【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】   作:フルフェイスパンケーキ

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第一葉:生き残る為にすべきこと

「ここ、ここが俺の住んでるところ」

 

『へぇ、案外大きいじゃない?』

 

「なんか誤解してるな?...この中の一室だよ」

 

『前言撤回』

 

 

化け物を斥けた後、ラナを連れて俺は住居であるアパートへと帰ってきた。

 

鉄筋コンクリート造の、それなりに大きなアパート。

建物の大きさだけなら申し分ないだろう...建物の大きさだけなら。

 

まぁ、そんなこんなで階段を数階分上がり終えて見慣れた戸口に立つ。

 

 

「で、ここが俺の住んでる部屋な」

 

『...なにこれ、大分狭くない?隣の部屋との間隔が心許ないのだけれど』

 

 

彼女の反応...予想はしてたが、やっぱり辛辣だった。

壁に備わる扉と扉の距離に対して明らかに怪訝な表情をしている。

日本のアパートやマンションでは見慣れた光景なのだが、まぁ“あちら側”にそういう類のモノは存在しなさそうな気がするのも又、事実だった。

 

 

「狭いのは入口だけ、中は普通に居住出来るくらいのスペースはあるから心配すんなっての」

 

『ほんとにぃ〜...?』

 

「懐疑の目を向けるの止めろ」

 

 

未だ疑り深いラナとやり取りしつつ、慣れた手つきで錠に鍵を差し込んで回す。

ガチャリと音がしたのを確認して扉を開いた。

 

 

「さて、さっきも言った通り小汚ぇトコだが遠慮なく上がってくれ...寛ぐ事くらいは出来るしな」

 

「じゃあ遠慮なく、お邪魔するわよ」

 

 

ラナが軽い足取りでひと足お先と玄関から屋内に上がっていく。

あ、靴脱がずに入っちゃった...

 

 

「おいラナ、靴脱ぎ忘れて――」

 

『あら?素足よ、私』

 

「げぇっ」

 

 

言われてみれば、彼女は履物一つ無く薄緑の足をそのまま地につけていた。

素足でアスファルトは痛いと思うが...目立った汚れは全くない。

 

やはり、人間とは根本からして作りが違うんだろうな...とか、そんな事を自然と考えられてる己が我ながら気持ち悪く感じつつも住み慣れた我が家(賃貸物件)へ俺も入る。

 

 

暮らしていく上で不備のない最低限の家具類を除いて殆ど大して何も無い、与えられたスペースに対して空間を持て余しているとすら思える部屋。

一人暮らしならこれで十分だったが...状況は変わった。

 

 

『ふーん...確かに狭かったのは入口だけで、他は想定してたよりはずっとマシね』

 

「な?言った通りだったろ?」

 

 

と、若干見直した様子のラナは他所にして、着替える前に手洗いを済ませた俺は机の上で置きっぱなしだったノートパソコンを開く。

スリープ状態だったのですぐに立ち上がり、ブラウザを開いてニュースサイトに飛べば...

 

 

「えー、何々?【未知の不定形生物、世界中に出現】...ラナ、ちょっとこっち来てくれるか」

 

『どうしたの?』

 

 

パソコンの画面に映ったある画像を拡大してからラナを呼ぶ。

窓の外や安物のソファーを見回していた彼女はトテトテとこっちにやって来た。

 

 

「これさ、ラナなら見覚えあるんじゃないか?」

 

『そんな事言われても...あ』

 

「お?」

 

『スライムじゃない、これ』

 

「だよな...」

 

 

俺はなんだかやるせなくなって座っていた椅子にもたれる。

ぼんやりと見つめるパソコンの画面には、世界中の様々な都市部で透明な水の塊があちこちに這いずり回っている写真があった。

 

試しにブラウザの検索欄で【スライム 出現】と打ち込んで調べてみると...出るわ出るわ、色んなサイトが挙って並べた似たような記事の羅列が。

 

 

「...おかしくなってんのは、俺じゃなくて世界の方で間違いなさそうだな」

 

『心配しないで、もうすぐそれが日常的になると思うし』

 

「心配でしかないが」

 

 

ふぅ、と小さく溜息を漏らした...どうなっちまうんだ?この世界...

 

けど、このまま脱力し続けても意味が無い。

椅子にもたれる身を起こして制服を着替えようと洗面台近くのクローゼットに向かう。

 

 

案外なだらかに世界は変わっていくのかもしれないし、急に転落していくのかもしれない...だが、致命的に世界が壊れるまでは日常を堪能しておきたいと強く(こいねが)う。

と、部屋着を引っ張り出しながらあれこれ考えていた。

 

 

 

何れ、今まで通りの日々を送ることが出来ないと言うなら、尚更...

頭の中で膨らんでいく思考を一旦振り落とすべく制服の上着を脱ぐ。

ついでに顔も洗っておこうと洗面台に赴いて、鏡に自分とラナの姿が映......え?ラナ?

さっきまで向こうに居ましたよねキミ?

 

 

「......」

 

「......」

 

「...なんでこっち見てんの、ラナ?」

 

『急に席を立って別の部屋に行くから、気になって付いて来たの』

 

「今から着替えんだよ!散れ!後で菓子とか出してやるから散れ!!」

 

『あら?私が満足出来るモノを期待していいのかしら?』

 

「ッたりめーだ!」

 

何に対して怒ってんだろうね、俺...諸々含めて恥ずかしいったらありゃしない。

 

 

 

〇△〇

 

 

 

『んむ、んむ......美味しいわね、この...“ヨウカン”とか言うお菓子』

 

「コンビニの奴だけどな」

 

 

満足してくれました、ハイ。ニッコニコです。

机を挟んで対面する形で互いに椅子に腰掛け、ラナは俺の好物である抹茶羊羹をもっきゅもきゅと頬張っている。

めっちゃ美味しそうに食べるねキミ。

 

代わりにここ数週間の楽しみである“夏期講習を終えてから甘い物を嗜む”事が犠牲になった。南無三。

 

 

「...んで、これからどうする?俺はドラ〇エよりもファン〇シースター派なんだが」

 

『何よそれ...まぁ、現状はスライムだけしか現れてないけど、私のような穏健派すらこの世界に送り込まれたとなれば...遅かれ早かれ、より狂暴な奴らが来るでしょうね』

 

「つまり、そんな奴らと戦えるだけの力を備えろって寸法か」

 

『そういう事』

 

 

気軽に言ってくれるな...

第一、簡単にそんなのと戦えるだけの力なんて身につけられる訳ないだろと食ってかかろうとした矢先に、彼女が机の上に何かを置いた。

赤くて丸い、ちょっと大きめのビー玉に似た...

 

 

「それ、確かさっきの...“魔核”だったっけ」

 

『えぇ、スライムは勿論の事、私達の世界におけるモンスターを構成する尤も重要な部位よ...当然、私も例外じゃないしね』

 

「ラナもか、でもコレをどうするんだ?」

 

『食べるのよ』

 

「食べ......は?何で?」

 

 

余りにも自然すぎる流れで危うく聞き流す所だった、これ食うの?本気?

けど、彼女の表情を見れば先程までのにこやかな表情ではなく、真面目な話をする真剣な顔つきになっている事から本気であると仄かに悟る。

証拠に羊羹を食べる手も止まって...あ、全部無くなってたからか。

 

 

『私の世界だと、人間は生まれながらにして魔力を持たないの...その代わり、魔核を経口摂取によって体内に取り込んで血液中に魔力を摂取出来るわ』

 

「あ、じゃあ魔法とか使えるのか?」

 

『それは無理ね、人間には魔法を使う器官が備わっていないもの。あくまでも身体能力の増強に留まっているだけ』

 

「...現実は、厳しいな」

 

 

がくり、と肩を落とす。

有名な元天才外科医魔術師が主人公の映画のようには行かなそうだ...が、パワーアップするのは事実らしい。

 

すると今度は気になるのが

 

 

「食べる事に対する副作用、特に致命的なヤツとかない?」

 

『そうね...魔核に対する適性が低かった場合、ある一定以上を取り込むと正気を失うリスクを背負っているって位かしら』

 

「途端に絶望がチラつくようになってきたなオイ」

 

 

サラりと告げられるえげつない代償。

そもそも一定以上ってどんくらいなんだ、バケツ一杯分とかか?

それは兎も角、適性が低ければそもそも話にならないのが事実ならどうすればいいのやら。

 

 

『け・ど...運良くマサヤには私が居るの、何も心配することは無いわ』

 

「適正低かったらアウトなんだろ、どうするんだ」

 

『あくまでもそれは個人毎の一定数を上回った場合の話よ。初めて摂取する一粒だけなら問題ないし、私ならそれを基準に適性の有無を確実に見極める事が出来る』

 

「だから、食べる必要が?」

 

 

ラナは返事の代わりに表情を緩ませ、机の上に置かれた魔核に目配せする。とりあえず食ってみろと言わんばかりに。

 

正直言って、無茶苦茶な事に法則性を見出して理解は出来ても、それを実践する事は難しいものだ。

 

緊張する。

 

どうしても、適正とやらが低かった場合のことを考えてしまう。

 

それでも...

 

 

 

「やってやる」

 

 

意を決して、机の上に置かれた魔核へ手を伸ばす。

やろうと思えばすぐに手に取れる場所にありながら、その距離はとても長く感じた。

 

親指と人差し指で摘む。

小さいが、しっかりと存在を感じさせる重みが指先から伝わるソレを目の前まで持って来て...

 

 

 

 

口の中に、捻じ込む。

 

思い切って咀嚼すると呆気なく潰れて中身が流れ出した。

 

 

瞬間、血に酷似した鉄の味が口いっぱいに広がって思わず吐き出しそうになる。

苦味でも酸味でもない、ドロリと濃密な金属の味わい。

思考ではなく身体が“取り込んではならない”と全力の拒否反応を示し、それが嘔気となって胃液が食道を駆け昇っていく。

 

 

「っ!?う、ゔぐ...ん゛ぅ゛ぅ゛!!」

 

 

取り返しのつかないラインまで来る前に、半ば無理やり飲み込んだ。

喉がゴクリと大きな音を立て、胃酸に喉元を過ぎた魔核の液が混じりつつ体の奥へと染み渡っていくのを感じながら...

 

 

 

「...まぁッッッッず」

 

 

一言、心の底から出た感想を漏らす。

ラナはと言うと、魔核一個にメンタルをズタボロにされた俺を哀れみと呆れの感情が入り交じった表情で眺めていた。

 

 

『オーバー過ぎよ、そこまで酷いの?』

 

「生憎...この世界の人間は、普通こんな味慣れる程苛烈な人生送ってないモンでね......」

 

 

疲れた...勉強疲れとか体育で疲れるのとはまたワケが違う疲労感が押し寄せて机に突っ伏す。

 

 

『まぁ、何事も一度経験してしまえば後は慣れよ』

 

「どうだかなぁ...それより、適正はどんな感じだ?こんだけ苦しんで“結局ありませんでした”なんてシャレにならねぇから」

 

『それもそうね、ちょっと身体起こしてくれる?』

 

「んー」

 

 

むくり、と鉛に近いくらい重く感じる上半身を起こす。

椅子から降りたラナが俺の側まで来て、手をポンと俺の心臓辺りに当ててきた。

 

そのまま彼女は目を閉じる。

途端に、俺の胸元に添えられた彼女の掌からほんのりとした熱が伝わってきた。

心電図みたいな要領で測っているのだろうか?どうやって?

あぁそうか、これも魔法か。

 

しかし...しかしだな...

 

 

「なんか...近いな」

 

『何か問題でも?』

 

「あ、いや、特には」

 

 

嘘、真っ赤な大嘘。

こんなに近くまで女の子が来て、しかも堂々と相手の身体に触れているこの状況は年頃の男にとって少々堪えるってもんだ。

帰り道で出会った時よりはまだ軽い感じだが...

 

だが、それ以上に何か不思議な感覚がする。何処か落ち着くような安らぐような...セラピーでも受けるとこんな感じになるのかなと思う、暖かで優しい感覚。

 

なんだろう、これは。

 

 

『終わったわよ』

 

「あ」

 

 

数分、いや数秒も経っていないだろうか。

彼女の手が俺の胸元から離れると、途端に優しい感覚も遠ざかっていく。

穏やかな時間はあっという間に消し飛んだ。

 

名残惜しくも複雑な心境を抱えながら、今はやるべき事を...戦うに足るかどうかという結果を聞かなければならない。

 

 

「どう、だった?」

 

『高すぎず、低すぎず...まぁ、一般的な適正よりもやや高い程度って具合ね』

 

「それって...!」

 

『えぇ...“合格”よ♪』

 

「そうか...そう、か......」

 

 

本来なら手を叩いて喜ぶべきなのかもしれない。

でも俺は、適性があったことに対する歓喜より安堵の気持ちが強かった。戦う力を得られると、生き延びる事は出来ると。

 

 

『さて、適性があると分かった以上マサヤのやるべき事は至極単純よ。見つけて、倒して、喰らうだけ』

 

「ん...だろうな、それしかない」

 

 

そうだ、これは通過点に過ぎない。

適性があったとして、力を身につけるには先程言ったように多くの魔核を食べていく必要がありそうだ。

味覚は絶対におかしくなるだろうが。

 

そして...気が抜けて思考に余裕が出来たことで、少しいい事を思いついた。

 

 

「ラナ、スライムってどういう場所に多く居る傾向にあるんだ?」

 

『基本的に所構わず住まう感じ、人が居れば襲おうとするし...でも、住宅街より自然の多い場所とかに良く居ると聞くわ』

 

「そうか...よし」

 

 

俺は脇に退かしておいたノートパソコンをもう一度立ち上げ、このアパートの位置を中心にしてマップを開く。設定は衛星写真にして、半径はバスや電車等を活用した上で行き帰りが気軽に行える限界点を考慮し、5キロほど。

 

 

『何してるの?』

 

「まぁ見てろって...この世界では魔法の代わりに発達してるモノがある」

 

 

操作を終えた俺は、台所の近くに置いてある安物のプリンターがデータを受信して動き始めたのを確認した。

ラナは何が起こっているのか分からない様子ではあるが、その目を輝かせてプリンターから吐き出されていく紙を見つめている。興味津々だ。

 

 

『何これ?あの画面に映ってたのが紙になって出てきてるけど...』

 

「コイツはプリンターって言ってな、写し取った情報や複製したい紙媒体なんかを用意したい時に使うんだ...例えば、こうやって」

 

 

そして完全に印刷が終わり、吐き出されたA2用紙を取り出してラナに見せた。

 

 

「地図とか用意する時に、便利なんだ」

 

『へぇぇ...この世界も中々、粋な技術があるじゃない』

 

「最近はスマホで地図とか見る人が多いけど、俺は打ち合わせの時とかはこうして刷ったやつ用意するって決めてる」

 

 

そう、地図を用意したのには理由がある。

スマホやパソコンを通して見るのと違って直接書き込めるのはやはり有用だ。

 

 

「この真ん中にある印、ここが俺たちの今居る場所で...この周囲に自然が多そうな場所、つまるところスライムが多く存在してそうなスポットを絞り込めないかと思ってな」

 

『成程ね、私もいい考えだと思う...けど、勘がいい奴は魔核を取り込むと力がつくって理解するんじゃない?人口密集地は避けるべきかしら』

 

「そこも含めて考えるんだよ、口に入れて検証しようって物好き居るかどうかは別としてさ...あぁヤベぇ、受験勉強とはまた違う頭使いそうだ」

 

『根詰め過ぎて体調を崩さないでよ?...あ、じゃあ私はマサヤの“ぱそこん”借りていい?ちょっとやりたい事あるし、使い方は貴方の手元で大体理解出来たし』

 

「分かんないことあったらスグ教えてくれ、変なサイトとか飛ぶんじゃねーぞ」

 

 

頭をガシガシ掻き毟る、大変な作業量になるのが目に見えていて...でも、どうすればいいかという方法が分かった事で、行動するべき事がしっかりと把握出来た。

なら、実行に移す準備を整えるだけ。

 

 

探す。誰も気づかない絶好の場所を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、後で窓の近くに茶の木でも生やしとこうかしら」

 

「何勝手に他人の家で茶葉栽培しようとしてんだ」

 

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