呪いもまた…
だが世界はその異物たる
私は理解した。
失敗したのだと。
―――このままでは、いかん…!―――
シースとコルウスの懸念が当たってしまったのだ、と本能的に理解した頃には、私の周囲を暗い"何か"が"炉"の中を覆っているではないか。
色の濃くない白い霧のようなものが、半透明のフィルターが掛ったかのようにあたりに漂う。
それは私を中心に激しく燃える炎の中でも、はっきりと認識することが出来た。
そして段々と深みを増し、目に見えて
明らかに今、私を燃やしている炎とは異質の"モノ"。
明るいはずなのに暗く、激しいはずなのに泥のように穏やか。
燃え盛る"最初の火"と混ざることのない
私はその正体を看破する。
イザリスの魔女が
姿形こそ炎のそれだが、その性質は何より"闇"に近い。
コルウスが懸念していたことの一つだ。
"世界"に馴染ませていない異物の"
私が"火継ぎ"をするにも関わらず、次の薪の王を探すべく"不死の試練"の準備を急がせたのはこの危惧があったからだ。
失敗に終わった時の次善策。不死の英雄を待ち、その間に"螺旋の剣"を世界に馴染ませ、然るべき時に正しく作用させるため。
だが想像よりあまりに
恐らく私のソウルに比例しているのだ。
私のソウルもまた
これが"外"の異物を唐突に混ぜたことに対する"自浄作用"とでも言うのか。
既に私のソウルを燃料として"火"が世界を照らし始めている。
このまま"
これが"自浄作用"だというならばあり得ない事ではない。
「なんと…また
思わず独り
不甲斐なさに対する呟きだ。
再び間違った選択をしたのだと、ひどく自身に失望する。
―――かつて、シースとコルウスより語られた"外の物語"を恐れるあまり、早計にも小人の王の子孫に施した"枷"と"火の封"。
それが自身の恐怖が生んだ間違った選択だと気づいた頃には何もかもが遅かった。
人は自身の
"短い一瞬の生こそが人生なのだ"と、胸を張って生きていた。
今や私は、神々はその
人は不死に戻り始め、生命の限界を、
同時により"人らしさ"をも取り戻していくだろう。
誰もが闇より生まれ出でた。
我らと同じように、かのソウルを見出した"人"だけが短命なはずもないのだ。
その"
―――また、己の過ちを人に…そして子供たちに負わすと言うのか?―――
もはや"火"は自身のソウルに
しかし、ただ一つだけある。この臆病者の罪に巻き込まない方法が。
本来果てしなく長く、出来得る限りソウルを燃やし続けるつもりであったが止むを得ない。
―――…これが本当に正しいのかはわからない…だが…―――
自身の足元、そこにある遥か昔から得物として使い続けた大剣を手に取り、構える。
特徴と言った特徴のない、幅広の大剣。だがよく見れば美しい彫刻が刻まれているのがわかる。
唯これだけが今の私の武器だ。今や煤け、かつての威厳は見る影もないこの剣が。
太陽の光たる雷の力は、全て一族に分け与えた。
最早この目の前の"闇"を抑え付けるような光を放つことは出来ない。
―――だが今、"最初の火"に
確信があった。持ち得ないはずの力を、
大剣を両手で強く握りしめたその時、剣は当たり前のように
ぼぅ、と炎に油を注いだような音と共に。
…しかし、これは所詮、見せかけだ。
確かに自身の身に燃え盛る"最初の火"が作用していることは間違いない。
おおよそこの世の万物を焼き切ることのできる"火"であるのは間違いないのだ。だが、目の前の"闇の炎"に対して、この場では"たかが剣"でしかなかった。
それでも、私の心は
背中を押されたようだった。たったこれだけの事、されど
この老骨が語らば長い、剣の歌があるのだ。
ずっと共にあったのだ。
ずっと傍にいてくれたのだ。
目の前でどっしり構えた燃え
心の片隅の迷いは消えた。
―――ふと、末娘のヨルシカの顔が脳裏に浮かぶ―――
火を継ぐと聞いて、何度か無理やり城へと突貫してきたものよな。
すぐさまあの
『お父様!覚悟!』
『これヨルシカよ、その
『グォウ!?』
『ベル!離してください!まだ殴り足りないのです!あぁもうっ…!また来ますからね!お父様ぁー!』
『当てれるようになってから言うのだな?いつでも待っているぞ―――――――――
その
「さぁ、この枯れ果てた火を見よ、ヨルシカ」
後世に
ただ燃やし尽くす。
目の前の
長く長く、燃やすことはもう叶わない。
なればこそ燃やし尽くす。
ただただ一息に。
世界が諦めるまでずっと、心折れるまでずっと。
今までより激しく燃え始める私のソウルに反応し、やはりその炎の姿をした"闇の炎"は狂ったように宙を渦巻き、私を灰にせんと覆いかぶさってきた。
その奔流にあっという間に飲み込まれる。
凄まじい爆音がしたかもしれない、しなかったかもしれない。
最早耳は削げ落ちていた。
対する私の内より立ち上がっていた炎も、私を呑み込み逆巻く炎の奔流に抗わんと赤く光りだす。
これが
私の何かが、削れて行く。削れて―――――――――
一瞬と永遠を錯誤するような時間の中で自身の現状を理解する。
次第に私の全身は熱か、又はソウルを失い続けているためか、干からびたように
目は落ち窪み、顔や手の皺はその深さを増し、色も赤黒く変色した。
炙られ、抉られ、私は立つことさえままならなくなる前に自身の大剣を灰濡れの赤熱した地面に突き立てた。
今にも飛び出しそうなほどに浮き出た血管が絡みつく両手で強く剣の柄を握りしめる。その感覚はもうないが、握りしめているはずだ。
両足が惨めに震え始め、支えるための剣を握る両腕さえ既に頼りない。
最早その姿は見るも無残な枯れた老人、干乾びたミイラのようなおおよそ太陽の光の王と呼ぶには矮小な見た目に成り下がってしまったことだろう。
あぁ全くもってお似合いではないか。
だがこの落ち窪んだ眼孔の奥、その眼光だけは死んだ覚えはない。まだ…まだ
その時だ。
血管を内から削り取る様な荒々しい大流と、光さえ発するような
いや、確かに見える。
もはや音も光も感じなくなった赤い静寂の中で、私は
―――あぁ、"彼"がそうなのだな―――やはりその執念が、家族を救うのだな―――
私は脳裏すらも埋め尽くす炎の奔流の隙間から、いつしか陰った火の先に、子供たちの笑顔を確かに見たのだ。
今この瞬間ではない、いつかもわからないどこかでの物語。
私の消えた、ずっと、後。
故に、これがさらに恐ろしい苦行と知って尚、私はそれでもまだ足りぬと火を盛らせる。
もっと"火"を、もっと "ひ" を 。
「 ―――燃えよ」
―――火が
火が
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
火の炉の大扉を前に、不測の事態を想定して待機していた鈍い銀色の騎士達は、あまりに強いソウルの奔流に驚く。
その中に尋常ではない、"闇"の気配が在るのだ。
誰に目にも映らない、"王の最期の戦い"が起こっているのだと理解した。
王はたった一人、"闇"と戦っているのだ、と。
遠く見える"炉"の中で、まるで石を砕き、削る様な轟音が響いてくる。
それは兜の隙間から内側へと飛び込み、反響し、否が応でもその激しさを理解させられる。
ずっと調子の変わらない破壊音が、互いの力が拮抗していることを感じさせた。
しかしその余波はどうしても生まれてしまう。
断末魔の叫びの様な炎の
生命の誕生だ。歪な歪な。
"炉"の重い扉が、壁が、隔てるための分厚い石が溶け出したのを、彼らは遠目から捉えた。
"炉"の中よりどろりと零れ落ちるように、溶岩のような何かが広がる。
やがてそれは燃えるように火を噴き出させると、生物のような曖昧な輪郭を描く。
それは"炎の塊"とでも言うべきなのか。
形のない、"不定のデーモン"と言うべきなのか。
だがどこか…かつて戦った古竜のように見えるかもしれない、その"形"が絶えず流動し、掴めない。
産み落とされた数は膨大でどれも強大であり、ただ唯一の出口、銀騎士たちが傍に立つ"扉"に向かってその身を燃え上がらせながら駆ける。
その残光は太陽のように眩しい。
騎士たちは
そしてそれは正しい。これは世界の"自浄作用"。異物の火に溢れた世界に均衡をもたらす死の行軍なのだから。
それでも彼らは"それ"を笑って迎え入れた。
「閉めろ」
掠れた声が命じる。聞き取りづらいと散々言われ続けてきた騎士団長の声だ。
迷いなく唯一逃げ道たる"扉"は閉じられ、彼らは歩み出る。
その数はかつての大戦では数千、数万といたが、今や百と少しだけ。
「ふはっ。皆、願いが叶ったぞ?」
「見せ場を用意してくれるとはありがたい」
「しかし
「何故このようなモノが産まれたのか…全く、火遊びがやんちゃな王だ」
「仕様が無い人だなぁ―――やはり我々がいないとあのお方はだめらしい…!」
ある者は大剣を、ある者は大斧を、またある者は斧槍を。
重く無骨な得物を構え、遥か昔の大戦を想起し、雄たけびを上げる。
なぁに、あの時と同じく、絶望することなどないさ。
王が共に戦ってくれているのだから―――
グウィンも、世界の誰もが知らぬ、世界の命運を分けるもう一つの戦いが、そこにあったのだ。
「―――あぁグウィン…この日が来たのですね…これから
「フィリアノール様」
「ええ…私も、責務を全うします。…ミディールも、これから長い旅路が待っているでしょう」
「グルルゥ」
「父上、後はお任せください。グウィンドリンの名において、必ずや。この身に何があろうと―――」
「グゥ…?」
「驚かせてごめんなさい、ベル」
「グゴォゥ」
「見て下さい、目に焼き付けるのですよ、この暖かな色を」
「ゴゥ…」
「私は…大丈、夫だか、ら。見ないと、いけない、のに、止まらない、の。私の代わりに…お願い、ね」
『ワタシたちの懸念が当たったか…だが、最悪は免れた…か…。グウィン…
―――ん?なんだこの書状は?シースから?"来るべき時が来たら不死を運ぶ仕事を与えてやる。光栄に思えど畜生"だと?やれやれ…雑用だろうとそれぐらいやるさ、罪悪感がないわけではないのだぞ?
大人しくカラスはカラスらしい仕事をするさ』
『結局こうなってしまうと言うのか…だから言ったであろうに、大馬鹿者が…分かっていたはずだ…
だというのに何故だグウィン…何故―――は………?
これは、篝、火…か?これは…螺旋の剣…!………何故、ここに…―――――――――』
アノロン編はこれで一区切りですね。
いやまだまだ続くんですけど。
なんたって無印ダクソ開始まで1000年ありますからね!(絶望)
かなり端折りますのであれですが。
今更ですが色々独自解釈というか、独自設定が雨あられです。
今回で言えばグウィンですね。いや世界設定も大分やらかしてますが。
色々言われまくっている彼ですが、実際は一度たりとも作中で話したことないんで結局何を思っていたかわからないんですよね。
だから好き放題に描写してます。ごめん!
良き愚かな王でいて欲しいものです。でないとダークソウル始まらないんで。
最後のデーモンっぽい何かは混沌の苗床(の炎部分)がイメージです。
それと実際の作者の思う考察と、この小説の内容とは結構差異があるのでたまに混ざって変なことになるかもしれません。
その時は申し訳ありませんと、先に言っておきます。
あ、意味不明な所あれば答えたり追記しますので!
最も強いソウルの王グウィンは、
太陽の光たる雷を武器としていたが、
火継ぎを前にその力を一族に分け与え、
自らはこの大剣だけを手に旅立ったという
―――DS1 大王の大剣 より
火と呪いには、何らかの繋がりがある
火がその勢いを増すにつれ、
呪いもまた…
―――DS2 篝火の探究者 より
…あんた、この種火は…
暗すぎる。むしろ深淵に近いものだぜ…
―――DS3 罪の種火を譲る時のアンドレイとの会話 より
彼は陰った火の先に深海の時代を見た
故に、それが遥か長い苦行と知ってなお
神を喰らいはじめたのだ
―――DS3 エルドリッチのソウル より
輪の騎士たちの、歪んだ黒い防具
古い人の防具は、深淵によって鍛えられ
僅かにだが生を帯びる
―――DS3 輪の騎士の鎧 より
きっと見えているのでしょう?
この部屋の篝火が
―――DS3 フリーデとの会話 より
■今回の火継ぎのイメージ
暗灰色の水彩画の真ん中にアクリル絵の具の白い小さな点があって、それが急速に広がり始めた。
描き消すために水で薄めていない、濃い黒い絵の具をを重ね塗りしようとした感じ。
誰だって慌ててしまうと思う、異物なら余計に。
勢い良すぎてそこら中に飛び散った白いアクリル絵の具は重ね塗りして潰したけど、その層の下に混ざらず潜んでいる。
いつか求める者が飛び散ったそれを形にするかもしれません。
例えば最後のシースみたいに。