仮面ライダーゼロワン&仮面ライダーキックホッパー   作:地獄社長

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第1話 地獄の旅路

 夕日が落ちていく地平線に向かって、一人の男はただ歩き続ける。

 

 右腕の袖がない黒いコートはすでにボロボロで、白いタンクトップには汗と泥の汚れが目立っている。

 

 ここ数日は、久しぶりに生きた心地を感じた。

 共に地獄を歩んだ彼の弟といた時間を味わうことができたのだ。たとえ彼が偽物であり、ワームの擬態だったとしても、相棒が側にいることは事実だったのだ。

 

 太陽の光が当たらない、沈下橋の影で過ごした時間

 戦いも争いもなく、静寂を味わった時間

 

(兄貴、俺には目的があるんだ)

 

 まるで夢を語るように、弟は天を見上げた。

 もちろん兄は、『光を求めるな』と諭す。青臭い夢、プライド、大義名分、正義、そういうものは儚い。他者によって否定され、いつしか諦めてしまうものだ。

 

 選ばれた人間だけが成功するように、この世界はできている。

 

 だったら最初から希望を持たず、地獄を歩めばいい。

 幸せそうなやつらに、やつ当たりしてしまえばいい。

 

(いや、地獄が見れるよ)

(これ以上の地獄か?)

 

 地獄に堕ちた目だが、ワクワクしながら弟は告げる。

 

 地球外生命体、ワーム

 1999年に宇宙から飛来した隕石によって、その種族は地球に襲来した。恐ろしいのが人間に擬態する能力であり、襲った人間の一切の記憶や人格・性癖・果ては内部構造や所持品まで完全にコピーする。ワームは人間社会に溶け込み、人間を滅亡させるために本能的に動いている。

 

 そんなワームを宿した隕石がまた、この地球に向かっていると言う。

 

(こんな俺を、兄貴は止める?)

 

 弟は、兄がワームと戦っていたことを記憶として知っている。

 それが、『仮面ライダーザビー』であった。

 

(俺は闇の住人だ。

 別に、世界がどうなろうと知ったことじゃない)

 

(だったら!)

 

 擬態対象の人間の意志があまりに強い場合は自身がワームであることを忘れてしまうこともあり、この状態はある意味で、ワームの肉体が人間の意識に乗っ取られた状態となる。だから、弟として、兄を慕ってくれる。

 

 弟として、兄とは敵対したくない。

 

(兄として、弟を守ることは当然だ)

(ありがとう、兄貴!)

 

 しかし弟はワームとしては弱く、成虫にもなっていない。今この瞬間、人間社会に溶け込み、機を窺っているワームもその数はもうゼロに近いという。無謀で勝ち目のない戦いであることはわかっているが、地獄の道は険しいに決まっている。

 

 再び、矢車は相棒の光のために戦いの道に戻った。

 亡き弟のライダーシステムを弟に託し、そして兄自身は地獄の太陽の力を得た。

 

 

「はっ……」

 

 自分でも笑える。

 結局また、光を求めてしまった。

 その先に、相棒を失った。

 

 その最期に、弟ではないと否定されたけれど。

 それが本心だったのか、もう尋ねることはできない。

 

 彼は再び『仮面ライダーキックホッパー』として、『仮面ライダーガタック』や未知の仮面ライダーたちと、その意志をぶつけ合った。ガタックの変身者の加賀美新は相変わらず青臭くて、更には若い仮面ライダーたちも真っ直ぐ立ち向かってきた。

 

 まさしく、選ばれた人間たちだった。

 その誰もが眩しかった。

 

 一時は隕石は成功するかに思われたのに。

 

 いや、仮にもし彼らに勝てたとしても、天の道を歩み続けるやつが、矢車たちの前に立ち塞がっただろう。その本人はまた世界のグルメでも味わうために自由気ままに旅行していたのか、『仮面ライダーカブト』の力だけを親友に貸した。

 

 加賀美新が変身したカブトと対峙していた時も、やつの相変わらずの上から目線をその場にいなくとも矢車は感じていた。たぶん、加賀美のやつも同意見だろう。それほどまでに、眩しくて天に選ばれていて太陽のような男だ。

 

 その輝きに負けないくらい、眩しい若い仮面ライダーたちだった。加賀美が王様と言っていたことは、過言ではない気がした。次々とフォームを変える彼は、仮面ライダーの王だったのだろう。

 

 負けることは、必然だったのだろう。

 

 心残りは、また相棒を死なせてしまったことだ。

 今回は自分の手で殺せなかったから殊更にだ。

 

「……今度は、どこのどいつの仕業なのやら」

 

 彼は溜め息とともに、目の前のオーロラに向かって、その歩みを止めることはない。

 

 

………

 

 

 世界を渡る扉のようなものだ。

 

 矢車自身、平行世界があることをその身で体験している。何度か『仮面ライダーキックホッパー』として喚び出され、未知のライダーと戦うこととなった。ちょっとした旅行のようなもので、結局は元の世界に戻ってしまう。

 

 どんな地獄を見せてくれるのかと、矢車は期待してしまう。

 

「‥…まぶしすぎる」

 

 遠くに見えるビルにはスクリーンがあり、ニュース番組を放送している。どうやらこの都市で先日、事件があり、その復興にヒューマギアを運用しているらしい。イメージ戦略的な思惑が見て取れるのは、矢車が闇の住人だからだろうか。

 

 人工知能搭載人型ロボット『ヒューマギア』

 矢車がまず、未来の平行世界だと理解する根拠だ。博識な矢車はすぐに、人間たちにとってヒューマギアが代替の労働力として期待されていることを理解した。その分、人間たちの職場が減ることになるだろうが、ゆとりを持った生活をすることができる。

 

 さぞ、幸せで未来的な生活を送っているのだろう。

 

 ヒューマギアに頼る気もないから、矢車は興味がない。

 それよりもだ。

 

「祭りの場所はあそこか……なんてな」

 

 その呟きは、風に乗って消えていく。

 

 この世界の現状に興味はない。

 今はただ、やつ当たりできるなら、それでいい。

 

「仮面ライダー……いや、人でもないな」

 

 廃工場に向かっているヒューマギアの一団を見つけ、矢車はその行く手を阻む。『障害となる人間』として認識したことで、ヒューマギア、いやマギアたちはその銃を構えた。

 

 だが、AIが反応することのできない鋭いキックで、その銃を蹴り上げる。

 

「笑えよ……

 はぁ……俺を笑うこともできないのか」

 

 相手が人間だろうが、機械だろうが、敵として認識してくれたならそれでいい。敵意は感じられないが、迷うことなく発砲してきた。もちろん、生身の矢車は当たる気はないので、近くにあった廃車の裏に隠れる。

 

 バッタを模した機械が軽快に飛び跳ねてくる。

 片面は茶色、片面は緑色

 

「こんな俺にまだ付いてくるのか」

 

 矢車に、唯一残されたものだ。

 

 偽物の太陽の力ではなく、正真正銘地獄の力であり、己の意志を貫き通すことのできる兵器、ホッパーゼクターだ。矢車は手に収まったバッタの茶色の面をじっと見ながら、常に身に着けているベルトのバックルを開いた。

 

「……変身」

 

Henshin

Change Kickhoppar!

 

 緑色を基調とした体に赤の複眼が特徴であり、防具を身に着けたバッタの擬人化のように見える。左足にはアンカージャッキと呼ばれる特殊兵装を身に着けているが、その他に目ぼしい武器はない。

 

「俺は1人でも地獄を彷徨い続ける。

 だから相棒も地獄から見ていろ」

 

 それが、『仮面ライダーキックホッパー』だ。

 

 仮面ライダーホッパーシリーズは、2つのフォームを持ち合わせる。キックにしろ、パンチにしろ、徒手空拳で戦うことになる。必然的に、変身者の技量が必要となってくるライダーシステムである。

 

 変身時の基礎能力の底上げは凄まじいもので、一瞬にして近づいて、鋭い蹴りでマギアを地に伏せることなど容易い。その能力に振り回されることなくライダーシステムを使いこなしているということは、矢車もまた選ばれた人間なのだ。

 

『対策。完了』

 

 何体か破壊したところで、そんな機械的な音声が耳に入った。

 

 前提条件を書き換え、新たにフォーメーションを組み始める。AIだからこそできる芸当だと考え、矢車は素直に感心する。ワームや人間相手ならば、隙や癖というものは戦っているうちに見えてくるものだ。

 

 さて、十字を作るように、そのナイフを持って立ち向かってくる。援護射撃を狙っているのはスナイパーだろうか。それに、少しずつ矢車の足技に的確な反応を見せてくるようになってきている。

 

 生物としてAIと長期戦を行うことは、険しい道だ。

 だが、それでこそ地獄を味わえる。

 

「いくぜ、相棒」

 

 矢車はバックルからホッパーゼクターを引き抜き、その面を反対に変える。

 

Change Punchhoppar!

 

 緑色から、茶色に、身体の色が変化した。

 モチーフのショウリョウバッタはその色を変える。

 

「対策してみろ、俺と相棒の地獄を」

 

 矢車自身、どちらかといえば足技の方が得意とする。

 だから、切り札を惜しまず使って短期決戦とする。

 

「クロックアップ」

 

Clockup

 

 いわゆる超高速移動である。

 ヒューマギアに用いられている科学とは、別ベクトルで最先端技術が含まれたものだ。地球外生命体の技術と言ってもいいのだから、この時代の科学ではそのスピードに対応できない。

 まあ、仮面ライダーの能力として、超感覚や広範囲殲滅攻撃、まして時間停止といった、対策ができなくもない。

 

 マギアの動きがほとんど止まっているように見える。クロックアップの世界で今動いているのは『仮面ライダーキックホッパー パンチホッパーフォーム』だけだと、近似していい。

 

 その超高速移動に振り回されることなく、矢車の拳はマギアを的確に貫いていく。

 

Clockover

 

 ホッパーゼクターから発せられたその機械音とともに、超高速移動の制限時間が訪れる。ほぼ同時に、連鎖するようにマギアたちが火花を散らしてその動作を停止させる。

 

 矢車からすれば、急所のわからない機械が本当に倒せたかどうか確証は得られない。命の鼓動が尽きるように、点灯していた目のランプが消えたことで、矢車は心の中で安心を得る。

 

 ホッパーゼクターを引き抜くと、変身が解ける。

 

 両手でコートを少し整えて、その場を後にした。

 機械の残骸と遺体を残して。

 

「笑えよ……」

 

 地獄を向いたまま、天に対して呟く。

 やつ当たりの度に深い溜め息が出る。

 

 矢車は地獄の道を歩んでいるが、そのゴールが見えない。いや、ゴールがないことが地獄なのかもしれない。夢も目的もなく、今日もただ地獄を彷徨い続けるだけだ。

 

 

 静寂を好む彼の耳に、若い男の泣く声が聞こえてきた。どんな地獄見てそんな哀しみを味わっているのか気になって、矢車は声の主に近づいていく。地獄を歩む彼は、同族には傷の舐め合いをするくらい、優しいのである。

 

 

「イズ、イズ……」

 

 誰かの名前だろう。

 黒を基調として、緑の線が入ったスカーフを握りしめて、彼は懺悔し続けている。彼が懺悔している方向には、何かの機械の残骸があるだけだ。矢車はすぐに、ヒューマギアの成れの果てだと理解した。

 

 矢車は羨ましく思った。

 二度の相棒の死に対して、涙を流さなかった。

 

 冷たくなっていく身体にただ寄り添っていただけだ。

 目の前の若い男はそれさえも赦されない。

 

「あんた、は……?」

 

 (この男…瞳の奥にも闇が見える…)

 

 涙よりもっと奥だ。

 

 失ったヒューマギアによる哀しみだけではない。

 何度も哀しみを見てきた瞳だ。

 

 そして、その奥には、何度も悪意に晒され、何度も裏切りに遭い、世界に絶望しかけている心が見て取れた。復讐をしたいという怒りも芽生えている。今は復讐心だけが彼を占めているが、その復讐が終わった後、何を思うのだろうか。

 

 形見のスカーフに縋って泣き続けるのか。

 それとも、憤怒や憎悪を募らせてその先に破滅するか。

 

 この若い男の道に、矢車は興味を持った。

 その『夢』が世界の滅亡だろうとも構わない。

 

「俺が、お前の復讐を手伝ってやろう」

 

 しゃがみ込んで、若い男の両肩を持った。

 

 その優しく甘美な言葉に、小さく頷いた。

 『復讐心』と、それを拒む『正義心』とで、彼は揺れているのだ。イズならば、彼のやりたいようにと言ってくれるだろう。不破たちなら苦しみながら正義の道を歩めと言ってくれるだろう。

 

 だが、大切な人の死を、その苦しみを、彼はもうこれ以上乗り越えることはできないと確信していた。すでに父親の最期を2度も目の前で見てきたのだ。

 2度目に至っては、本来あるべき世界で彼が存在せず彼が望んだこととはいえ、自ら手にかけた。世界が修正されていく中で消えていく父親に、仮面ライダーとして強く生きろと伝えられた。

 その時に、『仮面ライダーゼロワン』がわかった。

 

(でも、もう無理だよ。父さん)

 

 強く戦い続けるには或人はまだ若くて、とにかく優しすぎたのだ。

 

 彼は悪意と裏切りによって、大切なイズを何度も失いそうになってきた。『仮面ライダーサウザー』や『アナザーゼロワン』によって、時には、それが命令だったとしても味方のはずだった『仮面ライダーバルキリー』によってまである。

 そして今日この日『仮面ライダー滅』によって、裏切られ、本当にイズを失ってしまった。

 

「俺も地獄を見てきた。俺は今もずっと地獄の道を歩んでいる」

 

 矢車は、その芽生えた復讐心を許容してくれた。

 この人にならば裏切られることはないと、或人は感じた。

 

 自分の弱さを赦してくれた。

 唯一弱さを見せることのできたイズは、もういない。

 

「俺は闇の住人だ。お前に闇を教えてやれる」

 

 飛電或人は、その手を掴んで立ち上がった。

 彼を知る者からすれば、狂気的な表情だ。

 

 復讐をするには、或人は優しすぎた。そして、成功するか失敗するかによらず、復讐心が消え去った先に、彼はどんな地獄を歩んでいくのか、矢車は見てみたくなった。

 

 蘇ることのない命を忘れることなどできず、矢車や或人は傷を抱えたまま生きていくのだろう。今日もまた、矢車は誰かと傷の舐め合いをする。矢車もまた、相棒の二度の死を乗り越えることはできてはいない。

 

「俺と一緒に、地獄に堕ちよう」

「……これが地獄なんだな」

 

 或人は、ボロボロのイズのスカーフを腕に巻いた。

 復讐が終わるまで、もう彼は光を求めないだろう。

 

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