第三盧生が幻想入り   作:ヘル・レーベンシュタイン

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佐々木小次郎戦も中盤となってきました。


第七話 殺人の業

 

 

 

刻まれた切り傷から血が滴り落ち、衝撃のあまり私は片膝を地面に落とす。スペルカード『燕返し』その脅威をその身で味わう羽目になった。

 

「大丈夫ですかヘル!?」

「....心配ない、見た目よりも傷は深くない。まだ戦闘は可能だ。」

 

駆け寄ってくるヨウムに対し、私は片手を出して制する。逆に浅くもないが、楯法で回復すれば何とかなる。痛みの信号を感知し発動した楯法が傷を癒してくる。

攻撃を喰らって理解したことだが、コジロウの燕返しは人間業の延長であるためか本人にとって未知の領域にまで斬撃干渉できないようだ。もしも邯鄲法に理解があったのならば、その概念ごと切断して私は致死にまで至っていたのかもしれない。

 

「確かに手応えは浅かったね....次は胴体もバッサリといければ良いけど。」

 

などとコジロウは不敵な笑みを浮かべながら刀を下ろす。しかしこれほどの実力者が影に潜めていたとは、やはり世界は広いなと改めて実感した。

その時、背後から動く音が聞こえた。

 

「....霊夢、もう私は大丈夫だよ。」

「.....良いの?アンタ、もしかしたら死んじゃうかもしれないわよ?」

「それでも、私も戦わないと....ヘルさんだって傷付いても立ち上がってるもの。」

「そう....なら、頑張りなさいよ。」

 

レイムは微笑みながら前線へと足を運んだ。その瞬間、今までレイムによって防がられていたであろう剣気(殺気)が津波のようにアカネへと襲いかかる。

 

「ッ!」

 

それに対してアカネは歯を食いしばって耐え抜く。常人ならば今頃失神しているだろうその圧力に対し、口から一滴の血が垂れるほど食いしばって耐える。そして目を見開いてコジロウを睨みつける。なるほど、これなら戦えそうだな。

 

「へぇ、中々やるねお嬢さん。」

「あまり朱音を舐めない方がいいですよ、彼女にも戦える力はあるのですから。それに、これだけの数を相手するのは、流石の貴女でも厳しいのでは?」

「....確かにそうだね。なら、こうするまでだ。」

「ッ!?」

 

すると、コジロウがもう一つのスペルカードを出した。その瞬間、地上だけでなく上空の空を埋め尽くすほどの無数のコジロウの姿があった。

 

「剣舞『絶影』....これで互角といったところかな?」

「そ、んな....くっ『未来永劫斬』」

「妖夢、私もいくわ!『夢想封印』」

 

瞬間、レイムとヨウムが放った無数の弾幕がコジロウの分身を破壊していく。どうやら本体ほどのスペックを有していないようだ。だが、残った分身からまた新たな分身が生まれている。であれば私のスペルガードで一掃を狙うか?

そう考えた瞬間、本体であろうコジロウから弩級の殺意が私の体を穿つ。

 

「おっと、アンタは1番厄介だからね。そっちがその気なら、私はあの娘を狙うよ。」

「えっ....」

 

コジロウの剣先がアカネへと向けようとする。燕返しで遠くから斬る気だろう。それを阻止するために私の剣戟、そして同時に動いたレイムの弾幕がコジロウへと襲いかかる。

それを読んでいたかのようにコジロウは僅かな動きで回避する。

 

「剣聖様が随分卑劣なことをするのね、剣士なら正々堂々と戦ったらどうなの?」

「おや、私は正々堂々と戦ってるよ。あの子も『戦える』のだろう?人間というのは戦う者と戦わない者(・・・・)のどっちか、違うかい?」

「....ええ、確かにね。それでも愚痴の一つでも言いたくなるってもんよ。」

「ははは、アンタも言うねぇ。」

 

と、老獪な笑みを浮かべながらコジロウは主張する。確かにこの場においては正論だ。アカネも自分の意思でこの場に立って戦っている。ならば矛先を向けられるのも道理というものだ。

私はアカネへと視線を移した。

 

「うん、わかってる。私だって命を懸けて戦わないといけないということは。だけど、それと同じくらい、絶対生き残ってやるという気持ちもある!」

「ああ、それで良い。私も可能な限り分身は潰す。だが、最低限は自分で対応してくれ。」

「うん、分かった。」

 

アカネは頷き、手帳を取り出した。すると手帳から光が放たれ、白黒の魔法使いが現れた。

それをみたコジロウが興味深そうに視線を向ける。

 

「へぇ、それがね....」

「恋符『マスタースパーク』」

 

瞬間、魔法使いが掲げた小道具から極太の光線が放たれた。それが広範囲に分身たちを消滅させていく。全部とまではいかないが、かなり数を減らした。

 

「ほう、これは中々....」

「ちっ、やはりあの小娘から潰した方が....」

「させません!」

 

コジロウがアカネへと接近しようしようところでヨウムが立ち塞がる。剣士同士らしく激しい鍔迫り合いが繰り広げられる。

同時に無数の分身も動き出したが私とレイム、そしてアカネが迎撃する。

 

「ふふ、だいぶ激しくなってきたね。これほどの合戦を本当に夢見ていたよ....」

「それはまた、破天荒な夢ですね。それ程の力を人間だった頃に持っていたのでしょう?戦場に呼び出されてもおかしくないと思うのですが。」

「....そんな事をして何になる?」

 

ヨウムの問いかけに対しコジロウの言葉が低く、そして重さが増していた。

 

「確かに私一人が戦場に行くことは怖くないよ。ああ、死ぬ覚悟だってあると自負している。だけど、私は女で母親だった。あの子達を置いて戦地に行くことなんてできなかった!」

「....だったら、子供達が大きくなったときに貴女の剣を引き継がせるというのは?貴女ほどの実力を継がせることは簡単じゃないかもしれませんが、時間を掛ければきっと...」

「そんな事できる訳ない!出来る出来ない以前に、剣を引き継がせるなんて、もっての外だ!」

「な、何で?確かに拒絶するかもしれせんが、子供達の中には本望かもしれないのに....」

 

コジロウの否定的な態度にヨウムは動揺を隠しきれなかった。過剰に興奮してるであろうコジロウは言葉を続ける。

 

「....剣はどこまでいっても殺人の道具だ。そして、そんな剣の道に私は憧れを抱いた。だけど、親が人殺しで子供達は誇らしいと思う?そんな風に思われる事を、私は耐えきれなかった。だから、私は家族に迷惑をかけないように、たった一人で剣の道を進むしかなかったんだよ....」

「....そんな風に考えてたんですね。」

「.....」

 

コジロウの明かした真実を聞き、私達は口を閉じてしまった。これもまた、彼女なりの真摯な想いだったのだろう。

だが、それに対し.....

 

「ふーん、なるほどねぇ。要はアンタ、家族に本音を明かすことに臆病だったという事じゃない。」

「....えっ?」

「....霊夢?」

「....何を、言っている?」

 

紅白の巫女、博麗霊夢は冷淡とも言える態度で言い放った。動揺の表情を浮かべるヨウムとアカネ、そして僅かながらも遺憾の表情を示すコジロウを気に留める事もなく、言葉を続ける。

 

 

「違うのかしら、つまり剣士として家族を不純物として見てたんでしょ?剣の道は血に染まってるから、それに家族が巻き込まれるとお互い迷惑なる、だから家族と疎遠になった。しかし傑作よねぇ、戦場で死ぬ勇気はあっても、大好きな家族と本音を語らう勇気はなかったようねぇ、剣聖様は。」

「ッ!黙れぇぇぇぇッ!」

 

憤怒の咆哮を挙げ、弩級の殺意を纏いながらコジロウはレイムに向けて剣を振り下ろした。どうにも彼女は家族絡みのことで口を挟まれると、黙っていられない性分のようだ。

感情の爆発、譲れぬ想い、そうした意志を乗せた一撃は脅威ながらも非常に単純だ。故に拙い。技巧も研鑽も纏っていない一本道な剣筋を、レイムは難なく回避した。更に続けて斬撃を放たれるも、これもまた軽く回避していく。その最中、コジロウは言い放つ。

 

「貴様に、何がわかる!家族に剣士になりたいと明かしたら、恐怖を抱くかもしれないでしょ!親が人殺しになるって宣言する重さを、お前はわかるというのか!」

「さぁ、一々知らないわよそんな事。他人の家族の事情に首突っ込む趣味ないし。だけど、あの日記を読ませた身としていうなら、多分お子さん達は受け入れようとしてたと見えるけど?」

「そんな、こと....」

「無い、てアンタは思い込んでるんでしょうね。本当、人付き合い下手くそなんだから....子供達が大人になっても、なんだかんだ付き合いはあったんでしょ?本当に親の事を疎ましく感じてたんなら、そもそも向こうから縁を切るはずでしょ。」

「....それは。」

「アンタは剣士の夢に夢中になりすぎて、家族との繋がりを疎かにしていたのよ。だから未練を背負って死ねない身体なんかになってしまったのよ!」

「〜〜〜〜ッ!それでも!」

 

霊夢の看破に対し、コジロウは衝撃を受けたようだ。だが、それでもまだ引けない想いがあるようだ。

 

「それでも、人殺しの夢をそう簡単に明かせるものじゃないでしょ!人の死は悲劇をもたらす。そんなこと、平穏に暮らすあの子達にはあまりに重いのだから!」

「.....あーもう!この頑固婆さんは本当に!」

 

中々折れないコジロウに対し、レイムは怒りの声を張り上げる。それを見た私とヨウム、そしてアカネは互いに苦笑をうかびあげる。

 

「ここまで来たら、もはや問答で解決するのは難しいでしょう。」

「うん、多分弾幕ごっこで白黒つけるしかないかも。」

「是非もないな。」

 

そして再びヨウムは本体のコジロウと白兵戦、そして私とレイムとアカネは分身の対応をしていた。

私もコジロウと白兵戦をしたかったが、この時はそうもしていられなかった。なぜなら.....

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、お前はこの局面をどう切り抜けるつもりなのだ?勝算はあるのか?」

 

私がコジロウの分身を処理している最中、私の内側で『アラヤ』が問いかけてきた。

人類の集合無意識にして、全にして一、そしてクリームヒルトであって永劫出会わぬ何処かの誰かである。

 

「くどいな、私の真意を知ったうえで聞いているだろう。」

「然り。私はお前で、お前の一側面を担っているからな。この問い掛けは、お前自身の真意の硬さを確かめるがために行われている。」

 

つまりはそういうことだ。アラヤは私の一側面を担っている存在であり、私の深層心理すら見抜き引き摺り出して問い掛けてくるのだ。抑揚なく、何処か他人事の様な口調で内側から更に語りかけてくる。

 

「佐々木小次郎は己が渇望に振り回され、勝手に剣士としての羨望をお前にぶつけてきた。普通に考えれば実に傍迷惑な話だとも。ましてやこの戦闘をこのまま続けていたら、お前達の中で死人が出てもおかしくない。弾幕ごっことやらは、当たりどころ次第では致命傷になりかねないと八雲紫は言ってたからな。

そんな展開はお前にとっても避けたい展開だろう。もっと突き詰めれば、こんなことが起こるとわかっていたのならば、最初から付き合いたくなどなかったはずだ。」

 

アラヤの言ってる理論は確かにごもっともな事だ。コジロウ本人も言ってた通り、彼女の行動は自分の我儘で他人を巻き込んでいる。尚且つ死人すら出しそうになっているのだから始末におえない。アラヤは更に話を続ける。

 

「そして、ただでさえお前には不殺の誓いがあり尚且つスペルカードルールという未知の理を遵守している。これは見方を変えれば枷を何重にも背負っていると言えるだろう。はっきり言って、実に無謀で不条理な戦いだ。ならばこのような状況になったのならば、是非もない。スペルカードルールを投げ捨て、本来の戦闘スタイルに戻って佐々木小次郎を打倒することが最善だ。」

「最善か....荒唐無稽かつ無慙な判断だと思うが。」

 

この状況を打開したいのならば、この世界のルールを敢えて無視しろとアラヤは答える。だが私は、それを恥知らずの所業だと思う、人の世界において規律を遵守しない者は獣と同類と見做されるはずだ。

 

「確かに、それは恥知らずの所業といえばその通りだろう。だが忘れてはいけない、お前は本来この幻想郷の世界の住民ではないのだから、必ずしもその世界の規律を守る義理はないのだよ。それによくある話だ....人間は時には外道に堕ちない程度に、規律を敢えて無視した方が効率よく物事をを進められることはあるのだから。事の大小の違いはあれど、生きている一生で世の全ての規律を誤ちなくずっと正しく守れる人間なんて恐らく居ないだろう。それにお前は邯鄲を経て悟ったはずだ、人は矛盾と不整合を孕む生き物なのだと。これはつまり、そういう事だ。」

 

なるほど、確かにそれも一理ある。基本的に人間は隠し事や嘘を避ける生き物だ。だが敢えて都合の良い嘘を作り大衆へと広めることで納得し、事なきを得るなどという事も時にはある。それは私が過去に、第四盧生・黄錦龍の存在を秘匿するために私が敢えて汚名を被った事に近い部分があるだろう。もっとも、それで全てが解決したわけではないのだが....

とにかく、この事から規律を絶対遵守することが、人の幸福への道だとは限らないことを示しているだろう。もちろん、守り続けることに越したことは無いだろうが.....

 

「....確かに枷を外せばこの窮地を抜け出せる可能性もあるのかもしれん。だが、それでも私は今のまま前に突き進んでみたいと思う。」

「ほう、それは何故だ?」

「ここに来て思ったことだが、そもそも剣とは何かと考えてみた。」

 

アラヤも言ってたことだが、私は不殺の誓いをしている。それは端的に言えば他者の人生をより良く尊重するための決意だ。

だが、その誓いを貫きたいのならば、武器を手放し軍人という死と隣り合わせの立場など、さっさと捨てた方が効率が良いとも考えられるだろう。何故なら、軍人の本質は死の肯定だ。上部の命令一つで誰かを殺さらければならないのだから。それは邯鄲を通して見た未来の世界においても、起こり得た話だ。ましてや比較的平和な日本でもその可能性はあったのだから。

 

「ならば私は戦場から身を引き、武器を手放すべきか?確かに私や....いや、私以外の全ての人間が武器を手放せば今より遥かに平穏な世界になるのかもしれんが.....」

 

そのような世界は、果たして人類にとってより良い未来を目指せる世界となり得るのだろうか?確かに武器を放棄することで得られるメリットは数多くあるだろう。

だが、だからといって人類の暴力性を克服出来るとは思えない。何故なら格闘技がそうであるように、人は徒手空拳であろうとも他人を傷付けることができる。突き詰めれば、どれほど非力な人間であろうとも、人の悪意を無くさない限りこの悪循環は簡単に切ることはできない。もちろん素手と武器が起こす悲劇には罪の重さには違いがはあるだろうが、どちらにせよ根本的な解決にはならないだろう。

 

「だからこそ、私が闘争の世界から身を引くことが最善とは限らん。いいや、むしろ逆だ。殺さずの真を貫くために、より私は戦地を駆け抜けるべきなのだろう。きっとこの一戦はその先駆けだ。ならばこそ、この戦いは負けられん。」

「ほう、ならばこの戦いにおける答えは出さねばなるまい。佐々木小次郎曰く『剣とは人殺しの道具』だと。これは剣の求道における真実だと思うが?」

「....確かに真実だと私も思う。だが、それが剣の全てだとは限らない。」

「では、お前はなんと答える?」

「答えは口に出さん、行動で示し結果を見せるだけだ。」

「.....全く、やはりお前も大概馬鹿者であるな。」

 

などとアラヤはどこか苦笑気味にそう呟いた。仮にも自分自身に馬鹿者とダメ出しされるのは複雑だが、今はそうも言ってられない。私がこれから答えを示すためにも、アラヤとの連携は必須なのだから。

 

「だが、それでこそクリームヒルト・レーベンシュタインだ。存分に振るうが良い、我らが盧生よ。いつもその夢を見守っている。故に協力は惜しまない。」

「ああ、協力してもらうぞアラヤよ。今こそ私達の意思を極限まで共鳴させるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コジロウよ」

「ッ!」

「....ヘル?」

 

アラヤとの問答を終えると、私はコジロウと視線を交わし、そして呼び掛けた。コジロウと他の者たちも不意な問い掛けで同様の顔をしているが、私は構わず言葉を続ける。

 

「貴様は言ったな、剣は人殺しの道具だと。確かにそれは真実だと私も思う。だが同時に、それが剣の全てではないと私は思う。」

「何だと?なら、それは一体....」

「答えは、私自身が示してみせる。」

 

私はそう言いながら抜き身にしていた剣を敢えて鞘へと戻した。そして腰を低くした構えをとる。そう、これは.....

 

「それは、居合の構えか....」

「ヘル、それは一体?」

「唐突ですまんなみんな、この場は私に任せて欲しい。」

 

コジロウを真っ直ぐと見据えたまま、ヨウム達へそう告げる。するとレイムが笑みを浮かべて答える。

 

「そう、じゃあ後はヘルに任せようかしらね。引きましょう、2人とも。」

「....わかりました、後はよろしくお願いします。」

「ヘルさん、負けないでね!」

「ああ、案ずるな.....私は負けん。」

 

3人な後方へ引いた事を感じ、再び意識をコジロウへと集中させる。正面のコジロウ本体と、周囲を囲む分身から途轍も無い殺意が放たれている。

勝負は一瞬、この一戦で勝負を決めなかれば私の敗北となるだろう。故に、私自身見出した未知をここで示す。

 

 




本当に執筆カロリーが高い!(2回目)
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