第三盧生が幻想入り   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回もまた戦闘パートとなります。


第十六話 深淵より覗き見る

 

 

 

某所にて

 

「……我堂鈴子が逝ったか。」

 

頭上に浮かぶ画面を見て、女はそう呟いた。女のいる部屋はまさに研究室と呼ぶにふさわしく、ありとあらゆる機械で埋め尽くされていた。女は軍服を身に纏い、その上に白衣を背負っていた。まさに研究者というに相応しい風貌だろう。

 

「まあ所詮は私の夢が生み出した100%の複製、本体スペックを上回るはずもなし……と言ったところか。」

 

不敵な笑みを浮かべながらそう呟き、他の画面へと視線を移す。一つには咲夜と美鈴、もう一つにはパチュリーと小悪魔、そしてフランドールの姿が映っていた。しかしそれはあくまで流し見、次に映った画面に殺意な篭った視線を注ぎ込んだ。

そう、少女となったクリームヒルトと朱音だ。

 

「無様な姿だな、クリームヒルト……私の愚かな娘。かつて心血注いだ投資を無駄にした屑めが……ふふ、ふははははは!」

 

朱音には目もくれず、ただひたすらクリームヒルトに向かって積年の恨みを込めた罵詈雑言を投げ飛ばす。そして打って変わって狂ったように笑い声を上げる。

 

「だが安心するが良い、今度こそお前達を良いように利用してやる。嬉しいだろう?時が来れば、ようやくお前は私の役に立てるのだからなぁ。だが……」

 

そう言い放った後、女は最後のモニターに映る少女を見つめる。そこには霊夢の姿が映っていた。それをみて女は再び邪悪な笑みを浮かべる。

 

「来るか、博麗の巫女。やはり貴様は私の居城に気付いたようだな。良いぞ歓迎してやろう……もっとも、貴様では絶対に私に勝てぬがなぁ………ふふふ、あははははは!」

 

室内に女の高笑いが響き渡る。なにがこの女を突き動かしているのか、今のクリームヒルトや霊夢達には分からない。もしもクリームヒルトが元の姿に戻れわかるかもしれないが、そのための手段をこの女以外知り得ない。もしも、もしもこのまま事態が進んでいけば、この女の一人勝ちとなるだろう。

 

 

 

 

 

 

場所は変わって辰宮邸へと移る。

 

「とても大きな屋敷ですねぇ……紅魔館と同じくらいでしょうか?」

「無駄口を動かすくらいなら、調査の手を進めなさい。」

 

咲夜と美鈴は館内の探索を進めていた。館内は明かりが消えて真っ暗だが、二人は構わず辺りの調査を続けていく。調理場へと入ると、咲夜の目にティーセットが映る。

 

「あら、綺麗なティーカップね。一つもらえないかしら。」

「あ、あの……咲夜さん?先程の自分の発言覚えてます?」

「うっ、わかってるわよ……探索を続けましょうか。」

 

苦笑しながら進言する美鈴に対し、少し膨れた表情で咲夜はそう言い返した。

そして二人が調理場を探し回って、特に気になる所も無くそのまま別の場所に行こうとしたその時だった。

 

「ッ!咲夜さん危ない!」

「えっ?」

 

不意に美鈴がそう叫びながら咲夜を突き飛ばした。あまりに唐突な出来事に咲夜の華奢な体が弾け飛ぶ。

それと同時に何処からか銃声が聞こえ、咲夜の居た場所へと一つの弾丸が迫る。それを美鈴は腕を横薙ぎに振るい軌道を逸らし被弾を回避した。しかし弾丸を逸らした美鈴は火傷したように手を振りながら涙目を浮かべていた。

 

「いったぁ……とんでもない威力だなぁ。」

「め、美鈴……大丈夫?」

「あはは、これくらい大丈夫ですよ。それよりも動きましょう、止まっていては危険です。」

「ええ、わかったわ。」

 

美鈴の言葉に咲夜は頷き、即座に館内を走り抜けていた。そして走り抜けている最中、先程と同じように二人に向かって何処からか弾丸が迫り来る。それも一発だけでは無く、何発も放たれていた。だが……

 

「なんのッ!」

「はぁッ!」

 

ナイフと蹴撃が迫り来る弾丸の雨を迎撃する。時には回避、或いは相方に背中を預けつつ前進していく。こうした行動を数分続けていくが、それでも何かしらの進展が掴めない状態が続いていた。

 

「全く、見えない敵との戦闘は終わりが見えないわね……」

「ええ、実に厄介です。ですがそれ以上に、殺気が全く違う場所から来てるのが不思議なんですよ。」

「……どういうこと?」

「要は弾丸の発射ポイントと、私たちへ向けられてる殺気を感じる場所が一致してないのですよ。」

「……なるほど、そういうことね。」

「おそらくテレポートのような能力で弾丸を飛ばしてると思うのですが……」

「そうね、私もそう思うわ。」

 

美鈴の発言を聞いて、咲夜は瞬時に事の本質を理解した。原理こそ不明であるが、迫り来る弾丸はたった一人の射撃主によって放たれているのだと。美鈴と咲夜はテレポート系の能力者によるものだと予測するが、真実は現状不明である。

 

「そしてもう一つ、この先にもう一人誰かいます。気配からして私たちの味方とは思えませんが……」

「新手ね……美鈴、貴女は狙撃手を探してきなさい。」

「え、私がですか?時間を操れる咲夜さんの方が良いと思いますが……」

「何言ってるの、貴女が狙撃手の気配を察知したのでしょ。私じゃ弾丸は回避できても、本体を見つける事は困難だわ。」

「そ、それもそうでした……ですが気をつけてください。この先の敵は多分結構のやり手です。なんと無くですが、白兵戦に長けてるかと……」

「大丈夫よ、任せておきなさい。」

「……では、お願いします。」

 

美鈴はそう言ってこの場を咲夜に任せ、別の方向へと駆け出していった。その様子を見届け、咲夜は正面へ向き直る。

 

「良いのか?二人で攻めた方が確実だったと思うが……」

 

廊下の先から歩きながら、少女が咲夜へとそう問いかけながら歩み寄ってくる。少女の頭髪は白と黒が織り混ざっており、服装は学生服を着ていた。

 

「あら、わざわざ教えてくれるなんて優しいわね。貴女に言われるまで気付かなかったわ。」

「……全く、それが本音なのか誤魔化しなのかわからないな。その変化の少ない顔だと判断が難しい。」

「ふふふ、褒め言葉として受け止めておきますわ。」

「もしかして貴女、手品が得意だったりするのか?」

「ええ、多少は嗜んでおりますわ。」

 

少女が苦笑を浮かべながら投げかける言葉に、咲夜は一貫して営業スマイルで返答をしていた。そしてスカートの裾をつまみ一礼して自己紹介をする。

 

「さて、申し遅れました。私は紅魔館でメイド長をしている十六夜咲夜と申します。どうぞお見知り置きを。」

「貴女、その名前からして日本人なのか?まあ良いか……私は石神静乃だ。」

 

互いに自己紹介を終わらせると、咲夜と静乃共に武器を構える。咲夜はナイフを両手に、対して静乃は釵を両手に握って構える。

 

「さて、初対面に関わらず申し訳ないけど、貴女たちは退治させてもらうよ。突然現れた君達と一瞬にして鎌倉市民全員が行方不明となった異変、とても無関係と思えないからな。」

「……まあ、確かにそう考えてしまうのは仕方ないかもしれませんね。ですが、私達なりに目的があるので引くわけにもいきません。是が非でも元の世界へ戻らないといけませんから。」

「なら、この局面を切り抜けてみることだな!」

 

静乃はそう叫ぶと同時に疾走し咲夜へと迫った。音を置き去りにした速度で直ぐに距離を縮め攻撃を放った。

 

「幻符『殺人ドール』」

 

しかし静乃の攻撃は空を切りし、そして気がついた頃には彼女の周囲に無数のナイフが出現し、一斉に襲いかかる。

 

「この一瞬で恐ろしい技だな……だが、対処できないことはない。」

 

静乃は自身の周囲に無数の光弾を発射させ、迫り来るナイフを相殺した。それと同時に土煙が発生し、静乃はその中を潜り抜けて咲夜へと再接近し釵の攻撃を放つ。

咲夜は咄嗟にナイフを手に取り、釵の攻撃を防いだ。しかし膂力においては静乃の方が強く、押され気味になっていた。

 

(やはり、白兵では向こうのほうが上か……)

 

ナイフと釵が交差し、火花が咲き乱れる。しかし静乃が攻め続け、咲夜が防ぎ時に回避するという展開になっている。このまま続けば咲夜が被弾するのも時間の問題だろう。

 

「ならば……奇術『エターナルミーク』」

「っ!があぁぁっ!?」

 

瞬間、咲夜はもう一つのスペルガードを発動。超高速で無数のナイフを放った。流石に静乃も容易に回避することができず幾つか切り傷を刻まれる。

 

「はぁ……どうやら早さは私の方が上みたいね」

「なんの、まだだっ!」

 

そう言いながら静乃は創法の形を使って壁を作り、放たれるナイフの斬撃を防ぐ。そしてその隙をついて飛翔し咲夜へと接近、飛び蹴りを放った。咲夜は意表を突いた行動に思わず反応が遅れ、咄嗟に蹴りを腕でガードする。

 

「ぐっ!」

 

しかし咲夜の耐久力はそこまで高くない。致命傷にはならなかったもの、ガードした腕に損傷を負い、事実上ほぼ隻腕の状態となった。そして静乃も昨夜の攻撃によって全身の至る所に傷が刻まれており、戦闘開始時と比較して戦闘力が低下している。よって、両者ともに互角といえる状態だ。

 

「このままじゃキリがないわね……ねえ、静乃さん。ここはお互いの知っている情報を交換して、身を引くって言うのはどうかしら?」

「……何だと、どういうつもりだ?」

 

昨夜の唐突な提案に、静乃は思わず眉を顰める。咲夜はそのまま話を続けた。

 

「貴女はどうやら私のことを侵略者と思ってるみたいだけど、それは誤解よ。さっきも言った通り私達は元の世界に帰るために活動をしているわ。だから、貴女の知ってることを良ければ教えて欲しいの。その代わり、私達の知ってる情報を教えるし、何なら他にできる範囲で協力するわ。どう、貴女にとっても悪くない話だと思うけど?」

「……要は、協力しろと聞こえるが、そう解釈して良いのか?」

「……そうね、端的に言うのなら。」

「そうだな、確かに悪くない話だ。だが乗ることはできない。」

「……それはどうして?」

「時間がないからだ。」

 

しかし静乃は咲夜の提案を却下した。その対応に咲夜は思わずため息をつき、それを見て静乃は苦笑しつつ進言をする。

 

「だが、そうだな……ならばこうしよう。私を倒せば私の知ってる情報を教える。逆に君が負ければ君達の情報を教えて欲しい。これならどうだ?」

「……結局、どちらか倒すことが前提なのね。」

「仕方ないさ、こうでもしなきゃお互い納得できないだろう。」

「まあ、それもそうかもしれないわね……なら良いでしょう。この十六夜咲夜、全力で貴女を倒します!」

「ならばこの石神静乃も、孝の犬士として全力で応えよう!」

 

静乃と咲夜、両者ともにそう宣言して再度戦闘を再開した。先に先制したのは静乃、無数の光弾を発射させ咲夜に向かって放つ。

 

「くっ……」

 

咲夜は可能な限り迫り来る光弾を避け、時にはナイフで相殺を試みる。だがしかし、片腕が機能不全の状態となっているため、防御に限界が来ている。

無論、静乃はそれを見越して攻撃を放っている。時折飛んでくるナイフが少しずつ身を削るが、その程度で彼女の突貫は止まらない。

 

「獲ったぞッ!」

 

よって、必然的に静乃が距離を詰める。白兵戦の距離まで迫れば後はとどめの一撃を放つだけ。狙うのは頭部、咲夜の耐久力では戦闘不能になるだろう。流石に殺すわけにはいかないが、手加減して勝てるほど甘い相手ではない。釵を振り上げ、咲夜の頭部に目掛ける。このまま直撃すれば静乃の勝利となるだろう。

 

「時間の収縮、因果律の崩壊、偏在するナイフ……過去、未来、今、全ての刃が……貴女を切り刻む。」

「っ!?」

 

だがしかし、その『時間』へと到達することはなかった。咲夜を中心に時が刻まれる。そして静乃の周囲に無数のナイフが設置される。それは『殺人ドール』とは比較にならない数で、一切の逃げ場が無いと錯覚しそうな程に。

これぞ十六夜咲夜の持つ能力『時間を操る程度の能力』を最大限に活用した切り札に他ならない。

 

「『デフレーションワールド』」

「ぐあぁぁぁぁぁッ!?」

 

ラストワード『デフレーションワールド』が発動される。無数のナイフが静乃の退路を塞ぎ、そしてその身体を切り刻んでいく。静乃も可能な限り防御、回避を試みるが処理が追いつかず、そして遂に耐えきれず地に臥した。

よって、この一戦は咲夜の勝利で終わりを迎えたのだった。

 

「……はぁ、はぁ。まさかラストワードまで解放する羽目になるなんて。」

 

どうにか勝利を収めた咲夜は、一気に疲労を感じて壁に背中を預けた。そしてゆっくりと呼吸を整えて片腕に応急処置を施す。

 

「うっ、ぐぅ……あはは、やられてしまったな。悔しいが、約束は果たさないと……」

「……そうね、そう言う約束で戦闘をしたもの。ならば聞き届けましょう。」

 

静乃の声を聞いた咲夜は倒れている静乃に駆け寄り、身体を膝の上に乗せた。そして視線を交わすと、静乃の口が開く。

 

「といっても……これは、私の近くにいた仲間の考察だが……」

「ええ、それでも無いよりマシだわ……」

「そうか、ならば託すとしよう……良いか、よく聞いて欲しい……」

 

 

 




すみません、今回は咲夜の戦闘で打ち止めとなりました。
次回は美鈴の戦闘となります。
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