竜鐘のガーゴイル   作:凍り灯

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他の小説の息抜きに何故か始めてしまった作品がこれです。

※誤字報告ありがとうございます。適用致しました。







私は石で出来ていた

 

 

()()に私は気が付いた。

だけど表す言葉が思いつかない、何というべき?

 

感情?

いや、感情はあった。あったと言っていいものかは疑問だが、執念というか…そう、使命感とかが近いのかも。

 

思考?

いや、いや、ちゃんと仲間と連携が取れるぐらいには考えていたはず。ある程度臨機応変にも動けた。

 

欲?

何故かそれがとても正しいと思えたけど、普通に考えれば全然違う。

 

自我?

それだろうか。そうなのだろう。被造物として、ただ与えられた命令のためだけに使命感を感じ、思考して動くだけだった石と青銅の私は…

 

私は、"自我"を得た。

 

ある竜に止めを刺した時から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い石によって形作られたゴシック式の建物が所狭し並ぶ大都市。

それらの広大な敷地全てが円状の高壁で囲まれている。

見れば都市の中心には文字通り見上げるような高さを持つ荘厳な城があり、眼下の建物に影を落とす。

美しく、活気があり、そして人々にとって最も安全な場所。

 

都市の名は「アノール・ロンド」

太陽の神々が治める、神族と、小さな人族の住まう街だ。

 

そして私の造られた街であり、お勤め先である。

 

と言っても栄えあるアノール・ロンドの煌びやかな様はこの石と青銅の身体には少々ミスマッチ。

我々"青銅のガーゴイル"の務めは街の各地にある教会の屋上に石像のように控え、事が起これば動き鎮圧するありふれた防衛システムの一つでしかない。

 

…防衛システムでしかないはずなのだが、実は現状"もしもの時だけ動く"という事態から外れていることが日常的に起きている。

起きている?起こされている?起こさられてらっしゃる??

 

とにかく、それが暇つぶしと言う理由だとしても、我々を動かすことのできる"権限を持つお方"によって例外的に動くことを許されているのだ。

 

何故か私だけ。

 

確かに強い自我を持つ青銅のガーゴイルは私だけであり、そういった理由からこの"お方"のいる教会に派遣されるようになったわけだが、所詮は言葉も話せない石の被造物。

ずっと話しかけられても、私は伝わっているかどうかもわからない呻き声による反応をするしかないのだ。

 

「ねぇ聞いて?お兄様ってば、また約束をすっぽかしたのよ!お忍びで工房に連れていってくれるって言ったのに…ひどいと思わない?50回目よ!?あまりに()()()()祝50回を記念して兄様が寝ている間に()()()一枚一枚に"50"って書いてあげたわ!素敵よね?お兄様もきっと妹からの感謝のメッセージに喜び震えていると思うわ?そうは思わない?」

 

だから"ヨルシカ様"、同意したと知れれば目出度くヨルシカ様の行きたがっている工房の溶鉱炉に漬け込まれるような、そんな際どいどころかアウトな同意を求めないでいただきたい。

 

幼い少女であるヨルシカ様はまだ"お兄様"の苦労を汲めるほど大人ではなかった。

でもさすがにそれはやりすぎなので謝りましょう?と伝えるべく口を開く。

 

「グォゥ…」

「やっぱりあなたもそう思うわよね!」

 

全然伝わってなかった。

 

こうしてヨルシカ様の手によって私の神々への罪状はもはやあの太陽まで届かんばかりに溜まっている。

あぁなんと美しき太陽か。

この青銅の兜が張り付いた石の顔に影を落とすのは、本来必要のない免罪符の山となるだろう。

 

これが上司(主人)とのコミュニケーション不和が生んだ悲劇だというのか。

 

「だからそう。あなたに乗って行けばよかったって思いついたのよ!あなたが来た35回目の時に気づくべきだったわ…」

「グワォ!?」

 

なんてこと考えやがりますかこのお転婆娘!

小さな白い尾を引きずりじりじり近寄ってくるヨルシカ様にこちらも後ずさり。

 

「どうして逃げるの!?今、連れてってくれるって言ったでしょう!?」

言っていません!

このままだと溶鉱炉へオウンゴールすることになる。

 

いや、本来ならば個人の我儘だとしても従うことは厭わないのだけれども、あらかじめ決められた"命令"に従ってそれはできないのだ。

 

もし従ったとして、たかが"青銅のガーゴイル"が直々の命令だとしても、神族の箱入り娘を連れ出して飛び回ること自体が大問題だ。

欠陥品として私だけでなく、他の仲間(ガーゴイル)をも巻き添えで処分されかねない。

 

そうすることで被害を被るのは、確実にヨルシカ様の"お兄様"である"グウィンドリン様"だろう。

おいたわしや!

 

であれば飛べばよい。

 

ここは教会の屋上に立つ塔の最上階。

私はその小さなバルコニーの角にヨルシカ様に追い詰められ縮こまって立っている。

だから空に逃げてしまえばどうにかはなるのだが………思いとどまる。

 

そもそも創造主たる神族の命令を背くこと自体できるものではない。

それは例え自我を得ようが、強く奥深く内側に根付いている使命(プログラム)なのだ。

 

本来、神族は勿論のこと、ヨルシカ様もその例外ではない。

だからこうやって抵抗が出来ているのは自我云々ではなく、我々を管理するグウィンドリン様が事前に私に命じていたからだ。

 

―――よいか。これからお前が守る教会にいる者の命令は聞かなくてよい。いや、聞くな。何かあったら報告しに参れ、いや、やはりこまめに報告せよ…よいな?―――

 

そして同時に思いとどまってしまったのもグウィンドリン様が零した言葉のためでもある。

 

―――あの子には、寂しい思いをさせているのもわかっている…だから、話し相手になってやって欲しいのだ。答えられずとも、それで十分だ。期待しているぞ…さぁ、行け―――

 

命令は聞かずとも話は聞いてやってくれというわけではあるのですが…グウィンドリン様、私の自我は優柔不断な性格のようです。

すっかり絆され、少しの我儘くらいなら…とソウルの奥底で考えてしまっております…

 

…いや、やっぱり駄目ですね!これ以上グウィンドリン様に負担をかけるわけにはいかない!

 

重たい翼で静かに飛び上がり、すぐ頭上にある塔の屋根に乗って"いつもの待機中のポーズ"をとる。

話を中断してヨルシカ様の頭上を飛ぶ不敬も、今みたいに無視して黙り込む不敬もこの前グウィンドリン様に許されたので気にしない。

 

最近の私の"逃げ"の行動にぶすっと不満そうな顔を見せていたヨルシカ様は、いつのまにかどこから持ってきたのか白いペンキの入ったバケツを持っていた。

 

あのペンキでグウィンドリン様に落書きしたのだろうか…

 

え?大きく振りかぶって?それ使うんです?私に?というかそこから私にかけたら―――

 

「50回記念!!」

 

そんな声と共に勢いよく屋根上に放たれた白いペンキは余すことなく私を白く染め上げ………た後に傾斜した屋根を伝ってすぐ下にいるヨルシカ様の全身を白く染め上げた。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

「グゥゥォ…」

「お兄様に言いつけるんだから…」

 

申し訳ありません。定時報告が今夜なので多分言いつける(報告)のは私になりそうです。

 

 

 

その夜、美しい夜空に真っ白な青銅のガーゴイルが飛んでいたと街では噂になったそう。

 

何故か「公爵様の仕業か!?」と銀騎士たちから誰かが疑われていたけど。

そのせいで予想以上に飛び火して燃え盛った噂の処理にグウィンドリン様は天を仰いでいた。

 

私の身体はさすがに目立つので城に務めている清掃係の人に汚れを落としてもらったのだけれど、兜の羽を模した装飾の溝に入り込んだペンキが中々落とせなかったようで、細い白いラインが残ってしまった。

 

翌朝、ヨルシカ様はその白の残った兜を見てどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

「私好みに装飾するのもいいかもしれないわね」

「…グゥゥゥ…」

 

多分これからお呼び出し(説教)があると思うのでどうかご無事で…

 

今日も派遣先の主人はお転婆だった。

対して彼の背中はどこか打ち萎れていたのだった。

 

 

 

 

 







本編にて明言していませんが主人公は"自我"を得た所謂「鐘のガーゴイル」です。
デザインが好きなのでやってしまった…


メインではないので不定期、且つ短い文章でちまちまやっていくつもりなのでご了承ください。
先に誤るならば次の更新が一か月後もあり得ます。

そういうスタンスなのでだいぶ昔から始めましたがポンポン進める予定。(予定は未定)
需要ないと判断すればやめるかもです。


ヨルシカ様はややお転婆気味ですがまだ幼いので大目に見てやってください。
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