やはり俺がビッグになるのは間違っている? 作:レンス
日本は千葉の誇る成田空港に降り立つと、久しぶりの地元に感動……なんて特にすることなく、タクシーに乗り込み三年ぶりの実家へと移動する。
アメリカに降り立ったときのハイな気分とは真逆で、三年ぶりの懐かしい千葉の景色を見て、懐かしさと本当に帰ってきたのだという感慨深い思いが溢れ、ゆったりと落ち着いた気持ちになる。
気づけば既に自宅前まで来ていたので、俺は釣りは要らないと運転手に伝えてほとんど倍の料金である諭吉さん一枚を渡してタクシーから降りた。
アメリカで富豪になってからは、当然のようにチップを渡していた俺にとっては既に日常のようなものだ。
さて、自宅前についたはいいがインターホンは押すべきだろうか? それともそのまま普通に三年前のように家に入るか?
今日は日曜だから両親も小町も家にいるはず。
一応は実の息子なんだし、実家なんだからインターホンなんて押さず普通に入ればいいのだろうけど、生憎と自分でも三年前の俺と今の俺とを見比べると、絶対に俺が俺だとわからない自信がある。肉親とはいえ、ほぼ原型のない俺を見て一目で息子だとわかるはずがないと断言できる。って、自分で言ってて悲しくなるな、おい。
あーやめだやめ! 今の俺は昔の俺とは違う。だが、それでも俺は比企谷家の長男の比企谷八幡だ。
それに今の俺はこんな小さな事でいちいち悩むような小心者ではない。
アメリカでビッグになった俺は、陰気で根暗な腐り目ぼっちではないのだ。あれ、おかしいな? 悲しくなんてないはずなのに目から涙が出て……とまあ、冗談はこれくらいにして、そろそろ入るか。
俺は意を決して、玄関のドアを開け、三年ぶりの帰宅を実行した。
「ただいまー」
「あら? 気のせいかしら? 今八幡の声が聞こえた気が……」
「いや、気のせいだろ? あいつは今アメリカだぞ」
「小町も聞こえた気がしたけど、きっとまた幻聴だよねー。あーあ、お兄ちゃん帰ってこないかなー」
俺の久しぶりの挨拶は聞こえていないのか、誰もこちらにやってくる様子がない。リビングの方から三人の話し声だけがぽつりぽつりと聞こえてきたので、皆家にはいるみたいだ。
「それにしても、今頃八幡はなにしてるのかしらね?」
「親父からは、あっちの大学に進学したことくらいしか聞かされてないしな。八幡にいたっては、連絡すらつかないし、本当にあいつは無事なんだろうか……」
「お兄ちゃんに会いたいなー。こんなことならもっと勉強頑張って小町も留学すればよかったよ……」
「小町まで家からいなくなったらお父さん生きていけないよ?」
どうやら、話題は俺のことのようだ。
そういえば、留学してから家に連絡一回もしたことなかったな……。
たしか留学して数日のうちにスマホがぶっ壊れてデータがなくなり連絡したくても出来なかったんだっけか。
爺ちゃんに楽しく生きてると伝えてくれって言っといたから心配してないと思っていたが、よくよく考えれば海外留学して三年も音信不通なら心配のひとつやふたつは当然のようにするよな。
さっさと顔を見せて安心させてやろうと思い、俺はリビングにいる三人に向けて声をかける。
「ただいまー! 息子が帰ってきたぞー!」
「「「うぇっ!?」」」
俺が先ほどよりも少しだけ声を大きくして、帰郷を告げると、リビングからガタガタッと音がした後、慌ただしく三人がこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん! 帰ってきた! ……へ?」
「八幡っ! やっと帰ってきたのね……ほ?」
「少しは連絡くらいしてこい馬鹿息子……って、あら?」
三人が俺にそれぞれ声をかけてきたが、全員が俺を認識した瞬間に呆けた顔でしまらない声を出し……そして……
『どちら様?』
息を揃えて、そんな言葉を放ったのであった。
やはり俺が変わり過ぎたという事実は間違っていなかった。