第三盧生が幻想入り   作:ヘル・レーベンシュタイン

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第二十話 歴史 中編

 

自身の元へと迫る博麗の巫女を見つつ、女は別画面でクリームヒルトと朱音を見た。すると人型の人形を取り出して“自身の夢”を込めた。

 

「まだ時間が足りない、だから足止めさせてもらうとするか。」

 

人形の数は5個、そう言い放って全ての人形は生徒会室へと転移された。そこでは一体何が起こるのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢が扉を開けると、そこも再び絵画だらけの部屋が広がっていた。一つ一つに目を通すと、どれも必ず死人がいる絵が描かれていた。東洋から西洋、あるいは原始人、動物や枯れ果てた自然など、とにかく死を思わせる様な雰囲気ばかりの絵画が描かれていた。故に霊夢の出した答えは……

 

「単純に『死』かしら?命ある者は誰も彼も何れ死ぬ、その真理を忘れることなかれって意味だったわよね……そんなんでしょ?ねぇ……」

 

アンタならそんなテーマになるでしょ。そう呟き、それ以上言葉を紡ぐのはやめた。まるで音をも殺す様な冥界の中を歩いている気分になった。そしてこの部屋の最奥にある大きな絵画へと目を移す。

そこには玉座に座る女と、その周辺には墓場ばかりが敷き詰められていた。東洋から西洋、そして原子的な埋め立ての跡など、誰かが必ず死んでいる、そう連想させる様な玉座だった。周囲は灰色に染まっており、1秒先にも全てが灰になって静寂に包まれ消え去りそうだ。その最中でも玉座に座る女は無表情……否、見る人によっては僅かに微笑みを浮かべてる様にも見えるかもしれない。

 

「……『死神』なのよね、アンタは。」

 

絵画の女と目を交えながら、霊夢はそう告げた。そしてその女の顔と特徴は、自分の知ってる顔見知りの女と見事なまでに一致している。それを確認したら充分、そう思ってゆっくりと碑文へと目を移し、そこに書かれている内容を読み上げた。

 

「此れは死を以って人々へ安息を示した、第三の盧生が抱いた真実である。その女は生まれながらにして、肉体の成長があまりに誰よりも早かった。手を握ればその手を握り潰し、抱擁をすれば腕には血肉しか残らない。女にとって触れ合いは殺し合いに等しく、成長し続ける肉体はあまりに不平等だった。加えて彼女には生まれつき心は存在せず、どれほど非道な指示にも従い、どれほど残酷な運命であろうとも受け入れる。故に人類史上最もの歪みにして、死ぬべきは自分自身であるという真実を知っておきながらも、女はそれに抗って生き続けようとしていた……愛とは何なのか、わからない。だから知りたいと足掻きながら……と。」

 

霊夢はその碑文を読みながら、同時に数多の感情が入り混じっていく実感が湧いてきた。そして例え心の中で有ろうとも、上手く言葉にできない。なぜなら、この女と違って自分の肉体は普通であり、触れ合いだけで殺し合いになるなんてそうそう無い。そして何より、この女と違って自分には確かに心はあると自信を持って言える。

故にこの女の生い立ちは、理解はある程度は出来ても共感がまるで出来ない。まるで人型の何かを観察してる様な心地だ。唯一注目できたのは、愛を知ろうとするその知性。それでも読まねばならない、そう強く思いを抱いて続きを読み始める。

 

「故に女は邯鄲に挑んだ。愛とは何なのか、その答えを探し出すため。しかしその邯鄲は、ある種前任者2人とは根本的に違う変化を引き起こした。何故なら彼らはよくも悪く健常者であるが為に、人類にとって馴染みやすい、未来への光を探す旅路であり、邯鄲の正しい形と言えよう。しかし女は違う、常に死と隣り合わせの身体にして他者へ殺戮を犯す、そんな人生を送っていた。故にその旅路は死の人類史へと変貌を遂げる、天地開闢から今に至るまでの人類が犯し続けた罪にして、終始苦痛と死別に満ちた闇の歴史である。拷問、侵略、強奪、飢餓、叛逆、怨恨、呪詛、凌辱、そして殺人など……心ある人間が見れば、両の瞳を潰したくなる様な屍山血河の歴史を歩み続けた。己の真理を夢見ながら……」

 

ここで霊夢は、彼女の体験こそまさに邯鄲の夢における大事件だと判断した。その理由は至って単純で『異常体質』が引き金となったのだろうと判断する。人間同士の共感性は、まず同じ肉体を持つことが前提と言えるだろう。人の社会とは肌の色が違うだけで差別や戦争の原因にもなり、一部の国では奇形の様な誕生をしただけで神格扱いされる様な所もある。そして邯鄲の性質もまた同様で、第一と第二盧生は常人目線から見れば『普通の肉体』の持ち主だったのだろう。故にある程度の試練の内容に多少の差異はあれど、変質的な差はなかったと思われる。

しかしこの女は生まれつき異常体質持ちだ、故にその邯鄲にも大きな影響を与えたのかもしれない。前任者二人が常人にも共感しやすい光の邯鄲ならば、この女は常人ならば共感できずとも、注目しざるを得ない闇の邯鄲と化した。何故ならば人は普通の正しい情報よりも、後ろ向きで苛烈な情報にこそ目を向きやすい。加えてそこに、理由を付けたがる。何か原因があって悪事を犯した、不運な境遇が人格を歪ませた等と。もしかしたらそこには、自分の身に死を齎す何かがあるかもしれない……その危機感を引き立てるからだ。霊夢はそう考えつつ、再び続きを読み始める。

 

「そして女は邯鄲を駆け抜け、第三の盧生して完成された。変貌した死のアラヤ(普遍性)に触れた生き残った史上ただ一人の人間として、誰も成し得なかった前人未到の偉業と言えるだろう。しかしその代償は決して安くない。ただでさえ邯鄲に入る前から常人よりも短かった寿命が更に減ったのだ。その結果、彼女はもう唯人として生きることは不可能である。筋肉が過剰に成長する体質、過剰な肉体強化措置、殺した相手への食人、死の概念への接触……これだけ肉体の負荷をかけて生きていることが奇跡であり、邯鄲の加護が無ければ既に彼女は死んでいる。故に夢の幻想無くして死神は生はあり得ず、もしもその資格を喪失すれば死の運命は確定している。だからこそ彼女は最早殺人を犯す様真似をしないと決意した。その旅路の果てに、一人一人の価値を見出し、再びこの手でその価値を汚す様な真似はしない。

そして彼女は謳い上げる。『今を生きよ、悔いなき人生を謳歌すべし』と。死こそが普遍、唯一人にとって平等なるもの。故にその恐怖な怯えず、懸命に生きてほしい……盧生としてその様な悟りを見出したのだ。

これこそが第三の盧生、死の安息が齎す人間讃歌の真実であり……」

 

まだ碑文は僅かに続いているものの、一度霊夢はここで読むのをやめた。そしてこれまでの第三盧生の足跡を読み終えて感じたものは、コレだった。

 

「……クリームヒルト、あんたは本当に損な女ね。自分の価値や答えを見出すために、どれだけの無茶を重ねたのよ……それが原因で寿命を縮めるだなんて、本末転倒じゃない。」

 

心が無い、それはつまり自分の価値を見出せる事が出来ないということだ。故にどれほど残酷な運命や行為であろうとも、それを受け入れることで空っぽな自分の価値を見出そうとする。たとえそれが機械の様に、他人に都合良く利用されようとも衝動的、使命感の様に止められない。それが人として損な生き方で不運な事だと実感することは彼女には出来ない。この碑文を読み上げてから霊夢はそう感じていたのだ。そして……

 

「何言ってんだ、コイツ……ッ!」

 

碑文の締めの言葉を見た瞬間、霊夢の心は激情に支配された。そこには以下の文が記されていたのだ。

 

『誰も救うこともできなかった女、最も愚かな盧生である。』

 

読み終えた直後、霊夢は感情のままその碑文に拳を叩きつけようとした。しかし、どうにかして理性でそれを堪えて制する。しかしそれでも胸の中に渦巻く激情が晴れることができない。故に自分なりにこの碑文を読み終えた感想を口にする。

 

「……おそらくこの碑文を書いた奴は、ヘルと関係ある人物なんでしょうね。何せ明らかに文章の量も具体的な描写も、まるで実際に見てきたかの様な書き方だわ。なら恐らく血縁者か、あるいは余程因縁のある奴かしら。」

 

後はこの目で確認し、この異変を治めるだけ。そう決意すると再び絵画へと視線を向ける。他と違ってこの絵画からは何も感じない、何処までもただの絵である。それも言うまでもなく、小さくなってるとは言え本人がこの世界に居るからだろう。

 

「貴女の過去と真実、しっかりと理解させてもらったわ。余程過酷な人生だったようね。だけど、だからといって特別な人間だなんて思わない。貴女も私も、同じ人間よ。だから、過去を知った人間として黒幕ぶっ飛ばしてケジメつけてくるわ。」

 

そう言い残して、霊夢はこの部屋を後にした。その後もこの部屋には何の変化もなく、あくまで静寂のみが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を遡り、場所は校舎内へと変わる。

 

(………)

 

意識の落ちた朱音の脳内には“ダレカ”の記憶がなだれ込んできた。生まれた時は母子家庭、幼い頃に父親をその目に見ることはなかった。それを見届けた朱音は……

 

(普通だ、お父さんが居ないのは寂しそうだけど、友達にも恵まれていた。何でこれを見せられてるのだろう……)

 

しかしその人物が歳にして17の頃に、大きな異変が起こるが……

 

『ネ……カネ……アカネ!』

「……ん、うん?」

 

身体の揺さぶり、そして耳から入ってくる声で意識が現実へと浮上した。その声は少し聞き慣れている感じだが、目の前の人物の容姿を見て、思わず目を見開く。

 

「え、ヘル……さん?その身体、どうしたの?」

「ヘルで構わんよ。ああ、どうやら身体の方が成長した様だ。無論、さっきまでの記憶はある。そして、私が小さい頃の姿をしていたことも……」

「そ、そうか……それは、良かった。」

 

少し戸惑いつつも、朱音はその状況を飲み込み、立ち上がった。身体に付着した埃をはたき落としながら問いかける。

 

「私、どのくらい意識を?」

「私が目覚めてから、大体5分程だ。」

「そうか、じゃあ急いで先に進もう。まだこの異変の事で、あまり進展していないし。」

「……そうだな。」

 

そして2人は廊下の先へと進んでいく。そして生徒会室への扉の前へと到着するが、クリームヒルトは朱音の前へと庇う様な形で立った。

 

「ヘル、どうしたの?」

「……口を塞いでおけ、何か危機を感じる。」

「……?」

 

彼女の言葉を不思議に感じつつも、一応に朱音は口を塞いだ。それを確認しつつ、クリームヒルトは生徒会室の扉を開けた。すると……

 

「ようこそおいで下さいました、御二方。どうぞ、こちらにお座り下さい。」

 

上品さを感じさせる女の声が聞こえたのだった。

 




カルデアにある幼き英雄王はこう言った。

『心を持たないから、どんな酷い命令も実行する。
心を持たないから、どんな酷い扱いも受け入れる。』

とまあそんな感じで、このセリフはヘル姉さんにめっちゃ該当するじゃないかなっと思って今回の話を作りました。あくまで二次創作な上、考察という形になるのですがね。

次回で盧生巡りは終了です。そして生徒会室へ顕現したのは……次回もお楽しみに。

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