ある日気が付いた時に、私は周りの人間と違うことに気がついた。例えば、大人数人で抱えるような岩を私は一人で簡単に持ち上げる事ができる。例えば、他の人達がほとんど1日3食の量を食べるのに対し私はその数倍以上の量を食べる。おかしい、どう考えても普通では無い……明らかに不平等だ。何故このようなことになってるのか答えが出ない。だがある日、その悩みに対して母が答えを出した。
「″ミオスタチン関連筋肉肥大化″ね。要は、貴女は普通の人と違って常に筋肉が発達する体質なのよ。それも生まれつき、ね……何が原因かは不明だけど。」
母の答えに対し、私は理解したし納得もした。どうやら私は、普通の人間よりも筋肉が発達しやすい体質らしい。だが、何が原因でそのような異常が発生したのは不明なようだが。だが、いずれにしても……
「私は……不平等な人間だ。」
私が普通の人間とは違うことは確定した、これはどう言い逃れもできない事実だ。
ああ、まるで私は″巨人″だ。手を握ればその手を破壊してしまうし、常人よりも多くのモノを多く食らい続ける。そして他者と触れ合おうとすれば、どうあっても傷付けてしまうだろう。こんな存在はどうあっても不平等を生み出し、存在するだけで害を周りに撒き散らしてしまう。こんな私を、どうやって正せばいいのだろう。
「そうだ、自殺すれば良いんだ。」
そうすれば私という歪みは排除される、ならばそれを今すぐ実行するしかないだろう。そう決断し、キッチンからナイフを取り出した。そしてそのまま比較的肉厚の柔らかい喉元へと突き刺そうとした、その時だった。
「何をしてるんだクリームヒルトッ!」
父が怒声をあげながら飛び出し、私の手に持ったナイフを弾き飛ばした。ああ、なんて事を……あともう少しで真なる平等が実現したというのに。
「君は……今なにをしようとしたのか分かってるのか?」
「自殺。」
「そうだ、自殺はいけない事だ。君が君を殺すなんて、もっての外だろうッ!」
「そんなことはない。私は歪んだ人間……1秒でも早く死ななければ、この歪みは正されない。」
「君は、何を言って……」
そう答え続ける私に、父は顔を青ざめながら困惑の表情をしていた。何故困惑するか分からないが、どうやら私は父を困らせてしまったようだ。歪んだ私を正すだけの作業なのに、何故動揺してるのだろうか?
そう考えていると、母が現れた。
「クリームヒルト、貴女自殺しようとしたのね?」
「だって私は普通の人間じゃない……歪んだ人間だからこれは正さないと。」
「ふざけてるんじゃないわよ。」
私の答えに対して母はそう即答して切り捨てた。そして明確な拒絶の表情、とにかく私の答えが気に食わないらしい。
「馬鹿ね、屑ね。そんな思想は弱者のすることよ。よく覚えておきなさい、クリームヒルト。どのような世界でも原則として弱肉強食、今を生き抜こうとしない軟弱者が自殺した程度で報われる保証も理屈もどこにもない。弱者はどこまでも不遇で、淘汰される運命なのよ。私はお前をそんな塵屑のような弱者にするために生んだんじゃないわよ。」
「……だけど、歪んでしまった私は何のために生きているのか分からない.....なら、私はどうすれば?」
私がそう答えると、母は笑みを浮かべながら言葉を返した。その笑みは見た感じ純粋さはあるものの、どこか陰りがあるようにも見えたと記憶している。
「安心なさいクリームヒルト。私が貴女を完全なる存在へと導いてあげる。だから、貴女は私のために生き続けなさい。それが、貴女の存在意義となるのよ。」
「……存在、意義。」
存在意義、その意味について深く考えるようなことなんてなかった。誰かの役に立つ.……そういうことを続けていけば、そのうち私が生きる意味を見出せるのだろうか。
そんな疑問を抱いた私は、まずは母の言う事を徹底して遵守し続けようと決意したのだった。その先に、私の納得できる答えが見つかると、そう信じて……
「……と……ちょ……ちょっと!クリームヒルト、どうかしたの?」
「……すみません、寝てしまってたようです。」
クリームヒルトが目を覚ますと、目の前には霊夢の頭が見えた。どうやら彼女が幼いクリームヒルトを背中で背負いながら歩いているようだ。彼女達は街の方へと向かって歩いている。
「全く、急に暴れた後に倒れたのだもの……驚いたわ。ま、腹の虫が鳴ってたからただの空腹なんだろうけどね。」
「街に着いたらまずはご飯食べようか、私もお腹空いてきちゃったし。」
「……そうですね、お願いします。」
クリームヒルトは細々としながらもそう答えた。彼女にとって空腹は非常に致命傷であり、体を満足に動かすことのできない状態となる。そのことを知ってる二人は、彼女の腹を満たすために食事処を探すために街へ向かっているのだった。そうしてしばらく歩き続けていた時だった。
「ああ、ようやく見つけました。」
「……ッ!」
「あら、咲夜じゃない。」
突如3人の目の前に、紅魔館のメイド長十六夜咲夜が現れた。彼女の『能力』を把握している朱音と霊夢はともかく、全く知らないクリームヒルトは鋭い目線となった。常識から逸脱した奇異な能力、それを目の当たりにして警戒を強めたのだろう。その視線に気付いた咲夜は背負っている見慣れない少女に気がついた。
「霊夢、その子は?」
「ああ、クリームヒルトよ。理由は不明だけど、こんな姿になってるのよ。」
「……なるほど、お察しいたしました。」
「ところでその様子だと、私達のことを探してたのかしら?」
「ええ、お嬢様にそう命じられたので。着いてきなさい、良い食事処見つけたから。」
「あら、それは奇遇ね。私達もそういうところを探してたのよ、助かるわ。」
そう言って霊夢達は咲夜を先頭にして、彼女の後をついていった。そうして街中へと入ったが、不思議なことに街の中には彼女達以外誰も居ない……霊夢と朱音はそれを不気味に感じた。
「……何よこれ、誰も居ないじゃない。」
「けど、とこどころ明かりはついてるね。何でだろう……」
「その事についてもパチュリー様が話すわ。さあ、こっちよ。」
咲夜はそう言いながらとある建物の戸を開けた。よく見ると入り口付近に看板があり、そこには『生蕎麦真奈瀬』と書かれていた。
「戻りました、お嬢様。」
「おかえり咲夜、ちゃんと霊夢達も連れてきたわね。」
「アンタ達、ここにいたのね。」
中は至って普通の蕎麦屋の作りをしており、レミリア達はカウンターの方に座っていた。封結晶に吸い込まれた紅魔館のメンバー全員が揃っている。
「まあね、正確にはあの封結晶に吸い込まれた後、私達全員この街の真ん中に放り込まれたのよ。その時でもこの通り、この街の住民は誰一人としていないわ。」
「……なるほど、既に私達の知らない異変がこの街で始まっていたと見ていいわね。」
霊夢は思わずため息をついた。つまり異変をあらかじめ防ぐということはまず不可能になり、面倒な事態になったと思わずにいられないのだろう。そして次にパチュリーが自身の考察を述べ始める。
「とまあ、現状はそんな感じよ。そして私達以外の人間は一切見られないけど、恐らく姿を眩ませたのは、ほぼ最近だと思われるわ。それも自然現象とかじゃなくて、人の手によってね……」
「人の手によって……何か根拠はあるの?もしそうだとしたら、邪魔だと思ったから消したとか考えられそうだけど。」
霊夢がそう考えを述べると、レミリアを始めとした他のメンバーを同乗するように頷いた。だがパチュリーは否と首を横に振る。
「確かに一見そうと考えられるかもしれないけど、それなら街ごと消した方が手っ取り早いわ。けど消さなかったということは、この街を使って何かを計画してるといったところかしら。」
「街そのものをか……けど、そうだとしても何で住民を消す必要があったのよ。わざわざ消さなくても、洗脳して無理矢理従わせるのだってアリじゃないの?黒幕にそこまでの力があるか、まだ分からないけど。」
「そうね、これもまた確証があるわけじゃないけど……他に考えられるとしたら『証拠隠滅』といったところかしら。」
「証拠隠滅……何か私達に知られたらまずい事があるということ?」
「ええ、私がその考えに至った最大の理由はそこにいるクリームヒルトよ。」
全員の視線がクリームヒルトの方へと集まった。それに対してクリームヒルトは、よく分からずただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
「小さくなったクリームヒルトが証拠隠滅と繋がるの?」
「ええ、まず意図的にこの姿に変えられたといえるわ。そして記憶や身体も子どもに戻ったとするなら、大人の頃の記憶も今の時点では覚えてないはずよ。逆にいうのならば、彼女が大人のままだと、黒幕にとって都合の悪い記憶が覚えられてるから、それを引き出されてしまうリスクがあったのだと考えられるわ。」
「……なるほど、確かに隠す手段としてはアリかもしれないわね。しかしよくここまで考えられたわね。」
霊夢は思わず感嘆の声を上げる。それに対してパチュリーは薄く微笑みながら言葉を返した。
「まあ、あくまで私の推測よ。真実はもしかしたら違ってるのかもしれない。」
「けど、それでも何もないより遥かにマシよ。推測があれば、行動の指針も少しは固まるでしょうし。」
「……そういってくれると助かるわ。それで、今後はどんな感じで行動しましょうか?」
「そうね、ひとまず食事を済ませましょう。腹が減っては戦はできぬっていうし。」
「そうね、そろそろ食べましょうか。咲夜、調理頼むわ。」
「かしこまりました、お嬢様。お店の物を幾らか使わせてもらいますね。」
この後、咲夜が時間を止めて蕎麦を作り上げ、霊夢達はそれを食べて食事を済ませたのだった。