第一話「始動」
a.t.s51(皇歴51年)/12/31/23:50/シーランド帝国本土ブリテン島
「はぁ」
ロンドニウムに住むデイヴィッドは雪が降る帝都の街並みを見ながらため息をついた。彼は一月前に務めていた会社で大きなミスをしてしまい解雇されていた。一ヶ月もの間職を探したが中々見つからず年が明けたら帝都を出ようと考えていた。今日は帝都で過ごす最後の夜なのだ。
「ほんと、この街が住み心地が良かったのに……」
アイルランドから帝都にやってきたデイヴィッドは18からの10年間もの間過ごしていた。故郷のアイルランドにはその間一度も帰っておらず朝昼は仕事をこなし夜は街に繰り出すのが日課になっていた。
「悲しいけど別に来れなくなる訳じゃない。次は観光目的で来るとするか」
マンションを解約しホテルで一夜を過ごすデイヴィッドは東アフリカ自治領産の紅茶を飲みながら帝都の風景を目に焼き付けんとばかりに窓からのぞく。近年類を見ない積雪量はまるでなにかを暗示しているかのようであった。
「……離れたくないな」
ポツリ、とデイヴィッドは呟く。彼の脳裏には10年間の思い出がよみがえる。辛くもあった画楽しい日々もあった帝都の生活は彼の心を留めるには十分だった。
「……はぁ、何かハプニングが起きてロンドニウムに留まれないかな~」
デイヴィッドは空になったカップを机に置くとそう呟きベッドに潜り込んだ。明日は10時の便に乗りアイルランドに変えるのだ。夜遅くまで起きる事は出来なかった。
故に、彼は気付かなかった。日付が変わると同時にブリテン島が忽然と姿を消していたことに。
皇歴52年、西暦2019年1月1日シーランド帝国は地球から消えた。この出来事のせいかは分からないが2020年に第三次世界大戦が勃発。シーランド帝国の友好国は皆敗北し国土を焼かれるのであった。
a.t.s52(皇歴52年)/1/6/14:46/シーランド帝国本土ブリテン島
「どういう事だ!」
シーランド帝国二代目皇帝ライオネス・ロバーツ・ペンドラゴンは顔を真っ赤にして叫んでいた。年明けと共に一部の衛星などが使えなくなり更には新生ブラジル帝国などの国々との連絡が出来なくなったのだ。ライオネスは怒りに任せ机をたたく。ゴン!という鈍い音が部屋に響く。現在ライオネスは閣僚と共に緊急会議を開いていた。ライオネスの怒気にほとんどの者が顔を青くしている。
シーランド帝国の権勢の礎を築き上げたライオネスは内外から恐れられており特にこうしてともに仕事をする閣僚にその傾向が大きかった。
「何故連絡がつかない?技術者はなにをやっている!?」
「しかし父上。現在新生ブラジル帝国方面に向けて二機の戦闘機を向かわせております。時期に報告が届くでしょう」
そんな中彼の怒気にひるまず発言する人物がいた。皇太子であるウィリアム・ロバーツ・ペンドラゴンである。父とは違い誠実な人物であり次期皇帝して期待されていた。25歳になったばかりだが高齢であるライオネスを良く補佐し既に彼の仕事の一割を引き継いでいた。
そんな自慢の息子に諭すように言われたライオネスは怒気を抑え穏やかな笑みを浮かべた。
「そうか、なら今は待つとしよう。きっと良い報告を持ってきてくれるはずだ」
そんなライオネスの思いをぶち壊すように戦闘機から報告が入った。
『新大陸は存在せず代わりに未知の大陸が存在する!』
更に各自治領からも隣接する他国の土地が消えていると連絡が入りライオネスの機嫌は大きく下がるのだった。
そして父に代わりウィリアムが新たに発見した大陸に艦隊を送るのであった。
シーランド帝国
第二次世界大戦にて疲弊したイギリスを打倒した国家。初代皇帝アルフレッド・ロバーツがクーデリアの鎮圧と引き換えに戦死したためライオネスが約40年に渡って皇帝として君臨している。各地に侵略を繰り返しており世界中に自治領を保有する。
イギリスと関係の深いインド共和国を中心に敵視する国が多く存在している。
新生ブラジル帝国
シーランド帝国の友好国。何かと結びつきが強く皇族同士の婚姻も行っている。
インド共和国
シーランド帝国が現状唯一敵国として扱っていた国。ビルマへの侵攻時に一度やり合っている他ビルマの国境で緊迫した状態が続いていた。