Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~ 作:伊駒辰葉
ちょっち今は無理そうなので半ばヤケクソでアップです。
エタンダールに命じられて魔力と展開論について抜書きした際、気付いたことが幾つかあった。その中で最もライツが気になったのはエタンダールの魔術を展開するためのスペースの大きさだ。エタンダールの魔力の大きさは誰もが認めるところだが、本当の凄さは別のところにあるのではないかという気がするのだ。
魔力は理論上は増幅出来る。微量ではあるが自然の中から摂取することも可能だし、他者から魔力を吸収する魔術も存在する。魔石と呼ばれる宝石にも魔力を封じ込めたものがあるし、魔力を増幅する方法はライツの知識量でも幾つか思いつける。だが魔力を納める器……つまり、展開の隙間を含んだ容量そのものを意図的に大きくすることは出来ないのだ。
高位の魔道士になればなるほど、所有する魔力を小さく畳む技術に優れていることは魔術書にも記載されていた。だが、その魔力を畳む技術に関しては深いところまでは記されていない。そのことからライツは魔力を畳む技術は基礎魔術の応用なのではないかという結論を導き出したのだ。
エタンダールは問題を投げかけても簡単に答えはくれない。だがその結論を記したライツの書付をエタンダールはわざわざ印刷して講義に使用したのだ。つまりは間違っていないってことだよね。そう内心で呟いてからライツは伏せていた目を上げた。
訝りの感情に満たされたトゥーラの表情を見取って思わず眉を寄せる。ライツはため息を吐きながら渋々と訊ねた。
「もしかして飛行の術も知らない?」
「そんな術、使ったところで狙い撃ちにされるだけだわ」
怒ったような口調で言ってトゥーラがそっぽを向く。確かに戦場においてのんびりと空を飛んでいればトゥーラが言うように狙い撃ちにもされるだろう。が、エタンダールの使う飛行の術はトゥーラが考えているような生易しいものではない。何しろエタンダールはわざわざ周囲に空気の膜を作り出してからもの凄い速さで飛ぶのだ。その速さは鳥等とは比べ物にならない。あれをもしも撃ち落せるなら大した狙撃の腕だ。
「僕は知ってるか知らないかを訊ねただけなんだけどな。トゥーラさんのは感想でしょ。質問の答えにはなってないね」
まあいいけど、と付け足してライツは窓の外に目を向けた。今日は朝からよく晴れている。街を過ぎた汽車はのどかな田園風景の中を走っており、日差しを受けた景色が眩しく目に映る。ライツはのんびりと窓の外の景色をしばし眺めてからちらりとトゥーラを見た。
やっぱり怒ってる。不機嫌そうなトゥーラの表情を見てライツはこっそりとため息を吐いた。口の中でキャンデーを転がしながらトゥーラはそっぽを向いている。どうやら指摘されたことが気に入らなかったらしい。
塔でトゥーラは一体どんな生活をしているのだろう。ふと興味を覚えてライツはそのことを訊ねた。最初は嫌そうな顔をしていたトゥーラも気が向いたのか少しずつ自分の事を話し始めた。もしかしてトゥーラは塔の中で相当に苛められていたのではないだろうか。トゥーラははっきりとは言わなかったが、ライツは話を聞くうちにそう見当をつけた。
ゼクーはトゥーラを手元に置いて特別に扱っていたらしい。それも苛めを助長する要因の一つになったのだろう。だがゼクーはトゥーラが苛めの対象になりそうだと予見していたのではないだろうか。だからこそ手近なところに置き、問題を未然に防ごうとしていたのではないか。
まあ、逆効果だったみたいだけど。トゥーラの話を聞くうちにライツは無意識に渋い表情になった。どうもトゥーラは人と接するのが苦手というよりは、極端な男性不信のようだ。話を聞きながらそう感じたライツは次第に機嫌が悪くなった。
ちょっと喋りすぎたかしら、とトゥーラが首を傾げる。そんなトゥーラの仕草をじっと見つめ、ライツは心の中で密かに呟いた。
判った。安全だと思われてたんじゃない。僕は最初から男だと思われていなかったんだ。トゥーラの話からそう解釈してライツはそっとため息を吐いた。道理で綺麗な髪だの可愛い顔だのと誉める訳だ。言われたライツはまたか、としか思わなかったのだが、トゥーラに悪意はなかったらしい。てっきりトゥーラが厭味を言っているのだと思っていたライツは少しだけ考えを改めた。
だが今さら男だと明かしたところで警戒されるだけだろう。トゥーラの性格なら逆に怒り出すかも知れない。勘違いされたままというのは腹立たしいが、波風を立てるよりはましだ。そう結論付けてライツは自分の性別を
黙っておくことに決めた。
汽車を二度乗り継いで高原の傍の小さな町にたどり着いた頃、周囲はもう夕暮れに包まれていた。半日ほどを汽車の中で過ごして疲れたからか、トゥーラの口数は極端に減っている。丁度いいや、とライツも余計なことを言わず、宿を探して歩いた。討伐隊に加わっている他の者たちより自分たちは早く森に近づいているはずだ。彼らは一旦、王宮から自身の塔に戻って森に向かうに違いないからだ。
他の者に天使を先に見つけられては手の出しようがない。だがもしも自分が真っ先に見つけることが出来たなら。
そこまで考えてライツは力なく笑った。気の遠くなるような確率の低さだ。派遣される人数は各塔から一名以上。この国には三十二の塔がある訳だから、最低でも三十二人以上の人間があの森に入るのだ。幾ら広い森だと言ってもどこに天使がいるのか判らない以上、自分達が探し当てられる確率は低い。いや、それどころか天使が見つかるかどうかすらも判らないのだ。
でもやる前に諦める気にはならないしね。そう呟いて一人頷いたライツにトゥーラがどうしたのかと声をかける。ライツは看板のかかった宿を指差してあそこにしよう、とトゥーラを促した。
この辺りで書き直さないとと思っていたので止まってたんですよね……(泣)
修正出来れば後でがっつり修正したいです。