「……娘がお世話に、ねぇ。ヘルのことで良いのかしら?」
「ヘル……ああ、クリームヒルトは親しい人に自分の事をそう呼ばせてるのですね。でしたらはい、私のヘルが私の娘に相違ありませんわ。」
「……」
カリーナの返答に、霊夢は眉を顰めた。こいつ、自分の娘のプライベートにはあまり詳しくないのかと。そんな呆れた表情を浮かべながら、霊夢は話を続ける。
細かい事は一旦置き、この際だから確信的な話を一気に切り出す。
「それで、アンタがこの異変を起こしているという認識で良いのよね?」
「この鎌倉で起きてる出来事という点では、確かに当たってるわよ。」
(鎌倉……やっぱここは日本だったのね。まあ、街中の色んな場所で日本語使われてたからほぼ間違いないと思ってたけど。)
霊夢はそう確信し、少し安心感を得る。そして呼吸を整え、核心的な質問をする。
「まあアンタには色々と聞きたい事はあるけど、一番気になるのは結局のところ、アンタの目的は何なのよ?」
「私の目的?そうね……全知全能になるためと言ったら、あなたは納得するのかしら?」
「……さぁ?そこにしっかりとした根拠があれば、信じられるかもしれないわね。」
まるで皮肉気味な表情を浮かべながら、そう返す霊夢。しかし、その様子を嘲笑うかの様にカリーナは不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。
「私はクリームヒルトに負けた後、あらゆる技術を行使して平行世界の観測に成功した。えぇ、あの時のことはよく覚えてるわ……」
(……負けた、アイツに?まあでも、アイツは盧生なんて存在なんだし、あり得るか話か……)
彼女の発言聞いて、霊夢は眉を顰めた。いやそもそも、意外にもこの女は娘に親子喧嘩で負けたのかこいつ。
「その中で、私は持ち得る科学技術を駆使して、そして第一盧生のみが存在する世界を見届けた。その結果、全てが滅んでいった。」
「へぇ、あいつだけがね……確か
「えぇ、それは確かにその通り。だけど、人類の暴走によるものじゃなくて、異形の存在によるものだけどね。」
「…….何ですって?」
霊夢は一番最初の絵画に描かれていた人物を脳裏に浮かべ、その光景をイメージして何処となく納得できた。
だが破滅の原因は、覚悟を極めた人類による覇権争いの果て崩壊ではなく、突如現れた謎の存在による破滅という。一見結果は同じでも、その本質はまるで違うのだ。
「ちょっと待ちなさいよ、何で急に謎の存在が現れてそれで世界が終わったなんてことが起きてるのよ。」
「それは当然私も疑問的に思った、だからこそ未来への解析を進めていた。その果てに得た答えは即ち、どの時間軸でも異形の侵略者による衝突は避けられないということ。」
「ッ!」
それを聞いて霊夢は言葉を失った、つまりクリームヒルト達のいる世界では異形の者達からの侵略は避けられないと言うのだ。即ち最初から決まっていた運命であるというのが、カリーナの主張にして彼女の答えだという。
「……正直なところ全部アンタの作り話って思いたいのが本音だけど、続けて聞いてあげるわ。それで、どうあっても侵略者が訪れる未来を見てアンタはどうしたいわけ?まさかヘルの持ってる盧生の資格を奪って、アンタが盧生に成り上がる。そして全ての時間軸を救済して、自分を人類の救世主として崇め奉る事が目的とでも?」
「まさか、塵屑共の評価なんてどうでも良いわ。確かに昔、盧生の資格を欲したけどアレは全知全能に至れる代物ではないと理解したからもう要らないわよ。第一、資格が目的なら今ごろ本人をこっちに来る様に誘導するし、そもそもこんな回りくどい戦略する必要ないじゃない。」
「……確かに、それもそうね。なら、アンタの目的って一体?」
確かに盧生の夢を現実にもたらすと言う性能は破格だが、全知全能と言われればそれは違う。本当に全能ならばクリームヒルトがこの様な事態を見逃すワケもないし、誰かの協力を仰ぐ必要性もほとんどない。ならば結局のところカリーナの目的は?そう疑問に思えば、本人が待ってたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
「最初から言ってるでしょ、私が求めているのは全知全能。あの子が生まれる前から、それを探し続けていた。」
「……で、その全知全能とやらは何処にあるのよ?まさか、自分は天才だから盧生よりも優秀で、それを手作りできるとでも?それはそれは、実にご立派な事で……」
「……第零盧生。」
ふとカリーナが呟いた言葉を聞いた瞬間、霊夢は背中を大きな舌で舐められた様なゾクリとした感覚が走った。
その発想は確かにあり得る、一番目が居るのならば零番目の存在だって人間ならば考えられる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。第零盧生なんて存在したの?」
「ええ、流石の私でもすぐにそれを思いつく事はできなかったわ。だけど、一度あの子に破れてからその可能性を考慮するに至った。始まりの盧生は、本当に第一盧生だったのか。ならば何故、あの時あの時代に発生したのか追究を始めたのよ。」
「……確か大正時代だっけ?世界規模の戦争が始まったと言われている。」
「ええ、その通り。地球上のすべての全土を巻き込んだ世界大戦、それによる全人類の危機なる未来を回避するために、人の無意識が盧生という救世主を求めた。」
戦争とは最も命を落とす行動の最たる例だろう、故に戦争を終結させる救世主を望むという流れ。それが現実となり、実現したのがカリーナ達の世界なのだろう。だが、世界規模の戦争が初めてなのは果たして大正時代が初だったのだろうか?
そうカリーナは疑問を抱き、様々な研究を進めたのだろう。だが、一体どの様に考察を進めたのだろうか?
「つまり、第零盧生が居る前提で過去の歴史を閲覧したとでもいうの?」
「その通り、その発想に至ってから私は持ち得る知識の技術を注ぎ込んで過去と未来を観測した。その結果、原初世界では第零盧生と
「……デッド、えんど?」
ここでその謎の単語が聞こえ、それが彼女達の世界に大きく関わっているのだろうと霊夢は予測した。そこで先程の話と繋げて考えてみると、ある点が考えられた。
「もしかして、異形の侵略者ってその究極生物って奴らのこと?」
「その通り、第一盧生のみが覚醒した時間軸ではそいつらの侵略を止めることは叶わなかった。それと同時に盧生とは究極生物に対する抑止力という答えに至ったのよ。」
「……なるほど、確かにそう連想するのは自然なことね。それで、第零盧生と究極生物という奴らは結局どういう関係なのよ?」
「ええ、私達の原初世界において第零盧生と究極生物は世界の覇権を巡って争った。結果として第零盧生が勝ち、究極生物はこの世界から姿を失った。だけど世界大戦という人類史の存続危機を起点にあの生物たちが蘇ろうとしている。それこそが四人の盧生が誕生した真実、蘇ろうとしている究極生物に対する対策だったのよ!」
「……なるほどね、概ね理解したわ。」
カリーナが話した事を、霊夢はある程度理解した。第零盧生と究極生物、それが彼女達の世界創生に大きく関わっていた事。だが、肝心な事をまだ知られていない。
「じゃあ、アンタは第零盧生を手に入れることが目的だったという事?いかにも全能の力を持ってそうな感じだものね、話の流れ的に。」
「その通り、私たちの時間軸の世界は第零盧生によって創られた。その過程で究極生物との戦争があったけど、それでも勝ち残り人間が頂点の世界を創り上げた。私は、その第零盧生の力こそを渇望している!」
「……なるほどね、それでどうやってその第零盧生様を手に入れるってのよ?」
「ふふ、当然そこも計算に入れてるわ。そのためのこの計画ですもの。まず、後もう少しで朔が発生する。」
「朔……もしかして新月のこと?」
カリーナは天井の夜空を指差しながらそう言い放ち、霊夢も追う様に視線を上へと向けた。すると満月だったはずの月が三日月となっている。
「その通り、朔とは即ち新月。月と太陽、陰と陽が交わりその二つが見えなくなる刹那の時。神祇の世界においては『何が起こるか不明な時』を意味する。本来の運命においてはとある事象が発生するが、私が数多の仕組みを差し込んだ事によってそのシナリオが改変された。故に、その先は私が好きな方向に運命を組み立てることが可能となる。」
「なるほど、そういうことか……アンタ、この朔というのを利用して第零盧生とやらを呼び寄せるつもりか!」
「その通り。無論、これだけじゃ舞台設定は足りない。だからこそ、私の夢によって編み出した贋作の盧生に意味がある。」
次にカリーナが指したのはこの研究室の中心に座する、本物そっくりの盧生の人形だ。これが一体何を意味するか……否、そもそもどの様にして作り上げたのか。
「あの人形、もしかして生贄のつもり?というか、何が素材で出来てるのか……」
「生贄って表現もあながち間違いではないわ。答えは私の夢によって作られた、本物に限りなく近い贋作。私の夢の一つとして、私の理解力に応じた複製存在を作ることができる。表で塵共の相手をしているのも、私の夢によって複製された存在。」
「なら、つまりこういうこと……第零盧生は私達が観測しようもない場所に存在すると仮定する。そして朔というなんでもありの時期を狙って、そいつら贋作盧生を生贄にし、第零盧生を引き摺り下ろすためのルートの素材、ってところかしら?」
「ふふ、察しが良いわね。その通りよ、贋作といえど私が従前に理解すれば本家と比較して九割ほどの力は再現できる。そして第零盧生が通るための穴を作り上げるためならば、4人いれば充分。同じ盧生として相性は抜群で、まるで磁石の様に惹かれ合うでしょう。まあ、その理解までに膨大な時間は掛かったけどね。」
(……なるほど、あの絵画の部屋は盧生への理解を完全なものにするため。より確実な記憶と理解を得るためだったのね。)
そう考えると同時に霊夢は、一歩踏み出してカリーナへとわずかに近付く。すると空気が一気に緊張感が流れ出し、火花を散らすように2人の視線が交わる。そして霊夢が口を開く。
「さて、アンタからとっても重要な話をたくさん聞けたわけど、あと一つ確認いいかしら?」
「ええ、どうぞ?」
「あんたもう、究極生物とやらになってるんでしょ?そうじゃなきゃ、逆説的に第零盧生を取り入れるなんて発想に辿り着くとは思えないもの。ましてや、普通の人間が第零盧生を取り入れる器として機能するとは思えないし。」
「……ご名答。」
霊夢がその事を指摘をすると、カリーナは凶悪な笑みを浮かべながら口端を指で引っ張る。
すると刃物のように鋭利な歯が現れ、いかにも人外の雰囲気が漂う。
「へぇ、吸血鬼になったのねアンタ。」
「さて、どうかしら?偶々、吸血鬼と一致するような特徴かもしれないわ。人類史を否定する地球外生命体が、人類にとって既知の生物であるとは限らないし。」
「確かにそうかもしれないけど、どうやってそんな人外になったのよアンタ?」
「貴女もよく知ってるでしょ?ロストワードよ。」
「ッ!」
よく聞き慣れたその単語に、霊夢は反応しざるを得なかった。ついにその言葉が異変の黒幕から放たれたのだ。
「第零盧生を引き摺り下ろすその計画を練っていた時、何処からか声が聞こえた。とある言葉と引き換えに、第零盧生を迎え入れるに相応しい器を与えるとね。その結果がこれと言うわけ。」
(……確か、本来ならばこの朔でとある事象が起こると言ってたっけ?ならば、そこにロストワードが隠されてるってわけね。)
「ふふっ、何か色々と思考を巡らせてる顔ね。」
「ええ、おかげさまでね。貴重なお話を聞かせてくれて、そこは感謝する。」
「ふふ、そのお話を聞いて貴女はどうするのかしら?」
「決まってるでしょ、アンタをぶっ飛ばす!」
瞬間、霊夢は自身の中で最速で駆け出した。対してカリーナはまだ予備動作すら見せてない、ならばこそ初撃にして絶好の好機と判断する。
「夢想天生!」
それは霊夢の
その本質とはあらゆる概念から浮遊、即ち無敵となる力。彼女が全力でそれを行使すれば、如何なる干渉を受け付けない透明人間となるのだ。
(これで、一気に決める!)
故にこの瞬間、誰であろうとも霊夢に干渉する事はできない。周囲に展開した陰陽玉からお札の弾幕が放出され、それがカリーナとその研究施設へと牙を剥くだろう。
霊夢は彼女の目的が危険なものと判断した、ならばこそ手段は選ばず初手から全力で潰しにかかる。仮にカリーナが何らかの方法で弾幕を突破しようとも、今の霊夢は無敵状態。それを上手く活用し、穴を作り上げる贋作盧生の破壊をしようと目論んだ。
「……フフ」
しかし、迫る弾幕を前にしてカリーナは不敵な笑みを浮かべあげる。それと同時に閃光が爆ぜた。
「ッ!?」
強烈な殺気を感じ取り、霊夢は咄嗟に後退した。何故、無敵状態になってる彼女ならば強引に突撃できたはずなのに。
しかし、その事実を否定するように霊夢の頬から一滴の血が垂れ落ちる。そしてカリーナの方を見ると、その両手にはクリームヒルトが使う細剣とよく似た物が握られていた。あの一瞬で、圧倒的な速度で抜いたのだ。しかし、それだけではない。
「あぁ……そういえば一つ言い忘れてたわ。第零盧生がまだ地上に存在した時、人類は神に勝利するためにある技術を発展させたとね。」
「……何よそれ?」
「それは物質や現象、そして万象の解れを見出し、例え不死にして完全な存在たる神であろうとも地に伏せさせる古代剣術。その名は『神避』人類が地球という星で頂点に立った最大の要因となる力。」
「……つまり、神殺しの剣技。」
「そう、私はこの剣技を以ってお前を空から撃ち落とす!」
「あぁ……本当、最高に最低な状況ねこれは。」
この瞬間ついに、博麗霊夢にとって最低最悪な戦闘が始まったのであった。
ついに始まったカリーナvs霊夢戦、物語もいよいよ終盤。
次回も乞うご期待下さい。