Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~   作:伊駒辰葉

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口喧嘩は終わって解説が入ります。
説明が多くてすみません(汗)


口喧嘩と狩り 2

「使い魔作成術の基礎項目は素材選別、麻酔、幻惑、精霊召喚、定着、言語登録、契約、魔力増幅の八つ。このどれが欠けても術は成り立たない」

 

 そしてこの八つの基礎項目は他の魔術を展開するために必要なのだ。そう説明するライツをいつの間にかトゥーラは真剣な眼差しで見つめていた。

 

「素材選別の目は同時に魔力の流れを読む……ええと、そっちでは何ていうのかな。僕らは魔力を読む特殊な視力って言うけど」

「大体似たようなものね」

 

 素材選別の力の会得は同時に魔力を読む特殊な視力を得ることに繋がる。麻酔の術は治療術を用いる際に使用し、幻惑の魔術も同じく治療の際に使用する。精霊召喚はあらゆる精霊だけではなく、魔物と呼ばれるものを召喚する術に繋がる。定着術は主に他物質への変換の術を使う際に必要となる。言語登録は言葉の通じないものに対して一時的な翻訳術として、契約は精霊や魔物と呼ばれる人ならざるものに対して有効な術だ。そして最後の魔力増幅術は全ての魔術に通じる。

 

「魔術の種類は色々あるけど、この八つを押さえられれば大抵の魔術は使えるようになるんだ」

 

 ライツの話はとても判り易かった。いつの間にかトゥーラは真剣な表情でライツの話に聞き入っていた。何故だろう。塔で学んだことよりもライツの話の方がずっと興味深く思えるのだ。

 

「使い魔作成術は基礎魔術の応用だと思われがちだけどね。本当は基礎中の基礎がしっかりしていないと使えない術でもあるんだ」

「それだけではないんでしょう?」

 

 確かにライツのいう八つの項目を完全に修得するのは難しいだろう。だが淫魔と呼ばれる既存の存在とは全く別のモノを作り出すのだ。基礎中の基礎だけを押さえていれば使える魔術とも思えない。

 

 うん、と頷いたライツがふと目を上げて不思議そうに首を傾げる。熱心に話を聞く内にトゥーラは自分からライツに近づいていたのだ。

 

「そう。基礎中の基礎がしっかりしている上で応用力も必要になるんだ。この八つの基礎魔術をばらばらに使えばいいってものじゃなくてね」

 

 組み合わせた上で均衡を取るのが難しいのだとライツは厳しい表情で続けた。

 

「それと膨大な魔力が必要になる。半端な魔道士だと術の途中で力尽きてしまうみたい」

「みたい、ということはライツは使ったことはないの?」

 

 トゥーラはライツがまだ見習だということも忘れてそう訊き返した。魔術の話をしているライツはとても大人びている。

 

「まさか。理論が頭に入っているのと、実践できる力は別だよ」

 

 魔術論だけなら覚えるのは楽なんだけどね。そう告げてライツは苦笑した。だがトゥーラはそれを気にも留めず、まじまじとライツを頭からつま先まで眺めた。使えるかしら、とそっと呟いてトゥーラは魔術を展開した。

 

 高位の弟子にだけ教えられる魔術の一つに、先ほどライツの言った魔力の流れを読む視力を得る魔術がある。試験官などを務める際に必要だからととある階級に昇級した段階で弟子は皆、この魔術を教えられる。

 

 視界が開け、魔力の流れが鮮やかに目に映る。それを見たトゥーラはああやっぱりと頷いた。

 

「あなた、本当にあの男に似ているわ」

「……は?」

 

 訳が判らないという顔でライツが間の抜けた声を漏らす。トゥーラは小さく笑って肩を竦めた。

 

「わたしね。魔力を視る目が優れているんですって」

 

 それがトゥーラが他の弟子より早く昇級できた理由だ。トゥーラは入門当時から魔力の流れを読む事が出来た。少し意識するだけで人の持つ魔力の流れが鮮やかな色として目に映るのだ。魔力の流れが誰よりも早く読めるから、攻撃魔術をいち早く避けることが出来る。何かに隠れていても意識すれば魔力の流れが見えるから、模擬戦で敵を攻撃するのは得意だった。魔道士の弟子が相手だから出来たことだ。魔術を全く知らない人間が相手ならそうは上手く行かなかっただろう。

 

「魔術を暴発させる以外のことも出来るんだね」

 

 感心したような顔でライツが頷く。失礼ね、と答えてからトゥーラは魔術を解いた。途端にライツの中に見えていた魔力の流れが見えなくなる。

 

 残念なことにこの魔術を用いても自分を見ることは出来ない。だからだろう。ゼクーはこの力を頻繁に使わないように、とトゥーラに注意した。だがトゥーラがわざわざ魔術として展開することを覚えたのは、入門してしばらくしてからだ。少し意識するだけで見えるものをそう簡単に見ないようには出来なかった。

 

 魔力の大きさが単純に階級に繋がる訳ではない。魔術というものは魔力が大きければいいというものではないからだ。現にトゥーラの前に一番弟子だと言われていたクロードより、何故かおちこぼれのリカルトの方が持っている魔力は大きい。それはトゥーラ自身の目で確かめたことだ。

 

 今でも時折、反射的にこの魔術を使ってしまう。ゼクーは恐れていたのだ。自分の持つ魔力の流れをトゥーラが視てしまうことを。

 

 ライツに言われたことが少しだけ判るような気がする。トゥーラがもしも目にしたままに弟子全員の魔力の大きさを公表すれば、階級によって管理された人々は途端に指標を見失い、塔は混乱するだろう。何しろ頂点に立つゼクーの魔力の大きさは弟子達と大差ないからだ。

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