不思議な鏡で遙かな空を見上げて   作:楠富 つかさ

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#2

放課後、部活へ向かおうとしたら、廊下でごっつんこ。

 それが、わたし、楡宮(にれみや)遥(はるか)と、彼女、有栖(ありす)寧音(ねね)ちゃんとの出会いだった。

 

「ひゃ、あ、んん……っ、ご、ごめん、なさい……」

 

「え、ま、待って、ホントに大丈夫っ!?」

 

 倒れたー!?

 この時は寧音(ねね)ちゃんのコト知らなかったから、目の前で意識を失われて、わたしのほうがパニック。

 女子高生殺人事件……逮捕……理事長の謝罪会見……。

 

「こ、故意じゃなかったんですぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 なんて言ってる場合じゃなくて。

 廊下にいた生徒たちと一緒に、彼女を保健室へ。

 ちらと、楽しみにしてた部活……天文部に行きたかったなーとか思うけど、それどころじゃないよね。

 

 夏の近付いてきた季節、夕方になっても元気なセミさんの声を聞きながら。

 保健室で、ベッドの横に寄り添う。

 どうやら、心配は無いみたい。彼女は、ゆっくりと寝息を立てている。

 保険の先生は「またこの子か……」って言ってたけど、どういうことなんだろう?

 

「う、ううん……」

 

 あ、起きた。わたしと目が合ったその子へ、大丈夫?と微笑みかけると、

 

「ひいぃっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい目の前で倒れてごめんなさい迷惑かけてごめんなさい私なんかが産まれてきてごめんなさいぃぃぃぃ!?」

 

「ど、どうしたのいきなり!?」

 

 こっちがびっくりするくらいの謝りっぷりに、思わず心配して手を差し伸べると、

 

「……きゅー」

 

「また気絶したぁぁっ!?」

 

 とりあえず、冷えたお水のペットボトルを、頬に当ててみると。

 しばらくして、意識を取り戻す。

 ……怖がらせちゃったのかな。

 口元まで布団を被って、ちらちらと視線だけ投げ掛けてくる彼女へ、どう声をかけようか、考えていると。

 

「……ごめんなさい、変な子で」

 

 泣きそうな目で、声を絞り出して来る。

 

「困らせちゃい、ました、よね……?」

 

 まあ、驚きはしたけど。困ってなんか。

 

「ううん。無事みたいで、よかったよ!」

 

 不安を感じさせないよう、できるだけ、にこっと笑ってみせて。

 そう伝えると、彼女は驚いたみたいに、目を丸くして。

 なぜか頬を赤くして、布団をかぶるのだった。

 

 それから、彼女もだいぶ落ち着いて。

 お互いに自己紹介。

 

「わたしは、楡宮(にれみや)遥(はるか)。1年4組だよ。あなたは?」

 

「え、えと。わたしは、有栖(ありす)寧音(ねね)っていいます。3組です……」

 

「アリスに、ねね! すっごく可愛いお名前だね!」

 

 思わずテンション上げると、

 

「ご、ごめんなさいっ!? 似合わない名前でごめんなさい!? わたしなんぞがアリスとか。ブタ山豚足(とんそく)とかがわたしにはお似合いなのに……!?」

 

 なんでやねん。ぽかんと口を開けてると、

 

「うぅぅ、ご、ごめんなさいぃぃ……」

 

 またまた謝りながら、彼女、寧音ちゃんは、ゆっくりと、自分のことを語り出した。

 

 ※ ※ ※

 

 わたし、有栖(ありす)寧音(ねね)は昔から、人が苦手だった。

 他人が怖い。注目されるのが怖い。話しかけられるのが怖い。

 入学とか、進級とかのたびに、自己紹介で皆に注目されて。

 倒れて、保健室に運ばれて。目覚めたらいっぱいの人の顔が見えて、またまた倒れちゃう……それが、毎年のコト。

 

「……いつから、こんなか、わたしも分からないんです。家族とか、仲良しの子とかは、大丈夫なんですけど」

 

 そういえば。彼女……遥さんは、なぜか、ちょっとだけ、平気、かも。

 さっきの笑顔を見てから、わたし、不思議と安心してる……気がする。

 それはそれとして。

 

「グイグイ来る人とか、押しの強い人とか、顔が怖い人とか……ほんと無理なんです」

 

 わたしのペースに合わせてくれない人。気迫がある人。ツリ目の人。

 要は、他人はほとんど苦手なのだけど。

 

「はぁー。それで3組だと、大変じゃない?」

 

「うぐぅ」

 

 ……そう。この星花女子学園、1年3組には。

 顔が怖い以外の全部の条件を満たした、わたしの天敵がいる。

 現役のアイドルで、歌手もやってる、美滝(みたき)百合葉さん。

 星花でもグイグイ来る筆頭みたいな、アグレッシブの塊みたいな。いきなり抱き付いてきたり。

 ……とてつもなく苦手だ。あんなキラキラした人と、同じ教室で、同じ空気を吸うだけで、倒れそうになる。むしろ毎日倒れてる。

 

「よし! 特訓しよう!!」

 

「なんです急に!? 何を!?」

 

 遥さんが瞳を輝かせて、立ち上がる。

 

「だから、他人ひとに慣れるっていうか、倒れないようにする練習。わたしも協力するよ!!」

 

 ガッ!と手を握ってきて、顔を近付けてきて。

 

 こ、この子も……そっち側か!

 

 お節介というかグイグイ来るというか。わたしとしては、とにかく放っておいてほしい。関わらないでほしい。そっとしておいて。

 

 日の当たる場所は、苦手。わたしは、お月様でも、一等星でもなく。

 

 夜の闇に紛れるような、目立たない存在でいたい。

 

 どうにか勇気を絞り出して、「遠慮します……」とだけ伝えるのだけど。

 

「えぇー、もったいないよ。寧音ちゃん、可愛いのに!」

 

「かわっ……!?」

 

 この人、何を言ってるんだろう!?

 

 わた、わたしなんかが可愛いとか。目に何か重大な問題を抱えてるとしか思えないよ。

 

 わたしが口をパクパクさせてると、遥さんは、にこっと笑って。

 

「ね? 一緒にがんばろう! おー!!」

 

「……あ、無理」

 

 顔をぐっと近づけられて、わたしの意識は、また闇に堕ちた。

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