黒竜の正体?
俺達が多岐をくぐり外に出るとそこには、体長は七メートル程で漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある竜がいた。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。
そして黄金の瞳が、空中よりハジメ達を睥睨していた。低い唸り声が、黒竜の喉から漏れ出している。
その圧倒的な迫力は、かつてライセン大峡谷の谷底で見たハイベリアの比ではない。ハイベリアも、一般的な認識では、厄介なことこの上ない高レベルの魔物であるが、目の前の黒竜に比べれば、まるで小鳥だ。その偉容は、まさに空の王者というに相応しい。
蛇に睨まれた蛙のごとく、愛子達は硬直してしまっている。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。脳裏に、襲われた時の事がフラッシュバックしているのだろう。
その黒竜はウィルを確認するとギロリと鋭い視線で睨みつけ、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。
ハジメ「ッ!退避しろ!」
ハジメはブレスの予兆だと感じ取り全員に退避の指示を出す。その指示により優也やユエ、シアといったメンツはすぐに回避行動を起こすことができた。しかし、愛子達やウィルはあまりの圧力の前に怯え切ってしまい動けずにいた。
ハジメ「チッ!」
ユエ「ッ!ハジメ!」
シア「ハジメさん!」
ハジメは動けないでいる者たちの前に舌打ちをしながら念話でユエ達に指示を出しながら即戻り宝物庫から二メートル程の柩型の大盾を虚空に取り出し、左腕を突き出して接続、魔力を流して大盾の下部からガシュン!と杭を出現させる。そして、それを勢いよく地面に突き刺した。
直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でハジメの大盾に到達したブレスは、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。
ハジメ「ぐぅ!おぉおおお!!」
ハジメが雄たけびを上げながらブレスの圧力に逆らい続ける。その圧力はすさまじくハジメも少し焦りが生まれる。だが..............
優也「口を閉じやがれぇぇぇぇ!」
俺はハジメの指示を受けすぐさま黒竜のブレスを中断するため駆け出し、そのままの勢いのまま跳躍し剣の柄頭で思いっきり下あごを突き上げてブレスを中断させる。
その瞬間黒竜は俺に狙いを定める。しかし..........
ユエ「禍天」
ユエがつかさず魔法名を宣言した瞬間、黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。見ているだけで吸い込まれそうな深い闇色のそれは、直後、落下すると押し潰すように黒竜を地面に叩きつけた。
「グゥルァアアア!?」
そして尚もユエの魔法は効力を発揮し黒竜を押しつぶそうと黒竜にすさまじい圧力をかけていく。
そしてすぐにシアが動き出しドリュッケンを「止めですぅ~!」とたたきつける。並の魔物だったらこれで終わりだと思っていると、さすがは竜種というべきかさほどダーメージがあったようには見えず豪速でユエに火炎弾を放つ。ユエは右に”落ちる”ことで咄嗟に回避する。しかし、その回避行動により重力魔法は解除されてしまい黒竜はすさまじい質量の尾をもってシアに攻撃し、シアが吹き飛ばされる。
優也「シア!ッ!」
シアを吹き飛ばした後に俺を標的とし、鋭いかぎ爪で俺を攻撃してくるのでステップ回避しハジメと合流する。するとまた黒竜は視線をウィルに向け襲い掛かろうとする。
ハジメ「ユエ!」
ハジメがユエの名を呼びそれだけでユエはハジメの求めていいることを理解し行動を起こす
ユエ「んっ!波城」
ユエの高密度の水壁により火炎弾により攻撃を無効化する
ハジメ「ユエ!ウィルの守りに専念しろ!こいつは俺と優也でやる!」
ユエ「んっ、任せて!」
優也「了解!
ユエはすぐさま先生たちのもとに行きハジメの指示通りに動く。俺は付加魔法を起動させ、黒い影を体に纏いながら駆けだす。黒い影は背中に集まり、左右3枚ずつの6枚羽を作り出し地面をけり上げ俺はそのまま空に羽ばたいていく。黒竜も飛んでくる優也を無視できず持ち前の凶悪なカギ爪や尾、火炎弾で攻撃してくるのを回避したり迎撃しながら空中戦を繰り広げていく。ハジメは地上から銃撃で援護しながら黒竜を二人でどんどん追い詰めていく。
そんな二人の様子をみて生徒たちは優也とハジメの事を改めて化け物だと感じていた。優也は空中を意のままに高速で飛び回りながら剣や魔法を駆使して次元の高い戦闘をしている。またハジメはかつてはクラスメイトから無能と蔑まれていたのに今ではあまたの兵器を扱い全く別人となりすさまじい戦闘能力を有している。
そんなことを考えている生徒たちとは裏腹にいい加減勝負を決めようと高速戦闘中の優也はハジメに視線を送る。するとハジメも俺の真意を理解したみたいで「任せる」という意を含むであろう視線をよこす。
優也はその視線を受け回避しながら剣や魔法で攻撃していたのをやめ黒竜の頭上をとる。
優也「落ちやがれ!」
俺はそう叫びながら背の6枚羽を勢いよく黒竜めがけてはばたかせる。この時俺は羽に風の付加魔法と重力魔法を重ね掛けしており黒竜が翼をはばたかせるよりもはるかに上回る圧力を黒竜の頭上からぶつける。その圧力による余波はすさまじく周囲に途轍もない衝撃波が起こり周囲の木などはほとんど根元から放射線状に吹き飛ばされていた。先生たちもユエがいなかったラブ時では済まなかったかもしれないほどの衝撃波だった。そして黒竜は圧力に遂に耐えられなくなり地面にたたきつけられる。
だが、『窮鼠猫を噛む』という諺があるように、獣は手負いの時こそが一番注意しなければならない。それは黒竜も同じだった。
「グゥガァアアアア!!!」
だから俺はもう一押しと獄炎を剣に付与し攻撃の姿勢に入る
優也「大人しくしろ!”神千斬り”!」
「グゥルァアアア!?」
黒竜の炎弾にも匹敵する熱量を持った獄炎の刃がさらに追い打ちと言わんばかりに黒竜の背に叩き込まれ大きな悲鳴をとどろかせる。どうやらダメージは通っているようだ。
するとハジメが、黒竜の背後から近寄ってくる。ハジメは、獄炎に焼かれ苦しむ黒竜を見ているとふとモットーの話していた竜人族を元にした諺を思い出した。『竜の尻を蹴り飛ばす』である。
ハジメはパイルガンナーの杭だけ宝物庫から取り出すとまるで投擲選手のようにそれを構える。
優也(おいおい、マジかよ?)
俺はその様子を上空から眺めていると、その場にいる全員がハジメが撮ろうとしている行動を察したのか顔を引きつらせているのわかった。
鱗を割るのが面倒だからといって、そこから突き刺すのはダメだろうと。ハジメの容赦のなさにユエとシア以外の者達が戦慄の表情を浮かべているが、ハジメはどこ吹く風だ。
そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜の〝ピッー〟にズブリと音を立てて勢いよく突き刺さった。と、その瞬間、
”アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!”
くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。本当なら、半分ほどめり込んだ杭に、更に鉄拳をかましてぶち抜いてやろうと考えていたハジメだが、明らかに黒竜が発したと思われる悲鳴に、流石に驚愕し、思わず握った拳を解いてしまった。
"お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~"
その場にいる全員があまりにも予想外なこと過ぎて度肝を抜かれ茫然とするしかなかった
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それから俺達は黒竜...........いやどうやら随分と前に絶滅したと聞いていた竜人族と今回の経緯について尋問した。彼女?によるとどうやらとある男によって操られていたらしい。その男は闇魔法にたけており、自身以外の魔物を操って魔物の軍勢を作り上げ町を襲おうとしているらしい。なぜこんなことを知っているかと聞くと洗脳されている間も記憶は残るようだ。
そしてその話を聞いたウィルは操られていたとはいえ許せないと、嘘をついていると糾弾する。だがユエが嘘じゃないと断言した。彼女は誇りにかけてこの話は嘘でないといったことが何よりも証拠になるとユエが竜人族のことについての説明した。だがウィルも納得していない様子でそのウィルに対しまた彼女は言葉をかける
”操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか”
黒竜の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。自然と全員の視線がハジメに集まる。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているようだ。実際、黒竜に止めを刺そうとしたのはハジメなので、決断を委ねるのは自然な流れと言えるだろう。
そのハジメの答えは、
ハジメ「いや、お前の都合なんざ知ったことじゃないし。散々面倒かけてくれたんだ。詫びとして死ね」
まぁ、竜人族の彼女以外はなんとなくそうなるのではないかと思っていたがマジか?とユエ達以外の全員が軽く引いていた
そして彼女はまさかそんな返しが来ると思わず慌てて命乞いをする
するとまたもやユエがハジメを止める。ユエがハジメに自身のきめたルールについて問いかける。それは本当にルールに則った行為なのか
優也「まぁ俺も別に今回は殺さなくて見いいと思うぞ?」
そう声をかけるとハジメも考えをまとめ終えたようでそれもそうかと思い始めていると黒竜に声を掛けられる
”申し訳ないのじゃがな、迷いがあるなら、取り敢えずお尻の杭と黒炎だけでもどうにかしてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ”
ハジメ「ん?そりゃどういうことだ?」
”竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?それとこの黒炎もずっと燃えてて消えんのじゃが?”
獄炎は術者が消すか燃えついた対象が灰になるまで燃え続ける。だから優也が消してやらないことにはどうにもならない。また、ハジメのやったことも同様にこのまま人間体に戻ればどうなるか想像しただけでぞっとする。
”でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ”
俺はとりあえずすぐさま黒竜に手をかざして獄炎に意識を集中させ消す。ハジメも刺さっている杭に手を掛ける。黒竜はゆっくっりぬいてくれと頼むも当然ハジメはその言葉を無視。思いっきりひねったりしながら力任せに引き抜く。その時何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。何やら嫌な予感もしつつ何とか抜き終えると、黒竜はその体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。
???「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」
何やら危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、ハァハァしているので色々台無しだったが……
ティオ「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
俺とハジメはこの時思った。こいつ黒髪verもダク〇スじゃないかと。
まぁそんなことは置いておいて魔物の軍勢に関して詳しく聞くことになった。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。魔物を操ると言えば、魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは先生達も一緒だったようで、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測した。しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたようで、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。先生たちは信じたくないと思っているだろうが俺とハジメはそいつが犯人だとほとんど確信していた。
ハジメはその真偽の確認のため無人機を飛ばすとティオの話以上の数がいると発覚した。しかも桁が一つ追加されるレベルだ。その場にいる先生たちは一様に慌ててすぐに王都に応援をと話していたが恐らく無駄だろう。なぜならもうすでに進軍を開始しており半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到着すると予測できるからだ。するとウィルが「ハジメ殿たちならばどうにかできるのでは?」というと俺達に視線が集まる。その視線には期待が込められているようだが..................
ハジメ「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」
ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。
愛子「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
ハジメ「ん?いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」
そんな会話をしていると尚も納得いかないように先生たちは見てくる。そんな先生たちにハジメは現状をはっきりと告げる
ハジメ「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺か優也じゃないと動かせない構造だから、俺達に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」
理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる愛子達。
ティオ「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
優也「俺もできるようになったばかりの飛行ですくなからず魔力を消費して万全の状態とは言えない。それはユエもシアもそしてハジメだって同じだ。どちらにせよこのままじゃどうにもならない。俺達は町に戻るしかできない」
俺もユエ達も先の戦闘ですくなら少なからず消耗している。俺は飛行に、ユエは重力魔法やもろもろの魔法行使での消耗、ハジメもブレス耐久による消耗、シアも一度攻撃を受けているので休息は取るべきだと俺もティオに続き告げる。先生たちは自分達では全くの戦闘力もないので納得せざるおえなく、そのまままずは町に帰還することになった。
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町に戻り魔物について報告すると当然町の重鎮たちは慌てだす。ハジメ達はそれを我関せずと聞き流しそのままウィルを連れて帰ろうとする。ウィルはハジメが帰還しようとすることに納得できず抗議するがハジメは今回の依頼に魔物たちと戦争白だなんて含まれないといい無理やりでも連れて帰るぞと脅し俺達はフューレンに連れ帰ろうとすると先生が俺達の前に立ちはだかった
愛子「南雲君。河崎君。君達なら……君なら魔物の大群をどうにかできますか?いえ……できますよね?」
ハジメ「いやいや、先生。無理に決まっているだろ?見た感じ四万は超えているんだぞ?とてもとても……」
優也「..................こんな数相手に戦ったことないのでわかりません」
愛子「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に”できない”とは答えませんでした。河崎君も今”わからない”とは言いましたができないは言いませんでしたよね?それに”こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない”とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね?違いますか?」
ハジメ「……よく覚えてんな」
優也「流石ですね先生」
ハジメは下手なこと言ったなと思っている。するとさらに先生が俺達に問いかける。
愛子「南雲君。河崎君。どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」
ハジメ「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか?なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと?その意志もないのに?まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」
優也「...........」
俺は答えられなかった。それはなぜだかわからない。わからなくてもどかしくて手気持ち悪い思っているとさらに先生は口を開く。
愛子「そうですね...........でもできることはしたいんです。勿論いざというときの優先順位は変わりません。南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君やには軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」
ハジメと優也は黙ったまま、先を促すように愛子を見つめ返す。
愛子「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね?河崎君も白崎さんが何よりも大切だといいましたね?では、南雲君に河崎君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか?君の邪魔をする者は皆排除しますか?そんな生き方が日本で出来ますか?日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」
ハジメ、優也「「……」」
愛子「南雲君、河崎君、君達には君達の価値観があり、君達の未来への選択は常に君達自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君達がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても”寂しい事”だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君達にも君達の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君達が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」
俺はこの言葉を聞いてこの話を始めてからどこか胸につかっかっていたものが外れた気がした。俺は何よりも香織が大切だ。それはあの夜、そして奈落に落ちたときからも変わらない。あの約束のためなら何もかも犠牲にできるとさえ思った。でも果たしてここで戦わないことは先生の言う大切な人...........香織はどのように感じるのか。それが俺の中で突っかかっていたことなのだろう。
先生の言葉はまさしく今の俺に対して正しい道へと導く言葉だと感じた。俺は確かにここに住む人たちを正直なところどうでもいいと思っていた。でも、ここに住む人を見殺す選択をしては香織を悲しませてしまうのではと思い始めていた。香織を悲しませないためには先生の言う通り優先すべきものがあってもできる範囲で他人を思いやらなくてはいけない。ならば…………
優也「ホント流石”先生”ですね。先生のおかげで忘れかけていた大切なことを思い出せた気がします。」
ハジメも悩んでいるようだったがすぐに答えが決まったようで口を開く
ハジメ「..........流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」
愛子「南雲君!河崎君!」
ハジメ「俺の知る限り一番の”先生”からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」
そうして俺達は準備のためにハジメを追う形でこの場をあとにする。先生からのありがた~いお言葉だ。そして俺はそれを”大切なこと”と感じた。ならばこの後は決まってる。持てる力を発揮して魔物どもを駆逐するだけだ。
次回は殲滅戦です。それにしてもティオのキャラは本当に濃いですよね。ありふれの中ですさまじいキャラの濃さを誇っていると自分は思います。それでいてとても気高くあり尊敬できるとこも多々ある魅力的なキャラですよね。