この手を離さない 作:八銀はジャスティス
来月打ってきますね
銀子ちゃんの誕生日後だから、副反応気にせず誕生日記念は書けます
良かった良かった
でもりゅうおう15巻発売日前だ
……副反応無く、無事発売日に15巻を読めるのでしょうか?
今回、終盤が八一がいるにも関わらず、三人称書きになっておりますのでご了承ください
合い言葉は、八銀はジャスティス
「ガハッ!」
坂梨さんとの対局に無事勝利した後、俺は直ぐさま幹事に勝利を報告し、対局室を後にした。そして、その足でトイレへと駆け込んでいた。極度の緊張に耐え続けた胃が、悲鳴を上げていた。さっきから、
「ガ、ハッ!」
そう考えてしまうと、またも胃に不快感が襲ってくる。そう、俺は今日の対局、負けていたかもしれないのだ。今期の三段リーグは、過去に類を見ないほどの大混戦となっている。最終日のみを残した現時点で、2敗勢が4人、3敗勢が一人となっている。そして、最終日もその内二人との直接対局となる。最終日を、2敗で迎えるか3敗で迎えるかで、精神的余裕が大きく異なる。もちろん、2敗で迎えた方がまだ余裕を持てるが、それでも精神的負担は大きい。2敗勢が俺を含めて4人もいるのだ。もし、最終日に1敗でもすれば、その時点で自力昇段の夢は絶たれてしまう。要するに、2敗と3敗で大きく違うところは、そこなのだ。最終日に、自力昇段の可能性を残せるかどうか。そして俺は、残すことに成功した。その代償が、今の俺の状態な訳だが。しかし、今期の三段リーグは本当に凄い。過去に、3敗で三段リーグを終え、昇段を逃した人はいない。それが、今期はありえるかもしれないのだ。2敗勢の内、誰かはプロになることができない。もしかしたら、俺が弾かれる可能性だって……
「ガハッ!」
そう考えてしまい、またも胃が悲鳴をあげる。どうやら、俺はまだしばらくトイレに引きこもっていないといけないらしい。俺はその後も、勝利の余韻に浸ることもなく、悲鳴をあげる胃を労り続けたのだった。
「八一、出かけるわよ」
激闘明けて翌日のことだ。朝食を終え、さて今日も日課となっている銀子ちゃんとの対局を始めるかな、と思っていたら、急に銀子ちゃんがそう言い出した。
「出かけるって、どこに?」
「武者修行」
なるほど。今は丁度夏休み。俺たちは毎年、夏休みになると、強い人がいる将棋道場に武者修行に出かけていた。だけど今年は、俺が三段リーグを闘っているということもあって、未だにどこにも出かけることができていなかった。確かに、そろそろ夏休みも終わってしまうし、どこかに出かけるのも悪くないかもしれない。それに、良い気分転換になるかもしれないし。
「わかったよ。それで、どこにいくの?」
「難波」
「難波?わかった!直ぐ行こう!」
難波だったら直ぐに行けるし、帰ってきてからまたいくらでも銀子ちゃんと対局ができそうだ。そうだ、折角だから今回は桂香さんも誘ってみよう。桂香さんも、マイナビ女子オープンに向けて練習対局をしたいだろうし、丁度良い機会だろう。早速声をかけてみよう。俺は銀子ちゃんにそのことを提案すると、銀子ちゃんも当然了承してくれる。銀子ちゃんは、桂香さんのことが大好きだし当然だろう。前生でも、俺よりも桂香さんのことを銀子ちゃんが優先してたような場面が、何度もあった。俺よりも、桂香さんを……
……別に、桂香さんに対して嫉妬したりとかはしない。しないったらしない。でもやっぱり、なんだか銀子ちゃんと二人きりで行きたくなってきたな。そう思って再度銀子ちゃんに提案しようと思ったのだけれど、言葉にする前に、銀子ちゃんに手を引かれて桂香さんの所に連れて行かれてしまった。そして、桂香さんも良い機会だと了承し、三人で武者修行に行くことになったのだった。
……ねぇ、やっぱり今からでも二人だけでいく方向に変更できない?できないですか。そうですか……
清滝家の最寄り駅、野田駅から大阪環状線に乗り込んだ俺たちは、そこから今宮駅まで乗る。そして、JR線に乗り換えて数分、ミナミの中心とも呼ぶべき場所、難波へと到着する。因みに、ミナミという言い方を使っているけど、この難波を中心としたミナミ一帯の住所は、大阪市中央区だ。ミナミではなく、大阪の中央だ。では、何故ミナミと呼ぶのかと言うと、その理由は江戸時代まで遡る。江戸時代大阪は、天下の台所と呼ばれていた。日本の商いの中心地として、全国から様々な食材などが集められていたのが
その難波のとある将棋道場に、俺たち三人は訪れていた。店内に入ると、それなりに客がいる。思ってたよりも繁盛している場所らしい。まぁ、難波自体が人の足が関西でも有数に多いし、これぐらいの客数は普通なのかもしれない。俺たちが入ると、カウンターにいる店員さんが驚いたような顔で俺たちのことを見てくる。というよりも、俺のことを見てくる。俺、なんかしたっけ?
「こりゃビックリやわ。噂の天才少年がまさかこないなとこに足運んでくれるなんてな」
「あはは、そんなに俺って有名ですか?」
「有名なんてもんやないわ。将棋指してて、坊主を知らんだらモグリって言われるほどやわ。昨日も2勝したらしいやん。小学生プロ棋士誕生が現実味を帯びてきたな。頑張りや。大阪の将棋指しは皆坊主のこと応援しとるで」
どうやら、俺も知らない間にかなり有名になっていたらしい。まぁ、現時点で今期の四段昇段筆頭候補にあげられてるし、それも当然と言えるかもしれない。次の結果次第では、小学生プロ棋士が誕生することになる。歴史的快挙を期待して、俺の地元大阪は大盛り上がりというわけだ。
「嬢ちゃん達も見た顔やな。清滝先生の娘さんに、女子奨励会員の嬢ちゃんやな。清滝先生のお弟子さん勢揃いかいな。こりゃまた、えろう勉強させてもらいますわ」
そう言うと、店員さんは奥から三人のお客さんを呼びだした。そのお客さん達も、俺のことを見て驚いている。前生では最年少竜王になったわりに、銀子ちゃんの影に隠れてあまり目立たなかったけど、今生の俺はどうやらがっつり目立っているらしい。なんか照れるな。
「これはこれは九頭竜先生やないか!こないな
「おいおい。人ん店に向かってその言い草はあんまりやろ?」
「堅いこと言うなや。事実やろ?」
「ま、違えねえ!だはは!……なんて笑って許すとおもうたか!てめえ全駒にいてこますぞ!」
「おう、ええで。その喧嘩乗ったるわ。わてのゴキゲン中飛車が火を噴くで?」
急に喧嘩を始める店員さん……たぶん店長さんかな?とお客さん。まぁ、喧嘩の内容が将棋みたいだから、そこまで気にしなくていいだろうけど。
「な、なんか凄いところに来きゃったね」
「道場選び、間違えたかな?」
桂香さんと銀子ちゃんも不安そうな顔をしている。まぁ、この状況を見たら、流石にそう思ってしまう。そんな俺たちの様子を見て、気を利かせてくれたのだろう。後ろに控えてた二人のお客さんが言い合う二人の間に入ってくれる。
「おいおいやめときや。先生方も困ってるやろ」
「せやで。将来の大先生に失礼やろ」
「おっと、こりゃあかんわ。先生方に見苦しいとこお見せしてもうたわ。勘弁してな」
「ほんまやで。……それでや先生方。この三人が、ウチの常連三強や。良かったら、相手したってくれへんか?」
これは願ってもない提案だ。元々俺たちは、それが目的でここまで来たのだから。俺たちは二つ返事でその提案に応えて、それぞれ盤の前で向かい合った。他のお客さん達も、俺たちに気づき、その将棋を一目見ようと周りに集まってくる。
「先生の相手はわてや。言うとくけど、わてが三人の中ではいっちゃん強いで?簡単には負けへんよって、覚悟しいや?」
「俺だって、期待に応えるために、負けるわけにはいかないです!そっちこそ覚悟してくださいね!」
そして、俺たちの対局が始まる。それと同時に、銀子ちゃんと桂香さんも他の二人と対局を始めた。この道場の人たちに、清滝一門の力を見せつけよう!
先手は相手だ。無難に角道を開けてくる。俺も、角道を開けてそれに応える。そして相手は三手目に、5六歩と指してきた。この時点で戦型はゴキゲン中飛車で間違いないだろいう。実際に相手の人も、店長さんとの喧嘩(?)の中でゴキゲン中飛車を指すみたいな話してたし。さて、しかし俺はどうするか。超速3七銀を筆頭に、居飛車での対抗形は幾つかある。その内のどれかを指すのが無難だけど、ここは折角だし、久々に俺もこれを指そう。
「なんやて!?」
俺の指した手を見て、対局相手と観客が、驚嘆する。俺が指した手は、5二飛。相手に担ってゴキゲン中飛車明示。つまりこの対局は、相中飛車となった。
「……居飛車主体のオールラウンダーやとは知っとったけど、まさかわて相手に相中飛車で挑んでくるとはなぁ。舐められたもんやで……」
そう呟くと、対局相手は5八飛と飛車を移動させ、駒を力強く盤に打ち付けた。その駒音から、相手の心情は推し量ることができる。……流石にこの戦型を選ぶのはまずかったかな。
「いくら将来の大先生でも、この戦型でわてに勝てると思ったら大間違いやで。ゴキゲンの湯に通い詰めて、生石大先生に教えを請うたんや。わてのアイドル、生石大先生お墨付きのゴキゲン中飛車、舐めてかかったら……火傷程度で済まへんで?」
その後の俺たちの攻防は、正に猛火と業火の激突となった。激しく燃えさかる俺の猛火のような攻めが、相手を灰に返さんと襲いかかれば、相手の業火のような攻めが、俺の犯した罪ごと燃やし尽くさんと迫り来る。しかし未だに大火傷を両者負わずに済んでいるのは、互いの静水の様な受けが清めているからだ。清らかで美しい捌きだ。思わず、見とれてしまうかのような、美しい捌きを相手は見せてくれていた。なるほど。確かにこれは、生石さんお墨付きというのも頷ける。だがしかし、今俺が対局している相手は決して生石さんではない。生石さん以外のゴキゲン中飛車に、俺のゴキゲン中飛車が負けるわけにはいかない。
「ま、負けました……」
互いの意地をぶつけあった一局は、俺の勝利に終わった。生石さん以外の相手に、相中飛車で負けるわけにはいかない。俺にも、意地ってものがある。これは、俺の意地が勝った結果だ。……尤も、生石さんが相手でも、相中飛車で負けるつもりは無いけどね。
「かーっ!完敗や!九頭竜先生、振り飛車でもプロ級に強いんやな!プロはプロでも、生石大先生級やったで!こら勝てへんわ!」
「ありがとうございます。でも、まだプロになってないので、先生呼びは遠慮していいですか?」
「んな堅いこと気にしやんでええやん!どうせ時間の問題なんやさかいな!」
そんなことまだわかんないです。いや、俺としてもなれないと困るというか、折角生まれ変わった……いやこの場合産まれ直したの方が正しいかな?産まれ直した意味が無くなってしまう。もう時間的猶予は無いんだから、必ず今期で四段昇段してみせる。そして、俺達の闘いに続いて、他の二局も決着が付いたようだ。俺たちみたいに超攻撃的な殴り合いをしてたわけでもないので、俺たちより手数がかかっていた分、時間もかかっていたようだ。
「いやー、そらきっついわ。なんやのその穴熊?カッチカチやん」
「まるで凍らせたバナナみたいやな」
「そうそう。カッチカチに堅くて釘打てまんねん。まぁ、わてのボケはバナナの皮踏んづけたみたいにいつもだだ滑っとるけどってやかましいわい」
……お、大阪のノリだ。ここまでコテコテの大阪ノリは初めて見た。根は福井県民の俺にはついていけそうにない。
「あ、あはは、ありがとうございます」
純大阪府民の桂香さんですら困惑している。その横で銀子ちゃんは、若干熱っぽそうにしていた。熱っぽそうということは、銀子ちゃんも少し本気を出したのかな?だとしたら、相手も相当の実力だったんだろう。俺の相手もかなりの実力者だったし、この道場自体実力者揃いなのかもしれない。
「しっかし、三人とも流石の強さやな。まさかわてら三人全員まけるとは思わんだわ。……先生方、この後まだ時間あるやろか?良かったら、もう少し指していかへんか?」
その提案を受け、俺たち三人は、互いに目配せをしあい、意思を確認しあった。ま、当然俺たちの返答は決まってるよね。
「えぇ、是非お願いします」
こんなレベルの高い将棋を指せてるんだ。俺たちの成長のためにも、この機会を利用しない手はない。
「よっしゃ!そうと決まれば先生、戦後入れ替えて指しましょ!今度こそわてのゴキゲン中飛車が火を噴くで!」
「アホ!対局相手も変えるに決まっとるやろ!」
「せや!今度はわてが九頭竜先生と指すんや!」
「じゃかしいわい!この席は誰にも譲らんで!この盤にわてと九頭竜先生の名前書いといたるわ!」
「てめえ、ウチの備品に何しようとしとんねん!」
三人の対局者と店長、次第には集まっていた観客達も入り、ガヤガヤと漫才のようなやりとりをしながら、それぞれの対局相手を決めるための言い合いが始まった。
……これはなんだか長くなりそうだ。
「八一」
死んだような目を浮かべながら、皆のやりとりを眺めていると、隣の席に座っていた銀子ちゃんが話しかけてくる。
「なに?」
「息抜きできてる?」
銀子ちゃんのその言葉に、俺は思わず疑問符を浮かべてしまう。息抜き?今日は武者修行にきたんじゃなかったのだろうか。
「息抜きって?」
「最近、八一三段リーグが大変で、疲れてるみたいだったから……」
なるほど。それで今日は、武者修行と称して、俺の息抜き目的で一緒にでかけてくれたのか。今日のこれは、銀子ちゃんなりの優しさだったようだ。
……将棋の息抜きが将棋なあたり、実に俺たちらしい。でも、確かに特に何にも縛られず、ノビノビと指せて今日は良い息抜きになったように思う。提案してくれた銀子ちゃんには、感謝しないとな。
「うん。凄く良い息抜きになったよ!ありがとう!」
「別に、お礼を言われることでもないし」
そう言って顔を逸らす銀子ちゃんの頬は、まだ熱っぽいのか、若干赤くなっていた。次の対局に支障が出なければいいけど。最悪、ドクターストップをかけないといけない。なんてことを考えていると、どうやら相手の準備も漸くできたらしい。
「先生方、おまたせやで!さぁほな、まだまだわてらの相手してもらうで!覚悟してや!」
望むところだ。銀子ちゃんのことも心配だけど、銀子ちゃんにばかり意識も向けてられない。対局に集中しないと。その後も俺たちは、代わる代わるに対局を重ねていった。結局、その後銀子ちゃんの体調にも問題無く、最後まで指し続けることができたのだった。俺も、本当に良い息抜きができたと思う。銀子ちゃんには良いプレゼントをもらったな。この前も、誕生日プレゼントをもらったばかりなのに。これは、きっちりお返しをしないといけない。お返しに、俺の四段昇段という結果を贈ろう。銀子ちゃんもきっと、それを望んでくれてるだろうから。俺はそう新たに気持ちを切り替え、三段リーグ最終日への、残り数日を過ごしていくのだった。
そして……
その日、関東の将棋会館には、多くの人々が詰めかけていた。今日この日、プロ棋界には新たな猛者が加わることが決まっている。その猛者を決する、最後の試練が今から行われるのだ。猛者同士の喰らい合い。互いを蹴落とすために、この神聖なる会館内でも最も神聖とされる一室に、猛者達が詰めかけてくる。その猛者達を待ち構えるかのように、会館外には多数の報道陣が詰めかけていた。そして、その報道陣全てが目当てにしているのは、一人の少年だ。その少年、いや猛者が今、彼らの前に姿を現す。その姿を確認するや、彼らは飛びかかるかのように、その猛者へと詰めかけた。
「九頭竜三段おはようございます!最終日に対する意気込みだけお願いしてよろしいですか!」
「必ず今日を生き抜き、新たな自分となって皆さんの前にまた姿を見せたいとおもっております」
「ありがとうございます!頑張ってください!」
報道陣達は、その一言だけを聞いて引き下がった。本当なら、もっと質問をしたかった。しかし、彼らはできなかった。その理由は、彼の気迫に押されたからだ。いや、そもそもあれは本当にただの気迫だったのだろうか?並々ならぬ何かを、彼らはあの少年の皮を被ったナニかから感じ取っていた。
「棋界の覇王……」
誰かが、少年の通り名を呟く。その言葉を聞いて、一人、また一人と今のが何だったのか、その正体に気づいていく。そんなバカなと思う人もいるかもしれない。そんな物、普通感じ取れるわけがないと思うかもしれない。しかし、そこにいた誰もが、その答えに納得してしまっていた。あれは間違いない。あれは、覇王が放った覇気だったのだと……
関東将棋会館特別対局室。そこに、多くの猛者達が放たれ、各所において二者が向かい合っていた。もうまもなく、対局が始まる。全ての対局がメインカードだ。しかしその中でも、特に注目が集まるカードが二つあった。
「今日は関東の天才が相手か。関西の天才には負けたけど、君にはかたせてもらうよ」
「我も負けるつもりは
現在三敗、篠窪大志三段と、現在二敗、神鍋歩夢三段の対局。それと……
「遠慮はいらない。俺の首を取るつもりでこい」
「もちろんそのつもりです。覚悟してください。……………………鏡洲さん!」
現在二敗、九頭竜八一三段と……同じく二敗、鏡洲飛馬三段。猛者の頂点を決める闘いがまもなく始まる。最後に笑うのは、泣くのは一体誰なのか?後に識者達は語る。この結末を予想できた者は、一人もいなかっただろうと。波乱に波乱が重なる猛者達の狂宴。その最終章。舞台の幕はまもなく上がる。
第49回三段リーグ最終日……………………開幕!
思いつきでプロットいじったり、やっぱりやーめた!で元に戻したり、やっぱり思いついた奴のここだけ取り入れよう!と更に修正したりしてたら、予定より大幅に遅れてしまった
申し訳ない
思いつきで書いてたのそのまま書いてたら、二万文字超えそうだったんだもん
今回は分割したくなかったし、ちかたないね
思いつきのプロットは、また少し改変して、特別編で投稿しようと思います
投稿予定としては、来年のGWです
そこ、先すぎだろとか言わない
次は早く投稿できる……といいなぁ
八銀はジャスティス