【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】   作:フルフェイスパンケーキ

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現実味を感じないまま初投稿です。



第十五葉:生傷を灼く

《シャットダウン完了》

 

《お疲れ様でした》

 

 

 

「40ウェーブ、どうにか達成出来た...」

 

「やるじゃないか!魔法が使えない事が分かった上でも、数日でここまで到達するのはセンスの良さに他ならない」

 

「ラナのくれた力があってこそですよ。その上、橙鉢さんの作ってくれた資料でどう戦えばいいか、どんな動き方が出来るかって部分も分かり始めた所ですし」

 

ログアウトの完了した仮想空間接続端末を外して、寝そべる俺は枕元に置いてあった参考書並の分厚さを誇る冊子を手に取る。確か橙鉢さんが機を見計らって、政府に発表する文献を粗方纏めたヤツだ。

 

開いたままのページには、『魔導植物との一体化による魔力流動経路の生成、及び経路から欠落したエネルギー出力器官の補填案』と大きな文字が写された表紙があった。

 

ここ数日、戦闘訓練を兼ねたデータ収集が続いている。

防具としての機能のみを有する『鎧』を完成させるのは今すぐでも出来るが、橙鉢さんはそこへ様々な要素を盛り込んで更なるデータを集積させると先を見据えていた。

 

専門的なところはよく分からないけど、魔核を取り込んだ人間が魔法を使えないなら『単純なエネルギー』として魔力を取り出す抽出機(エキストラクター)を生み出すメカニズムを科学技術で作れないかと試行錯誤を重ね、そのテストモデルを『鎧』に搭載するつもりらしい。

 

手にした冊子の表紙を捲る。

 

 

――――――

現在(20XX/09/XX時点)における、異常生命体の一種であると推測される【魔導植物】と完全融合している唯一のケースである『平野 正也』は、地球上に存在していた既存生物のどれにも該当しない、生命体として不安定な状態にある。

予備知識なしでは【魔導植物】が人体に寄生しているようにしか見えないだろうが、その実態は極めて相利共生に似せられた別種のものであると考えられる。

Ϡ-【減らず口】との戦闘を通して重度の負傷を負った平野 正也はHL(Harmless)-FILE 01【秘匿を囁く者(アル・ルーン)】による処置を受け(この記述についてはP.114『人的被害を加えない異常生命体の存在と人類存続の為の将来的課題』にて詳しく触れている)、人間を逸脱した現在のような姿へと変貌を遂げた。

 

しかし、【秘匿を囁く者】ですら予期しない【魔導植物】のパターン形成によって身体の再構築のみならず、脊髄(正確には既存の脊髄と【魔導植物】の細胞が入り交じった、癌細胞と正常な細胞が混在している状態と似ている)を中心に脳や神経系に融合、そして体内組織全般にも深く干渉している。

再構築に伴い、アカダマを取り込むことで生ずる魔力の貯蔵先が血管内ではなく【魔導植物】の細胞、便宜上『髄簾細胞(Zoe-cyte)』と呼称するそれらが代替として機能している反面、魔力を何らかの“力”として三次元空間へ出力する機能を有してはいないと判断せざるを得ない。

未だにこの世界で、概念的な存在としか表現出来ずにいる“魔力”の物質的な正体を掴めないまま、異常生命体への対抗策を練らざるを得ない我々だが、一つだけ確固たる事実が存在していることは覆しようも無い現実である。それは

――――――

 

 

「魔力も熱力も重力も、この世に現れる現象全てに“(エネルギー)”という概念が共通している...でしたっけ、橙鉢さん?」

 

 

次のページを捲る前に、そこに書かれている記述を口にする。

何度も言い聞かされた、現存する科学的で解き明かしきれない異郷の摂理を説明する唯一にして絶対と、彼女の打ち立てた理論を。

 

 

「いぐざくとりー、その通り。ちゃんと覚えていてくれて嬉しい限りだ」

 

「教え方が上手いんですよ、俺のところの数学教師とは大違いだ」

 

「なははッ、そこまで言われると小っ恥ずかしいな...まぁこうして君の『鎧』から得た運用データを元にして最初は駆逐官向けの、延いては魔核を取り込んでいない一般的な戦闘員向けのマスプロダクツ(量産型)を目論んでるって寸法だ。魔力に頼らないまま純人類が満足に戦える術を、ね」

 

 

起き上がってベッドに座る俺に向かって、笑顔と共に親指を立ててみせる橙鉢さん。

実際、何処かの学習塾の人気講師もかくやと言わんばかりに分かりやすい説明をしてくれるから頭の中に入る入る...。

魔力とそれを引き出す魔法の相関を井戸で例えたのは、ラナまで思わず感嘆の声を挙げていた程に。

つまるところ、橙鉢さんは魔力という井戸から井戸水を汲み取るように、エネルギー取り出す桶を作ろうとしている。

 

 

「ところで平野君。今日もお見舞いに行くんだろう?」

 

「はい、昼食済ませたらラナも連れて行こうと」

 

 

魔法と科学が融合した全く新しい概念が彼女によって日夜開拓されつつある中でも、俺はどうしてもやりたい事があった。

姉さんと、義父さん義母さんのお見舞いだ。

 

未だ昏睡状態が続き、意識の戻らない姉さん達の元に、実は昨日一度会いに行っている。当然マスクと手袋で明らかに見られたらマズい部分を隠したし、第七特研では“擬態”を解いているラナも地上に出るときは人間を模倣したような姿になることで人々の目を欺いた上で。

例の件であのままの“擬態”パターンは既に病院の多くの人に見られてしまっていることから、ロングヘアを後ろで束ねたポニーテールの髪型にしたり、瞳孔の色とかも微妙に変えたりしてアレンジを加えたそうだ。

 

「そんな調子で大丈夫か?」と思わなかったと言えば正直嘘になる。

しかし、俺達が思っていたより病院は手詰まりの手一杯な状態で、「ヒト型ならばヨシ!!」と来る人の顔を一々チェックしている余裕はこれっぽっちもなさそうだった。

それは当然、そこに在中している『神の存在証明』も同じだったワケで。

 

 

…兎に角、割かし普通に御見舞いに行けた。

最悪、また頭に銃弾撃ち込まれるくらいの覚悟はしていたものの、そう覚悟をするだけに済んでくれた。

しかし、その日は様々な予定が立て込んでいたのもあって滞在時間は僅か数分程度。

(昨日と比較して)時間のある今日にもう一度行こうというワケに至る。

 

 

「ラナの方も結構順調でね、安定さえさせれば恒常的に彼女の力も使わなくて済む供給を行えるようになる。あまりこういう言い回しはしたくないが農業チートという奴だな」

 

「農業チート...創作物として描かれるモノはイマイチ想像できなかったですけど、こうして緊急事態の現実に目の当たりにしてみれば心強い事この上ないですね」

 

「へーぇ?...だーれが心強いインチキ(チート)って?」

 

 

いつの間にか仕事に一段落をつけたラナが扉に背を預ける形で寄りかかっていた。

ちょっと得意気な様子からして、先の会話を耳にした所だろう。

 

 

「ラナ、来てたのか。順調なんだってな?」

 

「まぁね、狭い範囲でしか試してないけど...しかしチート、チートね...私がそこまで言われる事になるとは思いもしなかったわ」

 

 

橙鉢さんの口にしたその単語を噛みしめるように繰り返す。

調子に乗っている...訳では断じて無さそうだ。そういう慢心しやすい性格じゃないだろうから。

 

 

「...周りから世間知らずの箱入り娘と言われてきたのが、嘘みたいね」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「大したことじゃないわ。お母さんに比べたら私なんかまだまだ未熟者なんだし、これを機に少しでもこういう分野への技能が身につくと良いって...そう思っただけ」

 

 

そう言い残して、窓型ディスプレイに映し出される砂浜の映像を眺めるラナの横顔は、ほんの少しだけ哀愁を漂わせていた。

 

 

 

 

何れ、人類は嘗てのように気軽に海へ遊びに行ける事すらできなくなる。

 

…秋の訪れは、近い。

 

 

 

■■■

 

 

 

「脈拍、呼吸、体温、全て正常ですが、依然として意識は回復せず。呼吸補助装置は継続して使用しなければなりません」

 

「もう連れて来られてから一週間になるにも関わらず、一家纏めて原因の特定すらままならない意識不明が続くとは...異常生命体による影響を受けたという説が濃厚になっていくばかりではないか、これでは」

 

「我々医者はありとあらゆる手を尽くしました...後は、待つしか――」

 

 

 

病室の外から聞こえる話し声は、十中八九姉さん達の事を言ってるんだろう。

椅子に座る俺の眼前には人工呼吸器に繋がれ、点滴を打たれた三人が床に就いていた。

 

眠っているようにも、死んでいるようにも見える。俺を引き取って育ててくれた...ラナが来てくれるまで俺の最後の寄辺であり続けてくれた人達が、何時目覚めるとも分からないまま。

 

 

「話すんでしょ?昨日言いそびれた事も含めて」

 

「あぁ...聞こえるとは思えないけど、伝えなきゃな」

 

 

促されるまま、眠り続ける彼女達から一旦目を離し、俺は懐から端末を取り出した。

今まで使ってきて、『ゴブリン事件』で一連の死闘を経た事によりバキバキに液晶の砕けた画面のスマートフォンではなく、黒を基調とした真新しいメタリックカラーの光沢が鋭く輝く端末を。

 

 

「...俺、駆逐官になったよ」

 

 

スマートフォンと姿形こそ似ているがやや厚めで、何より裏側に“未知生命体対策本部支給品”という文字彫りが選ばれた者にしか与えられない備品であることを示している。

先端技術を詰め込んだ代償として見た目以上に重い携帯端末を、両の手で包むように持ちながら俺は話を切り出した。

 

 

「姉さん達助けてから世話になってる博士さんがいてさ、その人がお膳立てしてくれたんだ。詳しいことは分からないけど、公になったら困る部分は伏せたままに登録してくれたらしいんだ」

 

 

病室の外に『神の存在証明』の一員が通りがかったとして、その耳に入っても問題ない言葉を選びながら話を続けていく。

 

 

「博士はさ、『政府だろうが組織だろうが、利用できる物は何でも利用しろ』って後押ししてくれたよ。博士も俺が頑張ろうとする限り全力で手を貸してくれるんだって...幸せな話だよ、本当に」

 

 

携帯端末の電源を入れると、画面には未集計を示す打ち消しの横線がずらりと並ぶ。

総討伐数、総アカダマ(魔核)寄付数、過去に討伐した異常生命体で最も危険度が高い個体等々、列挙すればキリが無い程細分化された累計データの表記は例外なく。

そして極めつけに、駆逐官として与えられるコードネームがまだ存在していない者に対する仮称の『名無し(NO NAME)』。

 

良く言えば、スタートライン。悪く言えば、持たざる者。

完全に白紙の状態として、今も世界で増え続けるFランク駆逐官の一人たる俺がそこに綴られていた。

 

 

「姉さん、怒るよな。断りもなく勝手に危険な道を進もうとしてること...悲しみもするよな、絶対」

 

――だけど

 

 

「姉さんと、この場にいる人達だけに打ち明けるとさ...俺、自分を隠し通せるものが欲しかったんだ。こんな醜い姿になって生きていくなら、自分が何者であるかを永遠に隠し続けた方がいいって思ってた。駆逐官を志望したのは武器のオーダーメイドがあって...まぁ、そういう事だよ」

 

 

心中を打ち明けると共に、隣に座るラナから感じる雰囲気が少しだけ変わった。

あの時の俺が駆逐官を志望した訳の一つとして『武装発注システム』の存在がある。

駆逐官の希望に応じて武器を開発して発注してくれるそのサポートを活用して、醜悪極まる全身を覆い尽くしてしまえる『鎧』を手に入れようとしていた。

 

例え化け物でも、人間扱いなどされなくとも、その姿形を隠蔽してしまうことさえ出来れば後ろから突然撃たれることはないと思っていたから。

 

 

「でも、偶然例の博士の目に留まってから色々あって...もう一度、俺自身を信じてみようと思ったんだ」

 

 

何故あの時、俺の体を食い潰そうとした植物が俺にチャンスを与えてくれたのか。それは今でも、橙鉢さんでも突き止められていない。

本来ならその時点でとっくに死んでいたはずの俺が、今こうして生き長らえている...そこに意味や理由があるかどうかすらも分からない。

ただ、恵まれていた俺の境遇と違って、親しい人を失った悲しみに暮れたまま生きなければならない人を、少しでも減らせられたなら。

 

少しは幸せだったって、生きてて良かったって思えるかもしれない。

 

困ってる人を助けるとか、窮地に颯爽と駆けつける心強いヒーローにはなろうと思っていない。と言うか、多分望まなくても無理だ。なれっこない。

たった一人の兵士では、村どころか街すら守りきれない...そう訓練で嫌という程叩き込まれた。

 

犠牲を覚悟で一人、超常的な力を持ち、敵性勢力とある程度の乱戦に持ち込めて進軍を遅らせる事が出来るとすれば、施設の一つや二つは防衛が可能かもしれない、といったところだが。

 

 

「...全部が全部、俺の手で守れる訳じゃない。我儘だって事も分かってる。だけど、それでも俺は...っ!」

 

 

手にしていた端末のバイブレーションが、一定のリズムを刻む。

灯る画面には、橙鉢さんの名前。

マナーモードにしておいて良かったと思いながら席を立つ。ここで通話するのはあまり良くないと思って。

 

 

「ごめん、例の博士から電話だ。またすぐ戻―――」

 

「待って」

 

 

そのまま、外に出ようと踵を返す俺の手をラナが静かに握って止めた。

 

微かに、だが確かに、何かを伝えようとする意志を表情に滲ませながら。

 

 

「ラナ、どうしたんだ」

 

「ここでいいの、電話繋いで」

 

「けど姉さん達が」

 

「嫌な...私がこの世界に送り込まれた時感じたあの感覚が、()()()()()()

 

「......まさか」

 

 

ラナの口にする言葉を信じ、俺は姉さん達に姉さん達に心の中で謝罪の言葉を呟きながら通話ボタンを押した。

 

 

「橙鉢さん、どうしました?」

 

«...時空連続体の(ひず)みを確認した。()()ぞ»

 

 

 

固唾を飲む音が、静寂の満ちる病室に響く。

ラナの予感は見事に当たった。

 

窓の外から空を見るが、視覚で捉えられる変化はない。

しかし、言われてみればラナの言う通り...俺にとっては得体の知れない、大きな何かが足早に接近しつつあるような感覚が急速に近づきつつあった。

モンスターとの境界線が曖昧になった事による副産物的な知覚か、単なる思い込みか...

 

 

「...規模は?」

 

«過去最大、ゴブリンの時以上だ。数十から百キロメートルに及ぶ裂け目が形成されると予測されるね»

 

「想定される数とタイプ...は、流石に特定出来ませんよね」

 

«詳しくは無理だが、時空連続体の歪曲係数や生成される裂け目のサイズから見積もって数百単位がこの町に溢れる。多少分散はするだろうが病院も危ない»

 

「マサヤ、モンスターの種類が特定出来ない以上今は動けないわ。私なら出現と同時にある程度把握出来るけど...もう少し見通しの良い所とか無いかしら、この建物」

 

 

異世界から転移させられてくる異形の軍勢が、数百規模。

...病院以外を防衛しに行く余裕はどう考えても無い。

 

それにラナの言う事にも理はあった。

例えば、今まで人類はスライムやゴブリンと戦ってきた。ファンタジー小説等では大抵下級の存在であるそれらにすら、世界を震撼させる大混乱を呼び寄せたが...ここで少し気掛かりな事がある。

 

人々は得体の知れない存在であるからスライムに驚愕した。

人々は危害を加えるものとしてゴブリン恐怖した。

 

ならば次は、どんな存在によって、どんな感情を刻まれる事になる?

例えばそれは何だ?

例えば俺にとって、俺におけるそれは―――

 

 

「...ラナ」

 

「なに?」

 

「......空を飛ぶモンスターって、居るか?」

 

 

 

 

 

 

静かに、彼女は頷いた。

 

 

窓の外、曇天に黒い亀裂が棚引く。

人類は傷の癒える間も与えられぬまま、再び蹂躙の時を迎えようとしていた。

 




たくさんの方の評価、お気に入り登録共に感謝の極みです。
文才も無く、元よりそこまで評価はされないだろうと思っていただけに感動も一入に身に染みて...
この嬉しさと語り尽くせない謝意を胸に、より努力していきたいと思います。
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