「う、うぅ....派手にやられました。」
「立てるか、ヨウム?」
「ええ、どうにか....ていうか、殺す気だったんじゃないですか貴女?」
「今の本気でやったのは事実だが、殺すつもりはなかったぞ。」
「そ、そうですか.....」
私はそう言いながらヨウムの手を掴み、引っ張りあげた。見た感じ重症を負ってない様で幸いである。やはりスペルカードの型に嵌ったことで、殺生率がほぼ無くなっている様だ。
「それはそうとヨウム、お前も妙な巻物を手に入れたのだろう?私のも渡すから、それを見せて欲しい。」
「ええ、どうぞ.....ところでヘル。貴女の剣を何度も受けた身として、感じたことを言わせて欲しいです。」
「ほう、それは是非とも聞かせて欲しいな。」
互いの巻物を交換しながら、ヨウムはそのようなことをいった。私としても剣士であるヨウムの意見は貴重なものだ。是非とも参考にしたい。。
「まず、貴女の剣が奏でる旋律はとても単純.....例えるなら、一つだけの音色だけを出しているといえば伝わるでしょうか。」
「ああ、それ自体は私も自覚してるとも。」
「ええ、非常に良くも悪くも異端な剣だと思います。」
旋律では無く、あくまで単一の概念を極めた剣戟。それこそが私が過去から今に至るまで振り続けた技に他ならない。それをヨウムは異端だと言う。
「剣は基本的に柔と剛、あるいはその中間に分類され、そこから自分の剣の質を見極め、昇華させていくものです。ですが、貴女の剣は、その概念すらも平等に殺してしまっている.....つまり、貴女の剣術はあまりに単一すぎる。それ以上成長を施しようが無い、少なくとも私には思いつきません。」
「.....そうか。」
それは、私自身脳裏に考えついていたことだ。1人の剣士として考えるのならば、誰であれ成長が望まれる。であれば、どのような未来へと羽ばたいていくのか、その方向性を決めなければならない。だが、私の剣はたった一つの音色、旋律を奏でることができない。故にその道は袋小路、私の剣の道は、成長を望むのが非常に難しいと言えるのだろう。
「ですが、これはあくまで私の意見です。もしかしたら、頑張り続けていれば、切り開ける未来があるかもしれません。」
「そうか、心得ておこう。」
「....本当にすみません、半端者ながら身勝手な意見を言ってしまって。」
「構わんよ、いずれ考えるべき事だっただろうからな。」
私は微笑みながらヨウムへと返答した。実際、これは私自身の課題なのだから。寧ろ考える機会を与えてくれたのだから、感謝したいくらいだ。
「ああ、そういえば私もそちらの巻物は確認してないので、良ければ一緒に見ませんか?」
「そうだな、その方がいいだろう。」
「ありがとうございます。」
こうして私とヨウムはお互いに手の入れた巻物を広げた。ヨウムの手に入れた巻物には、このような事が記されていた。
『○月△日
子供達が成長し、私の元から離れいった。とても寂しくなるが、同時に誇らしい。あの子達ならきっと、より良い家庭を築いていけるだろう。夫も先立ってしまい、この家には私1人だけがいる。子供の1人が一緒に暮らそうと誘ってきたが、私はあえて断った。せっかく独り立ちするのだから、私をいちいち抱える必要なんて無いのだから。
だから私は、この孤独に耐えるために毎日剣を振り続ける。私だけが体得した剣技を磨き、磨き抜いた心理を尚も研ぎ澄ませる。幾度と無く何度も何度も、溢れ出る涙がきっと止まると信じて.....』
ここで巻物の内容は終わっていた。
「....なるほど。」
読み終えてまず私が感じたことは、この書き手は家族と疎遠になったようだ。そして何日も剣の鍛錬を続けていたこと、やはり剣の道への未練がどこか残っていたのだろう。
「....この巻物の書き手の人は、どうしても剣士になりたかったのでしょうか。」
そしてヨウムも、おそらく私と同じ感想を抱いているのだろう。この異変も、その未練が原因で引き起こしたのだろうか.....
「....もう少し、ヒントが欲しいな。」
「ええ、後は霊夢達が見つけてくれるでしょう。」
「では、私達は神社の方で待ってるとするか。」
「はい!」
そうして私とヨウムは神社の方へと移動した。
「はい、これで終わりかしら。」
私と霊夢は今、ある洞窟へ向かっていた。依頼の内容は、洞窟に住み着いた妖精たちの駆除だ。実際に訪れるとあまりの多さに私は驚愕し、霊夢は呆れてため息を吐いていた。そして何体もの妖精を倒して、今に至る。
「うん、今目に映る範囲ではいないと思う。」
「そう、それなら良かったわ。全く、面倒を押し付けてくれるわねぇ、あのおじさん。まあ、お金頂けるなら別に良いんだけどねー。」
「あはは...そういえばあのおじさん、変な事言ってたよね。確か『剣聖様が居なくなってから〜』とか。」
「んー、まあね。」
そのおじさんもそうだが、この村を散策していてからよく聞く言葉だ。曰く『剣聖様が居なくなってから妖精が出るようになった』とか『剣聖様の加護が無くなった』など。正直何を言ってるのか、私にはよくわからなかった。だけど.....
「私はなんとなく予想がつくけど、まあまずはこの依頼を済ませましょう。」
「うん、そうだね。あ、あれって....」
霊夢は察しがついているみたいだし、それならきっと解決できそうだな気がした。そう思っていたとき、洞窟の奥に小さな祠があった。その中心には巻物が置かれている。
「霊夢、これって....」
「ええ、あの巻物から妙に膨大な霊力が込められてるわ。きっと妖精がこの力に吸い寄せられていたのね。だったら....」
霊夢はそう言いながら巻物に手を伸ばした。すると、辺りに感じていた圧力が一気に失ったように感じた。
「よし、これでもう妖精が住み着いてわるさをすることはなくなるでしょう。さ、戻ろうかしら。」
「え、中身は見ないの?」
「そんなの後でいいわよ、まずは報酬から優先よ。」
「も、もう.....しょうがないなぁ。」
そう言いながら、私と霊夢は洞窟を後にした。
そして洞窟の妖精退治を済ませた事を、依頼主のおじさんへと報告した。そして報酬のお金と巻物を手に入れた。
「ふふ〜、結構貰えたわね。これで結構良いもの食べれそうじゃない?」
「そ、そうだね....元の世界に持って帰って良いのか、少し疑問だけど。」
「そんなことは後から考えれば良いのよ。」
「もう、霊夢ったら...」
とてもご満悦な霊夢をひとまず無視して、私は手に入れた巻物を開いた。すると、この様なことが書かれていた。
『◯月◆日
ある日1人の男が私の元へと現れ、私の剣技に惚れ込み手合わせをしたいと言ってきた。この皺だらけになった女に興味を抱くとは妙な男だ。だが、最早生きる目的もほとんど無い私だ、断る理由も特に無い。だから、誘われた場所へとこれから向かうとしよう。その場所の名は『■■島』.....この日記を綴る日も、もしかしたら最後になるかもしれない。最悪、私の剣が殺人剣へと成り代わるかもしれない。そうなった暁には、せめて子供達が平穏な日々を暮らせると....それだけが、唯一の私の願いだ。』
ここで日記は終わっていた。すると霊夢が私の背後から日記を覗き込んで、どこか納得した表情を浮かべた。
「....やっぱりね、そんなところだと思ったわよ。」
「えっ.....霊夢は、もう失われた言葉は気付いてる感じ?」
「まぁね。多分この異変を起こした犯人もこれくらいは解けると見込んでると思うわ。それにおそらくだけど、この異変自体に大きな問題はないわ。」
「そ、そうなの?」
「ええ、この異変に複雑な因果はないわ。だって犯人の本当の目的は、私達と出会う事でしょうから。」
霊夢は自信を持ってそう言い放つ。随分と先まで見通してる様子のある霊夢に、私は思わず驚きの声を上げた。
「凄いわね霊夢、なんだか私置いてきぼりな気がするけど....」
「....別に気にすることないわよ、異変が解決すればそれで良いんだから。朱音、とりあえず手帳を開いてみなさい。」
「え、うん....」
私は霊夢に施されるまま、手帳を開いた。すると、白紙だった部分から文字が浮かび上がり、私は目を見開いた。そして霊夢を目線を交わる。
「れ、霊夢....このロストワードって....」
「そういう事よ。さあ、紫の言っていた神社に行きましょう。きっとあの二人も着いている筈だわ。」
そして、私達全員は神社の方へと集合した。みんなの手元には集めてきた巻物がちゃんとあることを確認して、鳥居を潜る。そして祭壇の前へと立ち、レイムが3つの巻物をお供えした。
「さて、ロストワードを明かすだけね。そしてその先に、この違反の犯人が待ち受けているわ。」
「....なぜ異変が起き、そして私達を招いたのか。」
「その真実を犯人とやらに吐いてもらおうではないか。」
場に緊張が走る。そしてレイムがゆっくりとロストワードを口から放った。
そして、アカネの持つ手帳から音が鳴り響き、私達は不意に次元の崩壊に巻き込まれた。
「なあっ!?」
「これは....」
しかしこの感覚は、どこか懐かしさを感じさせた。それはこの異世界へと運び込まれた時と同じ。まるで資格を得て、次なるステージへと招かれているような....
「....んっ」
気がつくと、私達の目の前には海が広がっていた。背後には木々が生い茂っている。ここは海岸、なのだろうか。
「私たちは、神社にいた筈じゃ....」
「落ち着いて、まずは周りの探索から始めましょう。ここがどんな場所なのか分からないと始まらないわ。」
レイムはそう言いながら先へと進んでいった。私達は目を合わせて霊夢の後へと続いていく。
「....繰り返しの疑問になりますが、何故この異変の犯人は私達を招いたのでしょうか。」
「それは特に私もそうだ、私に至ってはお前達とは無関係の世界から来たのだからな。私が必要な理由が、全く分からない。」
「確かにそうですね.....」
そう、全く分からないのだ。幻想郷とやらの世界に、何故私は巻き込まれたのか。あの日記を読むに、剣への未練が強いことはわかる。そして招かれた以上、全力で取り組む姿勢に変わりはないが、それでもやはりどうしても私が巻き込まれた疑問が残る。そこは犯人にしっかりと話してもらいたいところだ。そう考えていると、レイムが何かを見つけた。
「あれは....お墓、かしら?」
そこには文字が刻まれた石が幾つか立てられていた。霊夢が言うには墓石のようだが、こるが日本の墓標なのか。なるほど、私の故郷のそれとは微妙に違うのだな。
「しかし、誰のお墓なのでしょうか。」
「名前を見る限り、私達の知ってる人物ではなさそうね。」
「ええ、私も心当たりないわ。」
3人の反応を見るに、我々の知らない全く無関係の人物の墓のようだ。無論、私に至っては語るまでもない。その他には特に注目する箇所もないので立ち去ろうとした時だった。
「へぇ、お前さん達があの試練を踏破したのかい。」
背後から声が聞こえ、私達は一斉に振り返った。そこには一人の老女がいた。真っ白な頭髪、皺の目立つ顔、古さの感じる和服....そして、背中には大きな太刀を背負っていた。
「....貴女がこの土地の主、ということかしら?」
「....さてねぇ、私は気がついたらここで暮らしていただけだよ。ただ.....」
レイムの問いかけに、老女は飄々とした雰囲気で返答した。だが次の瞬間、射抜くような眼光が私達を貫く。
「....その墓は私の大事な物だよ、迂闊に触れないでくれ。」
「それは失礼した、何分無知なままこの地に漂流されたのでね。申し遅れた、私の名はクリームヒルト・レーベンシュタイン。貴殿の名前を、よければ教えて欲しい。」
「....へぇ、あんた西洋の人間かい。」
老女は名乗った私に少し驚いた目線を送る。そして不敵な笑みを浮かべながら、老女は自身の名を明かす。
「私の名前は....いや、与えられた名は『佐々木小次郎』お前達を待ち望んだ女だよ。」
そう、その名は神社でレイムが放ったロストワード。失われた言葉とは即ち、目の前の老女の名前に他ならなかった。
さて、ここから先を書き上げるのが大変ですね.....それでも頑張っていこうと思います。