……はい、こちらの更新を遅れてすみませんでした。ストーリーの推敲を積み重ねていくうちに、あれやこれやと詰め込んでしまいました。ひとまず、第十四話をどうぞお楽しみください。
生蕎麦真奈瀬から出た霊夢達は、早速異変の調査へと取り掛かろうとした。だがその前に、パチュリーが静止の声を上げる。
「ちょっと待って、全員で闇雲に調査したところで非効率だわ。ここはポイントを絞って調査しましょう。」
「その方がいいのでしょうけど、どんな感じに振り分けるの?」
「大丈夫、あらかじめ地図を作っておいたわ。それにポイントを記してるから、どこに行くかこれを見ながら決めていきましょう。」
そう言いながらパチュリーは地図を全員へと渡した。それには赤丸がそれぞれ記されており、鶴岡八幡宮、千信館學園、高徳院、辰宮邸、相模湾岸が丸に囲まれてた。
「大まかに調べた感じだけど、赤丸に囲まれてる箇所が特に霊力を強く感じたわ。放っておくと何が起こるか分からないから、まずはそこから潰していきましょう。」
「流石パチェ、頼りになるわ。さて、あとはそのポイントへ誰が行くかってところね……」
そう言いながらレミリアはじっと地図を見つめ、そして周りのメンバーを一度見渡す。それを見た霊夢が一言声を上げた。
「そうね、それなら私は八幡宮とやらに行こうかしら。なんとなーく気になるのよね。」
「そう、なら霊夢は決まりね。」
「では、私はお嬢様に同行を……」
「あら、それはダメよ。」
霊夢の行き先が決まり、次に咲夜がレミリアと同行しようとするとレミリアが静止の声を上げる。その返答に咲夜は少し驚いた顔をする。
「どうしてです、お嬢様。私は護衛役として……」
「それはダメ、折角都会に来たんですもの、1人であちこち見て回りたいわ。それにまだ夜なんだから陽の光も無いしね。」
レミリアはそう言いながら、頭上の月をチラッと見上げた。その様子を見て、咲夜は呆れつつも了承した。
「……はぁ、わかりました。ではどうぞお好きに。私は美鈴と共にこちらに向かいます。」
「えぇ、何故私!?」
そして咲夜はさりげなく美鈴を巻き込みつつ辰宮邸を指さす。不意に巻き込まれて美鈴は驚きの声を上げた。それに対して咲夜は笑顔を浮かべながら返答する。
「貴女のことだから、サボらないようにしっかり見張ろうと思ってね。」
「そ、そんな……信用ないなぁ。まあでも、正直助かります。何せ未知の場所ですからねぇ、何が起こるか分からないからバディが欲しいと思っていたところですから。咲夜さんが居るなら、百人力です!」
「……そう、その意気込みだけは買ってあげるわ。」
美鈴の言葉を聞き、咲夜は少し照れ臭そうな表情を浮かべながらそう言った。
そして次に、パチュリーが海岸を指さす。
「それじゃ、私はフランと一緒に海岸を回ろうかしら。」
「えー、私もお姉さまみたいに1人で街中を回りたーい。」
「それだと喧嘩しちゃうでしょう……大きな砂の城、一緒に作ってあげるから。」
「……うん、それなら良いかな。大きなお城作って壊しちゃおー!」
「良し、これで決まりね。」
最初は不満そうな態度をしてたものの、最終的にフランはパチュリーの提案に同意した。そして残るは2つのポイントとなり、レミリアが言い放つ。
「それじゃあ、私は高徳院に行くとするわ。あまった學園の方は、クリームヒルトと朱音、貴女達が向かいなさい。」
「……了解しました。」
「う、うん……別に良いけど、レミリア1人で本当に大丈夫なの?」
レミリアの提案に対して、クリームヒルトと朱音は頷いた。しかし朱音はどうにも不安でそう聞いたが、レミリアは不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。
「そこまで心配しなくても大丈夫よ、さっきも言ったけど1人で回りたい気分だから。特にそこは、この目でしっかりと見ておきたいと何となく思ったのよね。」
「そう……そこまで言うなら仕方ないね。」
「なら決まりね。それじゃ、それじゃあ改めて、八幡宮には霊夢が、學園にはクリームヒルトと朱音、高徳院には私が、辰宮邸には咲夜と美鈴、そして海岸にはパチェとフラン、この振り分けで行くわよ。各々、決めたポイントに向かってしっかり調査を進めるように。ああ、あと一つ忘れていたわ。」
「?」
全員が不思議に思ってる中、レミリアは一度眼を閉じ、そしてもう一度見開き、真剣な眼差しで言い放った。
「紅魔館の主として、この場の全員に指令を出すわ。全員『必ず生きて元の幻想郷に戻る』こと!以上、解散!」
先程の会議を終え、私はアカネと共に千信館學園という場所へと向かった。
「……なるほど、私はそのような力を持っているのですね。」
「うん、霊夢から聞いた話だけどね。」
(と言うことにしておかないと、混乱招きそうだからこう言っておこう)
「貴女の話を聞いた上で結論つけると、もしかしたら私は一種の記憶喪失なのかもしれませんね。」
(思い返してみれば、今のヘルさんって私と似た状況なんだ。)
「確かに、そうかも……けど、きっとこれから思い出せるよ。
「……そうですね、希望的観測かもしれませんがそう考えておきましょう。」
学校とやらに向かう間に、私はアカネから私が保有している能力について詳しく聞いた。曰く、夢を現実へ齎す能力だとか。それを把握したことで、戟法や楯法などその能力の概要も思い出してきた。だが、その記憶がどこからか湧いてきたのかはまだ、わからなかった。少なくとも過去に両親や顔見知りの誰かから聞いた覚えはない。
そう考えてると、アカネが別の話題を口にした。
「しかしレミリアの指令もなんか不思議だったよね……『全員生きて元の幻想郷に帰ること』ってさ。」
「それほど彼女が今回の異変が危険だと予測したと考えるべきでしょう。」
「そうかもしれないね……それに、やっぱみんなで笑顔で帰りたいしね。」
「……笑顔で、ですか。生還することよりも、それを優先すると?」
「ううん、どっちもだよ。どっちも大事だから両方取りたい。」
「……そうですか。まあ、私も食事を奢ってもらった恩もあります。彼女の指令も遵守するとしましょう。その為にも、貴女を守ります。」
「うん、ありがとう。私もクリームちゃんを守れるよう頑張るよ……あ、学校に着いたみたい。」
「ここですか……」
目の前には学校の門らしきものがあった私はアカネを抱えて門を飛び越えて中に入った。するとそこには、綺麗な白く綺麗な校舎があった。どうやらここは日本の学校施設らしく、私の故郷の学校と比べるとクオリティがとても違う。校舎内に入り中を進んでいく。
「……これが、日本の学校施設ですか。」
「うん、そうみたいだね。綺麗な机や黒板があるね。だけど夜だからなんか不気味さを感じるけど……」
私の投げかけた言葉にアカネはそう言いながら頷いた。もしも叶うのならば、私もこのような環境で様々な事を学んでみたいと、興味が湧いてきた。その時、ふとある疑問が思いついた。
「そういえばアカネは、学校に行ったことはあるのですか?」
「え、いや私は……」
私の問いかけに、アカネは戸惑いの表情を浮かべる。どうやら彼女自身、そのような疑問自体考えたことがなかったのかもしれない。ならば、私が更に深掘りしてみるのもいいのかもしれない、そう思った時だった。
「ふーん、学校に興味があるのか。それは一教師として嬉しいねぇ。」
「ッ!」
不意に何処からか、そのような声が聞こえた。声の聞こえた方へと向くと、一人の女性が私達のいる教室へと入ってきた。
「ま、実際のところそんなに学校てのはあんまりいいところじゃねえけどな。」
「あ、貴女は誰?」
教室に入ってきた女性は、目算20代くらいの女性だった。髪は茶色で、日本の軍服を着ていた。そして顔に浮かべた表情はどこか享楽的で狂気的な笑みが孕んでいる。
「誰って聞かれてそう簡単に答えたくないけど、一応教えておくか。私の名前は芦角花恵、これから長い付き合いになると思うが宜しく頼むわ。」
「は、はあ......芦角さんですか。付き合いが長くなるってそれはどういう......」
「あん?そりゃ決まっているだろ。こうするためだよ!」
「え?きゃっ!?」
「アカネ!」
アカネの問いかけに対して、アシズミという女性は剣を抜くと同時にアカネの体を掴んで自身の胸元へと引き寄せた。加えてアカネの持つ手帳まで取り上げられた。明らかに人質の体勢だ。
不覚、アカネを人質に取られるとは完全に私の落ち度だ。
「悪いな、私の召喚主がこれを所望でな。アンタらをここで始末させてもらうよ。」
「は、離して!」
「安心しろ、お前をこの剣で刺すことはねぇよ。そもそも人質なんてほとんど意味ないしな。」
「……何?」
「ど、どういうこと?」
実際、彼女の握ってる剣先がアカネに向けられていない。どう言うことだと、私とアカネがそう疑問を思い浮かべていると、アシズミの背後から無数の蛇がはい出てきた。そして教室全体が異様な空気に包まれていった。何かが変わった。これは邯鄲の夢によって現実が侵食されている。それもアシズミの意思によって、それを瞬時に理解したがあまりに遅かった。もう少し早く気づいていれば朱音を人質に取られることはなかった。
「それに、召喚主ですって?貴女一体何を言って……」
「生憎だけどそれは言えないね、知りたかった私を倒しな。ま、倒されても答えねえがな、ひゃはははは!」
アシズミがそう言いながら高笑いを上げると、至る所からズルズルと蛇が現れてきた。明確な殺意が私へと向けられているのが理解できる。
「つまり、どうあっても私達を始末するつもりですか。」
「残念ながらそういうこと。いやぁ、先生はこう見えても悲しんでるんだよ?若い芽を潰すのは心苦しいってなぁッ!」
アシズミはそう叫びつつ手に握った軍刀の剣先を私に向けた。それと同時に無数の蛇が私に向かって牙を剥く。
「ッ!」
すかさず私は飛び上がり、窓枠の方へと足をつけた。地面にいる限り数の暴力で制圧してくる蛇の方が圧倒的に有利。であれば空中から司令塔と思われるアシズミを攻めた方が最善だろう。だが、アシズミから私に向かって攻撃する様子が一切見られない。そこを疑問に感じる。だが、悩んでいる時間はない。
「どうやって蛇を操作しているか知りませんが、考えてる余裕はありませんからね……ッ!」
「ふーん、なるほどそう攻めてくるか。良いぜ、こいよ。」
(この人なんで余裕なの?今から攻撃されようとしているのに、避けようとする様子すらない。)
更にアシズミは私の攻撃を察知したようだが、一切防御や回避を実行する様子がない。まるで誘われてるかのように見えるが、かと言って攻撃をしないことには事態は変わらない。よって私は飛び上がり、宙を蹴ってアシズミの顔面に向かって渾身の力を込めた拳を叩き込んだ。
「ッ!」
「えっ?」
しかし次の瞬間、私の背後から何かが砕け散る音が聞こえた。音のした場所を見ると、そこには血飛沫をあげて潰れた蛇の死体があった。逆にアシズミには血の一滴すら発することなく、至って無傷だった。
その意味不明な光景に私とアカネは解せない表情を浮かべる。その一方でアシズミはゲラゲラと笑いながら言い放つ。
「おーおー、まるで落石に潰されたかのようにペシャンコだ。アレを無防備に食らってたらヤバかったなー。」
「な、何が起こってるの一体……」
「んー?おいおい、直ぐに思考停止して他人に答えを求めるのは良くないぞ。最近の若いのはそういうところあるよなー。答えが出るまで繰り返す、トライアンドエラーが重要なんだよ。あ、でもお前は今人質だから実戦しようがないわな!あははははは!」
まるで他人事のように言葉を放つアシズミ、そしてその姿を見てアカネの顔が恐怖で白く染まっていく。さて、事態が好転していない以上何か行動が必要なわけだが……
「……まあ、確かに彼女の言うことも道理ではありますね。」
「お、良いね挑戦しようとするその姿勢。若い子はそうでないとなぁ。」
「どの道、試さない限り何もわかりません、からね……ッ!」
そう言いながら私は背後から迫ってきた蛇の牙を回避し、すかさず蛇の腹部に向かって蹴撃を叩き込んだ。
すると今度は足元から迫ってきた蛇が、先程の倍近い爆発音を炸裂しながら肉体が四散した。なるほど、ようやくこの仕組みが理解できた。
「はははは、容赦ないねぇお嬢ちゃん!しかもその様子だと、ようやく答えを得たってところかね?」
「ええ……ようやく理解できましたよ。これは貴女の能力によるもの、この教室内にいる誰かに攻撃を肩代わりさせる、というものですね。」
「ビンゴ、概ね正解。だいたい90点ってところかね。」
「え、何それ……そんなの勝負ですらないじゃん。」
私の出した答えに対して、アシズミは拍手しながらそう答えた。なんとも理不尽な能力に私たちは巻き込まれたものだ、アカネの感想に同意したくなる。そしてこの様子だと、さらにカラクリはあるようだ。
「そして残りの10点は、肩代わりされた回数分だけ、攻撃力も倍化される。んで、また肩代わりされた奴はそれまた倍に加算されるってところだな。実際のところ、私もお前達も運が良かったんだぜ?もしも当たり引いてたら、今頃こんな風におしゃべりできてなかったろうしな。」
「……っ!」
アシズミの答えを聞いて更にアカネが恐怖に震え上がる。確かに今まで攻撃の肩代わりをくらってない私達は運がいい方かもしれない。だが同時に、安易に攻撃できない事態になっている。もしも攻撃がアカネか私が肩代わりしてしまったら、即死してもおかしくない。
なるほど、先程人質として機能してないとはそういうことか……剣でアカネを傷つけたところで、運悪く自分に跳ね返る可能性があったわけだ。しかし、私からしたらアカネが巻き込まれてる時点で最悪に違いないが。
「……だけどこの空間全員ということは、貴女自身も対象だと思えるのですが?」
「あん?そりゃそうだろ。自分自身も巻き込んでこそ、ギャンブルの醍醐味ってもんだろ。」
「く、狂ってる……」
「それはまた……享楽的ですねどこまでも。」
「ま、というわけで頑張りな若人。どの道私を倒せないことには、お前達
そう叫ぶと同時に、この教室内が更に彼女の悪夢へと沈んでいく。深く深く、悪夢の深淵へと堕ちていく。
「見し夢を獏の餌食と成すからに、心も晴れし曙の空」
アシズミが詠唱を謳いあげる。この夢は、咒法の散と解法の崩の組み合わせによるものだと瞬時に理解した。
「破段-顕象、
彼女の破段開放と同時に、アシズミの背後に蜘蛛の巣のような結界が展開される。それはまるで、この場の全員を蜘蛛の巣で雁字搦めにしてるかのように。
「おらおら、逃げてばかりじゃ何も進展しねぇぞオラァッ!」
「クリームちゃん逃げて!」
「逃げろと言われましてもね……」
足元から迫る蛇の牙を、私はひたすらに回避していた。下手に攻撃をやったり受けたりしたら自分やアカネに跳ね返るかもしれない。そしたら一瞬の終わりだ。レミリアの指示を守れなくなってしまう。かといってこの場を離脱したら、おそらく能力を解除して朱音を殺すことは明らかだ。よって、ここで私が離脱することは論外だ。
「だから、私単独でアシズミを倒すしかない。」
だがその為には何をするべきか。彼女の背後に展開している蜘蛛の巣の結界、あれがこの能力の核となっていることはわかるが、その前にアシズミが陣取って指一本触れることすらままならない。よってこの答えも最適解とは思えない。ならば結局……
「……一か八か、やるしかない。」
「お、また来るか?良いぜ何度でも受けて立つぜ。」
結局のところ、これに帰結する。殴って『運良くアシズミ本人に当たりを引かせる』これにたどり着くまで何度も繰り返すしかないのだ。無論、最悪アカネが当たりを引く可能性もあるが、それを警戒して手を出さないのは本末転倒だ。ならばこそ、まずはやらなければ意味がない。
そう決断して私はもう一度跳躍し、蛇の軍団を飛び越えてアシズミへと拳を叩き込む。
「ッ!」
「……どうだ?」
私の拳がアシズミの頬肉へと直撃したが、彼女に損傷の様子は無し。また別の蛇が肩代わりしたのかと、そう思った次の瞬間、私の身体中から鈍い音が聞こえた。
「えっ………ガァッ!」
「クリームちゃんッ!」
「はははははは!ひゃははははははー!良かったなお嬢ちゃん、大当たりだぜ!」
結果、ダメージの肩代わりしたのは私自身だった。全身に過去最大級の激痛が走り、左の視線が急に暗転する。そして右の視界が、血に染まる中、黒板の下あたりに球状のナニカが転がってるのが見えた。それが何か考える余裕もなく、身体中の皮膚が大きく裂け、内臓もいくつか破裂し、毛細血管が引き裂かれる音が脳内で響き渡る。そして鼓膜が破裂して、外からの音が一切聞こえなくなった。
(ああ、これは……ダメだな。)
どうにか脚を踏ん張ろうとするも、そのためのエネルギーすら無くなった。脚が崩れ、私は地面へと倒れていく。その途中でアカネが何か叫んでいるようだが、鼓膜の破れた私には何も聞こえない。
「クリームちゃん!起きて、お願いだから起きてよぉッ!」
「あーあ、喚くなよ煩いなぁ。どう見ても致命傷だろ?もうすぐ死ぬから諦めろよ。仮に生きてても、蛇共に食われて終わりだっての。」
朱音が泣き叫びながらクリームヒルトを呼びかけるも、彼女は依然血の海の中に沈んでいる。その様子を花恵は鬱陶しそうに見ていた。実際、床に伏せているクリームヒルトの周りに蛇が集まってきていた。牙を立て、彼女の肉体を咀嚼しようとしている。
「しっかし思った以上に呆気ないなぁ、弱体化してるとはいえ本当に盧生かよ?私程度に負けるようなら、この先に未来はないぜ?」
「……どう言うこと?そういえば貴女、さっき召喚主とか言ってたけど、その人がクリームちゃんが小さくなった事と関係あるの?」
「ん?あー、そうだな……どの道お前死ぬし冥土の土産程度に教えてあげようか。」
(……なに?外の窓に目を向けてる。あれは、月?)
ふと花恵は窓へと視線を向け、そこに映る月を見ていた。月は満月を示しており、闇夜を照らしている。朱音はその様子を不思議に思うが、それ以上のことは何も掴めなかった。
(月が、何か意味を示しているの?)
「よーし、じゃあ教えてやる。あのな、この異変の……ん?」
そして朱音の問いかけに対し花恵がニヤニヤと笑いながら話そうとした瞬間、教室中から何かが鳴り響く音が聞こえた。それはまるで骨が音を立てているような音だった。
「は?おいおい……嘘だろ?」
「え、何これ……」
朱音と花恵が音のする方を向くと、そこにはクリームヒルトが佇んでいた。全身から血が流れ、目に正気は宿ってない。しかし幽鬼の様に左右に揺れながら花恵の方へと近付く。花恵は近付いてくるクリームヒルトと偶然目が合い、その瞬間悪感を感じて思わず後退してしまう。
「ヒッ、や、やめろ近付くんじゃねぇ!」
「……破段-顕象、
花恵の苦し紛れの言葉すら聞こえていないのか、クリームヒルトは表情を一切変えず構わず前進する。周りの蛇達が全身の至る箇所に噛み付くものの、それすら構わず歩み続ける。その最中、クリームヒルトは破段を完全に開放した。次の瞬間、彼女の身に起きた異変に朱音は気が付いた。
「えっ、目が……いや、それだけじゃない。傷も治ってる?」
「……なん、だと?あの蛇、大型の動物すら即死させる毒があるってのに……」
朱音の言葉を聞き、花恵も思わず目を見開いた。歩み寄ってくるクリームヒルトの顔面を見ると、飛び散っていたはずの目が左目がいつの間にか元に戻っていたのだ。更に花恵の破段によって肩代わりして受けた全身の損傷も、次第に数を減らしていた。蛇の毒も全く影響を及ぼしていない様だ。まるで一歩進むごとに彼女だけの時間が戻っているかの様に。
「……つかまえ……ましたよ。」
「グッ……テ、テメェ……」
そして遂に距離を詰めたクリームヒルトは、花恵の喉を掴み黒板へと押しつけた。これで逃さないと言わんばかりにしっかりと掴み込む。そしてその頃には、全身の傷を完全に治癒していた。
「へっ、だが傷を回復したところでどうする?またお前が当たりを引くかも……」
「……確かに私のやることは変わりませんが、それを果たして貴女は受けきれるのでしょうか?」
「……は?」
クリームヒルトはそう言いながら再び拳を握りしめて花恵に向かって拳を振り上げようとする。それはさっきまでの光景とほとんど変わらない。だが、花恵は一抹の不安を隠せず、思わず冷や汗を流す。それに構わずクリームヒルトは拳の一撃を彼女の顔面へと炸裂した、その瞬間だった。
「きゃああぁッ!?」
「ガァッ!これはぁッ!?」
教室全体がまるで大地震に巻き込まれたかの様に大きく揺れた。それと同時に爆撃の様な音が鳴り響き、朱音は即座に耳を塞ぐ。そしてクリームヒルトの一撃を受けた花恵は思わず声を張り上げると、花恵の背後の蜘蛛の巣の結界に大きな亀裂が刻まれた。その最中、クリームヒルトは淡々と言葉を紡いだ。
「要は、肩代わりできる容量の問題です。思い出しました、破段は誰にでも影響を与えられる反面……誰でもやり方次第で対処することができる。だから、私が貴女の想定を上回る一撃を与えればその破段を正面から突破することができると判断したのです。」
「そ、そんな力技……普通できるはず、が……」
「できるかどうかじゃなく『やるんです』よ。私はそう言う存在だと、気絶しかけた時に思い出しました。私が何者であったか、まだ具体的な答えは出てません。ですが、そうしなければ貴女を倒すことが不可能だと瞬時に理解したのです。」
クリームヒルトの思いついた方法は確かに力技ではあるものの、決して不可能な手段ではなかった。邯鄲の夢とは人の紡ぐものである以上、何処かで限界が発生してしまう。事実過去に邯鄲における戦いで、3000倍近くの出力の差を出して破段の効果を無理矢理無効化した者がいるケースもあるのだ。故に、程度の差はあれど確かに可能な手段といえるだろう。
「……くくく、はははは、あはははははははッ!全く、ここまでデタラメな答えが返ってくるとは、思わなかったよ……」
そして、あまりの荒唐無稽さに花恵は思わず笑いが込み上がってきた。ああ、この馬鹿さ加減、どこか懐かしさを思い出させてくれると。そう苦笑を浮かべつつ、次第に花恵の体と彼女の破段が崩壊していく。
「ま、せいぜい頑張りな。これから先、もっと苦しいことがあるだろうが、その馬鹿さ加減なら乗り越えられるかもな?」
「……ええ、たとえ如何なる困難が訪れようとも、私は私の意思を貫いて乗り越えてみせる。」
その答えを聞き届け、花恵の体が崩壊していった。それと同時に教室を包んでいた破段が消失し、無数の蛇も消えていった。
「……これ、は?」
「人形、ですね。」
そして花恵のいた場所には、成人女性ほどの大きさのある人形が地面に落ちていた。朱音は手帳を拾い、そして人形に触れようとした時だった。
「朱音!」
「え?ひゃっ!」
クリームヒルトは即座に朱音の手を掴み、自分の元へと引き寄せた。すると次の瞬間、朱音のいた場所に落石が落ちてきた。それだけにとどまらず、教室の至る場所に亀裂が入り、崩壊が始まる。
「教室から出ますよ。」
「うん!」
クリームヒルトはドアを蹴破り、朱音を連れて教室から脱出した。2人が脱出した直後、教室は完全に崩壊し、瓦礫の山だけがそこに残ったのであった。
今回のお話で、オリジナルですがクリームヒルトの破段を解放しました。詳しい設定はタイミングを見計らっておまけコーナーで解説したいと思います。