「ちょっと、こいつが犯人じゃないってどういうことよ!?」
「どうもこうも、言葉の通りよ....」
私達の弾幕ごっこを間を割って静止させたのは、スキマ妖怪のユカリだった。そして彼女はレイム達に事の経緯について話しているが、どうもレイムは納得していないようである。
「だからさっきから話してるじゃない、彼女は外来人よ。確かに超常な異能は持ってるけど、異変を起こしてる様子は全くないわ。」
「うーん、そんな事急に言われてもね....」
「まあ、別にどうしてもクリームヒルトを倒したいのなら構わないわよ。だけど、もしこの異変の真犯人が彼女の存在ごと求めていたとしたら?そしたら永久にこの世界から出られなくなる可能性が高くなるでしょうね。」
「うぐっ....確かにそれは困るわね.....わかったわよ、もう彼女に手を出さないわ。」
そう言いながらレイムは渋々と戦意を鎮めた様だ。そして他2人へ視線を向けると....
「....私は弾幕ごっこで先にやられた以上、異論はありません。」
「私も大体同じ。霊夢が戦う意志がない以上、どうしようもないもの。」
ヨウムもアカネも、同じく戦意はなかった。私も剣を鞘に収めて戦意がないことを示す。それを見てユカリはクスリと笑みを浮かべる。
「これでようやく話が進めそうね。」
「ああ...そうだ、まだ名を明かしていたなかった。私はクリームヒルト・レーベンシュタイン。親しい者からはヘルと呼ばれている。この通り、全く見知らぬ土地に来たため、右も左も分からん。故に、協力してくれると助かる。」
「そう....私は博麗霊夢、博麗神社の巫女をやっているわ。まあ、あんたが異変を起こしてないっていうのなら、一応協力してあげるわ。」
「私は、朱音....霊夢の助手をしています。よろしく、ヘルさん。」
「私は魂魄妖夢と言います。冥界の白玉楼にて剣術指南役兼庭師をしています。ひとまずは、よろしくお願いします。」
などと、私達はまずは自己紹介を行った。これでようやく、少しは互いの警戒を解く事ができたとみて良いだろう。そして、それを見かねたユカリが話を進める。
「さて、ここにいる全員が知っての通り、ここの世界は貴女達が元いた世界とは異なるわ。」
「へぇ、見た感じはいつもの幻想郷って感じだけど。」
「確かにね....他の人達の服も私たちの着ている物と大体同じだし」
「ほう、そうなのだな。」
「ああ、貴女は外来人ですものね。無理もないです。」
他の者達は幻想郷とやらの出身なのだろうが、私のみは例外だ。
「なぜ貴女達がここに引き込まれたのかは私にはわからないけど、きっと抜け出すための鍵はあると思うわ。」
「あると思う、ね。アンタもしかして、何か知ってるのかしら?」
「....ええ、確信というほどでもないけどね。折角だし伝えておきましょう。」
ユカリがそういうと、手に持った扇子を村の方へと向けた。よく見ると、村の中には一際大きな建物があった。
「あれは....神社?」
「ええ、その通りよ。実際に行ってみたらわかると思うけど、あの神社からは強力なエネルギーを感じるわ。きっとあそこに、この異変に対する答えがあると思うの。」
「へぇ.....じゃあ、あの神社ぶち壊して犯人ごと一気に仕留めれば....」
「話は最後まで聞きなさい.....今のままじゃ、ただの神社よ。おそらく、何か貢物が必要になると思うわ。だから、物理的に壊したところで、あの神社が壊れるだけよ。」
「何よそれ、めんどくさいわね。」
「力で無理やり解決しようとしないでよ霊夢.....」
ユカリの話に対して、レイムは露骨に不満を漏らしていた。正直いうと、ここまでの話を聞いていて、私もレイムと同じ様にあの建物を物理的に破壊することを視野に入れていた。もっとも、ユカリが言うには無意味なことらしいが。
「だったらどうすればいいって言うのよ?まさか私達の内、誰かが生贄になれって言うんじゃないでしょうね?」
「そんな事はないわよ。ただ、この村と周辺のどこかにこの異変を解決するための鍵があるはずよ。それを3つ探し出すの。」
「えー何よそれ、面倒くさいわね。ヘル、アンタが引き受けてくれない?私は最後に犯人をぶちのめすから。」
「ちょっと霊夢、それはいくら何でも横暴では!?」
「まあ、やれと言われれば私はやる分には問題ないがな...」
レイムは面倒臭そうな表情をし、探索を全て私に丸投げようとした。元より、私も最悪は一人で行動することを視野に入れていたため、別段それでも問題はない。
だがその時、ユカリはクスクスと笑った。
「あら、ヘルに全てを投げ渡して良いのかしら?少し村を見てきたけど、依頼を引き受けたら報酬としてお金も貰える案件もあるみたいよ?」
「えっ」
「ほう、それは助かるな。私としても、食事は何処かで取りたいと考えていたのでな。」
「それを先に言いなさいよ!」
「貴女が話の途中で投げ出そうとしたからでしょうが....」
ユカリはレイムに対して呆れた口調でそう返す。とはいえ、今の話は確かに好都合だ。金さえ工面ができれば、食事にも困らない。その上この異変とやらの解決につなげることができるのならば、尚更お得だ。
「ま、何にせよまずは探索しないことには話にならなそうね。3つに分かれてそれぞれ行動しましょうか。私は朱音と一緒に回ってみるわ。」
「では、私とヘルはそれぞれ単独で回るということですね。」
「その様だな、全員に収穫があれば良いが。」
「ふふ、決まったようね。では頑張りなさないな。」
こうして私達は、この地域の探索をする事にした。
私は村の中へと入り、周りを見渡しながら歩みを進める。村に自体の様子は至って平穏、特に何か異変が起きてる様子はない。そう考えていたその時、近くの店の壁に一枚の貼り紙を見かけた。それを見てみると『妖精退治の依頼』と書かれていた。私は店の中にいる男に声をかけて呼び止めた。
「すまない、これについて詳しく教えてほしい。」
「ん?ああ、それは山にいる妖精の退治依頼だよ。ここの商品は森の中からとってくる穀物もあるんだが、最近どうにも力の強い妖精が森に入ってきた人間に見境無く攻撃してくるんだよ。特に森の中心にある湖に行くと遭遇しやすいらしい。」
「ほう、妖精がか....」
「一応俺も護身用に刀を持って行くんだが、まるで意味がないんだわ....おかげで品揃えも悪くなってきてねぇ。」
「良いだろう、では私がそれを引き受けよう。」
「へ、良いのかい?」
「ああ、報酬も貰えるのならば私は構わないよ。」
「そりゃ助かる!じゃあ早速、その森の方へと案内するよ。かーちゃん、店番頼むわ!」
「はいよー、いってらっしゃい!」
男はそう言い残すと、私を妖精の出るといわれる森へと案内を始めた。村を抜けて暫く歩くと、木が多く薄暗い森が目の前に広がっていた。
「ここが例の妖精が出る森だ。森の中を、そのまま真っ直ぐ進んで行けば湖のある場所に行けるよ。ただ、昼間に入ってもそこそこ暗いから、足元には気を付けろよ?」
「ああ、案内に感謝するよ。では行ってくる。」
「....てかお嬢さん、獲物はその剣一本かい?言っちゃ悪いがそれだけじゃ厳しいんじゃ....」
「大丈夫、力には結構自信があるのでな。」
「いやそういう問題じゃ....まあ良いや、とにかく気を付けてな!」
その言葉に対して私は手を挙げて返しつつ、森の中へと進んでいった。男の言った通り、昼間にも関わらず、結構暗い。
「しかし妖精か、私が最初に出会った妖精とは別の種類なのだろうか?いや....」
そもそもよく考えれば、さっき出会った男や霊夢達といい、明らかに日本人だ。そしてあの村も日本の風土であった以上、この地は日本のどこかである事は間違いないだろう。だとしたら、この異変を起こしたのは日本の誰かの仕業なのだろうか.....
そう考えていると、特に何も問題なく湖が見えてきた。
「ここがあの男の話していた湖か....案外近かったな。それで、妖精というのは....」
「来たなケンセー!今日こそお前をぶっ飛ばしてあたいが最強なのを証明してやるんだから!」
声のする方へと向くと、2体の妖精が現れた。緑色の髪と、水色の髪の妖精だ。
「チ、チルノちゃん、あの人私が知ってる剣聖さんじゃないよ....」
「....剣聖?」
そしてこの妖精達は奇妙な言葉を口している。曰く剣聖、明らかに剣に精通した者の称号だ。剣の逸話を持った人物が居たのだろうか?
「んー?けど腰に剣があるぞ、あいつやっぱケンセーだと思うぞ!」
「いやでも、明らかに髪の色とか違うし....」
「....さて、私がお前たちの求めている者かどうかは、手合わせしてみればわかるのではないか?」
「おお、それは良いな!」
「え、ちょっ、チルノちゃん!?」
チルノと呼ばれる妖精は、私に向かって攻撃を放つ。氷の魔術を使うのか、大小様々な氷柱が宙を舞って私に向かって降り注ぐ。知性は決して高くない故に攻撃全体は実に拙い。故に回避は難しくないものの、その脅威さは中々のものだ。まるで周囲が一瞬にして氷点下に変貌したかと錯覚するほど、チルノの司る冷気は純度が高い。負ける気はないが、被害が広がる前に勝負つけるべきだと私は判断した。
「早めに決着をつけたほうが良さそうだな。」
「なんの、させるかー!」
腰の剣に手を伸ばそうとした瞬間、チルノのが手を私に向けてかざすと、冷凍光線が放たれた。なんとか回避したものの、光線が地面へと被弾し、大きな氷が発生する。そしてその氷が私の手を巻き込み、氷結した。
「へっへーん、どうだアタイの作戦は!ケンセーに剣を使わせない様にすれば簡単だ!だったらアタイの能力で手を凍らせれば剣なんて使えないもんねー。やっぱアタイったらサイキョーね!」
「チルノちゃん、その作戦思いつくために徹夜したもんね....その分お昼寝してたけど。」
なるほど、単純だが中々効果的な戦法だ。剣士に限らず、人間は手に武器を取って戦うのが基本だ。故に手を凍らせられると何も握れず、武器を手に取ることはできない。そうなれば大抵の場合は撤退か降参する以外に道はないだろう。そう、普通であれば.....
「よぅし、こうなればアタイの勝利は目前。あとはスペカで....」
「だが、手温いぞ。」
「...へ?」
瞬間、私は凍らされた手に向かって夢を纏わせた。それは肉体の強化を司る戟法....筋力増加の夢を流し込んで放出する。そして無理矢理氷結した腕を動かすと、激しい音と共に氷が小さな結晶となって砕け散る。
「キャアァァッ!?」
「な、なんじゃそりゃー!?」
二体の妖精は驚愕の表情を浮かべながらも、拳の一撃から放たれた衝撃波を咄嗟の反射で回避する。なるほど、戦闘慣れをしているのか良い反応だ。
「なんの!凍符『パーフェクトフリーズ』」
チルノは憤慨な表情を浮かべながら、スペルカードを発動した。それは様々な色をした弾幕が放射状に広がって凍結し停止する。その直後に砕け散って弾幕が炸裂する。
「ほう、面白い。」
私はそう呟くと同時に、脚に解法の崩を集中的に纏わせ、地面へと叩きつけた。所謂震脚、同時に咒法の散で放射状に衝撃波を放ち周囲の弾幕を吹き飛ばした。
「うぎゃあああッ!?」
チルノも震脚の衝撃波に直撃し大ダメージを負う。その隙に私は地面を蹴り、一気に白兵戦の距離へと縮める。
「ヒッ!」
チルノが気がついた時には、時既に遅し。互いに手を伸ばせば届く距離にいる。チルノは咄嗟に両腕でガードの構えをとる。それの姿に私は苦笑しつつ、気持ち強めなデコピンをチルノへと放った。
「グへッ!?」
小さな悲鳴をあげながらチルノは吹っ飛び、後方の木へと激突した。これにて決着、チルノは戦意が喪失したのか、周囲の氷が溶けていく。
「ぐぬぬ、悔しいけどこの弾幕勝負はアタイの負けだ。」
「そうか、ではもうこの近くに現れた人間に悪さはしないと誓えるか?」
「うーん、けどケンセーが来てくれないとアタイは退屈だぞ。」
「ふむ、もしかしたら其奴はもうこの地域には居ないのかもしれないぞ?例えば旅に出たとかだな。」
「な、何ィ!?ケンセーめ、アタイともう一回戦うという約束を破ったというのか!」
するとチルノは顔を真っ赤にしながら激怒していた。そして上空へと飛翔して行く。
「よーし、それじゃあケンセーを探す旅に出るぞー!大ちゃんもついてこい!」
「え、ちょっとチルノちゃん!剣聖さんが何処にいるかまだわからないでしょ!?」
「おい、そこのお前!次にあった時には今度は負けないからな!あ、あとそこのアタイのお宝は持っていって良いぞ。じゃーなー!」
「待ってよチルノちゃーん!」
「....行ったか。」
2体の妖精が去って行くのを見送ると、私は湖の中央へと向かった。そこには刀や小銭など様々なものが積み上げられていた。おそらくあの妖精が集めていたのだろう。私は袋に詰められそうなものはそれに入れ、それ以外は手で持って森の入り口へと向かった。
「な、あんたあの妖精は退治したのか!?」
「ああ、そうだが。」
入り口に到着すると、案内してくれた男がいた。どうやら律儀に私を待っていてくれていたらしい。
「ちなみにこれは、その妖精が集めていたようだ。貴様のものではないか?」
「お、おお本当だ....うっかり落としてしまったものばかり....ん?これは、巻物か。これもあの妖精が?」
「ああ、その様だが。貴様のものではないのか?」
「ああ、巻物なんて持って森に入る事なんて無いよ。他の人達もそうだろうし、そもそも巻物の落とし物なんて聞いた事ないなぁ。」
どうやらこの巻物とやらは、この男のものではないらしい。確かに考えてみると、武器になりそうにもないこの巻物が森に落ちているのは少し違和感を感じる。もっとも、誰かが不注意で持ってきたとあれば、それまでの話かもしれないが.....
「ま、幸いかなり古いものらしいしアンタが持っていても良いんじゃないか?妖精を退治してくれた功績もあるしな。」
「良いのか?」
「ああ、別に誰も文句言わないだろうしな。あ、あとこれが報酬な。」
「うむ、確かに受け取った。」
「いやぁ、これで安心してきのこ狩りに行けるよぉ。妖精に怯える日からおさらばだ!」
などと男は機嫌がよさそうに笑い声をあげながら去っていった。まあ、私も報酬を貰えたし、これで食べ物も得られるだろう。だが、やはりこの巻物がどうにも気になった。
故に封を解いて少し中身を読んでみた。
「.....なるほどな。」
私はそう呟いて巻物を閉じた。
結論からいうと、よく分からない。内容自体は誰かの日記なのだろうが、どういった意図なのか、そして誰が書いていたのか現状わからない。
「もっと他に欲しいものだが、今はこれ以外ない以上、調べようがないだろう。」
故にまずは、食事を済ませてレイムたちを待つとしよう。まずは村の甘味でも味わってみるか。