この手を離さない   作:八銀はジャスティス

17 / 54
アニメ2期が早く見たいです
2期来たら、八銀推しは皆天に召されると思ってます
えぇ、自分は間違いなく即死ですね
じっくり2クールで作って欲しい
まぁ1クールだろうけど
合い言葉は、八銀はジャスティス


第10局 狩人

徐々に気候が過ごしやすくなってきた三月。

あの大阪予選から約二ヶ月が経ち、遂に小学生名人戦西日本大会の日がやってきた。場所は前回と同じく関西将棋会館。今日から二日間に渡って、熾烈な熱戦が繰り広げられる。

 

「負けたら頓死しろ」

 

「あはは、そうならないように頑張るよ」

 

今日も銀子ちゃんは応援に駆けつけてくれている。今回もまた、エールなのかどうかよくわからないエールを送ってくれる。そして、師匠は今日も審判長を務めている。大阪が地元だから、任されやすいのだ。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

「ん」

 

そして僕は、颯爽と自身の対戦相手の元へと向かう。西日本大会は、まず全員が4人のリーグにわかれ、予選リーグを行う。そこで2勝できれば、二日目に行われる決勝トーナメントに進むことができる。2勝0敗となればその時点でリーグ終了。もし1勝1敗になった場合は、別リーグの1勝1敗の出場者と闘ったりする変則リーグだ。

 

そして僕は抽選の結果、広島、京都、鹿児島の代表と同組になった。初戦は広島代表の子とだ。お好み焼きダービーと言ったところだろうか。誰も聞いてないからぶっちゃけるが、僕は広島風派だ。これ大阪人に聞かれてたら、絶対怒られるな。

 

 

「広島代表として、大阪代表には絶対に負けられない!」

 

あ、これ絶対相手もお好み焼きを連想してるね。間違いない。もし仮に今ここで、僕が広島風派だとぶっちゃけたらどうなるだろう?この子と仲良くなれそうかな?まぁ、その後が怖いから絶対言わないけど。師匠、僕は立派な大阪人です。福井出身だけど。まぁそんな小話はさておき、対局は静かな幕開けとなった。相手の子は、僕の様子を見るかのように、慎重に駒を動かしている。その様子を見るに、どうやら僕の噂は他県にまで広まっているようだ。やたらと警戒されている。自陣に閉じこもって、自分から攻めてこようとは一切してこない。穴熊のようにガチガチに固めているわけではないが、柔軟な対応ができるように慎重に駒の配置を決めている。なるほど、中々やりにくい。流石に県予選を勝ち抜いてきただけのことはあって、棋力はそこそこ高いようだ。だけど、僕の相手ではない。

 

「うぇっ!?」

 

相手の子が驚愕する。妙手が飛び出したわけでは無い。僕は、相手陣のど真ん中にどうぞ取って下さいと言わんばかりに龍を放り込んだのだ。

 

「うっ?え?うぇっ?……へっ?」

 

相手の子が、混乱に陥る。この手の意図が読めないのだ。一見すると、とんでもない大悪手……いや、そもそも悪手と呼ぶのも馬鹿馬鹿しいような一手。どうしてこんな手を?何か意味があるのか?と大混乱に陥っている。

 

「ふふっ」

 

「っ!」

 

そして、追い打ちをかけるように僕は静かに笑ってみせる。そんな僕の様子を見て、相手の子は絶対何かあると感じ取ったのだろう。龍を取らずに逃げの一手を選択した。実際には、本当に何もないのに。そして僕は、その龍を(くさび)にして、次々と自駒を相手陣内に送り込み、瞬く間に敵陣を制圧してしまう。

 

相手の敗因は、僕を警戒しすぎたことだ。警戒しすぎるあまり、普通なら迷い無く取ってもいいような僕の大駒を、何かがあると勝手に思い込み、自滅へと追いやられていった。投了後も相手の子は、龍を見つめたまま、何も語ろうとしない。まだ、あの龍の意図を考えているのだ。感想戦において、僕があの龍の真相を明かすと、その子は思わず泣き崩れてしまった。周りから僕へと視線が集まる。えっと、これは僕のせいなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の対局は何?」

 

そして、銀子ちゃんに勝利報告をした僕に彼女はそのような言葉を投げかけてくれた。あれ?前もこんなこと言われたような。

 

「もし、龍を取られてたらどうしてたわけ?」

 

「確かに危なかったけど、取られない自信はあったし、あれが一番短手数で勝てる手だったからさ」

 

「自信はあったとしても、絶対では無い。成功したと言ってもそれは結果論」

 

結果論なんて言葉知ってる幼女って銀子ちゃんぐらいじゃないだろうか?難しい本をバンバン読破してるだけあって、銀子ちゃんはこの年齢で知識量が尋常じゃ無い。語彙力に関しては、既に僕よりあるんじゃないだろうか?

 

「いい?あんな対局は二度としないで。龍が取られたらどうしようって気が気じゃ無かった。心臓に悪い」

 

「ご、ごめん!」

 

銀子ちゃんに心臓に悪いなんて言われたら、それはシャレにならない。僕はこの時、あんな手は二度と指さないと決意した。次は京都代表との対局。銀子ちゃんを安心させるためにも、全力で挑もう。とは言っても、次の相手なのだが、実は僕の知っている相手なのだ。まさか、小学3年生の今の時点で出てくるとは思ってもいなかった。いや、まだ進級していないから実質2年生か。僕が言えたことじゃないが、この年齢で西日本大会に進んでくるのは驚愕だ。

 

「こなたは供御飯万智言うのどす。よろしゅうなぁ」

 

そう僕の相手、供御飯さんは気軽に声をかけてくる。供御飯万智さん。前生では山城桜花という女流タイトルを獲得していた、女流の強豪だ。小学生名人戦においても、対戦こそしなかったが、僕が優勝した年の決勝大会まで残っていた。その大会が縁で、それからも屡々(しばしば)(つる)むようになった。まぁ、幼なじみみたいな人だ。

 

そんな供御飯さんだが、実は僕は、前生において彼女に告白されたことがある。その時は既に銀子ちゃんと付き合っていたどころか、婚約までしていたので僕は、当然のことながら断った。その時の供御飯さんは、涙を流しながらも、これで、やっと自分の気持ちをリセットできると言って立ち去っていった。それから数年後のことだった。彼女が突然婚約を発表したのは。聞いた話によると、見合い婚だったらしい。彼女は京都にある由緒正しき旧家の一人娘だ。血を残すのは使命とも言える。彼女は結婚するにあたって、辛くは無かったのだろうか?その僕の質問に、彼女は答えてくれたことがある。

 

一番良い人とは結ばれなかったが、それでも十分良い人には巡り会えた。今の自分は、十分幸せなのだと。それを聞いて、僕は救われた気がした。彼女を振ってしまった身として、僕はずっと気にしていたのだ。後悔していたわけではない。僕には、銀子ちゃんがいたのだから。彼女の想いには何があっても応えることはできない。ただそれでも、心配だったのだ。供御飯さんは、望まぬ結婚を強要されたのではないかと。だけど、それは僕の杞憂だったらしい。その証拠に、その後の彼女は、見ていて本当に幸せそうだったのだ。私生活が充実すれば将棋が強くなるという話がある。それを実証するかのように、その後の彼女は、山城桜花のタイトルをいつまでも防衛し続けたのだ。いくら期待の若手が台頭してきても、山城桜花のタイトルは誰にも譲らない。ずっと、彼女は山城桜花で在り続けたのだ。ずっと、ずっと。

 

「僕は九頭竜八一!良い対局にしようね!」

 

「八一くんのことは京都でも話題になっとるわぁ。大阪に凄い幼稚園児がいてはるってなぁ」

 

「それは光栄だね」

 

「こなたやと力不足やろうけど、お相手頼みますわぁ」

 

何が力不足か。供御飯さんは、前生において嬲り殺しの万智の異名で恐れられた女流最強クラスの棋士だ。決して弱いわけが無い。

 

対局が始まるや早々に、供御飯さんは最も得意とする型に駒を移動させていく。穴熊だ。堅牢な守りが売りの囲い。穴熊を完成させれば一本取ったとも言われるほどに、この型は固い。完成されれば厄介極まりないが、僕はあえて供御飯さんが陣形を完成させるのを、自身も囲いを形成しながら待つ。

 

「そんな悠長にしててええんどす?」

 

供御飯さんは、そう声をかけてくるが、僕はあえて応えない。無言で供御飯さんが型を完成させるのを待つ。

 

「つれへんわぁ。せやけど、これで一本頂いたどす」

 

その言葉通り、供御飯さんの場には綺麗な穴熊が姿を現した。特異なところは何一つ無い、ノーマルな穴熊だ。ならその城塞、今から崩させていただこう。

 

「……え?」

 

供御飯さんの目が、まるで信じられない物を見たかのように見開かれる。僕が穴熊崩しの第一段階に選んだ手は、龍で金を取るという一手だった。どうぞ取って下さいと言わんばかりの位置に龍が置かれている。飛車金交換だ。常識的に考えてありえない一手。当然、僕の方がデメリットは多い。

 

そもそも、穴熊を崩すには、歩、香、桂の小駒を使って攻めるのが普通だ。穴熊を崩そうとすると、必ずこちらの攻め駒を相手に取られてしまう。下手に金銀や大駒で攻めると、相手に囲いを固くされたり、攻め駒として逆に利用されるため、それ単体では攻めにも受けにも使いにくい小駒で攻めるのが普通だ。だけど僕は、龍を切った。決して、先の対局のように、ブラフを仕掛けているわけでもない。いや何かがあるとと相手が感じてくれるなら、それはそれで有り難いが、今回のこれは、またも僕の研究手だ。

 

穴熊対策。それは多くの棋士が頭を悩ませる問題だろう。それは僕も同様だった。単純に小駒で攻めるのが、時間はかかるがベストなんじゃないか?そう結論づけたこともあった。だが、答えは確かにあったのだ。長年、ソフトも活用して研究を続けた僕は、穴熊を即詰みに討ち取る手順をついに発見したのだ。

 

ただ穴熊と言っても、多種多様の種類がある。当然、その全てに適応しているわけでは無い。だが、今回供御飯さんが採用している型は、この手の適応範囲内だ。

 

「ッ……!」

 

供御飯さんが苦しそうに唇を噛みしめる。僕は穴熊に対してお構いなしに、金銀大駒を放り込んでいく。即詰みまでの手順は、当然全て記憶している。その手順を間違えなければ僕の勝ちだ。この対局は、既に終わっていると言ってもいい。

 

「あ、あっ……」

 

徐々に、供御飯さんの顔色が悪くなっていく。自分に待ち受けている未来に気づいてしまったのだ。それでも、僕は攻めの手を緩めない。前生において、僕が穴熊相手にこの手を初披露した際、人々はこの手をこう評価した。穴蔵に潜った熊を追い詰め仕留める、まるで狩猟のようだと。そのことから、僕は一時期、狩人という異名で呼ばれたこともある。直ぐにまた魔王に戻ったけど。僕としては、狩人の方が有り難いのだけど。

 

「ま、負けました……」

 

供御飯さんが、力なく投了する。結局、何一つ良いところ無く負けてしまったのだ。その気持ちは理解できる。

 

「八一くん、ほんま強いわぁ。こなた、穴熊使ってこないな負け方したの初めてやわぁ」

 

供御飯さんははんなりとした表情で、そう言う。もう、気持ちの切り替えは済んだらしい。まぁ、無理にでも切り替えないといけないというのもあるだろう。供御飯さんは、これで1勝1敗だ。まだ、次に勝てば明日の決勝トーナメントに残れるのだ。こんな所で落ち込んでもいられない。

 

「こなたも、絶対次の対局に勝って、明日に駒を進めるわぁ。次は東京で当たれるように、お互い頑張ろうなぁ」

 

「うん!」

 

決勝トーナメントは、二つのグループに別れて行われる。そして、それぞれのグループで優勝した1名ずつ、計2名が、東京で行われる決勝大会、全国のベスト4に進むことができる。決勝トーナメントは全3戦、決勝大会が全2戦、全国の頂点まで残り5勝。油断せずに、最後まで勝ち進もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日。決勝トーナメントが行われた。まぁ、結果だけを伝えるとしよう。僕は無事に優勝することができた。3戦とも、危なげなく勝利し、決勝大会への切符を手に入れた。1年生での決勝大会進出は、史上初の快挙だ。報道陣も詰めかけ、関西将棋会館は大変な賑わいを見せていた。一通り、取材も終え、漸く一息()いていると、僕に供御飯さんが話しかけてきた。

 

「八一くん、決勝大会進出おめでとうどす」

 

「うん、ありがとう!万智ちゃんもおめでとう!」

 

供御飯さんは……まぁ、この頃の僕は万智ちゃんって呼んでたし、万智ちゃんでいいかな。万智ちゃんは、昨日の最終局を無事に勝ち、今日のトーナメントへと駒を進めていた。そして僕と反対側のブロックで、見事に優勝を果たし、決勝大会への進出を決めたのだ。小学三年生の女子が決勝大会に進出するのも史上初の快挙。関西は、史上初コンビでの決勝大会への殴り込みとなった。

 

「こなた、また八一くんと対局したいわぁ、決勝大会でもお互い頑張ろうなぁ」

 

そう言って、万智ちゃんは僕の手を握ってくる。女の子特有の、柔らかい感触が僕の手に伝わってくる。だけど僕はこれしきのことで動じない。僕は、ロリコンでは無いのだから。ロリコンでは、無いのだから。

 

「これからも仲良うしてな」

 

そう言い残して、万智ちゃんは帰っていった。その後ろ姿に手を振っていると、お尻に痛みが走る。

 

「あ、あの、銀子ちゃん?なんで僕のお尻抓ってるの?」

 

「自分の胸に聞いてみれば?」

 

教えてくれ僕の胸。どうして銀子ちゃんはこんなジトっとした目で僕のお尻を抓っているんだい?なんて聞いても応えが返ってくる訳が無いじゃないか。え?これって万智ちゃんが原因なの?銀子ちゃんって、この年齢の頃から既に他の子に嫉妬なんてしてたっけ?僕が忘れてるだけなのかな?あ、そもそもこの頃って、銀子ちゃん以外の女の子って、桂香さん除いてほとんど面識が無かったから、比較対象が無いや。

 

「八一は女の子を狩るのが上手いな」

 

おい師匠。不名誉なことを言うんじゃない。僕の狩人という異名はそういう意味では無い。え?無いよね?なんだか不安になってきたんだけど。その後も、銀子ちゃんの機嫌は中々直らなかった。帰りにお菓子を買ってあげるまで、そのままなのだった。あぁ、また僕のお小遣いが……




供御飯さんの口調が難しいどす。
自分も関西人だけど、京言葉はわからんのどす。
口調に違和感があったら、申し訳無いどす。
次もたぶんあさってどす。

八銀はジャスティス
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。