第三盧生が幻想入り   作:ヘル・レーベンシュタイン

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いよいよラスボス戦の始まりです。


第六話 剣の求道

「まさか、佐々木小次郎と出会えるなんてね...」

「ええ。確か、巌流島の決戦で宮本武蔵と戦った事で有名な人の筈じゃ....」

「へぇ、アンタらのところではそうなんだねぇ....」

 

レイムとヨウムの言葉を聞いた老女は、複雑そうな表情を浮かべながら言葉を返した。私も最初はその名を聞いた時はあまりよく知らなかったが、妖夢達から話を聞いたことである程度理解した。

曰く、日本でも有名の剣豪であるとか。そひて巌流島でライバルたる宮本武蔵との決戦の果てに敗北し死亡した。もっとも、時代が流れるにつれてその逸話もどこまで真実かは不明となった。だが.....

 

「その本人が目の前にいるのならば、その決戦の話も本当かもしれないと....」

「だが、まさか女性だったなんて....」

「ま、その辺りはひとまず置いといて....本題に入りましょうか、佐々木小次郎。」

 

そう言いながらレイムが鋭い眼光をしながらコジロウの前へと出る。

 

「単刀直入に聞くけど、あんたはなんでこの異変を起こしたの?そして、なぜ私達を招き入れたのか....きっちり答えてもらおうじゃないの。」

「....そうだね、端的に言うなら私のわがままだよ。」

 

レイムの問いかけに、コジロウは目を伏せながらそう答える。この異変はコジロウのわがままによるもの。それは具体的にどの様な意味なのか....するとレイムは苦笑しながら言葉を返す。

 

「わがまま、ねぇ。お婆ちゃんも良い歳なんだから、もう少し自重して欲しいんだけど....」

「全くだ、ぐうの音も出ないよ。だけど人間ってのは歳を取れば取るほど大人しくなるといったら、そうでもないのだよ。寧ろ一度暴走した欲望への執着心が強くなって、自分でもどうしようもなくなるほど、爆走してしまうものなのさ。」

「....まあ、確かにそういった部分は誰しもあるかもしれないわね。」

 

コジロウのいった理論に、私も少し肯定する。私も今まで出会ってきた人物でも、当てはまるものが何人か過去の記憶で該当する。それは幸福を飽食する人種、欲望に際限なく突き進む人間と何度も出会い、その多くは大人だった。あの出来事は、人間は大人だからこそ自信の欲に忠実に傾きやすいと言う一例であったのだと、改めて思えたのだった。

 

「そして、あんたもそんな人間だったわけね。まあ、あの日記を読めばそうだったんだろうなって察したけど。」

「ふふ、そうさ....私は一度は剣士の夢を諦めた。そして母親としての道を進んだけど....悲しいかな、その夢は何年経っても諦めることができなかった。そして子供達が自立した後は、私は子供達の前から姿を消し、ただひたすらに剣を振り続けた女だよ。」

 

そう、あの日記に書いていたこととはつまりそういうことだ。ならばこそ、問わずにはいられない。

 

「ではそろそろ答えてもらおう。私達をここに誘ったのは何のためだ?」

 

その問いかけに対し、コジロウは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

 

「私がお前達に求めるものは、とても単純だよ。納得(はいぼく)を与えて欲しい、それだけだ。」

「....何?」

 

敗北だと?この女は一体何をいっている。何に敗北したいといってるのだ?するとコジロウはポツリポツリと呟き始めた。

 

「私はね、剣士でありながら実戦経験が一度もないのさ。例外があるとすれば、アイツとの決戦くらいなものさ。何故なら私は女....いいや、子を持つ母親だから戦場に立つことが許されなかった。決して死にたがりってわけじゃないけど、せめて一度はと思わずにいられなかったのさ。」

「....つまりこういうことですか。宮本武蔵以外の剣士と剣を結びたかったと、そういうわけですが。」

 

ヨウムはそう言いながら剣を抜き、戦闘態勢へと入った。その様子を見たコジロウは苦笑を浮かべながらもう一つの真実を明かす。

 

「それもあるが、私はね....まだちゃんと死ねてないんだよ。」

「....何ですって?」

「言葉の通りさ。私はある剣士と戦い、敗北して死んだ。だけどこの通り、ちゃんと死ねてないのさ。そうだね、きっと亡霊と言うやつだろうね....私の中でまだ何か納得を得てないから、こんな風に死に損ないになっているんだよ、きっと。」

「....なるほど、そういうことか。」

 

ここで私は、ようやく理解した。原因こそ不明だが、このコジロウは納得のいく答えを得るまで死ねない身体になっている。故に同じ剣士として答えを出してくれる者を探し続けていたのだ。それこそ、世界の垣根を越えてまで求めるほどに、その執念を滾らせていたのだと。

そしてそのコジロウの妄執が溢れたのか、辺りの空気が張り詰め始めた。最早その意思を押さえきれないと主張してるかの様に、殺気が空間を支配し始める。

 

「良いだろう、ならばその執念に応えるとしよう。」

「ええ、私も貴女と剣を結ぶことを決意した。同じ剣士として、敬意を込めて!」

 

故に私とヨウムの意思に迷いはなかった。剣士として求められた以上、この闘いに応えない訳にはいかない。

その一方で、レイムはアカネを庇う形で正面に立っていた。その額からは汗が数滴垂れていた。

 

「....朱音、私の前に出たらダメよ。小次郎の殺気は並大抵のものじゃない、常人なら直撃しただけで死ねるわ。」

「.....うん。」

 

レイムの言葉に対しアカネは頷くしかなかった。事実、コジロウから放たれる戦意の密度は辺りを支配する神威の如く。その戦意と向き合うだけでも、私もヨウムも精神力が削られている。

そして、コジロウがもう抑えられないと言わんばかりに笑い声を張り上げる。

 

「ふふ、ふははははは!あははははははは!ああ、ずっと待ってたこの時を.....最早この滾る戦意を押さえる必要なし。佐々木小次郎、いざ参る!」

 

そう宣誓すると、コジロウは背中に背負っていた長刀を鞘から抜き取った。その刃自体は至って普通、血の匂いはほとんどない。だが、まるで歴戦の兵士が培ってきた戦意、闘気が込められていた。そしてその密度はまさに常人をはるかに上回る程だ。

 

「いくぞ。」

 

そしてコジロウがそう呟くと同時、一瞬にして私の眼前までへと距離を詰めていた。そして長刀が私の首を斬り飛ばそうと迫ってくる。

私はすかさず腰の剣を抜き、迫る刃を迎撃する。ぶつかり合う剣戟、そして爆ぜる衝撃波が火花を散らす。

 

「ほう、良い反応するじゃないかアンタ。死の剣戟を振り回す、まさに死神だね....ヒヤヒヤするよ。」

「それはこちらのセリフだ....実戦経験が皆無とは聞いて呆れる。初撃で勝負を決める気だっただろう。」

 

事実、距離を詰められた時点で私は命の危機を感じていた。もしも私があの時防御態勢に入っていたら、剣と腕ごと斬り裂いて私に致命傷を与えていただろう。それほどコジロウの斬撃は鋭く、斬れ味と威力なら恐らくミズキと同等、もしくは上回るほどかもしれない。故に攻撃に対して攻撃で迎え撃つ、そういう対応をしなければ間違いなく遅れをとっていただろう。

 

「ほう、ではどうする?」

「....決まっている。」

 

故に、互いの戦術は否応もなく決まる。防御を捨てた特攻の繰り返しである。共に相手に接触すればほぼ即死の剣戟をひたすらに放つ。

 

「はぁッ!」

「ッ!」

 

死滅の剣戟と斬殺の剣戟が交差し、同時に回避する。この時点で刃が交えた数は百を越え、同時に死を感じた回数も同じく百を越えている。まさにここは死地となっていたが、このままこの戦況が続ければ千日手となるだろう。だが、ここにはもう一人剣士が存在する。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

幻想郷の剣士、魂魄妖夢が二刀の刃を振るいあげる。上空から振り下ろされた二連撃を、コジロウは後方へ飛びながら回避する。

 

「そこの小娘も見所があるねぇ....ふふ、楽しくなってきたよ。」

「その余裕、今に崩してあげましょう!」

 

微笑みをあげるコジロウへ、私とヨウムは同時に突貫をする。戦況は変わり、2対1となり数の面ではこちらの有利と言えるだろう。だが....

 

「怖いねぇ、一撃たりとも受けられないよ。」

「くッ!そんな馬鹿な....」

「.....」

 

私達の剣戟が直撃せず、悉くが空を斬る。コジロウの剣は、その長さからは考えられない様な滑らかさで無数の剣戟を受け流す。それはまるで光を喰らう闇の如く、まさに剣聖の名に相応しい剣舞だ。そして....

 

「ふッ!」

「ぐッ....」

「がァッ!」

 

時折放たれる返しの一閃が私達の身体を削っていく。その一撃は軽いものの、徐々に確実に負傷を重ねていってる。耐久力に自信のある私はともかく、ヨウムの耐久力は決して高くないだろう。ならば....

 

「早めに勝負を決めるしかない....宣神『高き者の箴言』」

「....へぇ、それが」

 

私のスペルカードの宣誓と共に、死の神格が背後から顕現した。そして神威を纏った大槍を構え、コジロウに向けて投擲させる。

それに対してコジロウは構えを取り、そしてゆっくりと呟く。

 

「秘剣『燕返し』」

 

北欧の主神を前にして、剣聖と謳われた老剣士は自慢の獲物の剣先を神格と死神へと向ける。物干し竿の剣先が揺らめいた瞬間、なんと主神と私に無数の斬り傷が刻み込まれた。

 

「ッ!ヘルッ!?」

「な、ぁ....」

 

あたりに響き渡るヨウムの声、そして私は実感した痛みと共に苦悶の声を無意識に口から出す。斬り刻まれる過程を認識することは叶わず、終段ともに斬られたという『結果』だけをこの身に実感した。なるほど、これがコジロウのスペルカードの一つ、秘剣と謳いあげるだけの事はある。

 

「それが貴女の奥の手か、死神よ。」

 

視線の先には、剣先を下ろし失望したような表情をしたコジロウが居た。それはまるで期待外れ、そんなものかと、そのような意味を込めた表情が感じ取れた。

 

「別に私は他人の戦い方に文句を言う趣味は無いけどね、アンタに対しては敢えて言っておくよ。最後の切り札が神頼みだなんて、剣士としてそれはどうなんだい?」

「.....」

 

それは今まで一切言われた事のない言葉であり、同時に私にとって大きな衝撃を与えた一言であった。

ならば、私は.......

 

(私は、剣士としての答えを求められているというのか?)

 




小次郎戦、執筆カロリーが想像を絶するほど高いですが、頑張って書き抜けていこうと思います。
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