Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~   作:伊駒辰葉

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森に到着です。


五章
リュバーンの森に入って 1


 予定より少し遅れて夕刻過ぎに二人はリュバーンの森に到着した。入り口のところで立て札と方角とを確認した後、ライツは進む方向を決めた。地図に示された二人の担当する区域は大きな泉のある森の中央部だ。

 

 高原の開けた景色とは対照的に森は入り口からうっそうとしている。入り口に突っ立っているトゥーラに声をかけてライツは森の中に進んだ。トゥーラは表面的には強がってはいるがきっと怖いのだろう。時折、森の中に響く獣の声にこっそりびくついている。

 

 国の南に位置するこのリュバーンの森は隣国との境にある。南のリュバーン、東のバレンティアの山脈は自然の作り出した二つの強固な壁だ。特にリュバーンの森は魔物が棲息するため、人が通るための道は作られていない。あるのは細々とした獣道だけだ。

 

「決められたところまで歩いて半日くらいかな。今日は宿を取る訳にはいかないから野宿で我慢してよね」

 

 勝手な行動は取らないようにとトゥーラには先に言ってある。どうやらトゥーラは説明するまでこの森がどういう所なのかを知らなかったらしい。話を聞いた直後はとても驚いていた。だが驚いたのはライツも同じだ。知っていて当り前の知識なのに、どうして知らないのか。ライツが感じたままに訊ねたところ、また喧嘩になってしまった。

 

 ライツは年齢の割に知識量が多すぎるとトゥーラは言う。だがライツはそうは思わなかった。たまたまエタンダールの側仕えとして日頃から傍にいるため、他の見習よりは多少は知識もあるだろう。だがあくまでも多少の差であって驚かれるほどの事ではない。

 

「……もう。まだ拗ねてるの?」

 

 返事をしないトゥーラに呆れてライツはため息を吐いた。進むごとに周囲はどんどん暗くなっていく。茂った木々が夕方の弱い日の光を遮ってしまっているのだ。歩くのが難しいからとライツは小さな光の球を作り出した。二人のいる場所を中心に仄かな光の輪が広がる。

 

「拗ねてなんかいないわ」

 

 きっと森に入る直前に交わしていた会話がまずかったのだろう。答えるトゥーラの声は冷え切っている。トゥーラにもきっと悪気はないのだと思うが、聞きようによっては責められているようにも聞こえるほどだ。

 

 トゥーラの身に着けている首飾りは魔術の暴発を防ぐ道具だとライツは説明した。その途端にトゥーラの機嫌は悪くなってしまった。トゥーラはそれを自分で用意したのではなく、誰かに贈られたのだという。そしてトゥーラはライツが説明するまで、首飾りにどういう力があるのか知らなかったのだ。

 

 言わなきゃ良かったかな。ライツは渋い顔で頭をかいた。その首飾りがあればトゥーラは魔術を暴発させられない。これまでに教わってきただろう攻撃魔術らしいものを撃つ事は出来ないのだ。天使を見つけてトゥーラを出し抜き、保護しようとしているのだからその方が都合がいいはずだ。なのにライツは自分から首飾りについて解説してしまった。どうしてそんな気になったのか、とライツは自分の行動を振り返って首を傾げた。

 

 もっと判らないのはトゥーラだ。何故かトゥーラはその話をした後も首飾りを外そうとはしない。外せば魔術の暴発を起こすことは可能だとライツが説明しても、だ。

 

 一体、何を考えてるんだろう。ライツは苛立ちにも似た思いを抱きながら隣を歩くトゥーラを伺った。トゥーラは光に照らされた足元を見ながら慎重に歩いている。呆けていると足元を木の根や草に取られるからだ。

 

 不器用に歩くトゥーラを見かねてライツは手を差し出した。怪訝な顔をするトゥーラの左手を強引に握る。

 

「そんな嫌そうな顔しなくてもいいでしょ。転んだら痛いだろうと思っただけだよ」

「子供じゃあるまいし」

 

 渋い顔をしてトゥーラがライツの手を振り解く。だがその途端に何かに足を取られたのか、トゥーラの身体が傾ぐ。もう、とぼやいてライツは素早くトゥーラの腕をつかんで引いた。本当に転びそうになったことが恥ずかしいのかトゥーラの顔が真っ赤に染まる。だから言ったでしょ、とライツは改めてトゥーラの手を握った。今度はトゥーラも大人しく手を繋いだまま歩き出した。

 

 周囲がすっかり暗くなり、夜の鳥が鳴き始める頃にライツは今日の寝床を作り始めた。ここにしよう、と決めて、濡れていない草の上に布を敷く。獣道から少し外れた草の上に陣取ったライツは早速、食事の準備を始めた。火を起こして荷物の中に突っ込んでおいた携帯用の小さな鍋と、アルセニエフから貰った携帯食を取り出す。このままでも十分に食べる事は出来るのだが、水を通して温めればいい出汁が取れるのだ。

 

 ライツが食事の準備をする間、トゥーラはずっと物珍しそうに傍に付いていた。火の傍に座り込んで鍋を覗き込むトゥーラはまるで子供のようだ。だがそう指摘すれば余計に拗ねることは判っていたのでライツは何も言わずにおいた。

 

 男だと自分からばらしたライツを遠ざけていたトゥーラはいつの間にか元の態度に戻った。どうやら口喧嘩をしたことで気分が解れたらしい。傍に寄っても文句は言われなくなった。




この辺りから改稿しないとなんですが………………。
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