ぶっ飛んだ新人ども+αで行くクリスタルクロニクル 作:大罪司教
ティパの村の長ローランの家。
二階建ての石造りの家のバルコニーから見える景色は丘の上から見るよりずっといいものが見えるのだという。
幼い頃にその景観を特別に見せてもらった記憶がある。エリンやストロークと一緒に見たあの夕陽は、キアランにとっても、今でも大切な宝物だ。
応接室でそんなことをぼんやりと考えていた時、年季の入った扉が軋みながら開いて見知った顔の老人と長い髪のセルキーの女性が入って来た。
「よう来てくれた。お前達を呼んだのは他でもない。クリスタルキャラバンのことについてじゃ」
聞けば近頃魔物が強くなり、キャラバン界隈で被害が増大しているとか。
ティパの村も旅の安全を考慮し、これまでこのセルキーの女性1人だったのを以前のように複数名にすることにしたという。
それで選ばれたのがキアラン、ストローク、エリンなのだ。
エリンは緊張の面持ちで話しを聞き、中から湧き出る恐れを押し殺していた。
当然である。これは自分だけでなく村の存亡も掛かった重大な使命なのだから。
キアランは普段と変わらぬ態度でソファーにもたれながら耳を傾け、ストロークは目を開けたまま寝ていた。
「あー、わかってくれたかのう?」
「はい」
「うーっす」
「ぐ~…………、うぉッッ、なんだべ!?」
村長は不安そうにしながらも、咳払いをして隣の彼女に話題を振った。
「もう知ってるだろうけど一応自己紹介するわ。私の名は『ル・ジェ』。アナタ達は晴れてキャラバンに選ばれたわけだけど、これだけは言っておくわ。……絶対に私の足を引っ張らないこと。即ち、この旅に足手まといは必要ないっていう意味よ」
「こ、これル・ジェ! 新人をそうも威圧するものではない」
「けれども村長。クリスタルキャラバンの旅は血が滲み出るような苦痛を伴う危険なもの。なんの覚悟も実力も無しに着いてこられたら、こっちだって迷惑です」
ル・ジェは蒼い長髪を軽く撫でながら座っていた3人を視線で見下ろす。
その眼光には歴戦の猛者に相応しく、村最強の実力者に相応しい威厳を持っていた。
あまりの凄味にエリンがサッと目を背け、ストロークがル・ジェに食って掛かろうとした直後、キアランが冷静な態度で軽く返す。
「あぁ、いいんじゃねぇか。ルールはそういうシンプルなのに限る」
「キアラン?」
「あぁん?」
「アンタはキャラバンのリーダーだ。リーダーの意向に従うっていうのが筋だろこういう場合よ」
キアランはル・ジェの脅しにも似た通告をまるで意に介していないようだった。
むしろそれを了承した上で旅にでる決意を固めている。
「……へぇ、随分と余裕なのね。…怖くないの? ―――――シャーレイの弟君?」
「さぁてね。アンタからはオレがどう見える? ―――――かつての姉さんの同僚さんよ」
2人の掛け合いからして姉であるシャーレイを通して因縁があることは明らかだ。
とは言ってもキアランに憎しみはない。むしろル・ジェには…………。
「村長、三日後に出発します。それまでに彼等に心の整理を付けさせてあげてください。家族との別れもあるし、今後の準備もしなくてはならないでしょうからッ」
ル・ジェはキアランから目を背けるようにして踵を返して出て行ってしまった。
それを見たストロークが呆れたように項垂れる。
「これだ。過去の因縁持ち出した途端くら~い雰囲気になんの。誰が得するんだよ面白みのねぇッ!!」
「お前には関係ない」
「今度暗い雰囲気作ってみろ。唇削ぎ落して永遠にチューできなくしてやるからな」
「うるせ」
話し合いはこれで御開きとなった。ストロークも言った【過去の因縁】がこれからの課題にもなりそうだ。
キアランにとってル・ジェはもう一人の姉のような存在でもあった。
かつてのキャラバンメンバーは複数いて、その中にル・ジェにシャーレイ、そしてル・ジェの兄『セ・ファ』という人物がいたのだ。
3年前にシャーレイは右足を失い、ル・ジェは兄を失った。
セ・ファは戦いの際に谷に落ちてそのまま消息不明となり、誰もが生存は見込めないと判断したが、ル・ジェは今でも生きていると信じている。―――――否、信じていたいのだ。
(いつかは来るかもとは思ってたが、まさか今日になるとはな)
彼等3人が歩いていく様を、村長宅の二階の窓から見ていたル・ジェは唇を噛んでいた。
そんなことは知らず歩くキアランはふと村の巨大クリスタルを見る。
キャラバンの旅を祝福するはずのこの輝きは今朝はやけに霞んでみえた。
そして約束の三日目。
ル・ジェは村の入り口前の馬車の前で夜明け前からずっと待機をしていた。
眠れなかったのか、ずっと未明の風に当たり続けて村の方をじっと眺めていたのだ。
集合時間の30分前になると、エリンがやって来た。
クラヴァットの正式な武装とも言える剣と盾。しっかりと整備され磨き込まれている。
ティパの村の異常さはル・ジェもある程度は知っているが、腕に関してなら世界一かもしれない。
「あの2人はまだ見たいね」
「はい、少し準備にてこずっているようで」
「まったく、三日間も猶予をあげたのにしょうがないわね」
しかし待つこと40分。
集合時間はとっくに過ぎているにも関わらず一向に現れない。
見送りに現れた村人達も騒めき始める。
「ちょっとホントにどうなってるのよ!!」
「あ、あれ~、どうしちゃったんだろう。キアランもストロークも……何かあったのかなぁ」
そうして心配していた時、キアランとストロークが鍛冶屋の方から歩いてきた。
「ちょっとアナタ達!! 今何時だと思って…………る、の…………」
ル・ジェもエリンも、周りにいた村人達2人のナリをみて仰天した。
キアランは背中に身の丈程の大剣を背負いそれをおおうように赤茶色のマントを羽織っている。腰や足には短剣を数本。左腕には小型のパイルバンカーを仕込んでいる。
ストロークにいったっては槍は勿論、背中には短剣をクロスさせるように背負い、いくつも巻き付けられた帯には投げナイフらしき金属が納められていた。
これから戦争にでも乗り出すのかと言わんばかりの武装を備えて彼等はル・ジェの前に立つ。
「悪い、遅れた。朝練してたからよ」
「ごっみぃ~ん。おめかししてたら遅くなっちった。てへぺろ☆」
「え…………え、え。え?」
ル・ジェは困惑した。この2人のノリがあまりにも慣れている。 歴戦の兵士か傭兵かのように殺意を体現した武装でやってきたのだから。
「なんだよ人か折角おめかししてきたのに。テンション駄々下がりだよまったく。……ひょっとしてシャイ?」
「い、いや……アナタ達、その格好は」
「キャラバンとしてミルラの雫を集めるんだ。これくらいの武装は普通だろ?」
「ま、ぶっちゃけまだ足りないけどねぇい。オフクロ特製の戦略兵器持っていきたかったけどパパオちゃんが可哀想だからやめた」
「え、あ、あ、そ、そう、なの…へぇ」
「おいアンタ大丈夫か?しっかりしてくれ。この旅では、アンタの経験が頼りなんだ」
「そーそー、じゃねぇとお話が進まんぜって話。こんな序盤の村でいつまでも会話イベントなんて誰が喜ぶんだよ。客は早くドンパチを見たがってんだおわかり?」
「え、え…………?」
「コイツの話は気にするな。しょっちゅう訳わかんねぇんだ。まともに考えるだけ無駄だ」
予想外の武装と展開にル・ジェは顔をひきつらせる。というよりもパイルバンカーといい戦略兵器といい、いつのまにそんなものが、こんな辺境の村で作られていたのか甚だ疑問だった。
(私の村って……、こんなんだっけ?)
しばらくみない間に色々と変わってしまっていた村。
その勢いに完全に飲まれてしまったが、ここは先輩の威厳を再度保とうと早速出発の号令をかける。
「うぅ、緊張するね」
「そうだな。最初はリバーベル街道へ行くらしい。お前は無理をせず、ケージを持ちながら魔法で援助をーーーーー」
「え~エリンも俺ちゃんもキアランもル・ジェもみぃ~んな特攻でよくなぁい?その方が派手ジャン」
「あのね、アナタが新人だからこそきちんとアドバイスしておくわ。雫集めの旅を舐めないで。でないと地獄を見るわよ」
「地獄だからこそスタイリッシュに駆け抜けるもんさ。あ、今の名言」
「うるせぇからちょっと黙ってろ」
「なんだよ皆ユーモアのセンスはねぇのか?しけったパンみてぇなツラで旅してなにが面白ぇんだ。知らないのか?ダンジョンに入るまでが遠足だぜ?遠足は楽しむもんさ」
「はぁ、呆れた。この先大丈夫かしら」
「あの、きっとストロークは『心に余裕を持って』って言いたかったんだと思います」
「まぁ、変に焦ったり緊張するよかずっといいな」
「心に余裕、ね……」
4人は馬車に揺られながら街道を進む。
おおよそ村の希望を背負っているとは思えないような面子もいるが、今後の彼等の働きで運命が変わるのだ。
そして最初のダンジョン、リバーベル街道へと辿り着く。
ル・ジェ:セルキー♀・うるふれっぐ