竜鐘のガーゴイル   作:凍り灯

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「―――私は誰よりも殻に閉じこもった………そして、殻のない私が生まれた」
「―――そう、私は寂しかったのだ」

―――???との会話より







泣きっ面に竜と姉

「名前を決めようと思うの」

 

公爵様(シース)の元より無事帰ることが出来た日よりしばらくたったある日。

ヨルシカ様は私にそう提案してきた。

グウィンドリン様にこっ酷く叱られて以降だいぶ大人しくなっていたが、自分好みにコーディネートするのは諦めてないのでしょうか?

 

「お兄様が言ったのよ?なんでも、あなたを紹介するときに必要だろうって」

 

それってつまりどこかに完全に目をつけられてますよね?

他とは違う扱いにすることで庇護下にあることを暗に示すつもりでは。

 

使われることは本望だけれど、そうなるとヨルシカ様が心配ですね…

 

「ゴァ…」

「そんな顔しないで。私は大丈夫よ?…ですよ?………あなたでも敬語を使わないとって思ったけどやめたわ、なんか違うものね」

 

ヨルシカ様は叱られてついでにいろいろと矯正することも始めたようだ。

あまり自由に動けないからと許容されていたけれど、今回の件でそんな気遣いも彼方へ飛んだらしい。

 

とはいえ将来的なことを考えるならば正しいことなので良い転機なのかもしれない。

…保護者のような感想を抱くのはまずい、気を付けなくては…私も公爵様の時(意思を読まれる)のような例に備えていろいろ矯正するべきだろうか?

今度から気を付けてみよう。

 

そして驚くことにヨルシカ様は以前より比較的正確に私の意図を読めるようになったのです!

ヨルシカ様も「なんかわかりやすくなったわね?」と不思議がっていたけれど、恐らく公爵様がやってくれたことが関係しているのだろう。

 

あ、公爵様とは仲良くなりました。

どうにも私の"自我"の起源に関係あることから、非常に親しみを()()()()()()とは公爵様が言ったことで、もう開き直って感じるままに接することにしたそうです。

そして娘さんやお孫さんの愚痴をいろいろと聞いて帰って来たのです。

 

で、その帰らせてもらう直前に私の身体に触れて「噛み合ってない器を少し調整した」と言っていたので恐らくそれがヨルシカ様との意思疎通に影響を与えたと考えている。

 

「私の騎士として相応しい立派な名前が必要だと思うのよ」

「グゥオ?」

いつから騎士になりましたっけ?いえ、すごい光栄なことなのですが。

 

「私の名前に似せて…ヨセフカというのはどうかしら」

「…ゴゥ」

何故か石なのにすごい冒涜的な悪寒が走ったのですが。

 

「だめね…どうしても青いキノコが頭から離れないわ」

引き剥がしてください。頭の中を拝領される前に。

 

「ゲンイチローってのはどう?」

「ゲゥ…?」

ゲン…何語ですか?踏みにじられそうなのと、どうしても斧槍と似合わない気がします。

 

「これもだめね…意味がわからないわ」

踏みにじらないであげてください。

 

「そうね…人間らしい名前でマイケル・ウィルソンなんてどうかしら」

「グゥン」

凄まじく名前負けしそうな気がします。主にテンション的に。

 

「しっくりこないわね。騎士らしさが全く感じられないわ」

むしろ熱いハートで統率する側な気がします。いや突撃の間違いか。

 

「ジュルベールというのはどう?らしくなってきたんじゃない?」

「…」

どうしよう。立場的にさっきの名前と同じ気がします。そしてこれが分かる人がいるのだろうか…?

 

「もうちょっとだけどやっぱり違うわ…さすがにオランジュの王様の名前はいけないわよね」

良い名前と思いますが、王の名前は勘弁してください。

 

「そうね…でも今のが一番近い気がするわ。だから、"ベルリオーズ"というのはどう?昔いた作曲家の名前よ?」

「ゴォゥ」

元々私が文句言える立場ではないのですが、問題ないかと…やっぱり名前負けしそうなのですけどね。

 

「決めた!今日からあなたはベルリオーズ!略してベルね!よろしく、ベル!」

名を賜りました。

アノール・ロンドの青銅のガーゴイル、ベルリオーズとしてヨルシカ様を引き続きお守りします。

やっぱり名前負けしてるのでは…

 

「これから相応しい騎士になればいいのよ」

 

仰る通りです。

ところで騎士という話は一体…

 

「あら、言ってなかったわね。お兄様があなたを正式に暗月の騎士として任命するんですって」

「グゥア!?」

 

!?

何故!?

私のような被造物がそのような誉れある騎士になど…

 

「ふふっ。私にもわからないけど、それに値する存在として認められたのよきっと」

 

本当だろうか…

どうにも公爵様の影がちらついて仕方がないのですが。

とはいえそんな理由で騎士とするわけもないでしょうし、グウィンドリン様にもお考えがあるのでしょう。

 

………そもそも私のような身で誓約を結べるのでしょうか?

 

「あれ?でもいつ任命するの?いつもそこ(屋根上)にいるわよね?」

 

いえ、夜は他のガーゴイルに任せてグウィンドリン様の元に直接報告しに行く時があります…とは伝えられないですが。

元々私以外に後2体のガーゴイルがいるとはいえ、夜の護衛から外れていると伝えて不信感を与えるわけにもいかないというか知られてはいけないと命を受けている。

 

「お兄様のことだから問題ないのだろうけど…とりあえず私から名前は伝えておくわ、ベル」

「ゴォゥ」

 

お手を煩わせてしまいますが、お願い致します。

 

「ふあ~ぁ。私、もう寝るわ…また明日ね?ベル。…やっぱり名前はあるといいわねぇ…」

 

ヨルシカ様は欠伸を一つあげて満足そうに教会の塔の中の階段を下って行く。

お休みなさいませ、ヨルシカ様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また幾日か過ぎ、定時報告のため、私はグウィンドリン様のいる霊廟へと足を運んでいた。

 

公爵様に拉致されて以降初めての報告で、それまではなにやら忙しかったようで遠隔から"報告"を読んでいるようだった…最初からそれで良いのでは?という疑問はあるかもしれないけれど、軽い点検も含まれているかららしい。

 

ただ、これはどうやら私だけのようなのだが…

 

そして本来例え暗月の騎士であれこのお方のお顔を拝見することすらできないがそこはガーゴイル。

当人が作り上げたシステムの一つなのだからそんな心配も無用なのでしょう。

 

階段を降り、長い廊下の途中、月光に照らされ、その美しい白さが際立つグウィンドリン様の傍まで静かに歩いていき跪く。

頭の位置はちょうど手を伸ばせば触れれる高さ。

グウィンドリン様の()によって"報告"がなされるのだからそこが良いのだ。

 

「戻ったな。まずは報告を」

 

そう言われれば姿勢を維持したまま前回の報告以降にあった出来事を余すことなく思い浮かべる。

そうすればグウィンドリン様も()()()()()()()のだ。

さぁお願いします。

 

「…!」

 

しかしグウィンドリン様が触れる直前に何かに気が付いたように一瞬手を止める。

グウィンドリン様?

 

「いや…」

 

そうしてすぐ持ち直し、手を頭に触れて()()()()()()

暫くして手を離し、少しいらついたような身振りをした。

 

「公爵…"器"に手を入れたな…?」

 

グウィンドリン様…?

 

「気にするな。それと…そのままお前の意思が伝わる様になったようだな」

 

え??あ…これは失礼を…

えーあー…こんばんは???

 

「軽く伝わる程度だ、落ち着かなければ何を伝えたいのかもわからぬぞ」

 

うぅん。やはりちゃんと直すべきですね…

 

「よい。被造物にそこまで求めぬ。その気があると言うならば、少しずつ直してゆけばよい」

 

御寛大な配慮に感謝致します。

 

「"報告"は読ませてもらった。そしてこちらの事情も変わった…今後も公爵が接触してくるだろうが受け入れよ。公爵の護衛をまたこちらで調整するから気にせず過ごしてくれ」

 

レド殿ではどうやら一悶着起こることが避けられないようですが…

 

「それは嫌がらせだからいいのだ」

 

意図的人選ミス!

本当に大丈夫なんですか!?

一触即発でしたよ!?

 

「さすがに毎回送るわけではない…毎回はな…」

 

…詮索は致しません。

 

「殊勝な心掛けだ。引き続きヨルシカのことも頼むぞ」

 

はっ。

 

「さて、他の用件もある。知っての通り"暗月の騎士"の件である。お前に隠す必要もないので言うが、これは一つの実験でもあるのだ。誓約は成してもらうぞ」

 

被造物の身に余る光栄でございます。

実験であろうとなんであろうと、私はあなた方のためにあるのです。

どうぞ私をお使いください。

 

「よろしい」

 

そうしてグウィンドリン様は跪く私の頭の上に手をやり、言葉を紡ぐ。

 

「汝、我の誓約者となり神の敵を狩る剣となる

我が父グウィンと、姉グウィネヴィアの陰となり

神の敵を狩る、剣となる覚悟があるならば

我は汝を守護し、陰の太陽、暗月の力を、汝の助けとするだろう」

 

グウィンドリン様が言葉を区切った直後、身体に何か懐かしいような、暖かいようなものが流れ込んでくるイメージが浮かんだ。

そしてそれは内にて形を成し、銀色の剣を私に想起させた。

 

「よろしい。ならば、汝"ベルリオーズ"はこれより暗月の剣となる

影の太陽、暗月の力もて、神の敵を狩るがよい………結べた…か…」

 

…何かまずかったのでしょうか。

とはいえ、まだ勝手に頭をあげて顔色を窺うわけにもいかない。

 

「しばし待て、もう一つ試すことがある」

 

グウィンドリン様は背伸びするように…正確には足となる蛇を伸ばすことでやや高く上がり、生き物で言うならば首の後ろの椎骨あたりに指を向ける。

私にはわからない小声で何かを詠唱する。

 

グウィンドリン様であってもそれにはひどく苦労するようで、長い時間集中していた。

そしてそれが終わったのか、指先でそのまま軽く触れた。

 

…?

何かが嵌るような、本当に僅かな感覚がしただけだった。

お使いくださいと言ったとはいえ、さっそくバラされるのかもと(不敬)戦々恐々としていたのだけど。

 

「………………っ」

 

だけどグウィンドリン様にとっては違うようで、驚愕で絶句するかのような感情が伝わってきた。

 

そのまま動かないグウィンドリン様と、まさに石のように微動だにせずにオロオロする私。

だがその後すぐ元の高さへと降り、いつも通りに声を掛けられる。

 

「待たせた。暗月の騎士ベルリオーズよ、アノール・ロンドの、そして何よりヨルシカの剣とあることがおまえの使命。それは変わらぬ…だが、おまえの特異性が公爵づてに露呈し、少々面倒なことになった」

 

面倒なこと…ですか?

 

「そうだ。元々広まっている情報は、我が父グウィンと私によりある程度誤魔化して伝えていた情報なのだ。それが他の兄姉に伝わったのだ…姉フィリアノールに」

 

面倒なこと…なんですか?

 

「すごい面倒だ」

 

身も蓋もないですね。

 

「私も姉から頼まれれば断れん…()()()()()()には少々…いやだいぶ強引だからな。何、今度は正規の手順で動くことになるだろう。悪いようにはされないさ」

 

私はグウィンドリン様の体調だけが心配です。

 

「気楽に考えろ。私もそうする…さぁ行け」

 

その言葉で私は頭を上げ、霊廟を出る。

いろいろと気になることはあるがそれを私が気にするというのは余計なことなのだろう。

 

それらを頭の片隅にとどめ、翼を広げて夜の太陽の都市を飛ぶ。

 

今日より私は暗月の騎士。

それが例え実験のためであろうと名誉ある影の太陽に仕える騎士となったからには、それに相応しい存在となるべきだ。

 

決意をソウルに刻み、美しい街に佇む主の教会へと降りてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グウィンドリンは青銅のガーゴイルが去った霊廟にて一人考える。

 

―――公爵からの助言と"器"への仕込み。

―――"誓約"の成功。

―――そして不完全に再現したものとはいえ"枷"が嵌めれてしまったこと。

 

最初以外の、一連の流れである意味現状最も安泰となったわけではあるのだが、この後は分からない。

とはいえ、それもあのガーゴイルが壊れずに幾星霜と在り続けた場合の話なのだが。

 

ヨルシカの良き友となっている被造物に思い入れがないわけではないが、最悪の場合は妹にとって好ましくない判断をしなくてはいけないだろうと考える。

 

「どうか暗月の剣と在ってくれ…」

 

とりあえず面倒な姉とどう話をつけるか…妹が比較的大人しくなったのに次から次へと厄介なことになる。

さすがのグウィンドリンも、もしや際限なく続くのだろうか…と少し弱気になってきた。

 

影の太陽は今夜も残業である。

 

 

 

 

 




需要は僅かですがそれでもあるようなので続けさせていただきます。
予想のペースよりも早めになんとかやれてますね…まだ。

ちなみに命名の時に出た名前は全てフロムゲーのものです。
ヨセフカ        → ブラッドボーン
ゲンイチロウ(弦一郎) → 隻狼
マイケル・ウィルソン  → メタルウルフカオス
ジュルベール      → RUNE(ルーン)
ベルリオーズ      → アーマード・コア(及び実在する作曲家)
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