【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】   作:フルフェイスパンケーキ

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本家の第二部が始まるらしいので急ぎの初投稿です。

スランプ続きだったり、リアルが忙しかったり、モチベが中々維持できなかったりと散々ですが私は元気です(喀血)。


第十一葉:未知からの招待状

「あ゛〜...新着メールが400超えてる...1000件捌いた後にコレはキツイねぇ?」

 

ここはオフィスビルの上階か、はたまた個人経営の事務所か否か。

何処かにあるような職場の一角を思わせる部屋の大窓に写る薄紫色の夕焼けと、それに照らされる摩天楼の樹林を背景にスピーカーからキャッチー(ちょいと古め)な曲の流れるパソコンと向き合う女性。

白衣を羽織ってメガネを掛けた姿はインテリさながらだが、その表情は最も嫌な事をする際の人間が見せるものだ。

冷房やパソコン内蔵ファンの駆動音に、カチカチとマウスのクリック音が混ざって周囲に無機質な音を響かせる。

 

 

「えー...ナイフ、剣、ハンマー、槍、ナックルダスター、ドス...あーもう全然ダメ、全部別の部署行きだ。っていうか武器製作って本来アッチが全面的に受け持ってた筈なんだが?なんで管轄外だって言ってた私の方に回ってきてるんだ?ん??」

 

 

ざっと目を通し、「やってらんねーわこんなモン」と悪態をつきつつも片っ端から届いたメールを別の宛先に送っていく。

 

夕日の差し込む窓辺で7,80年代の日本でブレイクしたシティポップを懐かしむように流しながらの作業風景はエモーショナリズム的な、現代っ子風に言えば『エモい』と形容できるようなものかもしれない。

しかし、その作業内容自体は極めて単調且つ面倒極まりない様子でパソコンと向き合う女性を必然的に苦しめる咎。エモさもへったくれも皆無である。

 

 

「はァー...とりあえず届いてた分は処理でき――」

 

ピロン♪

 

新着メールが一件あります

「...と思ったらこれだよ」

 

 

ぐいっと背伸びをして席を立とうとした女性は、再びどんよりと気怠さを漂わせながらパソコンモニターに向き合い、メールにカーソルを合わせる

 

 

「コレ見たら一旦休憩しよう、そうしよう...どうせ他所の部署行きなんだろうけ、どっ」

 

ッターン!とストレスを在り在りに滲ませた激しいクリック音が鳴る。

 

するとどうだろうか、あの気怠そうな、一刻も早く終わらせてコーヒーでも飲みに行きたいとでも言わんばかりだった女性の表情がみるみるうちに変わっていく。

 

最初は無言で目をぱちくりと瞬きし...

 

 

「...あるもんなんだね、こういう事ってさ」

 

 

ニヤリと、何か面白い事を思いついた子供のように。ゴミ山を漁っていたら金塊を見つけたトレジャーハンターのように、笑った。

 

 

 

「さぁーて!作業取り掛かる前にこの差出人について調べた方がいいかなコイツは?安直に武器を頼んでこない発想はそう易々と思い浮かぶもんじゃないぞ〜ぉ」

 

そう言いながらパソコンの脇あった陳列するスイッチの1つを押す。

 

途端に部屋の外を映し出す景色が暗転し、黒色のみが残された大窓の中心から青い光が広がり始めるのに併せてパソコン前の椅子が女性を座らせたまま窓の方向にくるりと向きを変えた。

そして、床下から今先程使っていたコンピュータと比べ物にならないほど複雑化された操作デバイスが椅子の前へと迫り出す。

 

 

「君は何処で、どんな生活を今日まで送っていたんだい...?」

 

 

ブルースクリーンに、短く文章が綴られる。

 

 

 

 

《SEARCH ARCHIVE》

 

>>>Country→Japan

 

 >>>Area→λ-11-2

 

  >>>Personal name→Masaya Hirano

 

   

 

 

たった一人の人生全てを詰め込んだ情報が、画面内の表示限界まで溢れた。

 

 

 

//////////

 

 

 

「どんな感じに見えてる?」

 

「大まかには普通の人間、と言いたい所なんだけど...やっぱり注意深く見られたらバレそうね」

 

「そうかぁ...やっぱり、何度やってもこの辺りが限界なんだろうな」

 

 

洗面台の前で、鏡に映る俺自身の姿を...現状可能な限り人間に似せた姿を、ラナと共に眺めていた。

 

この二日間家に籠りっきりで何をしていたかと言うと、基本的には自身の姿を可能な限り元の人間だった頃に寄せられないかどうかという試行錯誤を繰り返している。

とてもじゃないがあの姿のまま外に出歩くのは不可能に近いし、かと言ってこのまま籠城し続けてもいずれ食料は尽きてしまう故に、他人から見ても人間であると誤魔化せる方法を思案していた。

 

そこで参考にすることしたのは、ラナの見せてくれた“擬態”だ。

人型の植物モンスターが息をするように行えるそれは、魔法とは別のメカニズムで作用しており、『無垢胚』のちょっとした応用で()()()()()見せるのだとか。

 

 

…が、彼女らにとって造作もない事だとして、俺にとってほぼ融通の効かない技能だという残酷な現実が待っていた。

 

鋭い手も、二又に裂けた足先も人間の頃と同じ形には寄せられはしたが、炭化や壊死を彷彿とさせる真っ黒な色のまま。

全身を覆う蔦は大体内に戻せたが、口元を始めとした蔦で覆われて隠されていた部分の異形が顕になってしまってる。

具体的に言うなら皮膚と植物の枝や蔦が融合しているような、その上所々は外皮を突き破っているのがグロテスク極まりない。

 

結論から言って俺の出来たのは不完全極まりない“擬態”。元の姿に戻そうとしているからその言葉も余り相応しくないだろうが、難航に難航を重ねて漸く今の形まで漕ぎ着けられたって事になる。

『一目見て異形の存在と判断される』か、『近くまで来て人間じゃないと分かる』かの二択でしか無かった。それでも後者の方が遥かにマシではあるだろうが、遠くでも長時間誰かに姿を晒し続けるのは高リスクだし、至近距離なら間違いなくバレるので何かしらの対策は必至と考えてる次第だ。

 

 

「口元と手足はどうにもならないっぽいし、マスクと手袋は必須だな、こいつぁ」

 

「首も結構怪しいわ、襟ですっぽり覆えるタイプの服ってある?悪い事は言わないからそれ着て行くべきよ」

 

「だなー...と言っても復興作業に携わってる人達除いてすっかり少なくなってるな、外出歩いてる人らって」

 

 

…ゴブリン襲撃による死者はこの国だけでも数千人。国外では十数万単位に登ると言われている。

余りにも大量の人名が同時多発的に失われた事から大国の作った新兵器による人口減らしが行われたとか、何時ぞや大流行した新型ウイルスと同時期で開発された生物兵器を用いたテロリズムだとか、真実を知ってる俺からすれば的外れな噂が立っていた。

 

しかし、人々はそんな噂に構い続ける余裕はない。

破壊された発電施設、寸断された他府県と繋がる高速道路、機能が麻痺した商業施設...

 

瀬戸際に立たされながら、誰もが必死に生き延びる事を考えていた。

既に多くの人は食料の配給が滞りなく行われる避難所へと集っており、数少ない物資の運輸はそこへ当てられている。

 

県外の地方都市では完全に止まってしまった所もある中、この街では電気やガス、水道といったライフラインが完全に閉鎖されていない事を幸運に思いながら、普段から食い物に困らないよう保存食を買い溜めておいた過去の自分に感謝しつつ...俺は、この先どうするべきかという答えを未だに見出せずにいる。

 

 

「それで?例の政府が打ち立てた組織とやらからの連絡はマダなの?」

 

「そんな感じだな、相当立て込んでるっぽい...昨日の今日だし、こんな状況じゃ仕方ないか」

 

 

だから俺は、少しでも()()が欲しかった。

『生きたい』と思い続けられるような理由が。

 

 

昨日、復興作業と並行して打ち立てられた【未知生命体対策本部】によってアカダマ...即ち、魔核を取り込んだ民間人からも戦闘員としての勧誘が行われている。

中には俺と同じ高校生も含まれているようで、学徒出兵みたいなノリだなと思いつつもちゃっかり志願している俺も自分自身どうかとは思う。

 

でも、何でもいいから、自分を自分たらしめる何かが欲しかった。

人間として...人間でなくなったとしても、人として振る舞いたかった。

 

俺はやっぱり、怖いんだ。

ラナに支えてもらってはいても、その恐怖を拭いきれる程心は強くはない。

 

 

「でも、民間上がりで簡単に戦士を補充できるのかしら?これじゃ蟷螂の斧もいい所よ」

 

「よくもまぁそんな難しい言葉を...かく言う俺も同意見だ、こんなやり方でホントに大丈夫なのかよ...って志願理由書出してるヤツが言える立場じゃないか、うん」

 

「その志願理由書、具体的に何書いて出したの?」

 

「えーと、年齢・性別・所在地みたいな在り来りなモノから志願した理由とか...あ、いや、確か『所望する武器の種類』って欄もあったな」

 

「なにそれ」

 

 

ジト目のラナが鏡に映る。

いや、俺だってそう言いたいよ?沢山の人が得体の知れない怪生物に殺されまくってるのに、お前らやる気あんのかって...

やっぱり、アレなんだろうか。“国なんかアテにしちゃダメ”っていう思し召しなのか。

自分の頭で考えて、自分の力で切り開いていくしかないのか、この先も。

 

 

「やっぱり、不安?」

 

「...どうにも」

 

「そうよね...マサヤの体にも、世界にも、多くの変化が有り過ぎた。不安を抱えない方が異常よ」

 

「そっか......そうだよな」

 

 

ラナの言う通り不安を抱えても、急いでも出ないモノは出ないんだ。

昨日の今日で即座に通達が来るとも思えないし、情報集めでもしながらゆっくり待とう。

少なくとも、次の襲撃ならまだ―――

 

 

 

居間に置いていたスマホの着信音がその思慮を中断させる。

 

 

「これ、何時もと音が違うわね?なんか長いし」

 

「電話の呼び出し音だからな。噂をすれば、か?」

 

普段からメールやSNSでやり取りしているからか、ラナが来てから電話がかかってくるのは今日が初めてだ。

洗面所から居間に早足で向かい、着信元を確認すれば見慣れない電話番号が割れた画面に表示されていた。

タイミングからして例の機関か?

 

 

「出てみりゃ分かる話だよな」

 

 

そう自分に言い聞かせながら、受話器を象る緑のアイコンをフリックして相手と繋げる。

 

 

「もしもし?」

 

『平野正也くん...で、合ってるかい?』

 

 

電話越しに聞こえてきたのは若い女性の野暮ったい声。

公務員とか、何かしらの機関に設けられた窓口に居る受付の人みたいな喋り方とは全然違って一瞬間違い電話かと疑いかけたが、自分の名前を確認してきた事からそうでは無いとすぐに考える。

 

 

「はい、そうです。政府の方ですか?」

 

『ちょっと公共の電話回線で話せないかなー、それは。この電話は私の独断でね、傍聴されないよう細工はしていても、そっちの受話器から漏れる音とかで万一周囲にバレると少々厄介だ』

 

「え?ならどうして電話なんか...」

 

『直接話がしたいんだ、君と――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――君の()()()も含めてね』

 

「!?」

 

 

俺自身の目が大きく見開かれたのが感じられた。

スマホを耳に当てたまま、隣に立つラナに視線を向ける。

 

深い内容は理解できずとも、俺の顔を伺って只事ではないと彼女も察した素振りを見せた。

...当然だろう、だって俺の事はまだしもラナの存在まで知られているのだから。

 

 

「一体...何者なんですか、貴方は」

 

『なぁに、ここ数日テンテコ舞い状態が続く只のしがない研究者さ』

 

「何処まで、俺の事を知ってるんです?」

 

『“全部”だね、身も蓋もないけど。何を失ったか、何を得たか...産まれてから今日に至るまでの君の情報全てを掌握している』

 

「一応聞きますけど、プライバシーとか...」

 

『無いね、悪いけど君の置かれた状況は非常に宜しくないんだ...推定異常生命体・Ϛ(スティグマ)-01【蘿の虚像(アイヴィ・ダミー)】、政府と協力関係にある一部研究者からはそう呼ばれてるよ。仮称だけど』

 

 

ある意味、電話越しに伝えられる内容は俺自身のしてきた事や姿形を鑑みて当然と思える仕打ちだった。

9割程予想通りの内容で、逆にすんなり受け入れられる程には。

 

 

「そう、ですか」

 

『こーれは驚いた...こういう事聞かされたら普通キレるよ?「何勝手にバケモノ認定してくれてやがんだテメェーッ」って具合でさ?』

 

「俺でもそう思います、思う“だけ”です」

 

 

ほぅ、と電話から感心とも嘲笑とも取れる吐息が聞こえる。

少なくとも感情に任せて物を言う場ではないし、誰かがそう思うならさせておけばいい。

少し前ならこの人の言う通り怒ってたかもしれないけど...今はもう、自分にその資格すら無いような気がした。

 

 

『成程、達観か諦観の何方か...まぁいい、それより今の君に残された2つの道について話そうか。一つは【このまま正式に異常生命体扱いされ理不尽に殺される】道。一番可能性が高い未来であり、君に限らず同居人すら討ち取られかねない...嫌だろ、それは?』

 

「死にたくはありませんよ、俺もまだ」

 

『生きとし生けるものは死を忌避する、当然の反応だ...そしてもう一つ、【私の元に会いに来る】。ここで多くは説明できないが、君にも多くのメリットが齎されるし、少なくとも明日すぐ死ぬような事はない』

 

「それ、裏を返せば今この状況でも何処かの誰かが俺を殺す為に画策してるって事になりますよね?」

 

「否定はしないよ、断定もしないけど」

 

 

YESでもあり、NOでもあるとこの人は遠回しに言う。

信じるべきだろうか?信じられるだろうか、この人を?

 

いや、もう信頼以前の問題か。

既に人の身で無くなった俺を...そして俺と共に居るラナにも、多分安全な場所は何処にもない。

こ遅かれ早かれ誰かにバレてしまうのは明白で、その時がついに来てしまった。ただ、それだけ。

 

 

なら、俺がするべき行動は――――――

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

「...本当にここで合ってるの?」

 

『一階に不動産屋、二階に習字教室のあるビルの裏に回れと言ったんだ、何か問題でも?』

 

「その割には入口らしいモン一つとして見当たりませんが?」

 

 

人目につかぬよう細心の注意を払い、通話越しの道案内に沿ってやって来た俺達を出迎えたのは無造作に積まれた金属ゴミの山...『私の所に行ける入口がある』と聞かされていたのに。

 

これは、まさか...

 

 

「嵌められた?」

 

『人聞き悪い事を言いなさんな...ガラクタの横に電話ボックスがあるだろう?』

 

 

確かに、ある。

機械部品が山盛りになってるその脇に、どーんと鎮座するボロボロの電話ボックスが。

ゴミとして捨てられたのか、元からここに存在していたのか...

 

電話機も中に入ってはいるが、到底使えたものではないだろう。

精々在りし日の原型を保っている程度の状態だ。

 

一体何なんだ?俺とラナの事おちょくってるのか?

 

 

「バカにしてるんですか」

 

『...マトリッ〇ス、見た事ないんかい?』

 

「ありゃ忄實現実(ヴァーチャル)の話でしょ?ここ現実ですよ、正気ですか?」

 

『あー、良かった良かったネタ通じてる...因みに私は本気だ。そのボックスの中に二人とも入って、中にある電話帳の栞挟んであるページを開いて、マーカーペンで丸してある宛先に電話掛けろ。以上だ!我が家で会おう!』

 

「え?あ、ちょっ、ちょ待」

 

 

ぷつりと通話が切れた。

 

 

「あの人、一方的に切りやがったな!?...あぁクソッ!リダイヤルしても繋がらねぇ!!」

 

 

慌ててかけ直しても『おかけになった電話番号は現在使われていないか、電波の届かない所にあります』というアナウンス音声が流れるだけで、一回限りのチケットだったと虚しく告げる。

 

どうすんだこれ...

 

と、路頭に暮れていた俺の肩をトントンと軽く叩くラナが電話ボックスを指さした。

 

 

「とりあえず、言われた通りにしてみたら?」

 

「そーするしかないか...やっぱり」

 

 

何も見なかった事にして帰ることも出来ただろうが、それでも一応ダメ元で。眉唾で。騙されたと思って先程あの人が言ったプロセスをなぞる。

まずは電話ボックスに入るところから。

 

 

 

 

あ、これ一人はまだしも二人は...

 

 

「...いや狭くない?大丈夫かラナ?」

 

「入れなくはないわ、少し狭いけど」

 

 

心配する俺を他所に、空いてるスペースに歩いてきたラナが収まった。

割と何とかなるもんだな...

 

 

「ラナが細身で助かったわ、マジで」

 

「むぅ...出るとこ出てるわよ、私だって」

 

「褒めたのに怒られた?がーんだな」

 

 

軽口を叩き合いながらも、十年以上前の分厚いタウンページをラックから取る。

 

上の方にピラっとビニールの栞が顔を覗かせているページを捲ってみると...

 

 

 

TEL: XXX-XXXXX-XXXX

 

 

丸してあるの、これでした。

 

 

「何故にラーメン屋?」

 

「いや、あの人しか知らんだろ...とりあえず、フツーに公衆電話使う時と同じでいいのか?」

 

「任せるわ、色々試して頂戴」

 

「あぁ、十円玉でいいか」

 

受話器を上げ、使い古した財布から取り出した十円玉を入れてみる。

チャリ、と小さな金属音が電話の奥へと滑り落ちて消え、風化して黄ばんだディスプレイに数字を模した光が灯ってくれる。

 

入れたお金は何処行くんだろう?とか、そういう疑問を胸の奥に押し込んで、磨り減った数字盤と電話帳とを交互に見ながら番号を入力し終わった。

 

 

「普通なら、これで相手に繋がってくれる筈なんだろうけど...あ!」

 

「なに?」

 

「見ろラナ、この表示...」

 

 

 

ACCESS APPROVAL(アクセス承認)

 

WELCOME (HOME)(お帰りなさい/ようこそ)

 

 

 

ディスプレイにそんな文字列が灯り、ガコンと電話ボックス内で響く音と併せて何かが動き始めるのを感じた。

 

 

「この、電話ボックスとか言うの...地面に沈んでる!」

 

「沈む!?地面に!?」

 

彼女から発せられた事実を確かめるべく周りを見れば、四方を囲むアクリル製の窓から見える景色が上へと流れ始めていく。

やや取り乱すラナに併せて焦りそうになるが、注意深く意識を傾けるとこの浮遊感に覚えがあった。ショッピングモールとかで階層を移動する()()に乗っていると経験する感覚と、同じだ。

 

 

 

「...そうかコイツ、エレベーターだってのか!」

 

「分かるの?」

 

「憶測だけど!となれば、行先は...」

 

 

完全に視界がブラックアウトし、足元から現れたかと思えば上へスライドして視界から消えていく窓の外のライトが、ディスプレイの表示が、唯一の明かりとして機能していた。

横に点の並ぶ画面に、白い丸が右へと移動していく。

 

 

【・・・・・・・・・】

 

【・・・・・・・・・】

 

【・・・・・・・・・

 

 

【LABORATORY FLOOR】

 

 

呑気なベルの音が到着を告げる。

ついでに電話機の小銭出口から先程入れた十円玉がポロッと吐き出された。

 

 

「到着って事で、良いのよね?」

 

「多分な...出るぞ」

 

 

電話ボックスの扉を開けて外に踏み出す...ここ室内なんだろうけど。

暑くもなく寒くもない、快適な温度と少し乾いた空気が肌に触れていくのを感じながら周囲を見回すが、オレンジのLED電灯に照らされた何処までも無機質な白い壁と、奥に続く廊下だけが視覚に情報として入ってくる。

 

 

「ここってさ、やっぱり」

 

「あぁそうだ...私の言ってくれた事、信じてくれて感謝するよ」

 

 

急に聞こえた声の出処は廊下の奥。

コツコツと靴音を響かせながら、人影がこちらに近づいていた。

部屋と同じく廊下も少し暗めなので詳しい姿はよく分からないが、何か白衣のようなものを羽織っている事は見える。

 

 

「貴方は...さっきの電話の人ですか?」

 

「その通り。薄暗くて見えにくいのは省電力モード中が故に容赦して欲しいな、如何せん“ライブラリ”の閲覧でコンデンサがパンク寸前だったんだ」

 

「ライブラリ?...ひょっとして、俺やラナの事を知り得たのは―――」

 

「そっちの事情は後で幾らでも聞くわ、今私達が知りたいのは貴方が何処の何者かって話よ」

 

 

この人から出てきた“ライブラリ(叢書)”という単語にもしかしたらと訪ねようとした俺をラナが制する。

順序立てろ、と。

 

 

「そうだった...ここなら電話の時と違って包み隠さず話せますよね?お互いに」

 

「モチのロンさ。そら、間もなく省エネモードが終わって通常モードに入るぞ?3...2...1...」

 

 

身体を奥底から震わす駆動音に聴覚を埋められ、ゼロとまで唱えたかどうかは定かでは無い。

オレンジの弱々しい明かりは清涼で明瞭な白色に変わり、辺りをくまなく照らしだした。

 

そして、俺達の立っている場所と向かい合う形で廊下に立つあの人の姿がハッキリと見える。

緑のセーターの上に白衣を羽織り、後ろ髪を纏めてメガネをかけた...科学者と思わしき佇まいの、女性。

 

 

 

「私は橙鉢(トウバチ) 梨花子(リカコ)...未知生命体対策本部管轄・第七特殊技術研究開発所、通称“第七特研(トッケン)”へようこそ」

 

 

左手の薬指でメガネのブリッジを軽く押し上げながら、その人は淡く深い笑みを浮かべた。

 




書き上がり次第投稿とは何だったのか(三話分のストック)
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