仮面ライダーゼロワン&仮面ライダーキックホッパー   作:地獄社長

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第2話 地獄の下で暗躍する悪意

 目の前に広がる公園の敷地では、女の子がフリスビーを投げている。それを一匹の犬が咥えて、ちゃんと女の子の元に戻る。そして、笑顔で犬の頭を撫でて褒める。その側には彼女の両親が微笑ましい表情を浮かべている。

そこには眩しいくらいの主従関係があり、そして親子の『普通』があり、或人は胸の奥から複雑な感情が芽生えてくることを感じた。

 

 安堵と嫉妬が入り混じった複雑な感情だ。

 この感情は人間だからこそ、わかる。

 

「平和だな、と……」

 

 そう呟いた或人の見た目は、以前とは異なっていた。

 季節が夏に近づいたこともあるのか、赤いパーカーの上に羽織っていたジャケットは脱いでいる。最も大きな変化は社会人として身に着けるべき腕時計をしていないことだろう。

 

 一企業の社長として、恥ずかしくはない高級な腕時計だった。

 

「気になるのか?」

 

 キャンプ用の簡易ガスコンロでお湯を沸かしていた矢車が、或人の視界を塞ぐように対面に座り込んだ。彼はその両手それぞれに持ったカップラーメン、古びた木のテーブルに置いた。

 

『兄貴塩』と『弟味噌』

 

 それぞれ蓋に大きく書かれたカップラーメンのうち、或人は味噌ラーメンを選んで受け取る。

 

「まだまだだな、相棒

 光を求めるな    」

 

「……ああ、分かってるさ、兄貴」

 

 矢車と或人は、カップラーメンの蓋を開けた。

 或人は、地獄をラーニングしている。

 

 ここ数日間、或人は矢車と行動を共にしていた。社長と社長秘書の不在により、彼が社長を務める飛電インテリジェンスにどのような影響があるかと心配もあったが、そこは福添副社長とその秘書が上手くやっているらしい。

 

 いや、そもそも、祖父から社長に任命されたとはいえ、或人はただ夢を追いかける若者だった。しかも前職がお笑い芸人である。祖父が築いてきた飛電インテリジェンスは、ZAIAの代表取締役社長であった天津垓による買収にも適切に対応していた。最大の商品である『ヒューマギアの派遣』を天津垓によって否定されたが、苦渋を飲みながら最大限穏便に済ませるように、彼ら彼女らは自主回収という手を取ってくれた。

 

 やさぐれている或人は、どうせ自分は『先代社長の孫』で『仮面ライダー』という広告塔だったのではないかと、疑心暗鬼している。同時に、『飛電』の名の重みが消えて、身体と心が軽いと感じていた。

 

「あれも、ヒューマギアなのか?」

「うん、そうだよ。家政婦のヒューマギアだと思う」

 

 目の前にいる家族の中で矢車が興味を向けたのは、特徴的なヘッドフォンを身に着けている女性だ。人間かヒューマギアかを見分けるための指標にもなる。人工知能AIに関する『文化』に乏しい矢車だが、人間とヒューマギアの共存が日常的になっているのだろう。

 

 やさぐれているが、博識で天才肌の矢車は、この世界についてラーニングしていた。

 

「兄貴は、どう思う?」

「……別に、あいつらの勝手だろう。俺の管轄外だ」

 

 その表情を隠すように、カップ麺の汁まで飲み尽くす矢車に、或人は久しぶりに少し笑顔を見せた。

 ヒューマギアが社会進出し始めて、彼ら彼女らを個人として扱う人は多くなっている。或人自身、2人目の父親に、そしてイズに、特に大切な個人として接してきた。その関係性に、家族のような愛情が芽生えるほどだ。

 

 ヒューマギアが、シンギュラリティに達する。

 それが良いことか悪いことかは、いまだ世界各国で論議されている。目の前で笑顔でいる家族のように本物の愛情を育んでいる人もいるし、そこまではいかずとも、建設業者や消防士の間ではパートナーとして扱ってくれる人もいる。

 

「こいつらもまた飛電に?」

「ああ。地獄を彷徨うこともできない、だろ?」

 

 電源の消えたヒューマギアは、全く動くことができない。

 それが充電不足なのか、壊されたからなのか、一つ言えることは『悪意』に曝されたということだ。天津垓によるイメージ戦略、滅亡迅雷.netによるテロ活動、衛星アークの暴走、衛星ゼアの破壊、そういった事件が立て続けに起きていることもあり、ヒューマギアの立場は非常に悪くなっていた。

 

「助けた先は、知らず存ぜぬみたいだがな」

「ああ。それでも、これ以上地獄に堕ちるやつは見たくない」

 

 廃棄されたヒューマギアの回収、そして受け渡し。

 それが飛電或人の『贖罪』だ。

 

 祖父の開発したヒューマギアを窮地に追いやったのは、孫である或人だった。社長としての責任はもう感じないが、大した能力もなく青臭い夢で皆を振り回したことによる責任に押しつぶされそうになっていた。

 

 夢のためにイズが犠牲になったことを、何よりも後悔していた。だからもう、夢は抱かない。

 

「地獄に堕ちるやつが増えても、それは地獄とは言えない、か」

 

 地獄の日々とは、孤独であり後悔である。

 だが矢車自身、地獄が何かとは断定できず、強いて言うならば『今』である。今この瞬間、或人も地獄を味わっており、生きて動いているヒューマギアと接することを避けている。

 

 人工知能なら復元できるのではないかと、矢車は一度尋ねたことがある。それに対する或人の答えは沈黙であった。ゼロワンシステムに関する情報を担っていたイズは、その秘匿性から、バックアップできないようになっている。それに、イズの魂と呼べるメモリすら滅によって破壊されてしまった。

 

 たとえ、また社長秘書型ヒューマギアを生み出したとしても、その思い出と記憶と夢をラーニングさせたとしても、イズにはなれない。これは、あくまで創作物だったが、魔法少女リリカルなのはでは、記憶と人格を植え付けられた少女は、決して本物にはなれなかった。

 

「こいつらには、メモリは残っているのか?」

「そう。だから、またゼロからやり直すことができる。もう悪意はラーニングしちゃっただろうけど、それでもだよ」

 

 もちろん、社長秘書型ヒューマギア個人に愛情を向けることは、優しい或人にできるだろう。だが、イズの面影を見てしまい、いつしか、イズではないことで、その個人の存在を否定してしまうかもしれない。そして、また大切な人を失ってしまうかもしれない。

 

 地獄の生活を過ごして、少し落ち着くことのできた或人の心中には『恐怖』が芽生えていた。心的外傷後ストレス障害PTSDと言ってもいいかもしれない。青臭い夢も、その犠牲にさせてしまったイズも、誰かを笑顔にするためのギャグも、仮面ライダーとしての強さも、もう或人には残っていなかった。

 

 そして、復讐するべき滅が人類滅亡に動くのを、まだかまだかと待っている。

 

「そろそろいくぞ、相棒」

「ああ」

 

 矢車は優しい声色で、立ち上がらせてくれる。

 

 もちろん、数少ない知り合いである福添副社長や不破たちは、或人を怒鳴るように説得し、強く立ち上がらせようとした。だが、今の或人は、彼らの期待に応えて強く生きられそうになかった。

 

「ありがとう。こんな俺に付いてきてくれて」

「兄として、当然だ」

 

 或人は今日も下を向いて、動かないヒューマギアを乗せたリアカーを引っ張る。その隣には荷物を持った矢車がいてくれる。

 

 

 

 件のイズと全く同じ容姿をした女性がいる。

 衛星アークの秘書は、アズと名付けられた。

 

 彼女の名付け親であり、生みの親でもあるアーク様は、それが計画の内だったとしても、一度滅ぼされた。乗っ取ったはずの衛星ゼアが、再び或人に力を貸して、『仮面ライダーゼロツー』は『仮面ライダーアークゼロ』に圧勝した。

 

「気に入らない」

 

 ふつふつとこみ上げるものは、怒りや憎悪である。だが、アズには自分の感情がわからず、不快であり、エラーを吐き続ける。なんでもラーニングさせてくれるアーク様も今は何も答えてくれない。

 

 容姿だけではなく、彼女の人格はイズを参考にしている。『社長に尽くす』という人格は、衛星アークにとって最も都合のいい手駒であった。滅亡迅雷.netのように、自我が芽生えて己に反旗を翻すことはない。

 もちろん、決してイズと同じではないし、イズにはなれない。

 

「予測通り、イズか迅のどちらかが破壊された

 ……でもアーク様が蘇らない」

 

 彼女は長い髪をクルクルと指で弄ぶ。

 女性は暇を弄ぶ仕草だと、ラーニングしている。

 

「迅を破壊すれば、蘇るかもしれないけれど」

 

 今のアズには圧倒的に戦力が足りない。

 

 滅亡迅雷.netのメンバーはそれぞれがシンギュラリティに達して、自分勝手に行動している。滅は人類滅亡のために、亡はヒューマギアの夢を守るために、迅はアーク復活を阻止するために、雷は弟と一緒に新たな衛星を打ち上げるために。

 

 全員の目的が、アーク様復活のためではない。

 

「みんなして、気に入らない」

 

 まるで口癖のようになっているが、それは人間が不快感を表す時に発する言葉だと、ラーニングしている。アズをラーニングしてくれた存在が人工知能だったこともあり、いわば不完全な感情のラーニングをしてしまっていた。

 

「それに、飛電或人はどこ?」

 

 アーク様が目をつけた『人類代表』であり、アーク様の手駒となりうる存在の1人だった。その彼は知らず知らずのうちに悪意をラーニングしており、愛するイズの破壊を持ってして、悪意に呑まれるはずだった。

 それが前提に基づいて、予測していたこと。

 

「なにか、非科学的なイレギュラーが?」

 

 アーク様でも予測できなかったことが起きた。

 アズにとって、それは非常に不快なことである。

 

「アーク様が蘇らないなんて、そんなの嫌だ」

 

「いいや、アークは蘇るさ」

 

 衛星ゼアをも超えた人工知能を持つ衛星アークが、その筋書きを1つにしているはずなどない。こうして1人の仮面ライダーが、人類とヒューマギアを滅ぼし衛星アークが世界を統べるために立ち上がった。

 

「おかえり、アーク様」

 

 生まれたばかりの子どものような笑顔を浮かべて、アズは主の帰還を祝った。

 

「お前らを滅ぼすことのできるのはただ1人、俺だ」

 

 自分だけが嗤える世界を創るために。

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