第三盧生が幻想入り   作:ヘル・レーベンシュタイン

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お久しぶりです、リアルの事情が忙しくなり中々執筆する時間がありませんでした。
ひとまずこれでお察しの通り、歴代の盧生振り返りのシーンは終了となります。


第二十一話 歴史 後編

 

 

 

霊夢が扉を開けると、そこは再び絵画が並べられた部屋が待ち受けていた。少し辟易した表情を浮かべるが、飾られている絵を目に移すと、霊夢の表情が一変して青ざめる。

 

「なに、よ………これ?」

 

そこに描かれていたのは、あまりにも異様な光景ばかりだった。

幼い我が子を喰らう母親、化粧する様に糞便を全身に塗りたくる老婆、羽虫に向かって熱く何かを語ってるであろう男性など、不可思議な景色ばかりが絵画に描かれていたのだ。

 

「あ、あぁ…………」

 

霊夢は思わず、後退りをした。その瞬間、目の輝きが失われる。そしてその隙を突いたかのように、数多の思想が傾れ込んでくる。

“一緒に楽になろう”や“気楽になれ、一緒に楽しい夢を見よう”など、快楽へと委ねるような声が脳内に響き渡る。

そして、多くの思想の中心にいるであろう何者かを僅かながらに見た。底にあったのは巨大な赤い瞳、まるで嘲笑っているかのような視線でこちらを見ていたが、実際には違う。そこにあるのは確かな善性の祈り、夢を見る者たちの幸せを心の底から願っていたのだ。だが、幸福になるための手段は……

 

「あアァァァァァァァッ!!」

 

瞬間、霊夢は全力で自分の額に向かって拳を叩き込んだ。拳と額が直撃し、熱い血が流れる。そして連鎖して伝わる激痛が霊夢の全身を駆け巡る。

 

「〜〜〜〜〜いッッッッたいわねもうッ!」

 

あまりの痛みに床に転がり回り、八つ当たり気味に霊夢はそう叫ぶ。その一方で、この痛みに助けられたと実感した。

もしあのまま快楽に身を委ねれば、きっと衰弱死するまで覚めぬ夢に身を沈めていただろう。この部屋に充満する快楽の神威は、それ程までの危険性があると、改めて実感したのだ。だからこそ、確信する。今まで訪れた部屋より、ここに充満している神威が一番脅威にして異質なのだと。

 

「絶頂、快楽……それを中心にしたテーマといったところかしら?」

 

それこそが答えなのだと、霊夢は理解した。事実、絵画に描かれている人々の手には、阿片が握られていた。そして人々の浮かべている表情には、一切の苦痛がなく快楽に満ちているのだ。

そもそも現実の苦痛を認識せず、己の見出した夢に浸り続ければ、人は幸福感に満たされる。それこそが人が幸福になる何よりの近道なのだと、此処に描かれている絵画は象徴しているのだろう。

 

「馬鹿みたい、そんなの洗脳と何が違うのよ……といっても、アンタには馬耳東風なのでしょう、ねぇ?」

 

そして霊夢は、最奥の絵画の方へと足を運ぶ。そこには今までとほとんど同様に玉座に座り、こちらを見下ろす男が描かれていた。

しかし今まで違って男は軍服を見に纏っておらず、絢爛な中華風の衣服を着けていた。そして髪と肌は白色で、赤い瞳でこちらを見ている。明らかに、今までの人物とは異なり、まるで異星人と対面しているような心地になる。加えてこの男、嘲笑うような目をしておきながら、その顔には純粋な笑みを浮かべてこちらを見ている。

玉座の周囲には無数の触手が蔓延っており、桃色の煙が充満していた。阿片窟、そう表現出来るほどに。

 

「仙人みたいね、まるで……」

 

霊夢は思わずそう呟いた、事実男は何万年も生きた仙人のような異質な存在感を今でも放ち続けている。その存在感に心を委ねれば、また再び快楽の夢想に取り込まれそうなほどに。

そして霊夢は、意を決して碑文を読み上げる。

 

「これは快楽を持って人類を醒めぬ幸福へと導いた、第四の盧生が抱いた真実である。その男は生まれた時から阿片窟におり、幼い頃から阿片の快楽に満たされていた。産んでくれた母親も、周囲にいる何処かの誰かも、阿片の香りを吸って幸福の絶頂に居続けていた。故に男は、阿片の煙に包まれて夢を見ることこそが人の幸せだと信じて疑わない。今も昔も、そして未来も人の世は桃の煙に包まれて幸福の絶頂であり続けるのだろうと思っていたのだ。

しかし現実とはいつだって残酷だ、男の居た阿片窟に火災が発生する。当然ながら阿片中毒者は軒並み快楽の夢を見ながら豪華に包まれ、絶命していった。しかし男は、偶然抱擁してくれていた母が盾代わりとなり、奇跡的な生存を成したのだ。凄い偶然ねそれ……」

 

碑文を途中まで読み上げ、霊夢は思わずそんな感想を呟いてしまう。健全に生きている多くの人々から見れば、男生まれは貧しく、不幸に満ちていると言えるはずだ。

しかし生まれた時から阿片窟に居れば、そういった現実の苦痛をそもそも認識する必要がなく、都合の良い幸福な夢を見れれば何の問題もないのだ。きっと盾になった母の死の間際すら、そんな状態だったのだろう。故に男はきっと、阿片さえ据えれば死ぬ間際すら幸福感に満たされるだろう。その悍ましさを理解しながら、霊夢は続けて碑文を読み上げる。

 

「火災から生き残った男は、青幇という組織に拾われそこの首領の養子となった。そこで見た正しい現実は、阿片窟とは違っていたのだ。全てが苦痛に満ちている、自ら苦しみに手を伸ばすなんて実に愚かしいと。故に男は苦しみに満ちた世に救済を齎す事を決意する。まず手始めに父を、そして次は組織の者達を、そして上海を阿片の煙に包み幸福へと導いたのだ。

男の夢はここで終わらない、いずれ全ての人類に救済を齎そうとするもそこに一人の男と相対する。その男は仁義八行を掲げ、自分と同じく救済を目指す奇しくも似た者同士だった。あれ、これって……」

 

霊夢は2番目に訪れたときに見た、第二盧生と特徴が一致することに気が付いた。思えば青幇は中国の秘密結社、日本と大陸的にも近しい故にいずれ鉢合わせしても確かにおかしくない。

 

「しかし目指す地平は同じでも、掲げてる信念が異なり相容れず敵対することを余儀なくされた。そして男は、多くの困難を乗り越えて邯鄲へと到達する。共に夢の試練を挑んだ眷属の数は総数三百万と過去最高の数、故に最終試練までの到達は僅か数時間と過去最速の記録を叩き出した。だが最後のアラヤの試練もまた、過去最高難易度というもの。それは『第二盧生に勝利せよ』という無理難題が出されたのだ。なるほど、ここで帳尻合わせが来るわけね……

当然ながら、戦闘における勝算は皆無に等しく単純なぶつかりあいでは第二盧生の圧勝だった。だがしかし、アラヤの試練に不可能の概念は存在せず、奇しくも第二盧生の見落としが発覚し、両者共に八層試練の再試行が行われたのだ。それが再び行われるのは百年後の未来、場所は日本の鎌倉で再び試練が行われるのだ。男はその地にて、復活を夢み待っている。これこそが第四の盧生、夢想の救済を齎す人間讃歌の真実である……と言うわけか。」

 

碑文を読み終え、霊夢は溜め込んでいた呼吸を一気に吐き出す。そして絵画の中から赤い瞳でこちらを見下ろす第四盧生と視線を交えて言い放つ。

 

「アンタのやろうとしたことは、確かに善意だし救われた人は確かに居るのでしょうね。だけど、私はアンタの救済なんか必要ない、其方の幸福の価値観を、私に押し付けるな。それでもどうしてもそれをぶつけてくるのなら、全力でぶつかって相手してやる。」

 

霊夢がそう突っぱねるように言い放つと、絵画の中の仙王は尚、幸福に満ちた笑みを浮かべながらこちらの主張を肯定しているように見えた。

 

『お前がそう思うのならばそうなのだろう、お前の中ではな……それが全てだ。』

 

などと、どこかで聞いたことあるような一言をこちらに投げかけたような気がする。それだけを残して、阿片中毒の王の気配が絵画から消えていった。

 

「……ジャンキーになんか誰がなってやるかってのよ。」

 

吐き捨てるようにそう言い放ち、絵画の前から離れる。そして次の部屋に続くであろう扉の前にまで到着する。その瞬間、扉越しに全身に悪感が疾走した。

密度だけで言えば、盧生達の方が圧倒的だろう。だが苛烈さ、悪辣さで言えば扉の先にいる何者かの方が上だ。間違いない、この先にこの異変を引き起こした犯人がいると霊夢は確信した。

 

「腹を括りなさい、博麗霊夢……いくわよ。」

 

自分自身に言い付けるように呟き、霊夢は思い切ってそのドアを開いたのだった。

 




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