Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~ 作:伊駒辰葉
と思いながらUPしてみます。
まだ旅は始まりません(汗)
塔の弟子たちの一日は鐘の音で始まる。
日の出の後に鳴る鐘の合図で塔に住まうものは目を覚ます。そして食事当番の者はすぐに調理場に入って朝食の準備を始め、それ以外の者は朝の短い時間をそれなりにゆっくりと過ごす。
次の鐘が鳴るのは朝食が始まる時だ。その合図で弟子達は朝の食事を始め、後片付けは各自が行うことになっている。
その次に鳴るのが授業開始の合図の鐘だ。並行して行われる講義には幾つかあるが、その中でも外部講師による一般教養の講義は見習から二等魔道士までの弟子の必須科目だ。それ以上の階級の弟子には一般教養の講義の修得義務はない。そしてそれ以外の講義については受講するかしないかは弟子が自由に決められることになっている。
そのため、一等魔道士以上の階級の者は一日を通して自由に時間が使える。講義を受けてもいいし、自習をしてもいい。息抜きをしてもいいし、塔の外に出るのも自由だ。だが一等魔道士以上の階級の者にはこれといった縛りがないために、時間配分を誤ると試験課題に取りかかることすら出来ないという事態に陥ってしまう。一等魔道士以上の階級の者は、月に一度の試験とは別に独自の研究成果をあげなければならないからだ。
ここで大抵の弟子は引っかかる。一等魔道士に進級した途端に時間配分がまるで変わると知ってはいても、ついて行けなくなる者が続出するのだ。それまで決められた時間に講義を受け、エタンダールの出す課題をこなしていれば良かっただけだったのが、急に研究を始めろと言われるのだ。しかもエタンダールは何を研究すべきか等の説明を一切しない。順当に一階級ずつ上がるのならまだいい。これが飛び級でもしようものなら悲惨なことになる。泣きながら塔を出て行った弟子をライツはこれまで何度も見送ってきた。
だが、見習魔道士の時間割はきっちりと決められている。そして下手に講義をさぼるとすぐについて行けなくなってしまう。何しろさぼった講義を受講し直すことが出来ないのだ。さぼった分を取り返すとなると自習するしかない。
講義をさぼらず、明日の昼までに抜粋部分を提出となると、どうしても自由時間の夕方から夜の間に作業しなければならない。
エタンダールの部屋を出て、寮の自室に戻ったライツは抱えていた本を机に置き、深いため息を吐いた。
限られた時間内に出来るかどうかは判らないが、とにかくやってみるしかない。ライツは覚悟を決めて机についた。三冊の分厚い魔術書の中から一冊を選ぶ。エタンダールはだらしない生活を送っている割にこうした魔術書の管理はしっかりしている。埃一つ被っていない魔術書の表紙をめくったところでライツは顔をしかめた。細かい字が連なっているのを見ただけでやる気が失せる。しかもこれがエタンダールの記した書なのだから更に意欲がなくなる。
「うわあ。この中から探すのか」
諦めのため息をつきながらライツは薄い紙を慎重に一枚一枚めくった。ずれ落ちそうになっていた帽子を取って机の端に置く。ライツは機嫌の悪い顔のままで机についた。改めて魔術書を覗き込んだライツはいつの間にか真剣な表情になっていた。
日が傾き、窓から入る光がほんのりと赤く染まる。ライツは時が経つのも忘れて魔術書を読み耽った。途中、気に掛かる箇所を紙に書き付ける。熱心に魔術書を読むライツの耳には夕食を報せる鐘の音も届かなかった。
ライツが我に返ったのは、部屋の明かりが自動的に灯ってから随分経った時だった。
そういえば食事をとっていない。そのことに気付いたライツは机から離れ、窓から外を見た。周囲はすっかり暗くなっている。寮の前にある庭の所々に立つ外灯をぼんやりと眺めてからライツはため息を吐いた。どうやら食いっぱぐれてしまったようだ。庭の向こうにある調理場の明かりはすっかり落ちてしまっている。それだけではない。みんなもう眠ってしまっているのだろう。寮の他の部屋の明かりも落ちている。道理で周囲が静かなはずだ、とライツは納得して頷いた。
せめて顔くらいは洗ってこよう。開きっ放しになっていた窓を静かに閉めてライツは机に戻った。生乾きのインクが擦れないように抜き書きした紙を注意深く机に並べてから、ライツは部屋のドアをそっと開いた。薄く開けた扉の向こうからは弟子達の声は聞こえない。やっぱりみんな寝てるし、と内心で呟いてからライツは部屋を出ようとした。
ふと、扉の前に見慣れないものが置いてあるのが目に留まる。ライツは屈んでそれを拾い上げた。
それは一枚の紙と小さな重石だった。右手でつかんだ青白い半球の石を見つめたライツは次に左手の紙を見た。紙に描かれているのは食卓の光景だ。温かそうな湯気の立ち上るシチューの皿、焼きたてパンの入った籠、グラスに満たされた果汁がテーブルに乗っている様が描かれている。ライツは何となく部屋に戻って扉を閉めた。
不意に青白い石が優しい光を帯びる。それを見止めたライツは苦笑した。石に力をこめて、紙に転写した魔術を時間に差をつけて展開させるこの魔術は、高等魔術の一つだ。そのことに気付いたライツは絵の描かれた紙と石を床にそっと乗せた。
石と紙が光の中に消え、代わりに温かな食事が現れる。床に直に置かれた木の器には温かなシチューが、焼き立てのパンは籠の中に、そして果汁の満たされたグラスを見てライツはくすりと笑いを零した。きっとエタンダールの仕業に違いない。ライツは床に現れた食事をありがたくテーブルに運んだ。
椅子に腰掛け、食事を始めようとしたところでライツはふと眉を寄せた。
「師匠。スプーンがありません」
腹を押さえて笑いの衝動を堪えつつ、ライツは小声で言った。食事を忘れて勉強に励むライツの為に、エタンダールがわざわざ魔術を使ったのは判る。が、残念ながら用意された食事にはスプーンが添えられていなかった。ライツは懸命に笑いを堪えながら籠の中からパンを取り上げた。
珍しく2,400文字しかないですね!
少な!!w
魔法という書き方はしていないですね、これ。
魔術って書いてますね。
(他人事のように)
魔術を使える人は魔道士。
教え導く人は魔導師。
使ってるのは魔術。
……だったかなあ……(汗)
すみません、うろ覚えです……。