【偽典】植物系少女と世界の黄昏【田んぼエルフ】   作:フルフェイスパンケーキ

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セリフ多め回(当社比)

今回からちょっとずつオリジナル要素が含まれ始めます。
でも基本的に原作準拠です。


第七葉:もう一つの悲劇

「――――がぐッ!!?」

 

 

あと数歩のところで、胸元に激痛が走った。

突如として襲いかかって来た衝撃に為す術なく地面へと転がり、握っていたポールが手元から零れ落ちてしまう。

 

すぐさま体勢を立て直しながら顔を上げると...

 

 

「義父さん!?義母さんまで...」

 

 

変わり果てた形相の、親しき人。

義父さんの手にはゴルフクラブが、義母さんの手には植木鋏がそれぞれ握られている。

顔に開いた大穴といい、完全に姉さんと同じ状態だ。

 

 

「紹介するよ、僕の()()()()だ」

 

「うるせぇ...!」

 

 

口の中に溜まった血を床に吐き捨てて立ち上がる。

心の奥底から滲み出る怒りを、両の足へと込めながら。

 

 

「他人の家にズカズカ入り込んで何様のつもりだ!?人形ごっこも大概にしろ!!」

 

「いーや、もう僕達は家族さ。血の繋がりよりもっと深くて強い、『魂』によって結ばれた最高の家族...薄っぺらなキミとは違ってねぇ」

 

 

奴は...顔無しは、自慢話でもするかのような素振りで包帯に巻かれた手を大袈裟に振るう。

完全に油断していた。魔核による強化が無かったら心臓が潰れてたに違いない。

深く息を吸って痛みを紛らわし、怒りに溺れそうな思考を一旦脳の片隅に押し込めながら奴の事を注意深く見る。

 

 

外見は大体小学校高学年程、黒の短髪が隙間風一つ吹き抜けていないのにたなびいている。

一見すると礼服のように見えた服装は、上着から内に纏うシャツに至るま全てが黒に等しい濃紺であり、袖口から覗く手は包帯に巻かれて肌の露出している部分が見当たらなかった。

 

ゴブリンと比較して、あまりにも人間的すぎる...が、結局『同類』なのだろう。

でなければ、ここまでの非道を働く事はない筈だから。

 

改めて状況を整理する。

奴の両隣には義父さんと義母さん。そして俺の後方には姉さんが待ち構えており、完全に包囲されている状態だ。

落としたポールはもう何処かに転がってしまい、ここから見える範囲にはない。

 

 

…どうする?

どうすれば、奴を叩ける突破口が開く...?

 

 

「えへへ...考えてるねぇ、無駄だって薄々気づいてる筈なのに」

 

 

(こだま)のようにエコーが掛かった奴の嘲笑が飛ぶ。

 

 

「黙れよ化け物が、無駄かどうか...届かないかどうか、やらなきゃ分かんないだろうが!」

 

 

あぁ、考えてるさ。お前の言う通り無駄なんじゃないかって何処かで思いながら...それでも俺はお前の焦る声が聞きたくて、姉さん達を救い出せる方法を見つけたくて...そして何より生き延びる為に必死になって知恵捻り出そうとしてるんだ。それの何が悪い?

 

 

「あーあ、これだからゴミ箱扱いされてるんだよこの世界は...ねぇ、本当に僕に敵うと思ってるの?確かにキミからは多少の魔力を感じるけど...まさか、僕をあの穢らわしい『ゴブリン』共なんかと同列に扱ってないよねぇ?」

 

「ッたりめーだ、承知の上だ、だから俺は死力を尽くしてお前を――」

 

「あーもう違う違う、ぜんっぜん理解してくれてない...僕が言いたかったのはねぇ...」

 

 

大きく、奴の顔の孔が歪んだ。

 

 

「キミに、キミの()家族を傷つける覚悟はあるかって話...僕達はもう既に、魂で結ばれた最高の家族だって...そう言った筈だよぉ?」

 

「...何が、言いたい?」

 

「はァーあ...良いよ、乗り気じゃないけど特別に見せてあげる。僕の言ってた事は...」

 

 

呆れたような様子で奴は深いため息を漏らしながら、徐にテーブルの上に置かれていたナイフを手に取り...

 

 

()()()()()...さッ!!」

 

「!!!」

 

 

自分の左肩に、突き刺した。

肉が裂ける音が響き、墨汁のような体液が溢れ出す。

 

 

その次の瞬間だった。

 

義父さんと義母さんの左肩が裂傷のようにぱっくりと裂け、溢れた血が床へバシャリとブチ撒けられる。

俺の真後ろ...姉さんの立っていた場所からも響く、水の塊が弾ける音。

 

 

「あ...あぁ......」

 

 

…理解した。

 

 

……理解してしまった。

 

 

 

奴の、恐ろしい力の正体が。

 

 

「っぐ...どうだい?これが魂で結ばれた家族。痛みも喜びも全部全部ぜぇぇぇぇんぶ!!皆で共有し合うんだ...綺麗だろ?尊いだろ?...羨ましいだろう?」

 

「狂ってる...狂ってるよ、お前...」

 

 

肩からナイフを引き抜きながら恍惚とした表情...顔の歪み方から判断して恐らくそうだと思える表情を見せる奴を前に、俺は思わず本心から飛び出た言葉を発していた。

どうせ、適当に流すだけなのに。

 

 

「...そうだよ、僕は狂ってるんだ」

 

「何?」

 

 

...肯定した?

自分の異常性を、肯定したのか?

 

 

「僕はねぇ、元々住んでた世界で何もかも奪われたんだ...住む家、平和な暮らし、暖かな家族、何もかもをね」

 

 

奴は唐突に自分の過去を語り出す。

下手に手を出せば俺自身は疎か姉さん達まで危険に晒しかねないこの状態では、聞き入れる他選択肢はない。

 

だが、聞き入れながらも打開の策は考える。

 

 

「僕の家系は代々墓守でね、何十年も何百年も一国の集団墓地を管理してきたんだ...尤も、国と言ってもかなりの小国だったけどね」

 

「...それが、お前の喪失と何の関係がある?」

 

「まぁ待ってよ、それを今から話すんだから...」

 

 

ナイフに付いた黒い血液を食卓から取った手拭いで拭き取り、元の位置に戻してから奴は再び語り始めた。

 

 

「事の始まりは僕が産まれた事だった...墓地で長年溜め込まれた瘴気の影響か、或いは単なる偶然か、僕は産まれた頃から他者に感覚を共有出来る力を持っていたんだ...最初は触れている人だけがその対象。おかげで僕の『本当のママ』は子育て楽だったようだよ?ご飯やオムツ替えのタイミングが即座に分かったらしいしね...」

 

「なら、何故お前は...今のようなお前が在るんだ?」

 

「...際限なく強くなっていったのさ、力が」

 

 

肩の傷跡を拭っていた手拭いを、奴は固く握り締める。

怒り、無念、憎悪...様々な感情が伝わってきた。

 

 

「僕が10歳を迎えてすぐだった...ただ感覚を伝えるだけだった力は強い共鳴反応に進化、痛みも苦しみも赤裸々に晒し合う事になるその力に国も、家族も...僕自身すら恐れ、取り返しがつかない事態に陥る前に命を絶つ他ないというお達しがあり、僕も死ぬ事を受け入れた」

 

「でも...死にそびれたんだろ?」

 

「せーかい♪情報さえあれば割と鋭い方だね?キミの察し具合ってさ...ま、普通の人間なら数秒で死ぬ強力な毒薬を服毒する事で一思いに楽にしてやろうという魂胆だったワケさ、せめてもの情けって寸法だったんだろうけど...それがマズかった」

 

 

奴は、自分の顔に開く大穴の淵を内側から指でなぞる。

 

 

何かを、確かめるように。

 

 

「...キミは、モンスターがどうやって産まれるのか知ってるかい?この世界で生まれ育ったとはいえ魔力を感じるから、多少なりとも知識は備わってると思うんだけど」

 

「動物や植物みたいに自然で産まれるモンだと、俺はそう思ってる」

 

「うーん、70点かなぁ?大まかな認識自体は間違いじゃあない...けど動物に限定した事で20点、時折起こるけど有名なイレギュラーが抜けたから10点マイナスだ」

 

「...知るかよ」

 

 

脳裏で彼の話すイレギュラーという単語に、脳裏でラナの姿を思い浮かべる。

彼女はまだ来てくれそうもない。

 

 

「まぁそうだろうね...緩〜いこの世界に生きてる以上はどう足掻いても理解出来ないコト、あると思うし」

 

 

ピタリと、なぞる指が円の真上で止まる。

これから、それを話し始めるのだろうと言う事が分かった。

 

 

「確かに動物や植物のような特徴を持つモンスターが大部分を占めてはいるよ、でもそれだけじゃあダメだ、不十分だ...いいかい?モンスターはねぇ...ある種の()()()()なんだよ」

 

「自然...現象...?」

 

「そう、自然から生まれ出づる存在ではなく『そのもの』...風が吹くように、海が波打つように、空に星々が輝くように、モンスターも又自然の一環としてその存在を完結させている」

 

「だったら...だったらなんで人を襲ったりするんだよ?!自然の一部なら無闇矢鱈と排斥するのはおかしいだろうが!!」

 

 

奴の言っている事は破錠しているとしか思えなかった。明らかに人に対して害をもたらしているものを、生命に対して必要以上に干渉してくるような存在を自然とは言えない筈だ。

丁度、様々な資源を掘り尽くして環境問題にすら発展させるような...俺を含めたこの世界の人類のように。

だが、奴は相変わらず面白そうにクックッと嘲笑う音を穴から響かせている。

 

 

 

 

「...キミ、なんか忘れてなーい?」

 

「何をだ?何を忘れるって言うんだ!?」

 

「見たところ気候とかは僕のいた世界と大差が無いように見えるからね、似通ってるこの世界にもあるんじゃないの?...地震、火山の噴火、豪雨に豪雪、そして旱魃(かんばつ)...ある程度の予測はできても、決して避ける事の出来ない自然のモノが」

 

「そんなもんあるに決まって――――まさか」

 

「...あは♪」

 

 

 

 

この家に来てから、『有り得ないはずの事象を有り得る現象に置き換えて考える』という自分の得意な事を恨んだことは無い。

きっと、そんなものが無ければ気づくことが無かった恐ろしい事実が奴の口からゴロゴロと飛び出してくる。

もっと俺が馬鹿だったなら、もっと俺が愚かだったなら...

 

 

 

 

 

そして、()も。

 

 

 

 

 

「そう、モンスターはそれら全てと等しく天災...それも『意志を持った天災』だ」

 

 

 

吹き出しそうな笑いを堪えるように、ゴポッと奴の顔孔から黒い液体が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉が、出ない。

モンスターが、地震と同じ?

だったら、ラナは?彼女と彼女を取り巻いていた環境全てはその中におけるイレギュラーとして含まれていたのか?

 

だが、俺には悠長に考える間も与えられない。

 

 

「本当に...本当に惜しいよ、キミが僕のいた世界で産まれて来たら、その才能は遺憾無く発揮できたろうに」

 

「ふざけんな...ふざけんなよ、お前...!」

 

巫山戯(ふざけ)てなんかない、僕はずーっと真実を語ってきた...世界に『産まれ』」

 

 

円の天頂で止まっていた奴の指が、ジュルジュルと気味悪い水音を立てながら右の側面に向かって滑る。

 

 

「人や世界、時として同族すら見境なく『喰らい』」

 

 

右の側面から、顎の頂点へ。

 

 

「やがて更なる力に『喰われ』」

 

 

顎から、左の頬へと。

 

 

「そして再び...世界の何処かで『産まれる』。個体や種族によって多少の違いがあるとはいえ、殆どのモンスターが一つの円環として完成するんだ」

 

 

一周した指が天頂へと戻り、止まった。

 

 

「これがモンスターという自然現象の概要ってところだね、理解出来たかな?」

 

「したくなかった...理解なんかしたくなかったのに、分かっちまう......俺は、こんな俺が恨めしいさ...!」

 

「あぁダメダメ、まだ折れられると困るんだよ...ここから先は『イレギュラー』、つまり僕とかの話だ」

 

 

これ以上聞きたくない。知りたくない。

耳を両手で塞ぎたくなる。

 

だが奴は、我関せずと穴から指を離して座り直す。

ここからが本題だとでも言わんばかりに。

 

 

「レアケースではあるけど、モンスターには極偶に人間に中から生まれる個体もある。母の胎の中で育まれている段階で腕や足が欠損した新生児のように、先天的疾患という形の自然現象(モンスター)として...ね」

 

「そうだと知って、お前は死ななければならなくなったのか?」

 

「いーや、逆だよ...僕は特に特殊な例でね、人間だったら死んでいる筈だったその瞬間まで気づかれる事も気づく事もなかった。自分は特殊な力を持って生まれた...『人間』だったと。『人間』だから、その毒で死んで皆を救う事が出来ると」

 

 

『人間』ならば死ねたはずの服毒。

それでもこうして、俺の前に姿を晒しているということは。

 

 

「効かなかったのか」

 

「そう、人間なら死ぬ毒でもモンスターなら話は別...だが限りなく人間に近かった僕は毒素に体を蝕まれながらも死ぬ事を許されなかった。死の淵から先を超える事を出来ない中途半端な存在であったが故に...コレは、その時出来たものさ」

 

 

奴は、そう言って顔の穴を指さした。

 

 

「死にたいのに死にきれない痛み...本来なら瞬く間に命を落とすはずだったそれが引き金となり、僕はモンスターとして完全に目覚めてしまった。並の人間なら確実に死に追いやれる感覚、状態、その全てを、国をすっぽりと覆える範囲の人間が等しく体験した...その結果、5100人の命はこうだ」

 

 

人差し指で、『1つ』と示す。

 

それが何を意味するのか...誰を指すのか、深く考えなくても分かる。

 

 

「かくして家族どころか国を滅ぼし、モンスターとして完全に目覚めた僕の精神と肉体は時が止まったまま永遠の時を彷徨う咎を受けた訳だ...そうだね、もう軽く70年は過ぎてるよ」

 

「だから...狂った?」

 

「そういうこと、狂わなきゃモンスターなんかやってらんないよ。まぁ狂いすぎたせいで勇者一行に目ェ付けられちゃったから、魔力を枯渇させられた上に超長距離魔法で国土ごとぶちのめされてゴミ箱(この世界)にポイっとね、されちゃったんだけど...でも70年の時間は僕に能力をある程度制御する術を、外敵との戦い方を会得させるのに十分な長さだったよ?だから今では――――」

 

 

奴が自分の右手の甲を此方に向ける。

そこへ黒紫色の靄がかかり始めて...

 

 

「こんな事も出来る」

 

「!...まずッ――」

 

 

咄嗟に両腕を顔の前に突き出す形で防御する。

ほぼその直後に奴が手を払い除けた。

 

俺の取った咄嗟の行動が正しかった事を証明するのに一秒も必要なかった。

刹那、風を切る音と共に腕が猛烈な痛みを伴う衝撃を受け止め、斜め後方へカウンターを大きく凹ませながら吹き飛ばされ叩きつけられる。

 

 

「が、ぁぁッ!!」

 

「今のいい判断だねぇ。魔核を取り込んだとはいえ直に受ければ確実に頭が弾け飛び、回避も間に合わない攻撃に対して防御を選んだ...あぁ、これもキミの察しの良さが成せる技なのかな」

 

「...ごふっ!」

 

 

最早何度目か分からない吐血。

強酸性の液体に腕を突っ込んでしまったと勘違いしそうな痛みが今尚続く手で口元を拭おうとして...空振った。

 

 

「は...ァ?」

 

 

何故?

平時なら腕の先にある手が口に届く筈なのに...何故、手が顔に触れる事が出来ない?

 

…いや、待て。

 

激しい痛みは時間が経つに連れて引くどころか、より一層増している。まるで何かが...何かを失ってしまったように。

 

見たくない。見たら確実に後悔するなんてもんじゃない。

だが...そんな俺の意志とは真逆に、叩きつけられた地点から、椅子に座る顔無しに向かって目を開いた時点で視野内に捉えてしまえる位置に。

 

綺麗な断面を覗かせながら転がる二つの肉塊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の、腕があった。

 

 

 

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