ぶっ飛んだ新人ども+αで行くクリスタルクロニクル 作:大罪司教
「さぁてお前等、お楽しみの戦闘パートだ。気ぃ引き締めて行けよ。最初の印象が肝心なんだからな」
「なぜアナタが前に出て仕切っているのかしら? あと印象ってなに? ……いや、そんなことはどうでもいいわ。後ろに下がりなさい」
「えぇ~~~~ヤダぁぁぁん。リルティな僕ちんは一刻も早く魔物をぶっ殺しちゃいたいわけよ。……いやぶっちゃけサ。俺ちゃん前に出てついうっかり魔物に見つかっちゃったって展開の方が良くないかって思うんだけど? ど~せ戦うことになるなら早い方がいいでしょ」
「………お願いだからわかる言葉で喋って」
「やめとけ。俺等でさえ会話が通じねぇ時があるんだ。だが、奴の言うことにも一理ある。どうせ戦うことになるのなら……」
「ねぇちょっと!! 私がリーダーだってこと忘れてないでしょうね!? 勝手な判断を下さないで!! というよりもキアラン、アナタクラヴァットなのにどうして思考がこうバーサーカー寄りなのよ!! シャーレイはもっと冷静だったわよ!!」
「戦いに種族云々は関係ないと思うんだが………」
「そうだけど。…いや、そうじゃない! もう、2人共もっと慎重に行動して! これは命を懸けた―――――」
「あ、遠方にゴブリン発見。ゴブリン殺すべし」
「ん、あれか。――――よし、半分は俺が殺す」
そう言って2人は殺気立つも、残念なことにル・ジェに止められた。
「バカッ! 自分から突っ込んでいく奴がいるかっての!!」
「え~なんでさ」
「なんでさじゃないわ。聞いてるでしょ。近頃の魔物は強くなっていってるの。アナタ達は確かに強いかもしれない。でも初日で、しかも何の作戦も無しに突っ込むのは蛮勇、無謀というのよ」
ル・ジェは無駄な争いは避け、リスクを抑える考えを提唱した。
「私の指示に従いなさい。これは村長の家でも言ったことでしょ。いいわね?」
「――――ま、リーダーのアンタがそういうのなら」
「ケ~、お楽しみはお預けかよ」
2人の猛犬にル・ジェの心労が一気に募る。
その様子を見ていたエリンはクリスタルケージを抱えながら苦笑いを浮かべていた。
ル・ジェはなるべく戦闘を避けて最短の道でミルラの雫を集めたいと考えていた。
あのゴブリンの群れとは言えど、ル・ジェ1人でも十分に相手に出来る。
だが今のこれは団体行動だ。1人の身勝手がチームを危険に巻き込む結果になってしまうもの。
最初の戦闘としてはもしかしたらうってつけかもしれない。
だが、ル・ジェは内心不安だった。―――――仲間が傷付く瞬間が光のように脳裏に映る。
「わかればよろしい。ここは村の外なの。縦横無尽に戦える環境ではないわ。私達はケージの範囲外へ出てしまったら、もう生きてはいけないの。でも、魔物は違う。魔物は自由に動き、戦うことが出来る。それを覚えておいて」
「キアラン、ストローク。わざわざ戦いに行かなくたっていいじゃない。何事もなく事が運ぶ方がずっといいよ。戦うのはもう、敵が向かってきた時だけにすればいいんじゃないかな?」
2人の説得に頷きかけたときだった。4人を大きな黒い影が覆う。
通常のゴブリンより大きな個体、ゴブリンチーフだ。
しかもそれが2匹と、通常のゴブリンが5匹、それにグリフォンが1匹。
瞬く間にして囲まれる形になってしまった。
まさかゴブリンが徒党を組んで、こうした頭脳的な戦術を駆使してくるとは夢にも思わなかった。
明らかに強くなっている。魔物達の知能も上がっているということか。
(しまった! 私としたことが周囲の警戒を怠るなんて)
ル・ジェは蒼ざめ、急いで己の武器を構える。
それはかつての旅の途中で兄からプレゼントされた武器「グランドスラム」。
三日月と天体観測に用いる機械の歯車をイメージしたデザインのこのラケットからなる必殺技は、云わばル・ジェの代名詞とも言える。
「皆陣形を組んで!! エリンはケージを守りながら魔法で援護を!! ここへ来るまでに拾ったファイアやケアルの魔石を使うのよ!!」
「わ、わかりました!!」
ゴブリン達が爛々とした殺意を視線に乗せる中、ストロークは性的快楽にも似た興奮を覚えていた。
「いいねぇ。こういう展開も嫌いじゃない」
「ちょっとストローク! 1人で無謀なことをしようなんて考えないで! ここは活路を開いて突破を……」
「開いてどうする? また追っかけ回されるだけだ。それか、別の奴が襲い掛かってくるか。生憎逃げる相手はオフクロだけに留めてんだ」
「ハァ? アナタこんな時になんて馬鹿なことを……。キアラン、アナタからも何か言って!!」
自らのリーダーとしてのカリスマ性の無さを恨みつつも、キアランにストロークを止めるよう指示する。
だが、キアランもまた彼と似て非なるもの。背負った大剣を手に取り両手で力強く構えた。
「ル・ジェ、オレ達が前に出る。アンタは援護してくれ。あと、ついでにエリンも守ってやれ」
「わ、私はついでなの!?」
「安心しろ。蟻の一匹も通さねぇ。保険だ保険」
「うぅ~、なんだかぞんざいに扱われたような……」
この3人のやりとりに、ル・ジェはこれまで気を張っていたのが馬鹿馬鹿しくなった。
リーダーとしてあれもやらなきゃいけない、これもやらなきゃいけないと色々と考えて抱えていたが、逆にそれが自分を動きづらくさせていたと気付いたのだ。
ストロークは兎も角として、キアラン……シャーレイの弟は自分の身は自分で守るという確固たる決意を抱いている。
彼の姉を守れずあんな風にしてしまったことに負い目を感じ、ずっと抱え込んでいたのだが。
キャラバンの先輩として彼等の成長を促さなければならない。
だとしたら、今自分に出来るのは精一杯フォローすることだ。
「キアラン、ストローク。援護は任せて。その代わりしっかりやんのよ」
「よし来た」
「さぁ俺ちゃん達の記念すべき初仕事だ。COOLに片付けようぜベイビー!!」
ストロークのキザッたらしい台詞と同時に火蓋は開く。
ゴブリンチーフ2匹が同時にキアランに襲い掛かってきた。
他のゴブリンの持つ剣より一回りも大きな剣をこれまた同時に振りかぶり、キアランのぶん回す大剣と激突させた。
「ヌぉおおおおおお!!」
最初は拮抗し合っていたが、キアランの裂帛の気合いが見事に押し返した。
クラヴァットとは思えない膂力でゴブリンチーフの剣ごと一匹の首を刎ね飛ばす。
「ぐぎゃッ!?」
なんとか餌食にならずに済んだもう一匹のゴブリンチーフは目の前の現実に驚愕の色を隠せない。
隣で断末魔を上げることなく死んだ仲間を目の当たりにし、自慢の剣はバッキリと折れてしまった。
頭に血が上り、折れた剣で叩き潰そうと体勢を整えてまた振り上げる。
対するキアランは大振りした大剣の切っ先が背後の地面に刺さって抜くのに時間が掛かりそうだった。
それをチャンスと見てゴブリンチーフはすぐさま攻撃を仕掛けたのだが、キアランの不気味な笑みに一瞬硬直し隙を作ってしまう。
「どてっぱらにお見舞いしてやる!」
そうして向けたのは左腕のパイルバンカー。
ガチンと音が鳴ると同時に爆発音とともに金属の杭を撃ち込んだ。
衝撃でかの巨体は宙に舞い肉と骨が抉れて弾け飛ぶ。
ゴブリンチーフは自分が今何をされたかわからなかったようで、苦痛と恐怖に顔を歪めながら絶命した。
ル・ジェの方もほぼ同時に戦闘を終える。
グリフォンを相手に素早い動きで翻弄し、そのずっしりとした身体を支える四肢を打った。
崩れた所を飛びあがり宙に舞った状態で後頭部を強打して、着地と同時に必殺技である『メテオシュート』を決める。
準備運動と言わんばかりに一息つくル・ジェの背後で爆発が起こり、グリフォンは撃破された。
「最後のトリは俺ちゃんってわけか。いいセンスだ。オーケイ、期待に応えてやる」
5匹のゴブリンに襲われていても槍捌きに曇りを見せないストローク。
そればかりか槍を巧みに操り、素手による攻撃や蹴りをお見舞いしていた。
まるでポールダンスのように動き回り、時には飛び上り、殴っては斬って、蹴っては突いてを繰り返す。
「はいこっから魅せプレイ」
2匹倒した時にストロークは帯から投げナイフを取り出すと、槍を棒高跳びのように扱って華麗に宙をきりもみ状に舞いながらほぼノールックで投擲する。
ゴブリン達の額を正確に射抜く精密性がその命を刈り取っていた。
着地と同時に3匹のゴブリンが斬りかかってくる。
槍は手元にない、だが背中の短剣二本を引き抜くと回転するように敵を斬り捌いていった。
「やぁゴブリン。臓物引っ張り出してやるからサ、そこにサインしてくれる? ―――"キュートでセクシーなストローク君"って…」
「ぐぎゃ?」
目のも止まらぬ短剣捌きがゴブリンの喉と腹を横一文字に裂いた。
恐れをなした残り一匹となったが尻尾を巻いて木の向こう側へ逃げていくのが見える。
ストロークは鉄仮面の中でニッと笑い、地面に刺さっていたゴブリンの剣に投げナイフを投擲すると、それは金属音を立てて逃げていくゴブリンへと反射し飛翔した。
直線で投げても当たらないので、剣にぶつけて軌道を屈折させたのだ。
「ぐぎゃああ!!?」
ゴブリンの首筋に刺さるも威力が弱いのかまだ死んでいない。
だが、その投擲ナイフの柄の部分から不気味な煙がたっていた。
「……ばいきゅ~♪」
ストロークの着地と同時に、投げナイフの柄が爆発した。
ゴブリンの首から上は綺麗になくなり、胴体は力なく前のめりに倒れた。
「イッちまうほど刺激が強すぎたか。流石俺ちゃん」
「終わったみたいだな」
「……アナタ達そんな道具どこで手に入れたの? そんな武器あの村で見たことないんだけど」
「まぁ最近作られたやつだからな。オレのパイルバンカーもストロークの爆発する投げナイフも全部錬金術師の家と鍛冶屋の家の共同作業で出来たやつだ」
「アンタも作る? 金は張るが、いいの紹介してくれるだろうぜ?」
「え、遠慮しておくわ」
苦笑いを浮かべながらも、ル・ジェは2人のことを認めた。
まだまだ経験は浅いがそれを補うようなパワーと技術。
(1人でもいいと考えていたのに………これじゃ認めざるを得ないわね)
ル・ジェの口元が緩み、再度出発をしようとした時だった。
「あの…みん、な………」
「どうしたのエリン、アナタ顔色悪いわよ? まさか怪我でもしたんじゃ……ッ!!」
顔面蒼白のエリンを見てル・ジェはギョッとする。
援護を頼んだはずだが、いや、あの戦闘においては援護は不必要だったが、ずっと黙りこくっていた彼女は明らかに異常だった。
「いえ、違うんです。ごめん、な、さ、い。さっきの……ゴブリンがやられた、時の光景を見て、その……――――――――うぷッ」
「は!? オイオイオイオイ、まさか……」
「ごべん゛な゛……ざ……限、界……」
「やめろ! 向こうで吐け! 俺ちゃんにそんなの見せんじゃ――――――」
「おぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ」
戦闘の心地良い余韻は一気に地獄絵図と化した。
エリンのそれを見たストロークが続くように盛大にやらかした。
そして2人のそれを目の当たりにしたキアランの顔がさっと蒼くなり、彼もまた盛大に……。
目からハイライトが消えた無表情でル・ジェは黙って佇んでいた。
異臭が漂う中、ル・ジェは改めて今後の旅を心配する。
(兄さん、シャーレイ…………もしかしたらこのキャラバン、ダメかもしれない)