Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~   作:伊駒辰葉

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ヒロインは師匠の方が気になるようですw


師匠と弟子の関係

 しつこいなあ、と心の中でぼやきつつも、ライツはにこやかに微笑んで何度目かの同じ答えを口にした。トゥーラが訊いているのはもっぱらエタンダールについてであり、ライツには答えようがない質問ばかりなのだ。

 

「でもやっぱり変だと思うの」

 

 ゼクーの塔を出て南に下ったところには小さな街がある。街にたどり着いたライツたちは早速、宿を探して部屋を取った。その部屋の中でトゥーラは枕を両手に抱えてベッドの縁に腰掛けている。無防備に下着姿になっているのは何故だろう、と思いつつもライツは淡々とトゥーラに答えた。

 

「だから師匠の性癖は僕も詳しくは知らないって言ったでしょ?」

 

 丁寧に喋るのも面倒になり、ライツはいつもの口調で喋っていた。トゥーラはあけすけに話をし始めたライツが気に食わなかったのか、最初は酷く不快そうな顔をしていた。准魔導師に対する口の利き方ではないと注意されたが、正直なところライツにはトゥーラの言う意味がよく判らなかった。

 

 塔内の弟子には階級がある。だがそこに上下関係は存在しない。例えば塔内で一番階級の高いアルセニエフが相手でもみんな気さくに話し掛けるし、間違っていれば遠慮なく指摘する。そしてアルセニエフも階級が下の者を馬鹿にすることは絶対にない。例え階級がどうであろうと、間違っている事は間違っているし、正しいことは正しいのだ。

 

 何度注意しても直らないライツの言葉遣いに諦めたのだろう。やがてトゥーラは注意しなくなった。

 

「だっておかしいでしょう。治療と言ってもあんな風に」

 

 トゥーラが枕に口許まで埋めて言葉を濁す。トゥーラはエタンダールに口移しで水を飲まされたことをまだ根に持っているらしい。その事だけはライツにも理解出来た。

 

 トゥーラは容姿がとても整っている。はっきり言えば美人だ。エタンダールの塔の綺麗な女性の代表と言えばサマラとシャルレラだろうか。彼女達はどちらも綺麗だが美しさの性質が随分と違う。サマラは清楚な、という表現がぴったりの雰囲気を纏っている。素朴さを感じさせるサマラとは対照的にシャルレラには妖艶な、という表現が似合う。実際、エタンダールのベッドの上にいるシャルレラと鉢合わせすることも少なくない。

 

 そんなシャルレラにトゥーラはどことなく似ている気がする。綺麗は綺麗なのだが、その美しさに言いようのない妖しさを含んでいる気がするのだ。ライツはまじまじとトゥーラを見てからこっそりとため息を吐いた。

 

「媚薬の話はしたでしょ。あの媚薬はそう簡単には効果がなくならないんだよ」

 

 まさか本当に抱かれた方が良かったの。つい、そんなことを訊きそうになってライツは慌てて言い変えた。トゥーラの話は結局はエタンダールのことばかりなのだ。自分に興味を持ってくれとは言わないが、こうもエタンダールのことばかり問われるとさすがに気分は良くない。だがライツは不快感をきっちり隠してトゥーラに笑みかけた。

 

 でも、と呟いてトゥーラが俯く。肩まで伸びた美しい赤味かかった髪がさらりと頬にかかる。恐らくトゥーラの家系の血に赤髪のトマージの民の血が入っているのだ。トマージの民の国はエヴァン国よりずっと北方に位置するという。放牧を生業とし、決まった家を持たないトマージの民を馬鹿にする者は、皮肉をこめて銅の民と呼ぶこともあるようだ。

 

 表面的な容姿を見て差別するなんて変だよね。そう考えてからライツは渋い顔をした。淫魔は見目が良くてなんぼだと豪語するエタンダールのことを思い出したからだ。いや、それは淫魔の話だから、とライツは浮かんだ考えを頭から追い出した。

 

「思い出さない方がいいって言ったでしょ」

 

 少なくともその方がトゥーラにはいいはずだ。そう思いながらライツは何度目かになったせりふを繰り返した。普通、あんな目に合わされたら言われなくても思い出すのを嫌がるのではないだろうか。なのにトゥーラは何故かわざわざその話を蒸し返すのだ。

 

 トゥーラには訊きたい事はある。トゥーラが身に着けている首飾りの件だ。何故、トゥーラはあんなものを着けているのだろう。准魔導師という階級からすると、恐らくトゥーラも彼らの使った攻撃魔術らしいものは使えるのだろう。なのにあんな目に遭って抵抗出来なかったのは、あの首飾りのせいなのではないだろうか。そのことを知っていたらトゥーラも自分からネックレスを身に着けたりしないだろう。




主人公のイライラは判る気がww
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