竜鐘のガーゴイル   作:凍り灯

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―――共にいることは叶わないだろう―――
―――それでも私だけは、最後まで共にいよう―――

―――???の記憶より







全部姉上の仕業だった

 

 

突然だが竜について話そう。

 

まずは古竜。

言わずと知れた白竜であるシース公爵がその古竜にあたる。

しかし言えば怒ること間違いないが鱗のない竜であるため、一般的に認知されている古竜とは言いづらい。

 

当然、古竜もそれぞれ特徴を持つため多くの種類がいたが、共通することは岩の鱗を持つことであろうか。

 

古竜自体は本題ではないので次へ移ろう。

 

所謂古竜の末裔と呼ばれる竜たちだ。

 

最近の有名どころで言うならば黒竜カラミットであろうか。

古竜とその末裔による"最後の抵抗"と言われる竜たちのアノール・ロンド襲撃の際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

あれは岩の鱗を持たず、また他の末裔も同様だ。

それだと言うのに神の都から逃れたのだから恐ろしい竜なのだろう。

 

私も当時現場にいたが、かの竜とは相まみえることはなかった。

 

そのカラミットを指して"歴史上唯一、壁の内側から外側へ逃れた竜"と表現したが、では都の内側へ入った竜を全て残らず討ち取ったということで良いか?と言うと実は誤りがある。

 

例外がいるのだ。

 

そうまさに目の前に。

 

「あなたが噂のガーゴイルですね。是非ともお願いしたいことがあるのです」

「グルルルゥ…」

 

豪勢とは言えないが、真っ白く美しい絹に覆われた大きなソファに、それと同じような白くゆったりとした衣を纏った暗灰色の髪色を持つ美しい女性が座っている。

 

私も初めて会うのだが、彼女がフィリアノール様である。

 

グウィン王の末娘であり、グウィンドリン様の姉上であられるお方だ。

その身体は人間ではあり得ない大きさであり、それはヨルシカ様もそうなのだが、ちょうど人間の2倍程であろうか。

 

…そしてその後ろ。

 

彼女の頭上越しに覗き込むようにこちらを見ている巨大な竜。

全身が灰色の鱗で覆われており、身体の巨体に比べて目が小さいので一瞬どこが目なのか見失ってしまいそうだ。

彼は末裔故、秘められた力は古竜に及ばないだろうが、その巨体のために公爵様とはまた違う圧力を感じてしまう。

 

竜の名はミディール。

神々が育て上げた、かつてアノール・ロンドに迷い込んだ幼い竜が彼である。

 

…その足元に控えている白い衣の女性は侍女だろうか?

それ以外にも銀騎士の護衛であろう方々が壁沿いにずらりと控えているのが見える。

 

―――グウィンドリン様。

偉い人ほどこういうこと(拉致)をしてくるのですが、正規の手順とはなんだったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィリアノール様とはどのようなお方なのか。

その疑問には、ちょうどグウィンドリン様に対してフィリアノール様より私の"貸し出し"の要請があったために話を聞かされていたヨルシカ様が答えてくれた。

 

「お姉様は優しいわよ?いろいろと贈り物をくれるし、たくさん構ってくれるもの………ただ、お兄様が言うには変態なんですって…ねぇだから、ヘンタイって何?」

 

どうかそのままでいてください。

相変わらずグウィンドリン様の評価が雑です。

多分、評価基準は迷惑をかけられているかどうかなのでしょうけれど。

 

そういえばグウィンドリン様は、暗月の騎士の名誉を賜った夜の、次の定時報告の際にこう言っておられた。

 

「やはり姉上が動いた。お前を貸し出すことは良いのだが、一度気に入ると自分の物にしたくなる性分を持っているのだ…その匂いだと余計にそうだろう。だがお前は今や暗月の剣。ヨルシカのこともあるのだ、私の名を使うことを許す。丁寧にお断りしろ」

 

匂いって…屋根上で野晒しにされているせいで漂う匂いの事じゃないとはいい加減わかりますけど、そんなに興味を引くものなのでしょうか…

とにかく今回はしっかりと名分があるので大丈夫なはずだ…拉致されたのだけれど…

そんなことを私は跪きながら考えていた。

 

「私の事は知っていますね?ですが改めて。我が父グウィン王の娘の一人、フィリアノールです。そしてこちらがミディール」

「グルゥァ」

 

フィリアノール様の言葉に反応し、彼女の後ろにいるミディール様が応える。

 

「グォォ」

我が創造主グウィンドリンの造りし青銅のガーゴイル、名をベルリオーズと申します。暗月の剣として神の敵を狩り、主ヨルシカの盾として教会の規律と安息を守護する者です。

 

「…慎みを持って伝えようとしていることはわかるのですが、私とて貴方の意図の全てを把握できるわけではありません。いつも通り、ヨルシカと接するようにお願いします」

 

なんと、やはり会話をするように意図を伝えるのは難しいらしい。

公爵様は例外のようだ。

さすがは魔術の祖と言うべきか。

 

それに言葉を難しくすることも伝わりづらくなる要因になってしまうらしい。

言葉遣いを学んでいる意味が、もしかして…ない?

…これは置いておこう。

 

「ゴゥア」

ベルリオーズと言います。

ヨルシカ様からお優しい姉上だと聞いております。

 

「えぇ、聞いております。私も"ベル"と呼んでも?」

 

フィリアノール様のお好きなように。

 

「ではベルと。ここに呼んだ理由はこの子、ミディールについてのことなのです…貴方は"輪の都"について聞いていますか?彼ら人間の王たちのためだけの都、そこに私は行かなければならない日が来るでしょう…まだ後の話ですけどね?ミディールも共に行きます」

 

輪の都…人の王のために築かれている最中の都市。

 

不死である王たちを除き、都市の人々である今の世代が行くことは出来ない。

故に自分たちの子孫をその栄誉に浴すことができるようにと精力的に働く者が増えているという。

 

どうやらフィリアノール様とミディール様は巨人の法官らと共に輪の都へと派遣されることになるらしい…私が聞いてもよかったのでしょうか?

 

「あら、グウィンドリンの被造物ならば問題ないと思っていますよ?あの子の作るものならば信頼できますから…それに、この子(ミディール)についてのお願いなのだから現状を把握してもらった方が良いと思のです」

 

「グゥルル」

〈竜、一人、発つ前、友、求める〉

 

大人びた落ち着いた男性の声のイメージ、それが私のソウルを通して伝えたい言葉として伝わってくる。

成程、私でも意思の疎通が出来ると思ったために呼んだのですね。

 

彼が伝えたいことは、竜が一人しかいないため、友と呼べる者もいない。だから輪の都へと発つ前に友を欲するということ…ですかね?

 

「竜の系譜であるグウィンドリンやヨルシカが可能ならばもしや、と思いましたが、間違っていなかったようですね…しかしどうやら、私と同じように断片的になってしまいますか」

「グルゥゥ」

〈お互い、断片〉

 

ん?

あ、フィリアノール様が言うことは、ミディール様に私から伝わる言葉が断片的ということですか。

 

つまりミディール様も私の言葉は今のように聞こえていて、フィリアノール様から私たちの会話はすごい単語合戦になってるのですね…グウィンドリン様とヨルシカ様の苦労が分かります。

 

「グウィンドリンならば私より貴方の言葉を理解しているはずです。ヨルシカもそのはずなのですが…まだ幼いですからね。今後に期待しましょう?」

 

おお、それは楽しみです。

 

〈ヨルシカ様、私、言葉、伝わらない〉

 

ヨルシカ様とミディール様だと成立しないのですか?

??

お二人は私よりは相性が良さそうですが…

 

「いずれ可能でしょうけれど…私たちが発つまでは難しいでしょうね…」

 

何故、私であれば大丈夫なのでしょう。

 

「いつかきっとわかる日が来ると思いますよ。気長にお待ちなさい…少し話が逸れてしまいましたね。ですが、その様子だと心配は必要ないようで安心しました」

〈ベル、私、似ている、友、なれる〉

 

友…ですか。

私のような身で友足りえるのでしょうか?

私は石と青銅と、そして僅かなソウルで動いている被造物です。

 

確かに暗月の剣たる自覚と誇りはあります。

この身はグウィンドリン様のお造りになった物である以上、卑下することは創造主を否定することに等しい行為なのでしょう。

ですが、それでも、と思わずにはいられないのです。

 

「ふふ…僅かなソウル、ね。安心してください。あなたは友足りえる素質を持っています…それに、きっとこの子はそんなことは気にしないでしょうから」

 

そう言い、フィリアノール様はミディール様の顔を撫でる。

 

とても穏やかな気持ちがソウルを通じて伝わってくる。

ああ、本当に良い人ばかりだ…ならば期待に、いや、仲良くなれるように言葉を重ねよう。

 

 

「さぁ、もっと近づいて」

 

 

言われるがままに跪いていた身体を持ち上げ、ミディール様に近づく。

 

さぁ、ではどんな語らいをしようか………と考えていれば、さりげなくフィリアノール様が私の背後に回って、尻尾の上に立っていた。

 

 

 

ん?

 

「グゥア?」

あの………なんでしょうか?

 

「ええ、ええ、気にしないで下さい」

 

そうですね、とはならない。

 

え?気にしないでと言われましても、結構な力で踏みしめてますよね?

 

「大丈夫ですよ。もう他のガーゴイルから尾はいただいてますので」

 

大丈夫じゃないですよね!?

え?え?どういうことですか!?

え、欲しいんですか?

翼っ、翼なんですか!?

 

「頭」

 

ヒェッ

 

「…は冗談です。本当に何もしませんよ」

 

そう言ってフィリアノール様は私の背中に向けて手を向ける。

恐ろしいが何もしないと言われれば動くわけにもいかなし、そもそも尻尾に乗られているからフィリアノール様が落ちるので動けない。

 

「汝、我の誓約者となり―――」

 

それ誓約じゃないんですか?

本当に何もしないんですか!?

 

「若草の槍となる確固たる意思が―――大丈夫ですよー、何もしてませんよー」

 

周囲を見渡して助けを求めるがミディール様は困ったような意思を伝えるだけ、その足元の白衣の女性は微動だにせず、銀騎士は………あ!こっちに一人慌てて走ってきて…回りの銀騎士に抑え込まれた。10人掛かりで。この気配は―――

 

「あら、あなたレドですね。ちょうどあなたにも声をかけようとしたのですよ。だから知っててここに通したのですけれど」

 

レド殿ー!!

 

「―――汝の助けとするでしょう」

 

 

「はい、これで―――」

 

その瞬間、グウィンドリン様に結んでもらった時のように身体に何か流れ込んでくるようなイメージが浮かび、頭の奥にあった銀色の剣を囲むようにして迫った若草が………その剣によって切り払われた気がした。

 

 

 

「あら?」

 

 

 

おや??

 

心底不思議そうにフィリアノール様が首を掲げる。

しばらくして納得がいったように頷き尻尾から降り、ゆっくり正面へと戻ってくる。

 

全く悪気がないように堂々としているフィリアノール様の姿に思わず一歩引いてしまった。

 

「残念。グウィンドリンがもう手を打っていたのですね…誓約の上書きを弾くなんて…」

 

誇りっ…!誇りと言いましたよね私?

それはともかく、グウィンドリン様から丁寧にお断りするように言われていたのですが、その。

 

「それを断わります」

 

もう一歩引いた。

 

そしてフィリアノール様は10人掛かりでなんとかぎりぎり抑え込めている銀騎士のレド殿の方を向く。

 

「レド。何か言いたげですね」

 

「………」

「ええ、そうですね。確かに、シース公爵にそもそもベルの話を流したのは私ですね」

黒幕!

何故!?私の後ろ歩みが加速しますよ!

 

「………」

「ええ、そうですね。シース公爵がベルの確保のために行った工作のことをグウィンドリンに教えたのも私ですね。おかげで私がシース公爵の所に送り込んだ間者から耳よりな情報を得られました」

マッチポンプ!?

公爵様、掌の上過ぎませんか!?

 

「………」

「ええ、そうですね。グウィンドリンにベルを要請したのにも関わらず拉致したのは、正面からいくと油断させておいて制約の上書き対策をする前に強制的に誓約を結ぶためですね…遅かったみたいですけど」

グウィンドリン様、理想の上司です…!

 

その答えを聞いてレド殿はもがくのを止め、床にはりつけられたまま静かにフィリアノール様を見上げる。

 

「………」

「…え?グウィディオン兄様が?私のコレクションを没収?ちょっと待って下さい。確かにお兄様には保管庫を教えましたけど、あの人が欲しがるものなんてないはずですよ!…え?オーンスタイン騎士長から苦情が来てた?お父様(グウィン王)も訴状を受け入れた?や、やりすぎ…?いえだって竜ですよ?欲しいじゃないですか…?剥製とか…武器とか……はい……没収……え!?古竜の全身剥製も!?…あ…はい……没収…………奥深くに仕舞っちゃうんですか…………もう少し大人しく…?…はい………はい……………」

 

どんどんフィリアノール様が萎んでいく。

 

レド殿…やはり楽しんでますよね?

その肝の太さに私はもう一歩引いた。

 

そうすると下がりすぎたのかミディール様の鼻先に翼をぶつけてしまった。

 

慌てて振り向き下がって謝る。

ミディール様は相変わらず困ったように一鳴きし、足元にいる女性は呆れたように首を横に振った。

 

「自業自得です」

 

身も蓋もなかった。

 

意気消沈したフィリアノール様を横目に、ミディール様と、その白衣の女性と交流を深めるのだった。

 

…そういえば結局、彼女の名前を聞き忘れてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルリオーズが立ち去った宮殿。

ここはアノール・ロンドの最端に位置するフィリアノールに与えられた土地だ。

 

ミディールの存在故に中央に構えるわけにもいかず、だからと言って壁の外に置くわけにもいかない。

しかしその宮殿の奥、ベルリオーズが訪れた大広間は、壁の外へ大きく内側から飛び出すようにして増設することでミディールの居場所を確保していた。

 

「シラ。外の空気を吸わせてください」

「わかりました」

 

"シラ"と呼ばれた、ミディールの足元に控えていた女性は大広間のさらに奥の大扉を開くための仕掛けを動かす。

鈍く重い音と共に扉が開けば、その先には延々と渓谷が広がっていた。

 

彼女はそれを見下ろす。

底が全く見えないような、本当に果てしない高さと広がりだ。

 

その先に輪の都はある。

 

人の王たちは、フィリアノールたちはそこへ行くのだ。

それは見たくはない物、知りたくもない物を投げ落とす行為に似ている。

 

見下ろしていればミディールがその巨体を傾け顔を寄せてくる。

 

「大丈夫ですよ、ミディール。私も、シラもついています」

 

しばらくそうしていれば突如彼女の背後の空間が光を放ち、一人の白衣の人影が現れる。

 

「あら、ベルのお迎えですか?残念ですが、もう帰らせてしまいましたよ?」

 

白衣の人影―――グウィンドリンはそんな的外れな言葉を投げてきた姉にため息を一つ吐いて話しかける。

 

「姉上、輪の都に連れていくつもりでしたか」

「ええ、私、ベルのことを気に入ってしまいましたので」

()()()()()()を聞いているわけではありません。公爵をけしかけたのも、探るためですか?」

「…そうね、あなたが大丈夫と言うならば信じるべきなのですよね。私が一人危機感に煽られて強硬手段に出ようとしたことは謝ります」

「姉上…私にも自分の行いが正しいか断言などできないのです」

「いいえ。どんな理由にせよ彼を騎士にしたのです。そして彼は私の誓約を()()()()()で拒んだ。あなたが責任を持って最後まで見守りなさい」

「そのつもりです」

「ならば私が言うことは、何もありません…ミディールを頼んでいる身ですからね。ただ、成長を侮ってはいけませんよ?」

「成長、ですか…」

「ふふ。この子もあっという間に大きくなったものです。きっと良き"剣"となるでしょう」

 

フィリアノールは自身の紋章である緑に錆びた若草の紋章を想起する。

誓約の名は「若草の槍」。

 

誓約の上書きは思っているより簡単だ。

それが神の手で行われるならば尚更の事。

 

だが弾かれた。

 

それは思った以上に強く結びついているからか、それとも…

 

「面白いものですね…あわよくば、神の剣で在り続けんことを」

 

 

 

 

 




フィリアノールは竜が大好きな設定にしてます。
ヨルシカに甘いのはこのせいです。
ミディールと言い、シラと言い、なにかと関係してますからね。
性格とかに触れるフレーバーテキストは一切なかったはずですので、もうやりたい放題ですよ。

ちなみにゴーさんも被害にあってるけど寛大なので笑って見送っています。

補足
・グウィディオン→太陽の長子(無名の王)のこと。勝手に名前を付けましたがお許しを。
・誓約「若草の槍」→これもオリジナル。所謂「教会の槍」の前身です。教会の槍はフィリアノールの眠りから外敵を守る誓約なので、輪の都に来る前のものがあったはずと思ったからです。
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