのだ。余計に無様な姿は見せられない。

 

「負けたらぶちころすぞわれ」

 

「あはは、そうならないように気をつけるよ」

 

銀子ちゃんなりの応援を受けて、僕は指定された席に移動する。盤を挟み対面には、既に対戦相手が座っていた。

 

「なんだぁ?ガキじゃねーかよ。出るクラス間違えてんじゃねーか?」

 

お前もガキだろ。という言葉を、大人な僕は心の中に留めることができた。僕は大人なのだから、これしきのことで怒ったりしない。これしきのことで。一応説明しておくが、この大会にはA級からD級までの4つのクラスがある。僕が参加しているのは、本大会となるA級だ。B級からD級までの3つのクラスは、交流戦となっている。そして、A級の優勝者は、後日開催される西日本大会に参加する資格を得る。

 

そして僕が今から行う対局は、謂わば大阪予選の予選となっている。今から2勝すれば決勝トーナメントに進み、2敗すれば予選敗退となる。その初戦の相手は、当然のことながら僕のことを舐めきっていた。

 

「俺としては楽ができてありがたいけどな。準備運動ぐらいにはなってくれよ。ガキンチョ」

 

……僕は大人だ。大人だからこれしきのことで怒ったりはしない。これしきのことで。だけど、大人として……

 

ビシッッッ!!!!!

 

「うっ!?」

 

子供を躾けるのも大事だよな?

 

「な、なんだ駒音だけは一丁前だな。けど、駒音だけじゃ、俺には勝てないぜ?」

 

ビシッッッ!!!!!

 

「ひっ!?」

 

「口はいいからさ、駒を動かしてよ」

 

「て、めぇ……!」

 

そこからの対局は、お互いノーガードでの殴り合いとなった。自玉の囲いを固めるよりも、相手の玉を詰ませることだけを考えたノーガードでの乱打戦。そしてお互い全く同じ戦法になってしまえば、小学生で僕に勝てる相手はまずいないだろう。せめて、創多を連れてこい。その対局は、今大会での最小手数での決着となった。僕が45手目で相手玉を完詰みに討ち取る。相手の子は、自身が詰んでいると気づくのに、それから数十秒の時間を要した。

 

「ま、負けました……」

 

相手は、信じられないものを見たかのような目で、呆然と盤面を眺めながら投了宣言をした。そして、漸く現実を受け入れられたのだろう。

 

「ま、ま、ママああああああああ!!!!!!!」

 

泣き喚きながら部屋から出て行った。僕は大人だ。大人だからこそ、時には心を鬼にして、子供を厳しく躾ける必要があるのだ。そう、大人なのだから。別に怒りに身を任せたわけではないので、勘違いしないように。

 

「今の対局は何?」

 

そして、銀子ちゃんに勝利報告をして、頂いた第一声がこれだ。

 

「囲いも無しに敵玉に突っ込むとか正気?相手も守りを無視して突っ込んできたからいいものの、もし囲われてたらどうしてたわけ?バカなの?ばかやいちなの?」

 

「返す言葉もありません……」

 

いつもは言葉少ない銀子ちゃんが、饒舌に説教をしてくれる。全くもって銀子ちゃんの言う通りなので、僕は反撃もできない。お姉ちゃん強し。

 

「八一は、将来尻に敷かれてそうやな」

 

おい師匠。聞こえてるぞ。僕が尻に敷かれるとか、そんなわけないだろ。何故か前生では、結婚してから晩年まで、尻に敷かれていそうな芸能人ランキングとかいう不名誉なランキングでトップを維持し続けていたけど、そんなの大きな間違いだからな。僕と銀子ちゃんはラブラブなんだから。その証拠に、芸能人おしどり夫婦ランキングでも常に上位をキープし続けていた。この二つのランキングに同時入賞できるのって、過去にも未来にも僕ぐらいじゃないだろうか?

 

「全く、こんな大会で負けるなんて、姉である私も恥ずかしいからやめて」

 

「肝に銘じておきます……」

 

「まぁ、八一なら負けないって信じてるけど」

 

あれ?なんか急にデレだした。これはもう、怒っていないということだろうか?でも、銀子ちゃんにそんなこと言われたら、俄然やる気が出ちゃうな。よし、次も頑張ろう。

 

そこからの僕は、怒濤の勢いで勝ち進んでいった。次戦も60手という短手数で勝ち、トーナメント進出を決めると、トーナメントに入っても勢いは止まらない。

 

「な、なんだあの幼稚園児!?」

 

「つ、強すぎる……」

 

「高学年の子が相手にすらなってないぞ!?」

 

怒濤の勢いで勝ち進んでいく僕は、気がつけば周りの注目を集める存在になっていた。最初は誰もが、背伸びをしてA級に参加してる幼稚園児程度にしか僕のことを見ていなかった。だけど、勝ち進んで行くにつれて、その見方も変わってくる。さらに、僕の対局内容がどれもこれも圧倒的なのだから、より一層の興味へと変わっていく。そして僕の快進撃は止まらない。止まらずに僕は、準決勝へと駒を進めた。

 

「君が噂になってる天才君か」

 

そして準決勝の相手は、小学四年生の子だ。聞いた話によると、去年は小学三年生でありながら、決勝大会で準優勝になったらしい。もう少しで僕の記録に並ばれるところだ。危ない。

 

「正直、大阪大会は僕にとって通過点でしかないと思っていたんだけどね。だけど、君は油断できない相手みたいだ。本気で勝ちにいかせてもらうよ」

 

先手は相手だった。その相手の取る戦法は、直ぐに盤面に現れた。ゴキゲン中飛車だ。

 

「生石先生に憧れて勉強した僕のゴキゲン中飛車、君に止めれるかな?」

 

生石さんに憧れて、か。確かに、生石さんに憧れる棋士は多い。自身が使う戦法まで変えるほどに憧れる人も中にはいる。生粋の居飛車党が振り飛車党に変わったなんて話もあるほどだ。だけど、ゴキゲン中飛車か。面白いじゃないか。その勝負、受けて立とう。

 

「な!?後手もゴキゲン中飛車!?」

 

「あの子、今日居飛車しか指してなかったぞ!?」

 

「振り飛車も指せたのか!?」

 

周りがざわつく。観客が言うとおり、僕は今日居飛車しか指していなかった。だけど、振り飛車が指せないと言った覚えはない。

 

「……まさか、同型先手有利の基本を知らないなんて言わないよね?」

 

「もちろん」

 

「まぁいいさ。何を考えているのかはわからないけど、有利に立ったのは事実。このまま押し切らせてもらうよ」

 

そう言って、相手は果敢に僕の陣に攻め込んでくる。かといって、決して無理攻めというわけでもない。絶妙なバランスで、自陣の守りが手薄にならないように調整している。なるほど。確かに小学生ではトップクラスの実力と言えるだろう。

 

「どうかな?僕のゴキゲン中飛車は。君も中々強いけど、僕には敵わないよ」

 

「それはどうかな」

 

「……なに?」

 

確かに実力は高い。だけど、それはあくまで小学生にしては、だ。相手は果敢に攻めてきているが、しかしその攻めには怖さが無かった。攻防のバランスを気にしすぎなのだ。気にしすぎるあまり、攻めが単調且つ迫力不足になっている。これなら、いつまでやっても僕は詰まないだろう。その前に、僕が終わらせてあげよう。

 

「そろそろ、こっちから行きますよ」

 

「何を言ってるんだ。君はさっきから攻められてる一方じゃないか。どうやって反撃に出ようと言うんだい?」

 

「喰らわせてやるんですよ」

 

僕は、自陣の銀を手に取り、自玉に王手をかけていた桂を取る。銀は、好きな駒だ。あの子の存在を感じられるから。僕は、自分から仕掛けを作る際は、可能な限り銀を使うようにしていた。さぁ、反撃といこうか。

 

「捌きを」

 

相手はその後も王手を狙ってくるが、その全てを捌ききる。見る見るうちに、相手の攻撃の手は無くなっていった。

 

「ば、バカな……」

 

相手の攻撃が止まったと見るや、僕は直ぐさま反撃に出る。ここを攻め時と見て、自陣の守りを度外視した攻めを敢行する。これを耐え抜かれたら、まず間違いなく僕の負けとなるだろう。耐え抜かれたらの話だが。

 

「くっ……!」

 

相手が苦悶の声を上げる。僕の攻めが鋭すぎるのだ。僕の盤面を見る力は、未だに前生の足下にも及ばない。だけど、僕には膨大な経験則がある。瞬時に数十手先を読むことはできないが、相手が今されると嫌なことは手に取るようにわかる。

 

「ひっ……!」

 

その結果が、この有様だ。相手は僕が手を進める度に、小さく悲鳴を上げている。相当に利いている証拠だ。

 

「そ、そんな、僕のゴキゲン中飛車が……」

 

憧れは大事だ。憧れは、人を強くするし、脆くもする。僕は師匠に憧れて、弟子入りをした。だが憧れたと言っても、棋風まで真似ようとは思わなかった。師匠の真似をせず、自分に合った棋風を伸ばした結果、僕は棋界の頂点に立つことができた。

 

彼は、生石先生に憧れてゴキゲン中飛車を覚えた。だが果たして、それは彼の棋風に合っていたのだろうか?僕にはそう思えない。攻めも守りも、自分に合わない戦法を使っているせいで、中途半端になっている気しかしない。これは対局後に小耳に挟んだのだが、彼は去年まで生粋の居飛車党だったらしい。居飛車穴熊を得意戦法とした、受け棋風の棋士だったらしい。それを聞いて、僕は納得した。あぁ、やっぱりかと。

 

それにだ。そもそもの話だ。彼は生石さんに憧れてゴキゲン中飛車を勉強したと言っていた。これはあくまで僕の予想だが、その学習というのは自主学習だろう。ただ、生石さんの対局を見て、棋譜を並べて、勉強しただけ。そんなゴキゲン中飛車が、生石さんに直接鍛えられた僕のゴキゲン中飛車に勝てるわけがない。

 

「ま、負けました……」

 

だから、この結果は必然だったのだ。最初から、わかりきっていたことだったのだ。何も驚くことではない。だけど、その事情を知らない観客は、湧きに沸きまくった。

 

「昨年全国準優勝者にも勝っちゃったぞ!」

 

「て、天才だ……」

 

「これは、全国優勝もあるんじゃないか?」

 

ざわめく会場。まぁ、それも当然だろう。絶対的優勝候補を、幼稚園児が倒してしまったのだ。これで、騒ぐなと言う方が無理な話だ。

 

「あー静粛に静粛に。これから、決勝戦を始めるで」

 

だがそのざわめきも、師匠のその声によって静まった。新たなる興味へと塗り替えられたのだ。決勝戦という、新たな興味へと。そしてその決勝の相手、これがなんとも意外な相手だった。

 

「お前なら勝ち上がってくると思ってたぜ」

 

なんと、初戦で僕が倒した相手だったのだ。どうやら僕に負けた後、残り2戦をきっちり勝って、トーナメントもここまで上がってきたらしい。正直、かなり驚いた。

 

「お前に負けて、俺は目が覚めたんだ。正直俺はな、小学校じゃ敵無しで、調子に乗ってたんだよ。だけどお前にボロ負けしてさ、目が覚めたんだ。上には上がいるって。ありがとよ。お前には感謝してる。だけどな、今度は負けないぜ。今度は、きっちりと俺らしい将棋を指す。それで俺が勝つ。リベンジさせてもらうぜ」

 

なるほど。どうやら僕の躾けがよっぽど利いたらしい。まぁ、僕は大人として当然のことをしただけだ。感謝されるようなことでもない。だけど、これなら少しは良い将棋が指せそうだろう。僕は、気合を入れ直して、対局に臨む。

 

相手の先手で対局は始まった。最初の対局は、お互いノーガードでの殴り合いとなったが、今回は相手もきっちり囲いを形成してきた。しばらく手が進み、やがて相手の戦型が盤面に顔を出す。相手の戦型は……矢倉囲いだった。

 

「「「あ」」」

 

三人の声が重なる。誰の声かは言わなくてもわかるだろうが、一応言っておくと僕と師匠と銀子ちゃんの声だ。まぁ、思わず声が出てしまうのも仕方ないだろう。この対局の勝敗が決してしまったのだから。その数分後には、ママと叫びながら部屋を出て行く人影が目撃されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優勝は九頭竜八一君。おめでとう」

 

大会は全日程を終え、表彰式が行われていた。師匠が、僕にお祝いの言葉を授けてくれる。今は審判長と参加者に過ぎないが、その言葉には、同時に師弟としての言葉も乗せられているような気がする。

 

「西日本大会も頑張ってや。期待してるで」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

次は西日本大会だ。まだ、大会は終わったわけじゃない。まだ、続きがあるのだ。大会だけじゃない。未来を変える闘いも、まだ始まったばかりだ。

 

ここで、僕の将来的目標を説明しようと思う。最終目標は、小学生タイトル所持者だ。目指す理由は単純。銀子ちゃんが女王になった時、僕が手を離してしまったのは、僕が彼女に相応しい存在にその時点でなれてなかったからだ。だったら、彼女が女王になる前にタイトルを取って、その時点で既に相応しい存在になっていればいい。

 

銀子ちゃんが女王を獲得するのは小6の春。僕が中2の時だ。だったら、中1でもセーフなんじゃないか?と思うだろう。全くもってその通りだ。なのになんであえて小学生に拘っているかというと、それは僕の見栄だ。銀子ちゃんは、女流とはいえ、小学生でタイトル保持者になった。だったら、僕も同じく小学生でタイトル保持者になってやる。そういう見栄によるものだ。

 

その目標を叶えるためには、なるべく早くプロになる必要がある。そのために、この時点での小学生名人戦への参加を決めた。少しでも確実に、奨励会入りを果たすために。

 

目指すタイトルも決めている。前生と同じく竜王だ。女王は、女流最高位のタイトル。だったらこっちも最高位のタイトルで合わせる。そう決めている。目指す目標はまだまだ遠い。だけど僕は、その目標へと歩み始めたのだ。この予選通過はその第一歩だ。

この日僕は、望む未来への第一歩を、力強く踏み出したのだった。




なんとか書けた
睡眠時間かなり削ったから辛い
明日からの連休、寝溜めしようかな?
次もあさって

八銀はジャスティス
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。