この手を離さない 作:八銀はジャスティス
本年も、当作をよろしくお願い致します
合い言葉は、八銀はジャスティス
4月。
それは始まりの月。入学。入社。人々は様々な形で、新たな生活へと身を沈めていく。だが4月が年度初めとなるのは、日本だけの習慣だ。アメリカでは10月が年度の始まりとなるし、ヨーロッパ等は1月からが年度の始まりとなる。何故日本だけズレているのか。その理由には諸説あるが、有力なのは米作の時期に合わせたという説だ。
江戸時代、人々は税を米によって納めていた。それが、明治に入ると金銭で収めないといけなくなったのだ。制度が変わったからといって、直ぐにそれに対応できるわけがない。人々は、金銭を用意するのに、米を換金するという手間が増えたのだ。そして、換金した金銭を、税金として納めていた。そうなると、次に大変なのは役人だ。12月締めとなると、収穫期からほとんど間が無いのだ。その短い期間で、全ての税金を処理して、次年度の予算まで計算するというのは、流石に無理があった。だからこそ、余裕を持って処理と決算を行える、3月締め4月初めという年度設定になったらしい。米農家の一員として、昔じいちゃんに聞かされたことがある。親父はそんなの幼稚園児に聞かせてわかるわけがないだろ、と言ってたけど、すいません。中身は幼稚園児じゃ無いので理解できました。絶対口には出さないけど。
それはともかく、だ。4月だ。4月になったのだ。4月の中頃になったのだ。三段リーグの初戦を翌日に控え、その日俺は、一人で東京へと向かうことになっていた。前日に用意してあった荷物を手に取り、玄関で靴紐を結ぶ。そして、立ち上がった俺に三人の家族が寄ってくる。
「ほんまに、一人でええんか?」
「うん。誰かと一緒に行くと、甘えちゃいそうな気がして」
「甘えてもいいのよ。まだ小学生なんだから」
「ありがとう桂香さん。けど、この世界は小学生だからという理由で、優しくしてもっらえるような世界じゃないから。ここまで来たら、大人も子供も無いよ。皆、プロ棋士候補なんだ」
誰一人として、弱い人間はいない。棋力だけがではない。心もだ。心が強くなければ、奨励会をここまで駆け上がってくることはできない。その前に、皆折れてしまうから。もし、誰かに着いてきてもらったら、俺はその人に甘えてしまいそうな気がする。正直に言おう。俺は、三段リーグが怖い。魑魅魍魎が集まる、このリーグが怖い。経験者だからこそ人一倍わかる。このリーグの怖さが。もし、誰かが一緒に来てくれたなら、俺はもしかしたら、怖いと言って泣きついてしまうかもしれない。それは、俺の心が弱いからだ。だからこそ、誰かに甘えられるそんな環境を、今は切り捨てる。怖い。恐怖を吐き捨てられる場所が無い。だが、それでいい。吐き捨てられないなら、受け入れてしまおう。恐怖に飲み込まれる前に、自分で飲み込んでしまおう。俺はこの三段リーグに、甘えを全て捨てて挑む。一人で向かうのは、そんな俺の静かな決意表明だ。
「八一」
そして、最後までずっと黙っていた銀子ちゃんが声を掛けてくる。玄関の扉に手を掛けたまま、俺は振り返る。銀子ちゃんは、慎重に言葉を選んでいるのか、俺の名前を呼んだ後、悩ましげな顔で黙り込んでいた。次の言葉を発したのは、俺が振り返って5秒ほどが経ってからだった。銀子ちゃんは、穏やかな笑みを浮かべて、俺に向かってこう告げた。
「いってらっしゃい」
穏やかな、日常的言葉。精一杯絞り出した言葉が、それだった。その言葉が、俺の胸にスーッと染み渡っていく。
「うん……いってくるよ!」
そして俺は、玄関の戸を開けて、外へと足を踏み出した。もう、後ろは振り返らない。皆に対する甘えは心の中から追い出していく。心の中には今も、三段リーグに対する恐怖が渦巻いている。だけど、そんな心の中にはいつだって皆がいてくれる。師匠が、桂香さんが、そして……銀子ちゃんが。いつだって皆がいてくれる。それが凄く、心強い。俺は一人じゃないんだ。一人で闘ってるわけじゃないんだ。そう思うと、恐怖が少し和らいだように感じた。さぁ、激闘が始まる。まずは初日。大事な二局。必ず勝って、またこの家に帰ってこよう。必ず勝って、胸を張ってこう言おう。
ただいま、と。
清滝家を離れ、新幹線に乗り込む俺の内には、確かな闘志が燃えていたのだった。
東京駅に着くと、見知った顔が待っていた。俺が近づくと、手を軽く上げて挨拶をしてくる。
「臆さずに来たようだな」
「当然だろ?俺は、棋士なんだからな」
歩夢の軽口に、正面から応える。人混みの中で、俺たちは不敵な笑みを浮かべ合った。歩夢とは、今日東京駅で会うと以前から話し合っていた。なんでも、今日予約してあるホテルまで案内してくれるらしい。別にそんなのなくても、前生で東京には腐るほど来ているので、迷うことは無いと思うのだが、ここは歩夢の厚意を受け入れることにした。歩夢の目的が、案内だけでは無いとわかっていたのも、受け入れた要因だ。
「相変わらずこっちは人が多いな」
「大阪とて変わらぬだろ?」
「いやいや。大阪より絶対東京の方が圧倒的に多いって。そう言えるのは、歩夢がこの人混みに慣れてるからだよ」
「その言葉、そのまま返そう」
歩夢と雑談を交わしつつ、電車を乗り継ぎ目的の場所へと向かう。それほど時間を要さず、目的のホテルには思っていたよりも早く到着した。そのホテルは、将棋会館から程良い距離にあった。遠すぎず、近すぎない程良い距離。外観も綺麗で、内装にも期待が持てそうだ。そして、歩夢とはここでお別れとなる。あまり長い時間を共有はしない。明日からはお互い、敵同士なのだ。本来なら、この時間も避けるべき対象なのだ。だけど、敢えて俺たちは今日会った。最後の挨拶を交わすためだ。
「案内ありがとな、歩夢」
「気にすることは無い」
「……さて、ここまでだな」
「あぁ。……そうだな」
「俺たちが次に言葉を交わすのは、決戦の場でだ」
「あぁ。その際は、お互いにこの半年の成果を存分に語り合うとしよう」
「あぁ。……盤上でな」
「ふっ、達者でな……八一」
「お互いな」
歩夢は最後にこちらを
翌日、決戦当日の朝を迎えた。しっかりと睡眠も取れ、体調も万全だ。朝食を済ませると、俺は意気揚々と将棋会館へ向かう。
「あ!今九頭竜八一君がこの将棋会館へと姿を現しました!」
将棋会館へ到着した俺を出迎えたのは、複数の報道陣だった。史上初の小学生プロ棋士が誕生するかもしれないと、報道にもそれなりの熱が入っている。まぁ、それでも前生の銀子ちゃんほどでは無いけど。
「九頭竜君!三段リーグへ向けた意気込みを聞かせてもらってもいいかな?」
「ここまで来たら、皆プロになれる可能性を秘めた実力者ばかりです。一局一局、全ての対局が大一番のつもりで、挑んでいきます」
無難な受け応えで済ませ、直ぐさま会館の中へと入る。余計な事に、時間を取られたくない。今は、将棋だけに集中がしたい。
「ん?」
会館に入ると、俺は見知った顔を見つけた。歩夢だ。昨日ぶりの、お早い再会となった。会館も、そこまで広いわけではない。バッタリ出会ってもおかしくはないだろう。歩夢も、こちらに気付いたらしく、お互いに目が合う。だが直ぐに、どちらからともなく視線を切った。互いに、敵同士なのだ。今は互いに、自分の対局に集中したい時だ。一瞬見えた歩夢の表情は、いつにも増して気合が入っているように見えた。歩夢は初日から強敵と当たる。その対局に向けて、気合は十分だろう。俺も負けていられない。
対局室へと向かう。俺の対局相手は、既に座って待っていた。同じ関西棋士だ。俺が奨励会に入った年に三段リーグ入りしたため、例会での対戦経験は無い。高一の時に三段に昇段し、次点経験も持つ強者だ。
「まさか、初戦の相手が天才君やなんてな。同じ関西勢、遠慮はいらんで。全力でかかってきや」
「えぇ、そのつもりです」
「はっ!ほんま可愛げ無いな。態度も、将棋も。せやかて、俺もそう簡単に負けるつもりはないわ。ほな……始めよか」
そして、三段リーグその初戦が、開局を迎えた。先手は俺だ。俺は初手として、2六歩と飛車先の歩を突く。相手も合わせて、8四歩と指してくる。その後、2五歩、8五歩、更に7八金、3二金と進んでいく。そして2四歩、同歩、同飛と指せば、典型的相掛かり定石となる。
「初戦はお得意の相掛かりでってわけやな。ええで。その勝負乗ったるわ」
奨励会でも、俺が相掛かりを得意としていることは知れ渡っている。対局相手は、それを知ってて俺の土俵に上がってきたらしい。
「俺も相掛かりは大好物なんや。どっちの得意戦法が勝るんか、楽しみやな!」
そう言って、相手は飛車先に歩を打ち付けてきた。それを見て、俺は飛車を後ろに下げ、浮き飛車の形を取る。その後は、お互い様子見も兼ねて、定石を辿っていく序盤となった。この対局は大事な三段リーグの初戦だ。絶対に負けるわけにはいかない。その一心で、お互いに慎重に指し進めていく。そして定石を辿っていった結果、盤面にはとある戦型ができあがっていた。相掛かり腰掛け銀。相掛かりの戦型の一つだ。
「腰掛け銀か。ほんま狙ったかのように、俺の好きな方に進めてくれるな。ほんなら……この戦型を選んだこと、後悔させたるわ」
そして、相手は銀隣の歩を一枚前に進めてきた。それは、定石を外した一手だった。遂に来た。相手が先に仕掛けてきた。ここからは、己の力で道を切り開いていかないといけない。上等だ。そっちがそう言うなら、こっちだって言ってやる。
「それを言うならこっちだって……この戦型に付き合ったことを後悔させてあげますよ」
「へぇ……おもろいやんけ」
俺は桂馬を跳ねさせる。角道を塞ぐように跳ねさせる。相手の歩上げの狙いは、角と飛車の共演による、右翼の突破だ。それを防ぐために、相手の角が攻めてこれないように、道を塞ぐ。
「なるほど。桂馬をそう使うか。桂馬の使い方がとにかく上手いとは聞いとったけど、ほんまに上手いな。せやけど、それだけやと俺の攻めは止められへんで」
歩を打ってくる。角頭の歩にぶつけてくる。放置するわけにはいかない。俺は迷わず、その歩を歩で取る。そして相手も直ぐさま、飛車で歩を取ってきた。これまた放置するわけにいかず、直ぐさま歩を打ち付けて飛車の侵攻を防ぐ。すると相手は、飛車で7列の歩を取ってきた。壁として置いている桂馬の鼻先に、飛車が狙いを定めてくる。とは言っても、その先は角を初め、金と銀も護りを固めている。そう簡単に侵攻できるような配置にはなっていない。今が攻め時だ。お返しだと言わんばかりに、2列の歩に歩を打ってぶつける。相手は当然、歩で取らざるを得ない。それを見て、飛車で歩を取る。相手もすかさず、飛車先に歩を打ち付けてくる。そして更に俺は、3列の歩を飛車で取る。ここまで、相手と全く同じ動きだ。だが、ここから先は変化が生じる。俺の飛車、その目の前には何も駒が無い。一つ後ろに、金が控えていて、その背後を守るように、銀が控えているが、目の前には何も無い。さて、相手は飛車に対してどうアクションを起こすか。対処法は主に二つ。放置するか。歩で壁を作るか。俺の飛車は、縦への突破が既に防がれている。しばらく放置するのも手の一つだろう。
「なんて、放置するわけにいかへんよなぁ」
だが相手は、歩で壁を作ってきた。それが正解だろう。縦の護りは確かに固い。だが、横の護りはそうでも無いのだ。飛車の横列には、銀が一枚あるだけ。後は筒抜けだ。対してこちらは、銀の横に一枚歩がある。本来は相手の銀隣にも歩があったのだが、その歩を定石外しの一手として使ったのだ。その結果が、横列の脆弱化に繋がっている。定石外しの一手には、それだけのリスクも含まれているのだ。この後の展開で、銀が揺さぶられれば飛車がどこからでも牙を剥く。特に、飛車を攻め駒として使っている分相手の左翼は脆いのだ。桂馬と香車が定位置で留守番しているだけ。8列の歩も不在。どうぞ攻めてくださいと言わんばかりの様相だ。だが、今は攻めれない。こちらの持ち駒には歩しか無い。これではどうあがいても攻めれない。左翼は、7列以外歩が健在なのだ。打ち付けたところで2歩になってしまう。7列に打ち付けても、そこは相手の金がカバーしている。打つだけ無駄だ。俺は、仕方なく飛車を一つ下げる。
「ちっ、油断ならへんな。しゃーない。勿体ないけど、ここで使おか」
相手は、持ち駒にあった最後の歩を8列の護りに使ってきた。これで、俺の左翼への攻めを封じた形になる。だが、ここで相手は一手を護りに使った形になる。こちらに主導権が回ってきた。ここで、一気に攻める。俺は、壁に使っていた桂馬を跳ねさせ、相手が定石崩しに使った歩を取る。
「な!?ここで桂馬を!?」
驚愕する相手。壁が急に押し迫ってきたのだ。当然驚愕するだろう。飛車の縦への突破は、しっかり金銀角の三枚で防いでいるので怖くない。横の突破も、銀と歩で防いでいるので怖くない。唯一怖かった角の参戦も、しっかり布石を打ったので怖くない。
「ま、まさか一連の飛車の動きは……」
その角の道は、俺の飛車の侵攻を止めるために打たれた相手自身の歩で止められている。そう。相手の動きを真似したような、一連の動きは、全てこの桂跳ねのための布石だったのだ。銀で取ることはできる。だがしかし、直ぐに五列で待機させている俺の飛車が取り、桂銀交換という足運びになる。しかも、俺の飛車が攻め込みやすい形が残るおまけ付きだ。かといって放置すると、途端に王の目前に桂成が現れる。金の防備があるとはいえ、避けたい場面なのは間違いない。
「やったら、これでどうや!」
ここで相手が指してきた手は、角道を開けるために歩を進める手だった。それと同時に、飛車に対する圧力にもなっている。飛車先に、歩がぶつかる。なるほど。攻防一体となった一手だ。面白い手だ。だけど……良い手ではない。
「な!?」
角道を開けた相手を嘲笑うかのように、こちらから角交換を仕掛ける。堪らず相手は、銀で角を取ってくる。そうだ。そうするしかないだろう。その間に、俺は悠々と飛車先の歩を取る。そして相手は、角を取った銀をそのまま俺の飛車にぶつけてくる。そうせざるを得ないのだ。そうしないと、俺の飛車が右翼を突き破ってしまうのだから。結論から言うと、相手は角道を開けるべきでは無かった。護りを固めるべきだったのだ。居玉の隣でどっしり待ち構えてる金を上げ、桂馬の侵攻に備えるべきだった。その方が、俺は攻めあぐねたことだろう。とはいえ……その場合の対策もきっちり考えてはいたが。俺は冷静に飛車を一つ下げる。それを見て、相手は金を玉の前に上げてきた。行動が遅すぎた。今からだと、もう遅い。俺はここで、遂にずっと待機させていた銀という手札を切った。腰掛け銀の肝である銀を、相手の銀にぶつける。
「くっ……!」
ここで相手が長考に入る。相手に選択できる手は主に二つ。銀で銀を取るか。銀を退かせるか。長い沈黙の末、相手は静かに手を進める。銀を、退いてきた。ならば、遠慮無く攻める。俺は、相手の懐深く、定位置で待機していた8列の桂馬の鼻先に角を打ち付けた。
「な!?そんな狭い場所に角を!?」
確かに狭い。角が身動きをできる場所は少ない。だが、それでも相手は対処できない。相手の持ち駒は現在角一枚だけ。歩すら無い。そうなるように、盤面を動かしてきたのだから。これで、簡単に馬が作れる。
「ま……まさか……ここまで全部読み切って……?」
驚愕する相手。だが、直ぐに意識を切り替えて、少しでも被害を抑えようと5列に上げていた金を6列にずらしてくる。だが俺も、そんなの関係無いと言わんばかりに、角を7列最奥の位置に置き、馬へと変える。そして相手は、銀を更に玉の前まで下げて、護りを固めてきた。その動きに合わせて、俺も銀を一つ前、桂馬の前に進める。相手は更に、左翼の護りを固めていた3列の金を4列に動かし、王の護りを固めてきた。王の前を3枚の金銀が固める、盤石の布陣だ。だが、こちらの方が攻撃のカードは多い。俺は飛車を5列に動かし、中央突破の構えを見せる。それを見て相手は苦虫を噛みつぶしたかのような顔をすると、王を4列に逃がした。配下を見捨てて逃げる王。正に、敗戦国の末路と言える状況だ。
奨励会有段者の闘いには、次のような暗黙のルールのようなものがある。『最初のチャンスは見逃すこと』最初のチャンスは見逃して、より確実な次のチャンスを待つ。相手に徐々に、自分は見逃されたんだという自覚を植え付け、精神的に追い込んでいくためのルールだ。かなりタチの悪いルールだ。今が、その最初のチャンスだ。本来なら見逃すべきなのかもしれない。けど、俺はここで終わらせる選択を取った。今生の三段リーグは、真正面から全ての対局に勝ちたい。それぐらいできないと、この先の闘いは勝ち抜けない。そう俺は思っている。だから、遠回りせず、最短距離で勝ちに行く。この三段リーグ、全局で。俺はその決意を込めて、相手防壁を切り開く第一手、桂跳ねを敢行した。そこから数手進み、大駒の角を相手に明け渡すことにはなったが、相手防壁は丸裸となった。後は、相手玉を追い込むだけだ。
「負けました」
だが、相手はそこから粘らずに、潔く負けを認めてきた。正直、拍子抜けの終わり方だった。
「なんで粘らなかったのか、って顔してんな。そんなん、天才君が一番わかってるやろ?君、詰みまで全部読み切って……いや、全部研究しとったな?」
「まぁ、そうですね」
「はぁ、ほんまなんでこんなとこまで研究してるん?上手く定石外して攻勢に出れる手や思ったのに、結局マトモに攻めることもできへんかったやん」
確かに、定石を外してきたのは相手だ。だが、その一手は俺も前生で研究したことのある手だ。前生で俺は、腰掛け銀系統の戦型に関しては、かなりの研究時間を費やした。理由は至って単純。銀が名前に付く戦型では、負けたくなかったからだ。他にも、棒銀系統や銀冠といった、銀に関する戦法、戦型に関してはとにかく研究をした。それが、先の対局に如実に現れていた。なんでそんなに負けたくないのかって?そんなの、言わなくてもわかるだろ?……まぁ、要するにだ。相手は、この戦型に付き合った時点で負けていたのだ。勝ち目は無かったのだ。
「ほんま、天才君の名前は伊達やないなぁ。完敗やわ。同じ関西勢として、応援しとるわ。頑張りや」
「ありがとうございます!」
自分も大変な状況だろうに、自分を負かした相手を応援するなんて、良い人すぎないだろうか?なんだか俺も、この人のこと応援したくなってきた。頑張ってください。応援してます。今期は無理だろうけど。
相手が席を離れたのを確認して、俺も席を立つ。そして幹事の席へと向かった。勝者は、幹事に勝敗を報告する義務がある。敗者の分も、成績表に印を押すのだ。どうやら、俺が報告一番乗りだったらしい。成績表は、まっさらな状態で、誰の欄にも印が押していない。歩夢の対局結果も気になるが、今は知る由も無い。俺は、印を押し終えるとさっさとその場を離れた。さっさと昼飯を食べて、午後の対局に備えよう。俺は足早に昼飯を食べるために移動するのだった。
「連勝スタートか。流石噂の天才小学生だな。その実力は本物か」
幹事の人がそう言う。その発言の通り、俺は見事に午後からの対局も勝利で終えることができた。対局相手は、奨励会員らしく、粘りに粘るしつこい将棋を指す相手だった。危ない場面は特になかったが、本当に疲れた。お陰で、終わったのもどうやら一番最後だったらしい。成績表には既に俺と、俺の対戦相手以外全員に、二つ分の印が押されていた。
「皆終わってたのか。……ん?……なっ!?」
そして俺は、驚くべき物を見た。それは、歩夢の戦績だ。そこには黒い丸が二つ押されていたのだ。それが意味することはただ一つ。
「歩夢が……連敗スタート……!?」
この三段リーグ、どうやら波乱が起きそうだ。この時俺は、そんな予感を確かに抱いたのだった。
改めまして、あけましておめでとうございます
本年もどうぞ、よろしくお願いします
年末年始が想定以上にバタバタしていたというのもあるのですが、今回は少し対局シーンに苦労してました
ツイッターでは報告したのですが、従来とは違う書き方の対局描写をしてみたんですよね
そしたら予想以上に苦労したうえに、できあがりもなんだか納得いかない感じになって、結局いつも通りの描写方法で書き直したりしてました
これも、そこまで納得いくできにはなってないですが、これ以上投稿遅らせるのもどうかと思ったので、妥協しました
機会があったら書き直したいですね
まぁ、モブ相手なんで、別にこれで良い気もしますけど
次はもっと早く投稿できるように頑張りますので、気長にお待ちください
八銀はジャスティス