竜鐘のガーゴイル   作:凍り灯

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「情けない…誠、情けない」
「だから、頼んだぞ。確かに、頼んだぞ、―――」

―――???の今際の際より







白い家族と竜の友

「最近妙に皆、そわそわしてると思うのです」

「グォゥ」

 

と、ヨルシカ様が言うのは王家の兄姉や父グウィン王のことだ。

 

「ようやく百余年かけて輪の都も出来たというのに、都も活気があるというのに…お父様も、お兄様もお姉様も、少し…そうね、過敏になっている気がするのです」

「グゥン…」

 

むしろ輪の都が完成に近づくにつれてそういった気配が大きくなっていったのだと思ってしまいます。

人の入れ替わりが激しくなるからだと推測してはいるのだが…

 

―――輪の都は百年と少しかけて完成した。

移住する小人の民たちも決まり、これから何年もかけて人が移って行くのだろう。

防衛する騎士として、銀騎士となり竜狩りに与した人間の騎士が選ばれたそうだ。そこにはレド殿の名もある。

王家の神族としてはフィリアノール様やミディール様、それに"シラ"様が含まれている。

 

…あのフィリアノール様と最初の出会いの後、ミディール様の足元に控えていた女性の方がシラ様だったと知った。

さらにその後、公爵様と話したときにシラ様が公爵様の娘さんだと知ったのだ。

 

なんでも、フィリアノール様の熱烈な勧誘から彼女の騎士、「若草の槍」として仕えることになったという。

公爵様とシラ様は当時()()()()()()だったらしく、そこをつかれて引き抜かれた形らしい。

 

というのも、シラ様はフィリアノール様の下に仕える以前からミディール様と交流があり、対して公爵様は生ける古竜の末裔のサンプル(ミディール)が欲しかった。

 

鱗の研究のためにだ。

 

そんなものだから父娘の仲は当然悪化。

そのままの流れでフィリアノール様の騎士へと引っこ抜かれたわけだ。

…どうにもあの一件からフィリアノール様が関わると全てあの方の(はかりごと)な気がしてならない。

竜狂いですもの。

 

お姉様(フィリアノール)とも中々会えなくなってしまいますし、良い思い出を残したいのですけれどね…」

「ゴアァ」 

 

全くもってその通りです。

 

ミディール様とは、フィリアノール様との約束通り定期的に会いに行っている。

シラ様ともその時必然的に話すことになるのだが、やはり彼らも最近どこかピリピリしている気がする。

 

…とはいっても、は話す内容が内容なので割とすぐ気分が違う方面に入れ替わるのだが。

 

「フィリアノール様がまた…今度はスモウ殿からだそうです…」

「ゴゥア…(またですか…)」

「グゥルォ…(そうなのだ、まったくあの人は…)」

「ゴガァ…(ヨルシカ様も大人しくなったと思ったら今度は…)」

「全くあの子も誰に似たのか…」

「グゥゥルゥ…(どこも似たようなものなのだな…)」

 

だいたいこんな感じである。

打ち萎れた三人(?)組とでも言えばよいのか、思えばその集まりも出来なくなってしまうと思うと寂しいものだ。

 

ちなみにフィリアノール様のいる宮殿に直接抗議に来る四騎士の方々とも面識が出来た。

 

騎士の被害者たち代表として四騎士長のオーンスタイン殿が足を運び、そのストッパーとしてとっかえひっかえで誰かしらがついてくるといった構図だ。

と言ってもアルトリウス殿は遠征が多く、キアラン殿は王の刃としての()()のために頻度はかなり少ない。

 

なのでだいたいはゴー殿が付き添いなのだが…如何せん、あの方は寛容すぎるのか、まぁ良いではないかと後から口を挟んで結果的に騎士長殿を挟撃している。

本当に大事な物だった場合はその限りではないようだが。

 

「そういえば、今日もおじい様に呼ばれているそうですね。私もまた行ければよかったのですけれど…おじい様、ちょっとぎこちなくなるのですもの」

「ゴゥア」

 

そう、そしてこの百年で知ったことなのだが、公爵様のお孫さんがヨルシカ様だったのだ。

そうなるとシラ様はヨルシカ様の叔母さんということになる。(これはヨルシカ様は知らない)

ヨルシカ様の母親が公爵様の娘さんらしいので………そうなるとヨルシカ様と母親が同じグウィンドリン様もまた公爵様のお孫さんということになる。

 

グウィンドリン様が公爵様に抱いていたあの複雑な感情はそういう意味だったのかと思ったものだ。

 

…というか、これは私のような物が知るには少々重い気がするのだが…

 

 

 

『今更だな』

「グォォゥ…」

 

そうですよね…

そんなわけで公爵様の書庫へと来ました。

 

ここにはヨルシカ様も幾度と私と共に訪れているのだが、未だに公爵様が孫との距離感を計りかねているのと、グウィンドリン様が公爵様から悪影響を受けないか非常に心配しているためにその時だけ護衛が増し増しになってしまう。

 

言ってしまえば公爵様は私と気兼ねなく話をしたいので息苦しいのは勘弁して欲しいという。

 

さらにこの百年でもはや公爵様からは恐れ多いことだが"友人"として扱われている。

 

必要とされるならばあらゆる役割を受け入れ遂行することを前提で作られたガーゴイルである私でも、さすがにこれは少々重い気が…

 

『今更だな』

「グォォゥゥゥ………」

 

そうですよね………

 

ちなみに公爵様からヨルシカ様への悪影響はゼロどころかプラスに働いている。

私とヨルシカ様が話す時にも口調を気を付けるようにと助言したり、教会に篭っていては知ることが出来ない話や本をくれるからだ。

 

興味を引く物語や知識が記された本を前にしたためか、ヨルシカ様は以前よりさらに大人しくなり、グウィンドリン様を困らせることも極端に少なくなった。

背も成人の人間を越し、ただ淑女然とした振る舞いが出来るようになったためかどうもその儚い顔つきのせいか印象が一気に変わって見える。

 

興味の方向性が変わっただけなので、相変わらずグウィンドリン様が多忙を理由に約束を破れば制裁が加えられるのだが…

 

最近の決まり文句は以下の通りである。

 

「暗月の光の力とは、すなわち復讐です。優れた復讐者であるほど、その威力は高まるのです。だからついに"影の太陽の王冠"も白く染めました。今回は油性です」

 

正直、この時程すぐさまヨルシカ様を差し出そうかと本気で悩んだことはない。

当然グウィンドリン様から雷の杭が打ち込まれた。特効である。魔術はどうしたんですか。

 

『可愛いもんだろう、その程度』

公爵様が言うと説得力が段違いですね。

 

『今回呼んだのは…シラのことなのだ』

…仲直りするのですか?

 

『するわけなかろう、結果的にミディールに輪の都まで逃げられることになったのだぞ…』

え?公爵様のせいで輪の都に移るのですか?

 

『そんなわけなかろう…歴とした理由がある。おまえが知ることは無いだろうがな…しかしフィリアノールが行くならば、あやつが隠し持つと言う古竜の全身剥製ぐらいは回収したいものだ』

あぁ、そういえば言ってましたね。

頑なに譲ってくれないんでしたか。

 

『グウィンのやつまで言うのだ。「おまえの手に渡れば元通りに戻ってくるわけがない」とな。誰も彼もよくわかっている』

研究のためですものね…欠片でも残れば良い方ですか。

 

『あぁ、微塵も残らんだろう…話が逸れたな。シラのことだがな、発つ前に一つ何か贈ってやろうと思ってな』

………仲直りするのですか?あぁいえ、すいません。違いますよね。一度否定されたことに、二度も同じことは言いませんよ。

 

公爵様は私の謝罪に軽く握りしめた拳の力を解く。

以前私をグウィンドリン様が紛れ込ませた護衛の銀騎士に向けて射出したことがあるので安易にシースパンチを喰らうわけにはいかない。

 

…贈り物と言いますが、もう決まっているのですか?

『候補はな』

 

と、言いますと。

『この琥珀色のクリスタルゴーレムはどうだろう』

 

そう公爵様が言うと横の控室から琥珀色のクリスタルゴーレム本人(?)が二体歩み出てきた。

3m程ある中々マッシブな体系をしたゴーレムで、よく公爵様の書庫で見る青色のクリスタルゴーレムとは色違いのようだ。

頭の上より上へと大きく飛び出た結晶が特徴的だ。

 

………

『………』

 

………

『………』

 

………

『………』

 

………

『わかった。わかった。そんな目をするな』

 

明らかに娘に贈る物ではない。

 

私どころか周りの今や申し訳程度の護衛である数名の銀騎士や、何故か琥珀色のクリスタルゴーレム当人たちからの「あんたまじか…」という視線が刺さる。

それに耐え切れずに公爵様はその案を撤回した。

 

…次は?

『これだ』

 

そう言うと公爵様は手の平に収まる程度の…人間サイズで言うならば横幅1m半程度の箱を私の目の前に置いた。

質素な暗い色をした木箱で、絵物語を読んだことがあればこれが何か気が付くだろう。

 

所謂、宝箱である。

 

………開けてみても?

『死ぬぞ』

 

死ぬ?何が入っているのですか!?

『拾ったものでな、中々利便性が良いので量産しようと思っていてな?まぁ見た方が早い。おい、起きろ』

 

公爵様が軽く宝箱をつつけば蓋が勢いよく開き、その中身が明らかになる。

 

箱の容器と蓋のそれぞれの縁には骨のような牙が並び、グロテスクな大きな舌が迫り出し、極めつけは器用に折りたたんであった二本の長い腕が飛び出す。

 

私どころか、後ろが壁の銀騎士も一歩引いた。

部屋に金属の鎧と石の壁がぶつかり合う音が響く。

 

「グゥオァ!?」 

なんですかこれ!?

 

『貪欲者と名付けた』

 

名前を聞いてるんじゃないんですよ!

これを贈るって―――

 

 

 

そして宝箱は、ッス………と立った。

 

 

 

部屋の空気が固まった。

 

二体の琥珀色のクリスタルゴーレムも思わず三歩引いた。

 

見事な八頭身であった。

…立つの?

 

 

『中々見事な体術を駆使するのだ。護衛としての擬態、俊敏、膂力とどれを取っても申し分ない…どうだろうか?』

………………本気で言ってるんですか?

 

『………わかった、その目を見ればわかる。さっきより評価が悪いことぐらいは』

 

公爵様は残念そうに"貪欲者"の頭の蓋を押す。

そうすると瞬く間に手足を折りたたんで元の宝箱に戻った。

後にこの貪欲者はアノール・ロンドなど多くの場所に配置されることになり、彼の功績(やらかし)の一つとなるが今はまぁいいだろう。

 

………………次は?女性宛てということを忘れてはいけないですよ…?

『…月光蝶という―――「おじい様!」!?誰だっ!』

 

この声は…!?

 

その場の全員の目線が声の主…二体いる内の琥珀色のクリスタルゴーレムの一体へと向けられた。

 

「話は聞かせてもらいました」

 

女性の声で言葉を発したクリスタルゴーレムは、しかし突如光の粒子を溢れさせ………ることなく爆発した。

 

粉々に四方へ吹き飛んだ破片は容赦なく公爵様だけの身体に突き刺さり、その白い巨体を琥珀色に彩る。

私は石で出来ていたため、銀騎士殿たちは鎧のおかげで無傷だった。

 

『うぐぉぉ……!ヨ、ヨルシカ!いつそこに入った!?』

こ、公爵様…!大丈夫ですか…?というかヨルシカ様!何やってるんですか!?

 

「私だって気づいていたんです。おじい様とベルが心置きなく語らうためには私がいては邪魔なのだと…ですから、クリスタルゴーレムの中で友と自然な姿で語り合うおじい様を見てみたかったのです…」

違いますヨルシカ様!

そこじゃないです!それは今我々が聞きたい答えの、恐らくその後で聞きたい答えです!

 

―――後で知ったことだが、あのゴーレムには捕縛機能が付いているそうだ。

これが今思えば致命的なミスだったと語っていたのだが、捕縛した中の人物を取り出す際にはゴーレムが爆発するらしい。それは内側から無理に出ようとした場合もまた然り。

元々下手人の捕縛後に、その仲間からの奪取を防ぐための機能らしい。

内からの逃亡だと、回りが捕縛された人物の親しい者と認識した場合に爆発するという。

そう、今のように。

 

それが一番最初に創造主に披露されるとは皮肉である。

 

『………こうまでしたのだ、何か妙案があるのだろうな』

 

公爵様は微細な結晶の欠片含め一つ残らずを魔術で取り出し、ヨルシカ様に問う。

お孫さんに甘いですね…

 

「おじい様、女性への贈り物など決まっています]

『ほう?』

 

ヨルシカ様…相手が女性ということ以外は誰かわかってないで発言してますよね?

ゴーレムが入ってきた後でその話はしてませんから…

 

「当然、装飾品です」

 

装飾品…成程、公爵様ほどの魔術があれば何かしらの加護を込めることもできそうですね。

…というか、被造物と白竜というコンビからいいアイデアが出てくるわけなかったですね。

傷害事件を置いておけば、ヨルシカ様が来てくれて良かったです。

 

『装飾品か…しかし、邪魔にならないものが良いのだろう。一体どこに付けるものにするべきか…』

「それは…たしかにご本人に聞かなければわかりませんね…」

 

騎士として勤めるならば確かに難しそうである。

白竜とガーゴイルと世間知らずのお嬢様では早速この問題に詰まってしまった。

 

「お父様。話は聞かせてもらいました」

!?

 

その場の全員の目線が声の主…もう一体の琥珀色のクリスタルゴーレムへと向けられた。

ヨルシカ様は「お父様…?」と疑問符を浮かべている。

 

女性の声で言葉を発したクリスタルゴーレムは、しかし突如光の粒子を溢れさせ………ることなくやはり爆発した。

 

粉々に四方へ吹き飛んだ破片は容赦なく公爵様だけの身体に突き刺さり、その白い巨体を再度琥珀色に彩る。

私は咄嗟にヨルシカ様の前へ飛び出し両名事なきを得、銀騎士殿たちは鎧のおかげでやっぱり無傷だった。

 

『うぐぉぉぉぉぉぉぉ……!…シラ!何故そこにいる!!』

公爵様…!大丈夫ですか…!?シラ様!あなたまで何やってるんですか!?

 

しかしシラ様は表情を動かすことなく足早で公爵様に近づくと、まだ刺さったままの結晶の欠片を思いっきり蹴って押し込んだ。

 

『ぐふぅ…!?』

「おじい様!?」

シラ様!?

 

そうして彼女は言った。

 

 

「…………………頭冠がいいです………頭に、着けれるものが…」

 

 

失礼します、と頭を下げて彼女は書庫を後にする。

部屋から出る前に一瞬公爵様の方を振り返り…そのまま何も言わずに扉の奥へと姿を消した。

 

不器用である。

この一家は。

 

シラ様なりに歩み寄ろうとした結果がこれなのだろう。

なんとも予想外な行動だがどこか微笑ましく思えてしまう…傷害事件を置いておけば…

 

しばらく気まずい空気で沈黙が続き、やはりこの破天荒は血筋なんだろうか?とそろそろ疑い始めた頃、公爵様がようやく深々突き刺さった結晶の破片を取り除き終わり、溜息をつく。

 

後に公爵様は娘と孫のせいで爆破機能を完全に取り除くことになる。

誰か(不死人)の未来は守られた。

 

『………頭冠か…ならば私の得意分野か』

…ええ、飾りものとはいえ、石ならば公爵様の右に出る者はいないでしょう。

「おじい様を遠慮なく蹴れる女性…もしかして、私の親族の方なのでしょうか」

『「………」』

 

そうでした。ヨルシカ様そもそも誰への贈り物かも、それがヨルシカ様にとって叔母にあたる方ということも知らないのでした。

ただその名推理の根拠は公爵様とグウィンドリン様と、ついでに私の精神を削ります。

 

 

 

 

 

…シラ様の正体は結局ヨルシカ様に開示された。

ここまで来れば隠すことも酷だろうという公爵様本人の判断からだ。

 

そうしてヨルシカ様は輪の都へと発つ前の僅かな時を、それでも家族として過ごすことが出来た。

 

ミディール様とシラ様との集まりにヨルシカ様も加わり、そして時たま居合わる四騎士の方々ととても濃く楽しい時間が過ごされたと思う。

 

 

 

多くの人々に見送られながら一団の先頭を歩くフィリアノール様。

彼女らが歩く大通りの左右には、青銅ではなく真鍮の鎧を身に着けたガーゴイルが儀礼用に装飾されたハルバードを掲げている。

 

その後ろを凛とした佇まいで付き従うシラ様の頭には、繊細な銀細工にバイバルの真珠があしらわれた頭冠があった。

 

公爵様とヨルシカ様と私でデザインなどのディテールを詰めた頭冠だ…私は役立たずであったが。

最終的にはヨルシカ様がグウィンドリン様にも相談して作られた美しい頭冠は、彼女はどのような時もそれを外すことは無かったという。

 

 

 

 

 

そう、例えどんな時でも。

 

 

 

 

 




この作品はシース一家と鐘のガーゴイルの話だったりします。

最後の真鍮のガーゴイルは、アノロンで出てきた雷を吐く鐘のガーゴイルのイメージです。
グウィンドリン繋がりで暗月の女騎士が真鍮の鎧を身に着けていたのでそういう設定に。

追記:誤字修正しました。



フィリアノールの騎士、シラの頭冠
繊細な銀細工に、バイバルの真珠があしらわれている
狂王の磔を抱いて暗室に閉じ籠ったシラは
誰のためでもなく、その正装を崩さなかった
―――DS3「シラの頭冠」より
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