今回からいよいよあのキャラが登場します。
朱音とクリームヒルトが校舎へと向かっっている一方で、レミリアは高徳院へと飛んで向かっていた。
「みんなそれぞれの場所に行ってるようね。しかしこの街……本当に誰もいないわね。まるで帰りを待つ家のようで……すごく寂しそう。」
レミリアは夜の街を飛び回り、瞳を閉じて静寂を聞き取りながらそう呟いた。夜の静けさとあまりにシンクロしすぎて逆に不自然だと感じるほどに。自分達がここに来る前に何があったのか、考えていても今は明確な答えは出せない。
「パチェの地図が記してる場所は、ここのようね。」
しばらく空を飛び、視線を地上に向けると大仏が目に入った。そこから高度な魔力を感じ取り、レミリアはそこへ飛び降りた。
「さて、何が待ち受けてるのやら。それにしても……」
ふとレミリアは、この街に起きたであろう異変を改めて考えてみることにした。まず、ロストワードによる異変であることはほぼ間違いないであろう。だが、それだけではないとレミリアは考えた。
「もし、この異変があの封結晶のみで引き起こしたものなら幻想郷の面影がある世界へ飛ばされるはず。だけど今回のそれは違う、明らかに此処は外の世界に近いわ。」
幻想郷とは違い、近代文明の恩恵を感じさせる街並み。明らかに幻想郷由来の並行世界ではないのは確実だろう。そう確信したレミリアは夜空に輝く月を見上げた。月は綺麗な円を描き、満月となっている。それをみてレミリアから一筋の冷汗が滴り落ちる。
「まだ異変の目的は明確にはわからない。だけど、一つ確かなことがあるとすれば……急がないといけない。きっと、手遅れに……」
「あら、こんな真夜中にお子様一人でどこに行こうってのかしら?」
「ッ!」
すると突如、レミリアの背後から声が聞こえた。声の場所へと顔を向けると、そこには黒髪の少女が立っていた。腰まで伸びた黒髪、そしてセーラ服を着ており明らかに学生だ。
「それもそんな吸血鬼みたいな格好しちゃって……今日はハロウィンだったかしら?」
「……ふふ、それならトリックオアトリートと言ったら、お菓子をくれて見逃してもらえるのかしら?」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないっての……生憎と手元にお菓子がないからダメね。それにそもそも、こっちもそんなおふざけに付き合ってる余裕が無いのよ。」
「……余裕?」
見るからに日本人の少女が、冷徹な殺気を放ってレミリアを見つめていた。それに対してレミリアは少女の発言に疑問を抱くものの、クスリと笑い傲岸不遜に名乗りを挙げた。
「まあ良いわ……こんな素敵な夜ですし、まずは自己紹介しようかしら。私はレミリア・スカーレット、この世界を救いにきた吸血鬼よ。」
「……ふふっ、吸血鬼が世界を救うとかロマンありすぎな話ね。私は我堂鈴子よ、どうぞよろしくね吸血鬼とやら。」
我堂鈴子と名乗る少女は、その特徴的な黒色の長髪を靡かせながらそう名乗った。
「それで我堂鈴子とやら、貴女は何か私に用?ああそれとも……まさか、吸血鬼たる私の下僕になりたいと志願でもしにきたのかしら?」
「は、はぁ!?誰が下僕よ!寧ろ私がアンタを奴隷にしてこき使ってやるわよゴラァァァァッ!!」
(軽めの挑発のつもりだったんだけど、思ったよりも乗ってくれたわね……し、しかもこの子、女とは思えないとんでもない顔をしているんだけど。お、思わず笑ってしまいそう!)
レミリアのちょっとした挑発が、想像以上に鈴子に触発してしまった。その結果鈴子はまんまと挑発に乗せられてしまい、無自覚の顔芸を見せてしまった羽目となった。
流石にこのままじゃ話もままならないとレミリアは判断し、一度落ち着かせることにした。
「あー、コホン。落ち着きなさい我堂鈴子。軽率な挑発したのは謝るから、貴女が私の元に現れた目的を教えなさい。」
「……失礼、取り乱したわね。そうね、一応明かしておくと私の目的は外敵排除。私の成すべき使命なのだから。」
そう言いながら鈴子は顔を元の形に戻し、そして手を翳した。すると眩い光と共に鈴子の身長を上回る程の長さのある薙刀が握られていた。その光景を見てレミリアは目を細める。
「使命、ねぇ……それは貴女の意思か、それとも誰かに生殺与奪の権を握られていて?殺すことで使命を成すなんて、まるで神話の英雄みたいよ、貴女。」
「……ありきたりなセリフなんでしょうけど、死に行く奴の問いかけに答える義理はないわ。さあ、そろそろ無駄話は終わりよ。覚悟を決めなさい。」
鈴子はそう言いながら薙刀の先をレミリアへと向けた。それを見てレミリアは不敵な笑みを浮かべ……
「……そうね、時間もないことですし。」
互いに視線が交差し、戦意と殺意がぶつかり合う。隣に佇む大仏が、見届け人の様に2人を見守る。レミリアは宙へと浮かび両手を広げ、鈴子は薙刀を構える。そして……
「行くわよ、
「来なさい、
一陣の風が吹くと同時に両者の激突が始まった。
まず、レミリアの放った蝙蝠型の弾幕が空間を制圧し真っ直ぐと鈴子の方へと飛んでいく。空間掌握、それを狙った攻撃だろう。しかし鈴子はその様子を見て不敵な笑みを浮かべる。
「なんのこれしき……っと!」
自身へと迫り来る弾幕を、鈴子は薙刀の肢や刃を巧みに振り回して華麗に軌道を逸らし被弾を回避していく。それはまるで空を切る鞭の様にしなやかさを描いて。そしてそれだけで終わらない。
弾幕へと回避をしつつ鈴子は最短の動きでレミリアへと接近する。そして距離を詰めると薙刀は横一文字を描く。刃の先はレミリアの首へと吸い込まれていく様に向かっていた。
「くっ!距離を詰められると不味いわね……それなら。」
レミリアはそれを冷静に紙一重で回避する。無駄な動きなく、まるで品定めする様に薙刀の刃を見据えながら。そして弾幕を放ち続けながらレミリアは詠唱を謳いあげる。
「ルーンが刻みし運命、操るは『揺れ動くもの』……吾、真祖の流儀にのっとり、汝を刺し貫かん!」
レミリアの両手に槍状の弾幕が二本形成される。それを空中で華麗に舞いながら、鈴子に向かって放っていく。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
レミリアの弾幕を回避する中、鈴子へと高速で迫り来る槍状の弾幕。もしこのままであれば、間違いなくレミリアの言う通り二本のグングニルが鈴子の体を刺し貫くだろう。
「ふッ!」
しかし鈴子はこの状況に対応した。一本目のグングニルに薙刀の刃をあえて引っ掛ける。そして後から飛んできた二本目に向かって、体を回転させ一本目のグングニルを投げ返した。
結果、二本のグングニルが激突し合い大きな爆発を発生させた。その影響でレミリアの展開していた弾幕の大半が吹き飛ぶ。
「っ!この……中々やるじゃない……」
迫り来る爆風をレミリアはなんとか回避する。だが爆発によって土煙が広がる。その中、鈴子の声が響き渡る。
「破段-顕象」
「……何?」
鈴子はそう宣言したが、レミリアの目に見える範囲では特に何か変化が起きた様に見えない。何かしらの技の発動を失敗したのか、とレミリアは訝しんだ。だが……
「ッ!……なるほど、そういうことね。」
そう呟くと同時に、レミリアは右手にあるグングニルを何も無い空間へと振るった。その瞬間、激しい金属音が虚空に鳴り響き、グングニルが両断される。そう、これこそが鈴子の夢の正体である。
「なるほどね……これが貴女の能力。自分の斬撃を空間に残留させる程度の能力、といったところかしら?」
「へぇ、やるじゃない。大正解よ。」
レミリアの示した答えに対して、鈴子は拍手と同時に賛美の声を上げた。これこそが我堂鈴子の司る能力、過去に自身の描いた斬撃を残留させる能力である。
先程グングニルが両断された位置も、実は鈴子がレミリアの首を狙った位置と全く同じなのである。
「だけど、アンタの能力も大分わかった気がするわ。近い未来を予測する能力といったところかしら。恐らく私の破段で自分が切られる未来が見えたから、回避してその未来を潰したと言った感じかしらね?」
「……ええ、そう解釈して構わないわ。」
鈴子の放った答えに対し、レミリアは敢えて笑みを浮かべて曖昧な返答をした。実際のところその指摘は正しく、鈴子の攻撃を回避し続けていたのも未来予測によるものが大きいのだ。そしてレミリアは続けて言い放つ。
「中々面白い能力だけど残念ながら私には通じないわね。貴女の言う通り、残留された斬撃を予測できるから被弾することはない。よって、その能力は無意味に等しいわよ。」
「ええ……そうね、その力がある限り私の展開した斬撃の檻はほとんど意味をなさないわね。だけど……それで良いのよ!」
「ッ!?」
瞬間、鈴子は跳躍しレミリアへ一瞬にして近付き同時に薙刀を振るい下ろす。レミリアは咄嗟に回避し、鈴子から距離を取ろうした。だが途中で無理矢理移動の軌道を変えてしまいどうしても動きがぎこちなくなる。それの意味することは……
「ぐっ……これ動きにくいわね。」
「そう、例え直撃しなくても斬撃の檻はアンタの動きを制限する。そうなれば私が捉えやすくなるってものよ!」
鈴子はそう言いながらレミリアの退路を予測し、その先へと疾走しレミリアとの距離を詰める。随所で薙刀の斬撃を追加していきながら。レミリアも移動しながら弾幕を放つが先程と同じように鈴子に難なく回避されていく。
「そしてこれだけじゃない。これが私の奥の手、吸血鬼のアンタがこれを食らえば終わりよ!」
「……何?」
そして一気に鈴子はレミリアとの距離を詰めてもう一度攻撃を放つ。同時に自身のもう一つの能力を解放しながら。
「急段-顕象 『
「ッ!それは……」
レミリアは迫り来る攻撃を見ながら、その本質を一瞬にして理解した。自身へと迫り来る未来は死滅である。何故なら我堂鈴子のこの能力は『人外殺し』に他ならない。
語るまでもなく吸血鬼としての自覚のあるレミリアがその攻撃に直撃すれば消滅は免れない。現にレミリアの未来視では、鈴子に斬殺され消滅する自分の未来を見た。故にこの攻撃の被弾だけはなんとしても避けなければならない。
「それなら……紅符『不夜城レッド!』」
「な、ガァッ!?」
鈴子の斬撃が直撃しようとした瞬間、レミリアの両手から放たれた光弾が鈴子へ接近する。そしてその直後、巨大な紅色の十字架の弾幕を展開し鈴子に直撃した。
「危なかった……流石の私でもあの攻撃だけは喰らいたくないわね。」
「こ、のォォォッ!」
「……流石にあれだけじゃ止められないか。」
不夜城レッドの輝きを気力のみで鈴子は突破した。代償として身体中の毛細血管がボロボロになるが、それでも無理矢理前進しレミリアへとただひたすらに近付く。何故ならば急段さえ当てればこの勝負に決着がつく。これは鈴子とレミリアの両者が確かに認識している真実なのだから。そして鈴子が紅十字を抜けレミリアが薙刀の射程内へと入った。
「よし、これで獲った!」
「いいえ、終わるのは貴女よ!」
人外殺しの刃がもう一度振われようとした刹那、レミリアに過去最大級の霊力が集う。まるで火山の火口に蓄積された溶岩の様に、臨界を突破して放たれようとしている。
「貴女の最期は真紅に染まる………受け入れなさい!運命からは逃れられない!『スカーレット・ディスティニー』」
「なぁっ……ガァァァァァッ!?」
ラストワード『スカーレット・ディスティニー』を発動。レミリアを中心に無数の赤いナイフが放射状に放たれる。当然ながら鈴子もそのナイフの弾幕へと巻き込まれ身体中を斬り刻まれる。だが……
「まだよ、まだ、止まれ…な、い」
「……」
それでも鈴子は脚を止めようとしなかった。誰がどう見ても鈴子の終わりが近く、良くて相打ちは避けられないだろう。それなのに頑なに諦めようとしていなかった。それを見てたレミリアは、不意にラストワードによる攻撃を制止し口を開いた。その様子に鈴子は眉を顰める。
「アンタ、何をして……」
「……やはり違うわね。貴女からは護ろうとする意思が強過ぎる。」
「……どう言う事?」
「最初、貴女のことは正直外敵を追い払う防衛システムみたいなものだと思ってたの。真実そうであったのならただ力を以って破壊すれば良いだけだった。だけど、貴女にはちゃんと意思があった。この土地を護ろうとする強い意志を私は感じ取った。」
「………私がアンタの言う防衛システムじゃない根拠としては弱いと思うけど?」
「あら、それなら私に一々声を掛けずに闇討ちでもすれば良かったでしょうに。まあ、そこは貴女の愚直な性格が良くも悪くも出たんでしょうけどね。」
「な!?う、うるさいわね!仮にも初対面の癖に知った様な口を利くんじゃないわよ!」
「……ふふっ、貴女結構表情がコロコロ変わるのね。」
「む、むむ……」
不意に展開されたレミリアの考察に、鈴子は呆気を取られて聞き入ってしまい薙刀を下ろした。しかもさりげなく交えたジョークに無意識に反応してしまい、緊張感も解れてしまう。その様子にレミリアも軽く笑ってしまいつつも更に話を続ける。
「そこで私は一つの仮説を立てた。もしかして貴女は何者かに『この領域に来たものは侵略者だ、必ず討ち取れ』と吹き込まれたんじゃないかなって。」
「っ!わ、わたしは……」
「……その反応、図星の様ね。」
「……ええ、概ね当たりよ。気が付いたら私は此処にいて、そして頭の中からそんな感じの声が聞こえたの。それと同時に、確かに大切な『何か』を奪われたという実感が……だから正直、かなり焦っていたと思う。」
「……そう、そんな状況は並の人間だったら確かに冷静でいられないかもしれないわね。」
「ええ、だけどアンタと会話や戦闘をしている内に疑問に思ったの。本当にこの子が侵略者なのかって……確かにそれなりの力は持ってる様だけど、どうにも悪意が感じられないと言うか……」
そう胸の内を明かす鈴子から次第に敵意と戦意が薄れていくのをレミリアは感じ取った。そしてポツポツと明かされる真実を聞いている内にレミリアの表情も引き締まっていく。
「念のために聞きたいのだけど、貴女のその奪われた何かというのは今は思い出せそう?」
「……ごめん、思い出せない。ああもう、なんなのよコレ!すごく歯痒くてイライラするわ!こんな事をする奴、ぜっっったい性格悪いわよ!」
(恐らく鈴子の言った『何か』が今回のロストワードに該当するのかも知れないわね。だけどそうなると、幻想郷由来のものじゃないことが確定したわ。そうなると幻想郷出身の私たちが取り戻すのは難しいかも……)
「……どうしよう、もし失ったままなら取り返しのつかないことになるかも……どうしたら……」
鈴子の顔が次第に不安一色へと満ちていた。それを見たレミリアはゆっくりと微笑みを浮かべ、鈴子の頬に手を添えながら口を開ける。
「言ったでしょ、私はこの世界に救いを齎すと……この言葉に嘘は無いわ。そして、貴女を騙した存在を必ず暴いて見せるわ。」
「……本当に?私、さっき貴女を敵と見做して酷いことしたと思うわよ?」
「あら、あれくらい慣れっこだからそんなに気にしてないわよ。まあ、死にそうになったのは流石に焦ったけど……」
「ほ、本当に大丈夫なの?なんか不安になってきたんだけど……」
「だ、大丈夫よ!それに私だけじゃない、私の部下や妹、そしてなんども異変解決してきた巫女だっているもの。どんな敵だって負ける気がしないわ!」
レミリアの発言を聞いて、鈴子は思わず間の抜けた表情をしてしまった。見るからに吸血鬼なのに何処か俗っぽさを感じさせるセリフ。そして自分だけじゃなくて周りまで巻き込もうとするスタイルにどこか青臭く懐かしさを感じてしまい微笑みを浮かべた。そしてこの異変をレミリアへと託す事を決意した。
「……そう、なら後は貴女に託そうかしら。だけど気を付けてね、多分一筋縄じゃいかないと思うから。」
「ええ、任せなさい。ひとまずお休みなさい、我堂鈴子。」
「うん、お願いね……」
鈴子は笑顔を浮かべ、そう言い残して消滅していった。その姿を見届け、その場を後にした。