Angel or Lilith~天使な僕と魔性なキミの旅~   作:伊駒辰葉

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まだ旅には(略

タイトル詐欺?
いえ、これは350枚くらいあるので起承転結の起です。

そのうち旅に出るので許してください。
タイトルの方を変更するかもですが、判りません!w


書庫のシャルレラ

 鐘打ちのバイマークに挨拶をしてライツは誰もいない廊下を寮の奥に進んだ。鐘打ち台に向かうバイマークがライツに並んで歩く。ライツは少し歩みの遅いバイマークに合わせて歩調を緩めた。外は朝の白いもやにまだ包まれている。

 

 話題にのぼるのは街での噂と飼い犬のこと、それにお馴染みの鐘職人のことだ。バイマークに言わせるといい鐘を造れる職人というのは数が少ないらしい。鐘打ちにはちょっと叩くだけでその鐘がいいものかそうでないか判るという。その話をする時のバイマークは皺だらけの顔に得意そうな笑みを浮かべるのだ。

 

 バイマークは気のいい老人なのだが、この塔の弟子には下手をすると師匠のエタンダールより怖がられている。何しろバイマークの叩く鐘はここでは絶対だ。しかもバイマークは気前よく何度も鐘を叩いてはくれない。どんな時を報せる際も叩くのは一度きり。もちろん誰かが寝坊しても、もたついている時も鐘を叩くのを待ってはくれない。ある意味では塔はこの鐘の音に支配されているのだ。

 

 それじゃあ、しっかりやれ。そう言ってバイマークが鐘打ち台に向かう。ライツは手を振ってバイマークを見送ってからエタンダールのいる塔に向かった。転移陣を使ってライツが最上階に辿り着く頃には起床の鐘が鳴り響いた。いつものように一度しか鐘は鳴らない。ライツは鐘の音の響く塔の中を急いだ。

 

 エタンダールの部屋のドアをノックする。控え目なライツのノックに部屋の中から応答がある。ライツは恐る恐るエタンダールの部屋のドアを開いた。

 

「あの、ライツですが」

 

 細く開いたドアの隙間から部屋の中を覗いたライツはほっとした。どうやら今日は誰も連れ込まれていないらしい。大きな欠伸をしてベッドに身を起こしたエタンダールの姿に胸を撫で下ろしてライツは入室した。

 

「早えよ、鐘が鳴ったばかりじゃねえか」

 

 剥き出しになった胸をかきながらエタンダールが面倒そうにライツを見る。ライツはすみません、と一応は詫びてから魔術書を机に乗せた。大きな書き物机は相変わらず物が散らかっている。ライツがいくら片付けても次の日には元通りになっているのだ。そのことにため息をついてライツは机から離れた。

 

「言われた項目を書き出しましたよ」

 

 指示された抜書きには結局、朝までかかった。三冊の魔術書のあちこちに内容が散っていて、内容をまとめるために二度ほどそれぞれの魔術書を読み返したからだ。ライツは徹夜して赤くなった目を擦りつつ、内容をまとめた紙を差し出した。だるそうに欠伸をしたエタンダールが紙の束を無造作にさらう。

 

 中庭に細い楽器の音が響く。窓から入ってくる心地のいい音楽にライツは耳を澄ました。鐘打ちのバイマークが餌をやるために鳥を寄せているのだ。横笛の音につられて集まった鳥達が窓の外を横切っていく。

 

「何とか及第点ってとこか。すげえ雑だが」

 

 紙の束をめくっていたエタンダールが欠伸混じりに言う。最後にくっついていた雑という評価にライツは顔をしかめた。

 

「仕方ないでしょう。師匠が昼までなんて無茶を言うから」

「それで? 少しは理解出来たか?」

 

 不服の声を無視してエタンダールが言う。ライツは膨れ面をして頷いた。

 

 勿論、魔術論などの知識が頭に入っていることが前提だが、魔術は基本的には魔力と呼ばれる力がなければ使うことは出来ない。だが単に魔力が大きければ大きい魔術を使える訳ではなく、魔術を実際に用いるには魔力を展開させるための隙間、つまりスペースが必要になってくるのだ。

 

 例えば人の身体いっぱいに魔力があるとする。内側に魔力が満ちているのだから、知識のない人間は魔術が使えると安直に考える。だが単にいっぱいに魔力があるだけではどんなに魔術を使おうとしても実行は不能だ。大きな魔術になればなるほど魔力を構築するためのスペースが必要になる。それが魔術展開の理論だ。魔力の分量と展開のためのスペース、その二つが揃って初めて魔術は使えるものになるのだ。

 

 力量のある魔道士になればなるほど、魔力を展開するための隙間は大きくなる。逆に言えば自分の有する魔力を小さく濃く畳むことが可能になるのだ。この術を応用すれば複数の魔術を同時に展開することも可能だ。……尤も、それには並大抵ではない能力と経験が必要になってくるが。

 

「昨日の試験で淫魔作成術を試みた人は、展開に失敗したんですね」

 

 魔術書から抜書きしている間に、ライツは昨日のエタンダールが言わんとしていたことに気がついた。ライツは単純に魔力の欠乏によりあの弟子が倒れたのだと思い込んでいたのだが、実際には違っていたのだ。

 

「そう。いっぱいいっぱいのとこに持って来て、強引に展開しようとした挙句、展開し損なったんだよ。おまけに魔力もフルで使いやがって」

 

 欠伸しながらエタンダールがベッドから降りる。真っ裸のエタンダールを見てライツは慌てて洋服入れに駆け寄った。下着を引っ張り出してエタンダールに投げつける。どうやら裸のまま窓辺に立つのは諦めてくれたらしい。何事か文句を言いつつもエタンダールが下着を身につける。そんなエタンダールを見てライツは深々とため息を吐いた。確かにこの塔は風変わりで弟子は圧倒的に男が多い。だが女弟子も全くいない訳ではないのだ。もしも中庭に女弟子がいて、裸のエタンダールを見止めたら悲鳴を上げるに違いない。全くこの人は、とライツは疲れた息を吐いた。

 

 この塔に入門を希望する女性は少ない。その数少ない女性の入門希望者は、大抵が入門試験の段階でこの塔に入ることを諦めてしまう。いや、正確に言うなら諦めるのは入門希望の女性当人ではなく、入門試験の面接に同伴する親の方だ。

 

 エタンダールの名を歴史書などで知った一部の親が英才教育のつもりで子供と共に塔を訪れることもある。そうして事前に調査しようとする親はまだいい。街に入った時点でこの塔やエタンダールの噂を聞いて引き返すことが出来る。が、中には運悪く入門試験で実際に会うまでエタンダールの本性を知らない親もいるのだ。

 

 中にはエタンダールを目の当たりにしても娘を入門させてしまう親がいる。そんな豪快な親を持った数名の女性が、ここにいる数少ない女弟子だ。見習魔道士の最初の講義で淫魔作成術を習ってもめげないのは、きっと親譲りの豪快な性格をしているからだろう。両手の指で足りるほどの数しかいない女弟子の顔を思い浮かべてライツは一人、頷いた。

 

「相変わらず汚え字だなあ。もうちょっと丁寧に書きやがれ」

 

 窓辺で大きく伸びをしてベッドに腰掛けたエタンダールが、ライツの渡した紙の束を見て嫌そうに顔をしかめる。ライツは怒鳴りたいのを堪えて歯を食いしばった。誰のせいだと思ってるんだ。そんなライツの心の叫びを知ってか知らずか、エタンダールが嫌そうな顔をしたまま顎をしゃくる。

 

「シャルレラを呼んで来い」

 

 だるそうな口調で言ったエタンダールが大きな欠伸をする。それまで怒りに目を吊り上げていたライツは唖然となった。そんなライツを横目に見てエタンダールが不機嫌そうに眉を寄せる。

 

「あー? 聞こえなかったのか? シャルレラ呼べっつってんだろが」

「な、んでですか」

 

 ライツはぎこちなく問い返した。何となく嫌な予感がする。そんなライツの予感を裏付けるかのように当たり前という顔をして、エタンダールは紙の束を指で弾いた。

 

「次の講義で使うんだよ。だからもうちょっとまともな字で書けっつったんだ」

 

 下手くそ、と吐き捨ててエタンダールが紙の束を宙に放る。ふわりと浮いた紙の束が宙で一枚ずつにばらける。その直後、紙は金属の板に早変わりした。エタンダールが魔術で紙の構造そのものを変えてしまったのだ。

 

 床にゆっくりと十数枚の金属の板が降りてくる。ライツはあんぐりと口を開けたまま、その様を見守った。慌てて手近な板の一枚を覗き込む。抜書き部分の文字だけではない。ライツがペンで殴り書きした注意項目の部分や、塗り潰して修正した部分までそっくりそのまま浮き彫りになっている。

 

「まさかと思うけど、僕に書かせたのって」

 

 いつもながらエタンダールの魔術の手並みは見事だ。それは判る。だがライツは金属板を見下ろして全く別のことを考えていた。

 

「お前、オレの話をまるで聞いてねえな。シャルレラだよ、さっさと呼んで来いってえの」

 

 嫌そうに顔をしかめてエタンダールは着替えを始めた。木箱の蓋を引っくり返してローブを着込んでいる。相変わらずいいかげんな着方だ。ローブのデザインはライツのものと同じなのに、エタンダールが着ると全く違う服に見える。何しろエタンダールは最低限の留め具しかかけない。ズボンはまともに穿いてはいるが、腿の中ほどまでの丈の裾の広がった中衣の前は開きっぱなし、短い丈の上衣の留め具は無視されたまま、首のところの宝石の施された飾り具はぶら下がったままだ。しかも帽子は被っているところなど見たことがない。街の仕立て屋がエタンダールを見かける度に泣きそうな顔をするのは、きっとこのぞんざいな着方のせいだ。エタンダールのそんな様をしばし眺めてからライツは深々とため息を吐いた。

 

 さっきからエタンダールが呼んで来いとしつこく言っているシャルレラは、この塔で使われる書類、魔術書等の印刷や管理を専門に行っている者だ。つまり、エタンダールはライツの書いたものを原稿にして、講義で使うテキストにすると言っているのだ。

 

「何て横着なんだ……要するに僕に代わりに仕事させただけじゃないか」

 

 ちなみにシャルレラは弟子ではない。ライツが物心つく以前からから司書としてこの塔で住み込みで働いている女性だ。

 

「なんか言ったか?」

 

 ゆらりと振り返ったエタンダールが目を細めてライツを睨む。いいえ、と力をこめて言ってからライツは大股で部屋を出た。

 

 廊下に出たところでライツはドアを叩きつけるように閉めた。肩を怒らせて歩くライツの傍を寝起きの顔で先輩弟子たちが行き過ぎる。彼らに挨拶してから、ライツはシャルレラの部屋に向かった。ドアから顔を覗かせたシャルレラはまだ寝惚けているのか、しきりに瞼を擦っている。

 

「なぁにい?」

 

 エタンダールほどではないが、シャルレラも周囲の目を気にしない性質だ。それなりの服を着て黙っていたらかなりの美女だというのに、寝起きだからなのか、それとも寝る時はいつもそうなのかろくに服も着ていない。乱れた髪を指で梳きながら大きく欠伸をしたシャルレラは、いつもするようにライツの頭をよしよしと撫でた。しばし黙って頭を撫でられてからライツはあの、と切り出した。

 

「師匠が来てくれって」

「エタンダールも朝っぱらから元気ねえ」

 

 呆れたという顔でシャルレラがそんなことを言う。言葉に含まれた意味をしっかりと読み取ってライツは真っ赤になった。シャルレラが頭をかきながら怪訝そうに眉を寄せる。

 

「いやあのえっと、た、多分違う用事じゃないかな」

「何だ。仕事の方?」

 

 寝ぼけた顔をしていたシャルレラがぱちりと目を開く。ライツは頷いてからそれじゃあ、とドアを閉めようとした。そこで数人の弟子が廊下に突っ立ってこっちの様子を伺っていることに気が付く。中にはあからさまに嬉しそうな顔をしている者もある。シャルレラは下着姿で廊下に顔を覗かせているのだ。

 

 シャルレラは若く、しかも美人だ。そんなシャルレラの下着姿を一目でも見ようとしてか、廊下には次々に弟子が集まってくる。

 

「とっ、とにかく頼みますね!」

 

 慌ただしく言ってライツは有無を言わせずドアを閉めた。観客と化していた弟子達から不満の声が上がる。ライツは真っ赤になって彼らの間を逃げるようにすり抜けた。

 

 寝ずに頑張ったのに。何で僕ばっかりこんな目に合うんだ。ライツは苛々しながら調理場に向かい、朝食の下ごしらえをした。寝不足で真っ赤な目をしたライツを気遣う弟子もいれば、からかう者もある。彼らの声をてきとうに流しながらライツは手伝いを終えた。その足で寮の自分の部屋に戻る。

 

 ライツは昼までの講義を捨てると決めて不貞寝することにした。帽子を取ってローブを脱ぎ、ブーツとズボンを脱ぎ捨てる。だがベッドに入ってしまうと自然と怒りは消え、強い眠気がライツを襲う。

 

「あ、そういえば師匠にお礼を言うの忘れた」

 

 どんな理由であれ、食事を用意してくれたことに関しては礼を言うべきだったのに。そんなことをのろのろと考えながらライツは深い眠りに落ちた。




ネーミング嫌いなのです……
今は名前をシャッフルで出してくれるところとかあって便利ですね~。

これ書いた時は自分で名前を考えるしかなくて。
仕方ないので参考にしたものがあります。

重点キャラはラ行をいれる。

ここまでだと

『ラ』イツ
エタンダー『ル』
シャ『ル』『レ』『ラ』

ほら。
ラ行入りまくってるでしょw
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