この手を離さない 作:八銀はジャスティス
特別編半分も書けてないです(汗
合い言葉は、八銀はジャスティス
季節はすっかり秋になっていた。
茹だるような暑さが引っ込み、涼しい空気が街に流れ込んでくるようになってきた今日この頃。ここ、清滝家は来客を迎え入れていた。
「よぉ来てくれたな!さぁ、中に入ってゆっくりしていってくれ!」
「いえ、ここで結構です。一度座ると、逆に疲れてしまうのでね」
そう、玄関に立った女性が言った。彼女は、釈迦堂里奈女流四冠。関東を、いや棋界を代表する女流棋士だ。女王と、今はまだ存在していない女流玉座以外の女流タイトル4つ、女流名跡、女流玉将、女流帝位、山城桜花の4つのタイトルを現在独占しており、その4つ全てで永世位、クイーンの称号を手にしている。そのことから付けられた異名が、エターナルクイーン。女流名跡のタイトルに関しては10年以上保持し続けている超トップ女流棋士だ。
その釈迦堂さんに手を繋がれている少年がいる。歩夢だ。釈迦堂さんは、歩夢の師匠でもあるのだ。釈迦堂さんは女流玉将の防衛戦のために宮崎まで行かないといけない。彼女が帰ってくるまでの間、歩夢を清滝家で預かることになったのだ。
「鋼介さん。改めて、名人就位おめでとうございます」
「おおきにな。長年の夢が叶って、感無量やわ!それにしても、あの里奈ちゃんが弟子を取るとはなぁ」
「鋼介さんこそ、内弟子を一度に二人も取った話は衝撃的でした。しかも、身震いするほどの才能の持ち主と来た。九頭竜八一君のことは、今や関東でも話題の中心ですよ。そちらのお嬢さんは、まだ話題にはなっていませんが、鋼介さんのことだ。かなりの才能の持ち主とお見受けしますが、違いますか?」
「せやな。ワシの知る限り、唯一八一に勝てる小学生や。その凄さは、わかるやろ?」
「なんと……それは、同じ女として興味を引かれますね」
釈迦堂さんは、銀子ちゃんのことを興味深そうに見つめる。前生でも、釈迦堂さんは銀子ちゃんを度々研究会に招待したりして、何かと気にかけてくれていた。女性として、初めてのプロ棋士になれるかもしれないとして、ずっと支えてくれていたのだ。そして実際に、銀子ちゃんは女性初のプロ棋士になってみせた。その影には、釈迦堂さんの支えもあったのだ。
「せやけど、里奈ちゃんの弟子も凄いやないか。神鍋歩夢君やったかな?小学生名人戦でも、八一をあと一歩のところまで追い詰めたうえに、矢倉殺しをあそこまで指せるとは、恐れ入ったわ」
「名人の前で言うのもどうかと思いますが、将来は名人になれる器だと考えています。八一君の、良きライバルとなることでしょう」
「それは将来が楽しみやな。神鍋君が挑戦しに来るまで、名人を維持できるようにがんばるわ」
そう言うと師匠は大笑いをする。歩夢とは実際に、前生で何度も名人の座を賭けて争った。共に、永世名人まで上り詰めたライバルだ。二人で、幾つもの伝説を棋界に作り上げてきた。今生でも、歩夢とは良きライバルでありたいと思っている。
「それでは、余はこれで。この子のこと、よろしくお願いします」
「おう、任しとき!気をつけてな!」
そして、釈迦堂さんは清滝家を後にした。次に彼女がここを訪れるのは、宮崎での防衛戦が終わった後。彼女の勝利報告が聞けることを、願っているとしよう。そして、歩夢を中に招き入れ、居間に入ると、桂香さんが凄い勢いで駆けてきた。普段滅多に見せないその姿に、思わず恐怖を感じてしまった。
「まぁかわいい!ぼく、お名前は?」
「か、神鍋歩夢です」
「歩夢君ね!良い名前!」
「ありがとうございます。これは、実家で作っている油揚げです」
歩夢の実家は、東京の下町で豆腐屋を営んでいる。そこで作っている油揚げが、実に絶品なのだ。前生でも、何度かマントを翻して油揚げをお土産に持っていく歩夢を目撃したことがあるが、超絶シュールな光景だった。
「なんて良い子なの!?歩夢きゅん、何日でもいてくれていいからね?もういっそ、歩夢きゅんもうちの一門になっちゃう?」
桂香さんのショタコンモードが暴発している。その様子に、流石の歩夢もタジタジになっている。ここは一つ、助太刀に入るとするか。
「歩夢、早く将棋指そうぜ!」
「ネットでは毎日指しているではないか」
確かに、俺と歩夢は小学生名人戦での初対局以降、毎日連絡を取り合って、ネット対局を行っていた。今のところは、俺の全勝中だけど、ヒヤッとする場面も多く、しかも、対局を重ねるごとにその場面も増えている。俺が初めて歩夢に負ける日も、そう遠くないかもしれない。
「でも、やっぱりリアルな盤を挟んで指したいじゃん?」
「その気持ちはわかるが、それよりも我は清滝名人にたくさん教わりたい」
そう言って、歩夢はキラキラした目で師匠のことを見つめる。憧れの篭もった、純粋な眼差しだった。
「清滝名人の矢倉、並びに矢倉殺しを体感してこいとマスターから命じられております」
「そうか。流石里奈ちゃん。わかっとるな」
「清滝名人と月光先生の名人戦が相矢倉殺しシリーズとなったことが、現在関東でも大きく注目されています。是非、清滝名人にご教授頂きたく思います」
「ん?そうか?神鍋君、君は中々見所があるな。君になら、ワシの最新研究を披露してやってもええで?」
「ありがとうございます!」
そして、矢倉の講習が終われば、次は矢倉殺しだ。散々矢倉を勉強しておいて、次はその矢倉を殺す勉強をするなんて、ユーモア溢れる講習じゃないか。師匠は、先の相矢倉殺しシリーズと名付けられた名人戦を制し、名人の座に就いた。その結果、棋界では、最も矢倉殺しを指し熟せる棋士認定を受けている。とは言っても、実際に師匠も矢倉殺しを指し熟せているわけではない。そこからは、講習会ではなく、研究会という形式で矢倉殺しに触れていくことになった。俺と銀子ちゃん、歩夢、師匠の四人で研究を進めていく。
「この局面は、この手の方が相手の選択肢を狭められて有効でしょうか?」
「ううん、こっちの手の方がいい。こうすれば、相手の選択肢を狭められるだけじゃなく、自分の選択肢を増やすこともできる」
「なるほど。流石銀子。ええ手やな。せやけど、こっちの手の方が、更に相手玉に対するプレッシャーを強めることもできて、ええんちゃうか?」
「それなら、こっちの手の方がより強いプレッシャーを相手玉にかけることができますよ。それに、こう、こう、こう、と変化していけば、一気に詰めろまでかけることができる」
「はぁ、なるほどな。それはええ手や。流石八一やな」
そうして意見を交換しあいながら、矢倉殺しに対する研究を行っていく。今の俺も、棋力がまだ追いついておらず、前生のように矢倉殺しを指し熟せない。いずれ、俺の棋力が前生のそれに追いついたら、また指し熟すことはできるだろうけど、今は研究手を使ってごまかすしかない。
「そういえば、清滝名人は今度、アマ名人との記念対局をされるのですよね?」
「せやな。中々面白い相手や。棋譜を見る限り、十分プロでもやっていけそうなものやけどな」
アマ名人。この年のアマ名人は、俺も知っている人物だ。俺は、その人とどうしても、今生でも縁を持ちたいと考えている。その計画を、水面下で進めているところだ。前生では、月光名人とアマ名人の記念対局で、記録係を務めることによって縁が作られたけど、今生では、俺は記録係に任命されなかった。だけど、縁を作る方法なら他にもある。まぁ、ここから先はまたの機会に語るとしよう。
その後も研究は、桂香さんが夕飯の準備を終えるまで続けられた。歩夢は、桂香さんが食卓に並べた、歩夢が嫌いな食べ物のフルコースを見て顔をひくつかせている。これが、内弟子に入るものへの宿命なのだ。実際に歩夢は入ったわけではないけど。そして、晩飯を食べ終え、風呂を済ませたら、子供部屋で対局三昧だ。
「まずは銀子ちゃんと歩夢でやってみる?」
「うむ。よかろう。八一に唯一勝てる小学生だと聞いた。その腕前、拝見させてもらおう」
「私も、八一のライバルに相応しいか、見極めてあげる」
そして、銀子ちゃんと歩夢の対局は始まった。先手は振り駒を行い決めて、銀子ちゃんとなった。銀子ちゃんが初手を指し進める。7六歩。歩夢も合わせて、3四歩と角道を開けていく。俺には、それだけで二人が何を指そうとしているのかが、わかった。相矢倉だ。師匠に教わったばかりの矢倉を試そうとしているのだ。そしてその予想は正しく、盤上には矢倉が二つできあがった。そして俺は、ここからの展開もある程度予想ができていた。その予想は違わず、相矢倉殺しが展開されていく。最近の棋界は、矢倉殺しのバーゲンセールだな。なんて下らないことを考えてしまったが、今は頭の片隅に押し込めておく。
「やはりそう来たか」
「歩夢君の顔に、相矢倉殺しが指したいって書いてあった」
「なに?それは、後で消しておかないといけないな。八一、後でタオルを貸してくれないか?」
「はいはい。終わってからね」
この頃の歩夢は、純粋無垢なうえに、少し天然が入っている。歩夢は冗談でこんな返し方をしているように思えるが、実は大真面目にこんなことを言っているのだ。銀子ちゃんの冗談を真に受けてしまっている。きっと、対局が終わってから再度タオルの要求をされることだろう。面倒くさい。
そして対局の方だが、お互いに譲らない好対局となっていた。互いに、矢倉殺しを活かして、矢倉を崩しつつ、互いの攻めを急所に入る寸前で防いでいる。二人共に上手い。これは、中々決着は着かないかもしれない。その俺の読みは正しく、そこから数十手進んでも、互いの急所に攻撃が届かない状態が続いた。互いの矢倉はもう完全に機能していない。囲いがほとんど意味を成していない状態で、互いの攻めを受け続けているのだ。しかし、その状態がいつまでも続くわけがない。
「ここ」
「くっ!」
先に、銀子ちゃんの攻めが歩夢の玉に触れる。だが、歩夢も負けていない。
「ここだ!」
「ッ!」
歩夢の攻めも、銀子ちゃんの玉に届き出す。だが、互いに決定打には至らない。しかし、玉を追い詰め始めたのも確かな事実。このままだと、どちらかの玉が詰まされるのは時間の問題だろう。そう考えた二人は、どちらからともなく次の作戦に移行した。互いに、玉を前に進める。入玉だ。二人して、入玉を行うつもりなのだ。互いに玉を牽制しあいながら、自身の玉を前へ前へと押し進めていく。そして、互いの妨害をすり抜け、お互いの玉は相手陣地の最奥まで到達した。ここから先は、泥仕合にしかならない。持将棋の成立だ。
「うむ。素晴らしい対局だった。実に心躍る、良き対局だった」
「私も、楽しかった。歩夢君、中々強いじゃない」
互いの健闘を称え合う銀子ちゃんと歩夢。この時、二人の間には確かな友情が芽生えたのだ。
「もう一局、やらないか?」
「もちろん。何局だって付き合う」
そして、お互いに駒を初期配置に並べ直していく。うんうん。良きライバル関係の誕生かな。……あれ?俺の順番は?
「あ、すまない八一。タオルを取ってきてくれないか?」
あーはいはい。タオルね。取ってきます取ってきます。……で、俺の順番は?
その後も、銀子ちゃんと歩夢は互いに譲らない好対局を、就寝時間になるまで何局も続けていったのだった。実に見ていて、素晴らしい対局の数々だった。その内容に満足したのか、二人は就寝時間になって直ぐに眠りに着いてしまった。俺の隣で眠る銀子ちゃんは、よっぽど楽しかったのか、笑みを浮かべて満足そうに眠りに着いていた。その寝顔は、本当に愛らしいものだった。その寝顔を見つめながら、俺は切実に、こう思うのだった。ねぇ、俺の順番は?
歩夢きゅん、ゴッドコルドレン状態になったのっていつからなんですかね?
プロになってからかな?
そこらへんの情報無いからわかりませーん
次の投稿なのですが、すいません
わかりません……
というのも、この土日はハロウィン特別編の執筆に使いたいんですよね
次の本編の執筆は、少なくともハロウィン特別編が完成してからになります
特別編は、どうしても書きたいんですよね
まぁ、自分が書きたいだけなのですが
次の投稿がハロウィンにならないように頑張りますので、気長にお待ち頂けると幸いです
ご理解よろしくお願い致します
八銀はジャスティス