【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】   作:フルフェイスパンケーキ

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プロローグ二本立てなので二度目の初投稿です。


萌芽:二人はもう一度歩き出す

俺が幾分か落ち着いた様子になったと判断したのか、彼女は話を続けた。

 

 

『...貴方には、この森がどう見える?』

 

「どうって...綺麗で、のどかで...平和だと思う」

 

『その感覚は正しいわ、実際この森は...私の故郷だったこの森は、とても平和な場所だった』

 

 

彼女が景色の何処かを指さす

そこには...彼女がいた。

小動物のような生物と戯れ、満面の笑みで草原を走り回る彼女の姿が、そこにいた。

 

 

「キミが...もう一人いる...」

 

『アレは過去の私、何も知らなかった頃の私...そして、一番幸せ“だった”頃の、私』

 

「“だった”、か...何かが、起こったんだな?」

 

『...もうすぐ分かる』

 

 

そう彼女が告げると同時に景色がボヤけて白いモヤに包まれる。

小鳥のさえずりや、太陽の温もりが遠ざかって...代わりにパチパチと何かが弾けるような音と、太陽のものでは無い異常な熱が近づいてくる。

 

……...これは、不味い。

直感でそう感じ、何が起こったと問おうとした所でモヤが薄れるように消えて...

 

 

 

 

 

再び見えてきたあの森は、辺り一面火の海になっていた。

空は夜なのか、昼でも煙で塗りつぶされているのかは定かではない。

ただ、思わず美しいと感じた景色の全てが炎の中にあった。

 

 

『これは幻』

 

 

彼女はそう言った。

過去の出来事であって今現在起きている事では無いという事は理解していた...理解しても、尚。

 

 

「...酷い」

 

『唐突だった、私達の住んでいた森のモンスターが人々の暮らしを脅かすかもしれないという憶測が立っていたのかもしれない...この森で、自ら進んで人を襲うような者は居ないと、何百年も前から言い伝えられて来た筈なのに』

 

「......状況が変わったんだ、きっと」

 

 

何も分からない自分が、何かを知った風な口を利く。

おこがましい事だと分かっていても、今にも泣き出しそうな表情で燃え盛る森の幻影を見つめる彼女に言葉一つすら掛けてやらない訳にはいかなかった。

 

 

 

『私は、生き残り...この森でたった一人の』

 

「皆、居なくなったのか」

 

『友達だったモンスターは、炎魔法で森ごと焼き払われた...“お母さん”とその知り合い達は、私を逃がす為に最後まで時間稼ぎをして...そこから先は分からない』

 

「お母、さん...?」

 

『そう、一緒に住んでいた私の母親』

 

 

彼女が燃え盛る森の何処かを指さす。

視界が再びモヤに包まれて切り替わり、何処かの屋内に移る。

広間の至る所が暗く陰るように欠落した情景が、行き交う人々が総じて黒く塗りつぶされたシルエットになっている様子が、彼女の意識が混濁しているという事を静かに裏付けていた。

だが、それらの中で唯一しっかりと認識出来るモノが地面に描かれた中央の巨大な円陣に座り込んでいた。

 

 

彼女だ。

 

 

「地面にある模様は、何なんだ?」

 

『アレは、次元の壁すら超越する転移魔法の陣。それを使って遠い世界へ...住んでいた世界の干渉を一切受けない程、遠い世界に送ろうとしていたの...でも』

 

 

轟音と共に、広間の奥にあった壁が吹き飛ぶ。

続いて側面の壁が爆発して何人かが巻き込まれたのが見えてしまった。

 

土砂と煙の立ち上る中、崩壊した壁の外からあの火の海が視界に滲み出してくる。

 

 

『転移魔法を準備する最終段階で、私達の隠れていた場所が見つかったの...抵抗する間も与えられなかった、戦える者の大半は襲撃者への時間稼ぎに向かって...』

 

「......」

 

その先は言わなくても分かる、一秒でも多くの時間を齎そうとした者達は軒並み死んだか、再起不能になっている筈だろうと。

思案している間に、生き残ったシルエットの中で魔法陣が輝き始め、幻影の中の彼女が周囲と隔絶されていく。

決死の覚悟で転移魔法を起動させたか...

 

 

『お母さんは、自らに残された魔力の全てを使って私を転移させようとした...転移魔法に使用する魔力は強ければ強いほど、遠くに行けるから』

 

「それで、この世界に?」

 

『...いいえ』

 

 

彼女は首を横に振った。

…望んでいた結果と、違う?

 

何故と問うより先にそれは訪れた。

 

崩壊した壁の奥に佇む襲撃者は4、5人のグループでよく分からない。

揃いも揃って影法師のようなシルエットなのは同じだったが、今先程見た彼女の同胞達とは違って得体の知れない感覚が体を通り越していく。

 

ひとりが、魔法陣から立ち上る光に向かって手を翳す。

その掌から黒紫の球体が放たれ、魔法陣の光に接触すると溶け合うように混じり...光が、闇色に喰われていく。

光が闇へと変わっていくのに呼応して、幻影の中にいた彼女が蹲って苦しみだす。

 

一瞬の出来事だった。

 

 

「何だ...アイツ何したんだ、今!?」

 

『転移魔法に異物を与えた(上書きした)の、私の居た世界の人間が昔から厄介な物に対して行う...異界への投棄魔法を』

 

「投棄?...ゴミみたいに、捨てるって言うのか?」

 

 

彼女が首を、縦に振った。

 

 

幻影の中で、魔法陣の近くで何かをしていた彼女の母親らしい影人が弾かれるように魔法陣の中に居る我が子を救い出そうと手を伸ばし...だが、届かず彼女は光と闇の粒子だけをその場に遺して消え去った。

打ち拉がれる間も無く、母親の頭上...広間の天井が崩壊して押し潰されようと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ...ぅあぁ!」

 

次から次へと叩きつけられる悲惨な出来事を払い除けるように叫んだ時には、自分の見知った住宅街の光景に戻っていた。

 

 

『今思い出せるもので、貴方に伝えられて、幻影として再現出来るのは...これが限界』

 

 

彼女が、俺の両頬に添えられた手を静かに離す。

今見えたもの全てが現実であると即座に認めろ、と言われても無理だろう。

 

だが、こうも自分の知っている常識が片っ端から壊されては新しく持ち込まれた非常識で埋め合わされると...自信の有無に関わらず、“そうである”と理解してしまえた。

 

だからこそ、あの世界が彼女に対してした仕打ちと...【この世界がどう思われているのか】が気に食わなかった。

 

 

「なぁ...捨てる先の異界って一つしか無いのか?」

 

『分からない、明確に決められた訳じゃないから...けど投棄魔法の出口は一つだけらしいって聞いた事はある』

 

「だったら尚更タチ悪いな...適当に決めた世界にポイポイ投棄してる訳だ」

 

 

まだ明確にこの世界の事を価値が無いとか思ってくれてさえいれば恨みもできた、しかし適当に投棄場所へ指定した異界が偶然この世界になったというなら話は別だ。

 

俺は彼女が眠っていたゴミ捨て場の電柱に目を見やる。

恐らく宿主を失ってしまったからか、緑の草葉は色を失って急速に枯れていく。

まるでそれが、『ゴミ捨て場』とされたこの世界で束の間の栄華を演じる人類の姿のように思えて表現し難い嫌悪感を感じた。

 

 

「...俺らの生きる世界がゴミ捨て場だなんて、認めねぇ」

 

『私も同感、ちゃんと人が生きてて...命が育まれているこの世界を投棄場とは思いたくない』

 

「だよなぁ...」

 

『それに、気になる事も―――』

 

 

彼女の言葉が中途半端に途切れた。

そのまま街頭にも照らされて居ない脇道の方へ目を向け...

 

 

 

 

ズル...

 

 

        ズル...

 

 

 

  グチャ...

 

 

      ジュルリ...

 

 

 

 

『――――――――――――もう、来てたのね』

 

「...っ!!!?」

 

 

粘度を伴う水音と共に現れたのは、黒いゲル状の巨大な塊だった。

路地裏の横幅いっぱいに広がったそれが、己が身を引きずってやってくる。

 

俺の前に立つ彼女とは正反対の、不気味で醜悪な存在。

だが何より...何よりも目を背けたかったのは、黒く淀んだそのゲル状物体に野良猫が取り込まれていた姿だった。

 

 

「助けないと!」

 

『ダメ、あの子はもう間に合わない!!』

 

 

思わず助けに行こうと駆け出す俺の右腕を彼女が掴んで止める。

華奢なその体からはとても想像出来ないような力で否応無しに苦悶の声を上げてしまうが...

 

 

真っ黒な流体の中で猛烈に暴れていた猫の皮膚や毛が削げ落ち、剥き出しになった筋繊維から内蔵がハミ出していく惨状を目の当たりにして、直感が告げる。

 

 

 

 

…あの猫を助けようとしても、同じ事になるだけだと。

 

 

猫は、骨の一本すら残すこと無く溶けて消えた。

その様子を見届けた彼女が、奴と正面から向き合う。

 

 

『...下がって、あの程度なら今の私でもやれる筈だから』

 

「さ、下がれって言ったって...どうするんだよ、キミは」

 

 

人の手には余りそうな、生命体と呼んでいいのかすら定かではない不定形でおぞましい物体を前に、表情ひとつ崩すことなく彼女は右手を翳す。

 

何かをするつもりだ、だが何をするつもりだ?

 

 

 

■■■■(摘み取れ)

 

 

彼女が、俺の頭の中では理解出来ない文字の羅列を口にした瞬間、パシャンッと水が弾けるような音がして奴のド真ん中が綺麗にくり抜かれていた。

 

そのまま、形を失ってどろどろに地面へ広がっていく。

 

 

「...え?」

 

『よし、魔法はまだ覚束なくてもこれくらいの力は使役できてる...問題は』

 

 

状況の把握が全く出来ていない俺を差し置いて、俺の腕を掴む手を離した彼女は翳していた右手をクイと引く。

すると鞭が風を切ってしなるような音を残して、彼女の右手は赤い球体をつまみ取っていた。よく見ると手首にツタのようなものが巻き付いている。こんなものはさっきまで無かった筈だ。

 

 

『やっぱり、魔核...私だけじゃなく色んなものが一斉に送り込まれてるかもしれない』

 

「魔核?...と言うより、色々説明して欲しい事が次から次へと出てきてもう、何が何だか」

 

『そうね、状況は私が予想してるより明らかに悪いみたいだから...ゆっくり話し合える場が欲しいの、私としても』

 

 

()()()()()()()()()()が欲しい。

彼女がふと零した言葉。

 

 

「アテなら、無いことは無い」

 

『本当?』

 

「あ、あぁ......ただちょっと...いや、幾つか許容して欲しい部分があって」

 

 

あくまでも行き場があるかもしれないという提案を持ち掛けただけで彼女がずいっと詰め寄った。

とんでもない食い付きだ、思い切りが良すぎる。

 

 

 

「えーと、まず“狭い”」

『問題ないわ』

「次に“そんなに綺麗じゃない”」

『問題ないわ』

「最後に、“飯はそんなに美味くない”」

『作るわ』

「あぁ...やっぱ、メシマズはダメか...もっと勉強しないと」

 

『?...ご飯を作るって、もしかして貴方の言ってたアテって』

 

 

独り立ちしても一向に上達しない料理の腕前にゲンナリとしている俺へと、今度は彼女が問いかける。

 

 

「...俺ん家だよ、集合住宅(アパート)の一室借りてるだけのな」

 

『あら、良いの?』

 

「良いも悪いも無い、この際は互いに助け合うべきだと思って...至らないにしても俺は居場所を与えられる、だからキミは俺に...俺に、教えて欲しい」

 

 

俺は彼女を真っ直ぐ見据える。

数分前に飲み込まれて消化された野良猫の姿が脳裏を過ぎり、嘔気が登ってきそうになるのを飲み込む事で誤魔化す。

 

だって俺は、俺は――――――

 

 

「...強くなりたい、少しでも、少しずつでも」

 

『...どうして?』

 

「生きたいから」

 

 

キョトンとした彼女の瞳に、頑とした面持ちの俺の姿が映って見えた。

こんな表情が出来たの、何年ぶりだったろうか?

決して譲れないと、手離したくないと思う人間の(かお)

未だにジンジンと痛む彼女に掴まれていた右腕を左手で抱え、人間の無力さを痛感し...それでも、“このまま”で居たくないと目で訴える。

 

母親が死んだ時、無力だった。

父親が死んだ時も、無力だった。

ただ自分という存在だけが、幸運だから生き残った。

 

きっとこれから起ころうとする事もそうだ。

力が無ければ何も成せられない、どんなに想いばかりを積み上げても土台(ちから)が無ければ一瞬で崩れ去ってしまう気がした。

崩されたくない、奪われたくない、故に求めた...圧倒的な力を持つ、不思議な少女に。

 

 

「これから先にも、こんな事が起こるかもしれないんだろ?この世界があっちの世界で投棄場扱いされてるならさ」

 

『...ご名答よ、どうしてそこまで分かったの?』

 

「今まで常識だと思ってた事、全部ぶっ壊されて...キミが現れてから、あの...なんて言うか黒くてドロっとした化け物が出てきたからさ、偶然とは思えなくて......そんな非常識を、常識として当て嵌めて考えた」

 

 

自分でも色々吹っ切れておかしくなったのは分かる。

だがそれを除いても、異常なまでに現状に対して思考は明瞭になっていった。

 

父親が死んだ時を思い出す、最初は肉親が誰も居ない生活に耐えられない日々が続いて心が壊れそうだった。だが数ヶ月も経てば、心の整理はつかなくても生活自体には“慣れる”のだ。

 

だからこそ、彼女の話を冷静に考えて“もしかしたらそうかもしれない”という仮定の中で、最も最悪なケースを

 

 

 

『貴方、案外頭良いのね』

 

「まぁ、普通の勉学は微妙だけど」

 

 

今まで同じような表情ばかりだった彼女の口元が微かに緩む。

多分、俺も吊られて笑っていた。

 

 

『...多分、この世界は半年足らずでその有り様を大きく変えることになるわ...今まで通りの生活も何時か出来なくなる』

 

「構わない、承知の上だ」

 

『貴方の前にあるのは茨の道、全ての戦いを避けられはしない』

 

「構わない、その為の力を手に入れられるなら」

 

『私、こう見えて結構我儘なの...多少の無茶振りも付き合ってくれる?』

 

「構わない、予想はしてたし許容範囲なら何だってする」

 

『貴方の周りには多くの死が付き纏う事になる、親しい人全てを護れる事は恐らく叶わない...それでも良いわね?』

 

 

 

 

「...構わ、ない」

 

 

次々と繰り出される彼女からの問答、その最後にほんの僅かに言い淀んだ俺を見て一瞬目を細めるが、その表情に偽りは無いと解釈した様子で目を閉じてふぅ...と吐息を漏らす。

 

 

『...柄じゃないのよね、師弟関係みたいで』

 

「あぁ、うん...言いたいことは分かる、俺もスポ根の類はそんなに好きじゃないから」

 

『すぽこん?...何それ』

 

「柔軟さを捨てて、気合いと根性と努力だけで何とかしようって言う感じの心意気って言うか、そういうジャンル」

 

『私も余り好きじゃ無いわね、そういうモノ...けれども』

 

 

 

彼女が目を開く。

獲物を捉えた獰猛な獣を想起させるような視線に、意図せず背筋に悪寒が走った。

だが同時に、彼女に“鍛えてくれ”と頼み込んだことは間違いで無かったと確固たる確信を感じる。

 

スポ根は確かに嫌いだが、甘やかされるだけでは成長できないと知っていたから。

 

 

『......ラナ』

「え?」

 

『ラナンキュラス、それが()()()()()である私の名前...でもラナって呼んで、長いから』

 

「ら...ラナ」

 

『よろしい♪』

 

 

唐突に名乗られて、言われるがまま口にして...すると彼女は再び微笑んだ。

その笑顔が余りにも無邪気で、何処か妖艶で、先ほどまでの笑みとは又違う印象を感じる。

 

 

『で、今度は貴方の番よ?これから長い付き合いになるんだから、名乗り合うのが礼儀というものでしょう?』

 

「そ、そうだよな......正也だ、平野(ヒラノ) 正也(マサヤ)。ヒラノが苗字で、マサヤが名前...好きな方で呼んでくれて良い」

 

『じゃあマサヤで』

 

 

互いに名乗り合い、彼女が...ラナがその手を差し伸べる。

 

 

『マサヤ、私を連れて行ってくれる?貴方の家に....“私と貴方”が始まる場所へ』

 

 

「あぁ...これからもよろしく、ラナ」

 

 

その手を、俺が握った。

 

 

 

 

 

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file1-ϝ(ディガンマ)乾留液状溶解性粘液生命体(タール・スライム)】 脅威グレード:D-

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書き溜めが尽きるまで定期更新予定。
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