【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】 作:フルフェイスパンケーキ
マクギリス・バエル氏の素敵な作品に心を揺り動かされ、どのような形で小説に対する感謝の思いを伝えるべきかを考えた結果、こうして筆を執ることに至りました。
基本的に原作の時系列準拠としていますが独自の解釈・設定等も多く含まれてたりするので「思ってたんと違ァう!!」といった意見も多いかと思いますし、素の文章力が悲惨な為ガバとか不備とか誤字脱字、たくさんあると思います。
それでも、田んぼエルフの物語の片隅ではこんな事があったんだなーってイメージを、雰囲気を少しでも感じて頂けたのなら幸いです。
世界は何時だって不定形だ。
同じ形を保ち続けた試しなど今の一度も存在しない。
粘土や水飴を捏ねるように目まぐるしく世界は変わる。変わり続ける。
世界は何時だって不安定だ。
危なっかしい思想家や過度な利益を求めようと躍起になる奴がゴロゴロ居て、今日もニュースでそんな奴らの犠牲者が映りながらも何故かバランスは保たれている。
世界は何時だって気紛れだ。
時として昨日まで信じていた常識が、新しい発見で全部無かったことになる。
自分たちの縋っていたものが余りにも無価値だったと思い知るときがある。
ただ、それは痛みや悲しみ『だけ』に終わることはない。新しい何かで既存のものに意味が無くなっても、人は順応し、学習し、利用し、成長し続けることでそれを常識の一つとして取り込んできた。
もし、今までそうやって『何とかしてきた』人間が『どうしようもない』としか思えない何かが、訪れるとしたら?
世界が滅びを享受するしかない存在が、何処かからやってきてしまうとしたら?
『あり得ない』と決め付けてきた。
『起こるはずがない』と断定してきた。
非常識であるとされてきた全てが、この星に訪れたその時……
――俺は、ゴミ捨て場で
「…人?」
夏も終わろうとしている中での学校帰りだった。
来年に受験を控えた俺だが家にいると怠けてしまうし、それを注意してくれる人も居ない。
母は俺を産んだ後に程なくして死んだ。父は小学校の頃に交通事故で死んだ。
只一人残った俺は親しかった近所のお姉さんに預けられ、高校に上がってからはアパートの一室を借りて一人暮らしをするようになって今に至る。
自主参加式の夏期講習で夏休みでも学校が閉まるまで勉強して、帰って飯食って寝る…大学受験が終わるまでそんな日々が続くんだと思っていた。
――――――だが今、俺の目の前で見たこともない姿の少女が電柱に寄りかかるように眠っている。
あどけない寝顔からでもよく分かる整った顔立ち、ややブロンド寄りだが濃緑色の映える美しいロングヘア、微かに青白く艶やかな薄緑色の肌、白地にフリルが備わった可愛らしいドレスのような衣服、そして頭部右側面に咲く薄紅色の花…髪に結われているのでは無く、
肌の色や頭の花等、突っ込みたいところは列挙してもキリが無いが、兎にも角にもその姿は大凡週に二回ゴミ袋が積み上げられる家庭用ゴミ回収指定所と絶望的なまでに釣り合っていなかった。
とりあえず、起こそうとする。
「おい…なぁおい、大丈夫か?」
「……」
声を掛ける、反応なし。
肩を揺さぶる、応答なし。
気絶してるのかとも思ったが、それにしたって表情が穏やかすぎる。この子完全にスヤスヤ熟睡してるな。
どうしたもんかと考えていて…ふと、漸く彼女とその周りの様子がやや可笑しいことに気づく。
「この電柱、それに地面のアスファルト…こんなに雑草とツタまみれだったっけな?」
この少女を自分が見つけ出せたのは、通学路の途中だったから。
このあたりは人通りが非常に少なく、週二で早朝にゴミを出す近くの住民以外を見たことがない。少しくらい変化があっても、気づけるのはきっと俺くらいだ。
そして今朝高校に行く際、無機質なコンクリートとアスファルトの塊だったそれぞれは緑色の植物に彩られている。
それもまるで、この少女を中心にして汚れないよう緑のカーペットを敷いているかのように。
…マトモじゃない。
頭で考えるより先にそう感じ取る。
でもこのまま放置する訳にはいかないと、置いていく訳にはいかないと心の中で良心が訴えてくる。
少なくともこの瞬間、ゴミ捨て場で見つけてしまった少女をそのままに出来るほど、俺は無関心では居られなかった。
抱えてでもアパートに連れて行こうと、徐に手を伸ばす。
それが、頭頂部の花に触れた。
「…っ」
「あ…」
するとどうだろうか、ぴくりと彼女が微かに体を震わせ…閉ざされていた瞼がゆっくりと開かれていく。
弾かれたように伸ばした手を引っ込めた。
夕立が過ぎた後の夏空のように鮮やかで、何処までも透き通るような茜色の瞳が俺の姿を見て捉える。
綺麗だった。
途方もなく、際限なく。
彼女にこの時の俺は、どう映っていたのだろう?
きっと、とんでもないアホ面だった気がする。
「…」
「…」
「…えっと」
「…■■、■■■」
「は?えぇ?キミ今、何て?」
しばらく見つめ合って、気恥ずかしくなって俺から話題を切り出そうとした矢先に彼女が何かを…少なくとも俺の知り得ない外来語で何かを話しかけてくる。
残念ながら俺は高校では英語しか教わっていないし、仮に英語じゃ無くても世界に溢れるほど存在する言語のどれか一つに該当したとしてピンポイントで特定できるほど賢い人間でもない。
あぁ、これは俺の手には負えないなと渋々スマホを取り出す。その様子に、取り出されたスマホに、少女は初めてそれを目の当たりにするかの如く興味津々だった。今のこの時代では随分と当たり前の代物の筈なんだが。
一先ず翻訳アプリを起動し、音声入力モードにする。最近の大手企業が提供する翻訳アプリは非常に優秀で、音声で入力した言語を自動で解析して翻訳をしてくれるのだ、過去に道に迷ったりした外国人観光客をこれで案内したこともある。この少女の言葉もイッパツで理解できる筈…
「よし、もう一回喋ってくれれば何語か分かるな」
「■…■■?」
≪error.≫
…
……
………なんだ、この表示?
おかしい、こんなの見たことない。
今までどんな言語だろうと原文に最も近い形の翻訳が結果として出ていた。どれくらいか前に適当なうわごとを喋った場合は、総じて『もう一度入力してください』という旨のシステムメッセージが出てきている。
高校に入学してから三年間ずっとこのアプリを使用しているが、エラー表記が出たことなど一度も存在しないのだ。
それが今、このタイミングで、出た。
普段のシステムメッセージが全部日本語で表示されるよう設定している中、一単語の英語だけで突きつけられる無機質な内容が不安を更に煽ってくる。
常人とは明らかにズレた外見といい、翻訳アプリがエラーを吐く言語といい…これでは、まるで…
画面から目を離して彼女を見た。
状況を理解できていない、あどけない茜色の視線が心を焦燥にザワつかせる。
「どうなってんだよ、オイ…」
「■?」
≪error.≫
「なんで…何だよこれッ」
「■■?■■■・■■?」
≪error.≫
「なんでエラー表記しか返ってこないんだよ…!?」
何度試みても
幾度その声を聞かせても
気味が悪かった。訳が分からなかった。この数分の間で現実味を帯びない出来事が余りにも多すぎる。
人は自身の理解が及ばないような出来事を経験したとき、本能的にそこから逃れようとすると何処かで聞いたことがある。一種の防衛本能だそうだ。
…確かに、『あの時』もそうだった。
だが俺は、その防衛本能すら押しのけてしまう程、この少女に対しての様々な感情が勝っていた。
それは純粋な好奇心であり、何物にも例え難い恐怖心であり…今ここでこの少女を見過ごせば、何か取り返しのつかないことになるかもしれないという、何一つ確証のない予感だった。
しかしながら、そんな感情とは裏腹にこの状況を打開する策を持っていない事も又揺るぎない現実だった。
無力だ、無力すぎる。アニメや漫画の中で度々出てきたヒーローのようには、気持ちだけでは何一つ成し遂げることは出来ないのだ。
そう軽く打ちひしがれていた俺を見つめていた少女は、何か思うところがあったんだろうかどうかは定かではないが…ツタに覆われた電柱から身を離すようにすっくと立ち上がって、此方に歩み寄ってくる。
「え、あ…余りにも不器用すぎて怒った?」
「…」
何も言わない。
表情にも大きな変化はない。
ただ、何かをしようとしているのは何となくだが、分かる。
何をされるのか、何をするつもりなのか分からなかった。だが、彼女が悩んでいる俺に対して何かをしようという思いの元で動いていると考えると…不思議と逃げたい気持ちは出てこなかった。
後ずさってしまったら、彼女が可哀想だとも思った。
彼女の腕が伸び、濃緑の肌を伴った華奢な両手が俺の頬に触れた。
――ふわり。
ほんのりと鼻腔を擽る、甘い蜜に似た芳香。
これ…この香り、彼女のものだろうか。
だったら、案外本当に蜜なのかもしれないと、俺の襟元あたりまでしか背丈のない彼女を見て微かに想う。
此方をずっと見つめていた彼女の目がゆっくりと閉じる、すると両の頬に添えられた手の平が僅かに熱を持ったと同時に…
「う、うおぉぁあぁ!?」
意識と視界が、暗闇の中に放り出された。
何が起こったのかを理解する間もなく、真っ黒だった景色が視界の中央を起点に白く塗り潰されて…ゆっくりと世界が色を取り戻していく。
だが視界の先にあったのは、俺の知っている景色などでは無かった。
数時間前とっくに沈んでいた太陽は頭上で燦々と輝いており、住宅街の一角だった周囲の風景は草原と木々が支配しており、時折遠くで車が走り抜けていく音を拾うだけだった聴覚は彼方此方からする鳥のさえずりを捉えていた。
訳の分からないことが起こりすぎてとうとう脳ミソがオーバーフローしたのだろうか。
…それとも
「幻でも見てるのか、俺?」
『
「キミはさっきの……えっ?!」
『
自分の右隣から唐突に聞き覚えのある声がして、振り向くとあの少女がいて…そこまでしてから漸く気づいた。
……今、自分はこの少女がなんと言ったのかが分かったのか?
相変わらずこの少女の言語は何語か分からないままだ、しかし…
「俺…俺、とうとうイカれちまったのか」
『違うわ、これは私の魔法…貴方と意識をつなげて、私の過去を幻影として見せているの。混濁していてあまり記憶が明瞭では無いけれど…大事なところは、残っていたから』
「だからっ…だから何の話なんだよ!キミは!?俺の見ている“コレ”はどういうモノなんだ!!」
意識せず声を荒らげていた。
きっと、自分でも気付かないほどこの状況を現実のものだと認めたくなかったのだろう。こんなのまるでゲームとかそういう段階だ。
しかし、問い詰める俺の様子を見ても顔色一つ変えずに...いや、寧ろ彼女が自分の手でしてしまっている事を少し悔やんでいるかのような表情が一瞬浮かんだ。
―――俺は、知っている。
この表情は、人が誰かに対して辛い出来事を打ち明ける時の顔だ。
何年か昔の自分が、そんな表情で毎日過ごしていたからよく分かってしまう。朝起きて鏡の前に立った時は大体いつもこんな顔だった。
だから、問い詰める口を噤む。
例えこの先にどんなことを語られたとしても、頭ごなしに否定してはならない。
これから彼女にとって、恐らくとても辛くて悲しい出来事が語られる...そんな気がしたから。