―――???の記憶より
私は屋根上よりフィリアノール様とシラ様、そしてレド殿のいる一団を見送る。
私たちは彼らの左右を彩る真鍮の装備をつけたガーゴイルとは当然別種である。
そのため、私たち青銅のガーゴイルは街の各地の屋根上に、いつもの青銅の斧槍と盾を装備して不届き者が出ないかを屋根上から見張るのだ。
しかしここはアノール・ロンド。太陽の神が治める都市であるからして、民度が低い輩はそういない。
手を抜くことはあり得ないが、恐らく何事もなく終わるだろう。
…そういえば私は"教会の鐘守"という警邏隊として今回、この催しに就いている。
"鐘守"とはつまり民が生活する上で必要な、時間を知らせる合図たる"鐘の音"を守ることであり、その意味は、民への普遍的日常を如何なる外敵からも守り通すということだ。
本来、被造物でありシステムである我々にはそういった肩書も何も必要ないのだが、暗月の剣でもある私に配慮してこれを機に新しく役職を作っていただいたのだ!…やることは変わらないのだけど。
そうして警戒をする内にフィリアノール様の一団が大扉より出ていく。
その先では空を経由した大移動だ。
最も多い、低い位の人々は既に険しく長い陸路を通して輪の都へと移動が住んでいる。
そうして輪の都でフィリアノール様と小人の王たちの到着を待っているのだ。
ここから飛んで向かう彼らは小人の王たちと、高い位の人々だ。
空輸方法としては彼ら"真鍮のガーゴイル"を利用する。
複数のガーゴイルが、儀装馬車のような人員運搬用のキャビンを持って運ぶ形だ。
彼ら"真鍮のガーゴイル"は比較的最近作られた言わば最新式である。
そのためその運び心地?も良いらしい。戦闘や警戒の想定しかされていない私たちではそうはいかないだろう。
ここからでは遠いが、それでもミディール様の巨体が飛び立つのが見え、人々がその姿に沸き立っている。
フィリアノール様とシラ様、そして小人の王たちはミディール様の運ぶキャビンで飛び立つことになっていた。
これはアノール・ロンドが竜をも懐けられると言うデモンストレーションであり、同時に輪の都へと送ることで都市の住人が怯える必要はないというアピールだろう。
…もう、あの面子で集まることもないのだろう。
華やかな人々の笑顔を見下ろしながら、私はそんな気がしていた。
フィリアノール様が最後におっしゃった言葉のせいだろうか。
「ベル。覚えておきなさい。いずれ陽は落ちます。私たちはそれを止めんと足掻くことでしょう。きっとそれは傲慢で矮小だと言われること………それでも、多くを犠牲にしてでも、今を生きる家族を私は手放せないのです。ベル。だからその時が来たら、あなたもそうするのです。家族を、友を守るのです。ベル、いいですね?」
それが意味することは、大してわからなかった。
だけど身体は何かに突き動かされるように動き、跪き、誓ったのだ。
何に対して?
あの時、ソウルの奥深くで何かの小さな強い意志を感じたのだ。
その強い意志に私は何故か安らぎ感じた…まるで…そう…
闇のように…
あぁフィリアノール様。
恐らく心配の必要などないでしょう。
私は守ります。
家族を、友を守ること…それが私の石の身体を動かす僅かなソウルが、最も力を得る時だと直感しているのです。
しかしその時から…と、言うわけでもないが、ここ最近どうにも自身の"自我"に対して疑問が尽きない。
この"自我"は必要なのだろうか?
いや、いや、本来必要などなかったのだ。
私たちはシステムだ、或いは剣だ、或いは盾だ。
神々の、人々の、都市の安泰のため"物"であり、だからこそ揺ぎ無い石の"人形"であるべきなのだ。
成程確かに
そしてだからこそ出会うこともなかったのかもしれないヨルシカ様とシラ様をつなぐ架け橋となれた、と言えるのかもしれない。
全く、もう百年以上過ごした身、何もわからぬ童でもあるまいし。
それでも、どうにもこの頃ソウルの奥がざわつくのだ。
―――いずれ陽は落ちます―――
何故かその言葉が頭をちらつく。
フィリアノール様の言葉が。
ただ、それと同時にこれが悪い前兆か?と言われるとそうでもないような気もして、じれったいような、そんな気分になるのだ。
「お前が暗月の剣で在る限り、何も問題はない」
とはグウィンドリン様が言ったことだ。
催し事が終わった後、意を決して聞いてみればこれまたふんわり。
創造主であり管理者でもあるこのお方が言うのだから問題などないのだろうが、それでも気になってしまうのがガーゴイル情というもの。
『実はかつてお前の"器"を調整した時があったであろう?それ以降グウィンドリンが干渉されないようにと術を施していてな。私であっても、あやつの許可を得てバラすか何かしない限りはお前のソウルの根源を調べる方法はそうないのだ。ソウルさえ触れることが出来れば、元に戻せるかはわからないが解明できるだろう………どうだ?』
とは公爵様が言ったことだ。
外科医にカウンセリングを頼むようなことだったなと、反省している。
公爵様ご自身も言いましたが、どちらにせよそれは私の一存で決められぬのです。
「そう拗ねるでない。話だけでいいならば、私でも力になれるだろう」
と言うのは、この私をして見上げるような巨大な体躯を持つ誉れ高き四騎士が一人。
"鷹の目ゴー"殿その人である。
フィリアノール様の宮殿にて面識を得た四騎士の方々ではあるが、やはりあのような特殊な場ではなくてはそうそうに会うことなど叶わない。
暗月の剣とはいえ、騎士であるわけでもないガーゴイルなのだ。当然だろう。
しかしこれまた運よく縁が繋がったもので、"教会の鐘守"としての役職ができたことにより(正確には私という特殊個体が存在するからなのだが)、警邏隊として訓練をする流れになったのだ。
システムである"青銅のガーゴイル"には不要ではあるが、私という"鐘守のガーゴイル"には必要ということである。
そんなわけで定期的に一部の"青銅のガーゴイル"に加え、アノール・ロンドの本城を守るために配置された"真鍮のガーゴイル"を数体用意しつつ、それらを私が指揮しながら銀騎士の方々と模擬戦をしたりする。
逆に銀騎士の方々の配下となり、尖兵として他のガーゴイルを指揮して四騎士の方々と手合わせすることもあった。
被造物の身であるため、基本的には使い捨ての精神でガーゴイルを使い効率的に被害を与える方法を考えたり、空を飛べることを活かした三次元的な配置や戦術が必要なためにこれが予想を遥かに超えてとても大変だった。
しかし四騎士の方々は勿論、銀騎士の方々も精強な神々の騎士であることは変わらないため、とても勉強になっている。
惜しむらくは他のガーゴイルが私のように"学習"できないことだろうか。
とはいえ、これらの課題を議論して改善点等を見つけ出し、最終的にはグウィンドリン様に提出して今後制作されるガーゴイルたちのアップデートに使われる予定であるので問題ないと思われる。
そう、
誰と?
そこで話がようやく戻せるのだが、ゴー殿は私の言葉がわかるらしい、というより意図を理解できるという。
一体何故かと聞けば、ゴー殿がまだ騎士としてアノール・ロンドに見出される前の話。
そして王のソウルを見出したグウィン王らが古竜へと戦いを挑む前の話。
なんとゴー殿の一族は当時から度々古竜へ挑んでいたと言う。
"鷹の目"の代名詞である大弓はその時からの得物だった。
…諸々省略してしまうと、長い間竜と戦い、畏れ、血みどろの隣人となっていたがためなのか、
彼の残した功績は何も竜を射落としたことだけではない。
その長年の積み上げられた血族の歴史と、自身の経験からはじき出した"予測"こそが彼を四騎士としての地位へと押し上げたのだ。
その先見こそが"鷹の目"なのだ!!………と、彼の配下の珍しい女性の銀騎士殿が熱弁してくれた。
あ、ロスヴァイセ殿って言うんですね。
何故か私のヘルムがとても似合う気がします。
つまり彼は軍師であり、竜の専門家であり、凄腕の射手というわけだ。
ロスヴァイセ殿のアピールがすごくてまたまた話が逸れてしまったが、要は王家の方々以外で(公爵様とミディール様は除く)意思疎通のできる唯一のお方ということなのである。
ゴー殿も興味を持っているようだからか、私も少々…いやそれなりに…結構?話が弾んでしまって、それ以降、訓練後に彼の時間と私が持て余している時間があれば話すようになった。
ゴー殿の話す竜との戦いの日々はとても興味深いのだ。
………………あれ?
「ロスヴァイセ、自重せぬか。ベルリオーズも困っておるだろう。さぁ、
あぁ!そうなんですよ。
長い間大人しいかと思えば今度は―――
ガーゴイル共と手合わせをすると聞いて、ベルリーズの手腕を楽しみにしている自分がいた。
大弓で手心など加えられない故、私の場合は弓がその手になかった場合のケースではあるが。
いざ始めて見ればなかなかどうして、腕が良い。
指揮する上ではまだまだ
あの日、フィリアノール様の宮殿へとオーンスタインと共に参った折に、ミディールと"青銅のガーゴイル"が対話するような絵面を見せつけられ困惑したものだ。
今では騎士の間でもちょっとした有名
そもそもフィリアノール様の元へあれ程の頻度で我々四騎士が出向くこと自体普段ではあり得ないことだ。
高い頻度で問題行動を起こすようになったものだからグウィン王もほとほと困り果てていたが、最初からそれはベルリオーズと我々を会わせるためだったのだろうと思う。
彼を危険視したのだろうか?
ミディールが言うには、フィリアノール様は輪の都へと連れて行こうとしたという。
あそこは流刑地だ。
ひどく残酷な話だが、ダークソウルを見出した小人、その末裔である王たちの監獄。
選ばれた人間はその予備軍であり、それは人間の身で銀騎士として仕えた者も同じである。
これは人が本来持っていた"本質"の恐ろしさを知り、見えぬところへ追いやらんとする王と、世界の蛇の所業。
"枷"も"封"も施した上でそれでもまだ足りぬと遠ざける。
なんと惨い所業だろうか。
かつてあった人の本質は確かに恐ろしいものだが、果たしてこれにどれ程の意味があるものか。
だが私も、それを止めることもせずに見送った身。
この業はいつか必ず我が身に返ってくることだろう。
しかしフィリアノール様は、そんな脅威を秘めた人間を哀れんでいた。
故に自らその役割を担ったのだ。
せめて優しい夢を見ていられるようにと。
だから、フィリアノール様だからこそ、この出会いの意図はただの"危険物の監視"を任せたかったというわけではないはずなのだ。
知って欲しかったのだろうか?
彼と言う存在を。
ミディールの友となってくれた感謝もあったはずだ。
シラ様とヨルシカ様の件もあったことだろう。
今ではもうわからない。
何を言われたわけでもないのだ。
私はただそうあるようにと、変わらず接することだろう。
彼にとってよい友でありたいと思うのだ。
あの日、どうにも初めて会った気がしなかった彼とは。
「グォォァ………」
「はっはっは。そうかそうか。ヨルシカ様もまだはしゃぎ足りぬのだろう。主の機嫌を取るのも、貴公の甲斐性の見せ所というものだ」
オーンスタインは気が付いているようだった。
いや、
それでも口にしなかったのは"誰か"に知られないようにするためか…
私も確信には至れずとも察していることはある。
竜の気配があるのだ。
一体どれ程の者がそれに気が付けるだろうか。
…フィリアノール様も、あのやり方はつまり同じように誰かに知られることを懸念していたからなのだろうか?
彼自身に伝えないこともそれを危惧して?
恐らく彼にはまだ何かがあるのだろうが…それは私の知ることではないのだろう。
時には知らぬふりで過ごすのもいい。
疑っては交わせぬ情もあるというものだ。
…それに皆、既に気が付き始めている。
火は陰りつつあるのだと。
試練の夜がやってくる。
「ゴゥア…グゥ…」
「よい、よい。話だけでよいならば、幾たびでも聞いてやれるのだからな」
「ゴゥア」
「…そうだ…人の身で引くには過ぎたものだが、貴公ならば可能かもしれぬな。どうだ、貴公も大弓を持ってはみぬか」
「ゴ、ゴゥォ………」
だからどうかこの石の友に優しい思い出を。
滅びゆく世に、それでも貴公らしく生き抜くための導きを。
その気高い意思に、炎の導きのあらんことを。
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とても力になっております。
それと投降後にふと気が付いて誤字修正したりするので悪しからず。
以下補足等。
雑学:ベルリオーズの幻想交響曲に、本物の教会の鐘を使った録音がある。
"教会の鐘守":DS2、鐘守のガーゴイルより命名。徐々に"鐘"と結びついてきました。
"鷹の目ゴー":好きすぎて大分贔屓しました。DS3で装備と弓が欲しかった…
"ロスヴァイセ":女性の銀騎士。名前の元ネタはアーマードコアの
銀騎士ロスヴァイセ
アノール・ロンドでも珍しい女性の銀騎士
四騎士、鷹の目のゴーにより見出されたためか
特に強く彼に忠誠を誓っている
ゴーはその特殊な出自故か
己の目で見出した騎士を配下に置き
そして誰もがその能力を存分に示した
それでも彼という巨人に対する
嘲りと罵倒が止むことは最後までなかった