この手を離さない   作:八銀はジャスティス

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最近……ってほど最近からってわけでもないですけど、りゅうおう公式さんってやたらと銀子ちゃん推してくれますよね
12巻特装版や、14巻抱き枕カバー付き特装版や、ゲーム限定生産版等々
どれもこれも銀子ちゃん銀子ちゃんしてますよね
それほど銀子ちゃんの人気が高いってことでしょうけど、この推しっぷりはねぇ、えぇ、本当に……ありがとうございます
合い言葉は、八銀はジャスティス


第17局 鏡洲飛馬

年が明けて、一月のことだった。

その日、俺と銀子ちゃんは関西将棋会館へとやってきていた。今日ここに着た目的は、もちろん対局するためではあるのだが、メインの目的は研究会を開くためとなっている。今日の研究会に参加するメンバーは俺と銀子ちゃんを含めて4人。

 

「よう八一。その子が例の姉弟子か?」

 

まず一人は、鏡洲飛馬三段だ。

鏡洲さんは、前生で最もお世話になった人の一人だ。奨励会に入り、右も左もわからないような状況の時から、よくお世話になっていた。研究会もよく開いていたものだ。創多が入会してからは、三人泊まりがけで研究会をすることもあった。中々に親密な仲だったのだ。

 

そんな鏡洲さんは、以前に話した通り桂香さんと結ばれることになる。鏡洲さんは、奨励会三段リーグを長く、本当に長く闘っていた。しかし、最終的に年齢制限により退会してしまうことになる。プロになる道を諦め、社会に出ることを決めた鏡洲さん。そんな鏡洲さんに待ったをかけたのが桂香さんだった。

 

桂香さんは言う。本当に諦めていいのかと。鏡洲さんは言う。これでいいんだと。そう言って、鏡洲さんは社会の闇に揉まれていった。そんな中でも、やはり彼は将棋を捨てることはできなかった。暇があれば、実際に将棋を指したり、プロ棋戦を観戦したりしていたのだ。

 

そんな鏡洲さんは、ある日東京に赴いた際に、偶々開催していた女流棋戦の公開予選を気まぐれに観戦してみることにした。マイナビ女子オープンの一斉予選だ。その予選に参加していたのは、桂香さんと俺の1番弟子、あいだ。二人は、一斉予選にてぶつかることになった。鏡洲さんも、あいの実力は当然知っている。桂香さんに、勝ち目が無いであろうことも。

 

しかし、対局は意外な様相を見せ始める。序盤から、桂香さんが押す展開が続く。桂香さんの並々ならぬ気力に、あいが押されてしまっているのだ。桂香さんの時間は続く。しかし、あいを知ってる人は、このままこの対局は終わらないであろうことを知っていた。あいの、驚異的なまでの終盤力の存在を。

 

あいの時間が始まる。勝勢と言ってもいいほど、圧倒的に盤面を支配していた桂香さんの将棋が、一瞬の内に崩されていく。震えるほどに凄まじい終盤力だった。その対局を実際に見ていた俺も、思わず身震いがしてしまった。そう、この時俺は実際に対局を観戦していたのだ。弟子の対局なのだから、当然だろう。

 

俺の隣には、鏡洲さんがいた。俺は会場で鏡洲さんを発見し、そのまま一緒に観戦していたのだ。鏡洲さんは呟く。決まったな、と。確かに、誰の目から見ても、この対局は既にあいの勝ちパターンに入っている。ここから、桂香さんが勝つのは、まず不可能だ。しかし、勝ったのは桂香さんだった。

 

最後まで、桂香さんは自分の将棋を信じ、あいに食らいついていった。それは決して綺麗な将棋では無い。関西棋士らしい、泥臭く粘り強い、それこそ俺たちの師匠清滝鋼介のような将棋だった。

かかってこんかーい!と、桂香さんの雄叫びが会場内に響き渡る。その雄叫びを聞いたのは、それが二度目だった。一度目は、研修会の例会で。年齢制限による退会が迫っていた桂香さん。自身の進退を賭した大一番でのことだった。その時の相手も、あいだった。あの時は接戦の末に桂香さんはあいに負けている。だが、今回は違った。

 

あいの、僅かな、本当に僅かな隙を逃さず、桂香さんはあいを即詰めに討ち取ってみせたのだ。あいも見落としてしまっていた自玉の詰み、それを桂香さんは読んでいた。普段のあいなら、見落とすわけがない詰み。確かに複雑な詰み工程ではあるが、それでもあいらしくない。気迫に負けたのだ。桂香さんの、尋常ではない気迫に。確かに、棋力なら圧倒的にあいの方が上だろう。だが桂香さんは、そんなあいを圧倒的に上回る気力で、あいのことを怯ませてしまったのだ。元々精神面には課題のあったあいは、研修会の時のようにはいかず、桂香さんに負けてしまうことになった。

 

あいの投了宣言を聞いた桂香さんは、その場で人目を気にせず、大いに泣き喚いた。桂香さんはこの時女流3級。そして、3級になったマイナビから、今回は2年目の大会だ。女流3級というのは、女流棋士にとっての仮免許でしかない。この級位にいる女流棋士は、2年以内に昇級を果たせないと強制引退させられてしまうのだ。つまり、桂香さんにとってこの大会が女流棋士を続けるためのラストチャンスだったのだ。

 

昇級するための条件の一つに、マイナビ女子オープンの本戦に出場するというものがある。ここで桂香さんは、あいに勝ったことにより本戦への出場が確定した。つまり、この瞬間桂香さんは、晴れて正式な女流棋士へとなったのだ。その事情を知る者は皆、桂香さんと共に涙を流していた。俺や、桂香さんに負けたあいも含めて。そして、隣にいる鏡洲さんも。鏡洲さんの目は、光っていた。俺がこの会場で最初に会った鏡洲さんは、目が濁っていた。久しぶりに会った彼は、本当にあの鏡洲さんなのか?と疑うほどに濁っていた。しかし、その時の彼の目は確かに、光を取り戻していた。明るく輝く、光を取り戻していたのだ。煌めく涙が、濁りを洗い流すかのように零れていく。ここからは、後に鏡洲さんから聞いた話だ。

 

あの時鏡洲さんは、桂香さんの姿を見て、強く心を打たれたらしい。鏡洲さんは、ずっと桂香さんが苦しんできたことを知っていた。研修会でもずっと苦しみ、女流棋士になれてからもずっと苦しんできていたことを知っていた。それでも、必死に前へ、前へと藻掻きながら進んできたことを知っていた。夢へと向かって。

 

なのに、自分は何をやってるんだろう、と鏡洲さんは考えた。幾つになっても、三段リーグで自分が藻掻いてきたのは、社会に出るのが怖かったからだ。将棋しか無い自分が、社会に出ればどうなるのかなんて、考えるまでもなくわかるし、実際に体験してきた。それは、前進では無く、停滞でしか無かったのだ。

 

後ろに下がるのも怖い。前に進むのも怖い。だからここに留まるという、逃げの選択でしか無かったのだ。あの日の桂香さんを見て、鏡洲さんはそのことに気づかされた。藻掻きながら夢へと向かう桂香さん。そんな時分が、自分にもあったのだと。後日、鏡洲さんは桂香さんに会い、お礼と共に宣言をする。もう一度、夢に向かって藻掻いてみると。二人が付き合い始めたのは、その数ヶ月後のことだった。

 

その後の鏡洲さんは、アマ棋戦で大活躍を見せ始める。アマ龍王、アマ名人、アマ玉将とアマ三冠を達成し、編入試験を経てまた三段リーグへと舞い戻る。すると今度は、見事に一期で抜けて見せたのだ。制度制定後初となる、編入試験からの四段昇段者となったのだ。プロになった後も、鏡洲さんは活躍を続ける。結局最後まで、タイトルに届くことは無かったが、それでもタイトル戦への登場は何度も果たしていた。俺も数度、タイトル戦で対戦したことがある。何度もヒヤッとさせられたものだ。これが、俺が尊敬する棋士の一人、鏡洲さんの前生における活躍だ。

 

「はい!姉弟子の、空銀子ちゃんです!銀子ちゃん、この人は鏡洲飛馬三段。今日一緒に研究会をしてくれるんだ」

 

「ぎんこ。よろしく」

 

「あぁ、銀子ちゃん、よろしくな」

 

銀子ちゃんも、前生のころは飛馬お兄ちゃんと呼んで、鏡洲さんのことを幼少の頃から慕っていた。銀子ちゃんだけではない。奨励会員なら誰もが、鏡洲さんのことを慕っていた。面倒見が良い、この奨励会員の兄貴分のことを。そして今日はもう一人、参加者がいる。

 

「我は神鍋歩夢。よろしく頼む」

 

歩夢だ。何故関東棋士の歩夢が関西将棋会館にいるかと言うと、歩夢の師匠の都合だ。歩夢の師匠は釈迦堂里奈女流名跡だ。エターナルクイーンの愛称を持つ、女流最強クラスの一人だ。その釈迦堂さんは、今日タイトル戦のため関西に来ている。女流名跡のタイトル戦は、毎年1月から2月にかけて行われる。今日はその開幕局が行われている。とは言っても、別に将棋会館で行われているわけではない。歩夢は、釈迦堂さんから預かったのだ。女流のタイトル戦を見るよりも、関西の若い力に揉まれた方が為になるだろうと。それで歩夢は、ここで研究会に参加することになったと言うわけだ。

 

「歩夢だな。よろしくな」

 

「それじゃ、早速初めて行きましょうか」

 

研究会には様々な形がある。研究テーマを決めて、そのテーマについて棋譜並べをしたりしながら討論する形や、実際に対局をして、その対局内容について研究したりする形等々、多岐に渡る。今回は、実際に対局をしながら研究していく形を採用している。早速、俺と歩夢が対局をしていく。俺は、その対局の中で惜しげも無く、未だ披露したことない前生における研究手を披露した。

 

「な!?なんだよその手!?」

 

鏡洲さんが、驚愕を露わにする。現時点での将棋界では、まずお目にかかることのない手だろう。見た目、只の悪手でしかないこの手は。

 

「悪手……いや、これは……この変化は……!」

 

歩夢がその手に隠された変化に気づく。流石歩夢だ。もうこの変化に気づくとは。

 

「恐ろしい手だ。この手を、今思いついたのか?」

 

「ううん、前から研究はしていたんです。面白い変化でしょ」

 

「見る分には面白そうだが、喰らう分には堪らんな。だが、わかってしまえば対処もできる」

 

歩夢がそう言って、次の手を放つ。そう来るのは、最初からわかっていた。だが、その先も俺の研究範囲内だ。

 

「な!?これにも対処するのか!?」

 

「その変化は、研究範囲内だよ。さぁ歩夢、次はどう変化させる?」

 

「むむっ、ならば、これでどうだ!」

 

そして、歩夢はまた手を進める。だがそれも、研究範囲から脱することはできない。その後も次々と手を進めるが、歩夢は終ぞ研究範囲から逃れることはできなかった。

 

「くっ……参りました」

 

「凄い手だな。ここまで全部研究だったのか?」

 

「うん!最後まで研究範囲!」

 

「詰ませるまで研究範囲か。恐ろしい手だな」

 

「良かったら、この後鏡洲さんにも教えますよ?」

 

「良いのか?是非頼む」

 

「その前に、私と」

 

「あぁ、そうだな。銀子ちゃん、指そうか」

 

俺と歩夢の対局が終われば、次は鏡洲さんと銀子ちゃんの対局だ。奨励会三段、その中でも鏡洲さんは、新人王戦で優勝したりと、実力自体はプロに匹敵する実力を持っている。そんな強者である鏡洲さんと銀子ちゃんの対局。流石に、銀子ちゃんも相手が悪いだろう。

 

「手合いは2枚落ちでいいか?」

 

「む、平手で十分」

 

「いやだが……」

 

「平手」

 

「あはは、鏡洲さん、こうなったら銀子ちゃんは折れないですよ。平手でお願いします」

 

「はぁ、わかった」

 

そして銀子ちゃんの先手で対局は始まる。戦型は、相掛かりとなった。俺との初対局以降、すっかり銀子ちゃんのお気に入りの戦型となっている。まぁ、俺に一番最初に勝った戦型でもあるから、使ってて気分が良いのかもしれないけど。対局は、順調に進んでいく。実力通り、鏡洲さんが常に優勢に展開していく。銀子ちゃんも必死に食らいついてはいるけど、流石に分が悪い。このまま順調に鏡洲さんが勝つだろう。そう思っていたのだが、銀子ちゃんの次の一手が状況を変える。

 

「何?この手は……」

 

「……この手もまた、とんでもない変化を……!」

 

「銀子ちゃん……!」

 

銀子ちゃんのその一手。それは、俺が銀子ちゃん相手に使ったことのある研究手だった。その、俺の使った研究手を、銀子ちゃんはこの対局で指してみせたのだ。一度しか指したことのない、俺の研究手を。

 

「……八一。これも、お前の研究手か?」

 

「そうですね。銀子ちゃんとの対局中に一度だけ使ったことはあったんですけど、まさかこの対局で銀子ちゃんが使うなんて、思いもしなかったですね」

 

「この兄にしてこの姉ありだな。誠に、恐ろしい姉弟だ」

 

普通、一度だけ見た手を対局の中で使用しようとは思わない。将棋は、一手指してしまえば後戻りが利かないのだ。その手が失敗すれば、それは自分の首を絞めることになる。だからこそ、信頼のできる手を探し出して、研究して、十全な備えをした作戦を持って、棋士は対局に臨むのだ。だからこそ、銀子ちゃんが指した手はより一層の驚愕を俺たちにもたらす。しかも、このタイミング、完璧だ。この研究手を放つタイミングを完璧に掴んでいる。銀子ちゃんの棋力は、もしかしたら前生における現時点の棋力よりも高くなっているのかもしれない。

 

「こいつは厳しい手だな。少しでも対応を誤れば、一気に決着が着くか。全く、恐ろしい。けど、俺もそう簡単には負けられないな」

 

そこからは、息を吐く暇も無い攻防が繰り広げられた。研究手を活かし、果敢に攻め込む銀子ちゃんと、的確な判断でそれを受け止める鏡洲さんの攻防。激しい攻防が繰り広げられ、そしてやがて決着が着く。

 

「負けました」

 

銀子ちゃんの投了宣言が放たれる。勝ったのは鏡洲さんだ。銀子ちゃんの研究手を放つタイミングは完璧だった。だけど、目まぐるしく変化する盤面の状況に、銀子ちゃんは最後まで対応することができなかった。だけど、一度しか見たことがない手を使って、ここまで指せるのなら十分すぎるだろう。銀子ちゃんにも、この手をじっくり教えてあげよう。

 

「なんとか勝てたか。本当に恐ろしい手だった」

 

「この手も、良かったら教えましょうか?」

 

「良いのか?助かる」

 

「我にも是非」

 

「歩夢はダメ」

 

「何故だ!?」

 

「あはは、冗談だって。それじゃ、研究しましょうか」

 

そこからは、俺の研究手に関するレクチャーとなった。俺は、勿体ぶることも無く皆に研究手を授けていく。最も、一番授けたいと思っているのは鏡洲さんにだ。前生では、一度年齢制限による追い出しを喰らってしまった鏡洲さん。マイナビ女子オープンで再会した際の、鏡洲さんのあの目は忘れられない。

 

今生では、鏡洲さんにあんな目をして欲しくない。だから、なんとしても鏡洲さんには三段リーグを抜けて頂く。そのために、俺も協力は惜しまない。例えライバルになる相手だとしても、俺は協力を惜しまない。将棋とは、互いが研鑽しあって、上へ上へと突き上がっていくゲームだ。相手を強くすることは、自身を強くすることにも繋がる。俺の目標を達成するためには、今のままの棋力じゃダメだ。もっと、俺自身が強くなる必要がある。そのために、鏡洲さんも、歩夢も、銀子ちゃんにも、今以上に強くなって頂く。俺自身の成長の為に。鏡洲さんのことを考えているように見えて、実は自分勝手な理由でしかないのだ。まぁ、鏡洲さんに関する理由も事実なのだが。だからこれからも、俺は皆に対して惜しげもなく俺の知識を伝授していこう。その後も三人は、俺の研究に関する説明を、一心不乱に聞き続けたのだった。




鏡洲さんはまだまだ活躍あるみたいなこと、白鳥先生も触れられてましたよね。
やっぱり、原作でも編入試験ルート辿るのかな?
桂香さんも、まだ苦難が続きそう。
なんだかんだ未だに3級なんですよね。
3級になってから約1年。
タイムリミットは後1年。
桂香さんも原作で、まだまだドラマありそうですね。
次の投稿もあさって
ストックが、ストックが堪らないんじゃ……
平行してハロウィン特別編もちょっとずつ執筆してるんでつらひ……
今週隔日投稿たぶん止まりますね
申し訳無い
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