Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~   作:伊駒辰葉

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トゥーラ先生のピンチは続きます!


幼い頃の悪夢

 幼い頃から可愛いお嬢さんだとみんなに誉められた。両親は誉められる度に恥ずかしそうにしていたが、実際はまんざらでもなかったのだろう。トゥーラにだけは良かったね、とこっそりと耳打ちしていたものだ。

 

 軍人の父親は家を空けがちだった。だが母親はそんな父親のことをよく理解しており、愚痴一つ零さずに一人で家の事をしていた。生まれた時から家が裕福だったためか、幼い頃から欲しいとねだればすぐに何でも買ってもらえた。だからトゥーラは幼い頃には我慢らしい我慢をしたことがない。

 

 父親が久しぶりに家に戻った時は、家族みんなで仲良く時間を過ごすのが常だった。もちろん家族団らんの中にはトゥーラもいたのだが、両親の仲睦まじい様子に幼いトゥーラはやきもちをやいては二人を困らせた。

 

 幸せだった。悩みらしい悩みもなく、優しい両親に囲まれて育ったトゥーラは周囲の子供達と同様に学士館と呼ばれる学校に通うことになった。その頃のトゥーラは将来のことなど何も考えていなかった。言われるままに学校に通って様々なことを学ぶ。それはトゥーラにとってとても楽しいことだった。

 

 塔に入門させてはどうか、と言い出したのは学士館のとある教師だった。魔道士だった母親は薄々はトゥーラの才に気付いていたらしい。トゥーラの知らないところで何度かその教師とやり取りをしたようだ。だが両親ともトゥーラを塔に入門させる気はなかったのだろう。結局は教師の提案を断ったらしい。塔で魔術を学ぶとなると将来の道は決まってくる。両親はトゥーラを軍に入れるのを好ましく思っていなかったのだ。

 

 友達も出来てトゥーラは充実した日々を送っていた。たまには喧嘩することもあったが、それでも友達と一緒に遊ぶのは楽しかった。

 

 それがいつだったのかをトゥーラははっきりとは覚えていない。酷く寒い夜だったことだけが印象に強く残っている。夜中に用を足したくなって目が覚めたトゥーラは暗い家の中を寝惚けつつ歩いた。歩いているうちに暗さと寒さで心細くなり、トゥーラは不安に思いながら恐る恐る進んだ。

 

 細く殺したすすり泣くような声が聞こえてくる。トゥーラはその声にぎくりと首を竦め、慌てて周囲を見回した。じっと聞き耳を立ててみると声は近くの部屋から聞こえていることが判った。

 

 その日に限って両親の寝室のドアは少し開いていた。不安に怯えてその部屋に近づいたトゥーラはドアの隙間から中を覗いて目を見張った。大きなベッドの上で母親が父親に組み伏せられていたのだ。

 

 しばし呆然としてからトゥーラは静かにその部屋の前を去った。用を足して自分の部屋に戻りベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。忘れようとすればするほど、裸で絡み合っていた二人の姿が思い浮かんでしまう。トゥーラは訳が判らないままに毛布を被って震え続けた。

 

 魔道士になりたいとトゥーラが言い出したのはそれからすぐのことだった。両親は驚いていたが、トゥーラがなりたいというのであれば、と特に反対もされなかった。トゥーラも何故、急にそんなことを言い出したのかその時は自分でもよく判らなかった。

 

 それからのトゥーラは時間に追われる身となった。友達とも疎遠になり、次第に誰もトゥーラを遊びに誘わなくなった。だがそれでもトゥーラは懸命に勉強に打ち込んだ。そんな中、トゥーラは性的なことについて学ぶ機会があった。そこで初めてあの日に見た両親たちの行為が何を示していたのかをトゥーラは理解した。

 

 だがトゥーラの受けた衝撃は決して消えなかった。そんなものとは一切関わるつもりはなかった。トゥーラにとっての異性は興味を持つべきものではなく、出来るだけ近づきたくない存在だった。

 

 いつかはあんな風に自分も誰かに組み敷かれるかも知れないと考えると寒気がした。その行為の果てに自分が生まれたのだと理屈では判っていても、納得など到底出来なかった。

 

 必要以上に他人を遠ざけた結果、トゥーラは学士館の中で孤立した。トゥーラが避けたのは男性だけではなかった。自分と同じ女も性を感じさせる部分がとても気持ち悪く思えたのだ。出来るだけ性を意識しなくて済むような環境を求めてトゥーラは塔に入門した。

 

 だがトゥーラの希望はすぐに打ち砕かれた。学士館の教育課程を修了したトゥーラが塔に入門したのは十四の時だった。早熟だったトゥーラの身体つきは、他の同い年くらいの同性に比べて女らしかった。だからだろう。入門してほどなく、トゥーラはとある男弟子に身体を触られる等のわいせつな行為を受けた。その時はたまたま傍に居合わせたクロードが止めに入ってくれた。

 

 恐怖と嫌悪を感じたトゥーラは塔もやはり外と変わりないのだと思い知らされた。それ以来、トゥーラは学士館にいた頃と同じように、塔でも他人との関わりを出来るだけ避けた。必要なことのみを端的にしか喋らないトゥーラのことを、いつしか周囲の弟子達も避けるようになっていった。

 

 弟子達による苛めが酷くなったのはその頃からだ。だがそれでもトゥーラは心の底ではその方がましだと思っていた。自分に女を求められるより、気に入らない奴と苛められる方が正常と思えたのだ。

 

 なのに、とトゥーラは心の中で呟いた。叫ぶことにも泣くことにも疲れ、トゥーラは虚ろな眼差しで暗い天井を見上げていた。頭がぼんやりとし、身体が妙に熱い。含まされた甘い液体の味はまだ口に残っている。

 

 身体の自由が利かない。身体が不思議と熱く、手足がだるい。それにやけに重い。トゥーラは息苦しさに近いものを覚えて呻いた。抵抗しないと考えたのか、男達がトゥーラを押さえつけていた手を離す。だがそのことにすらトゥーラは気が付かなかった。

 

「ようやく効いてきたか?」

 

 誰かがそんなことを言う。その声もトゥーラの耳にはやけに遠く聞こえた。

 

 それより、暑い。

 

 トゥーラは熱っぽい息を吐いてコートの胸元に手を伸ばした。重い手を何とか動かしてコートのボタンをゆっくりと外す。そんなトゥーラを取り囲んでいた男達が一斉に目を輝かせたが、そのことにもトゥーラは全く気が付かなかった。誰かがいるのは判るのだが、それより熱い身体を何とかしたい。

 

 誰かがトゥーラを抱き起こす。背を抱えられたトゥーラは不思議な心地の良さを感じた。でも誰が触っているのか判らない。抱きかかえられたトゥーラは心の赴くままに身を預け、熱を帯びた息を吐きながら言った。

 

「お願い……。身体が、熱いの。脱がせて」

 

 トゥーラがそう訴えた途端に男達が歓声を上げる。早速とばかりにトゥーラを抱えていた誰かがコートの胸のボタンを外そうと手を伸ばす。

 

 不意に眩しい光が目の端に飛び込んでくる。眩しさに目を細めたトゥーラは、取り囲む男達の輪に誰かが飛び込んできたことに気が付かなかった。




エロ……という訳ではない……のですが、直接的にはそーなる?(汗)
みたいなシーンが入ってました。
一応はぼかして書いたつもりなのですが、不快になられたらごめんなさい。
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