「グォゥア」
「うむ、心得た、ベルリオーズよ」
「彼は何と?」
「うむ、部下のガーゴイルが上空から禍々しい鎧の騎士を多数見たそうだ…そして…小ロンドの不死と成った市民を襲っていたらしい」
「…市民を騎士が…?…あそこにはかつて竜狩りに列した騎士がいたはずだが、もしや彼らが…?」
「ゴゥゥ…」
「さすがに他のガーゴイルからの報告ではこれ以上の詳細は望めないそうだぞ」
「わかっている。ベルリオーズを前に出すわけにはいかん。引き続き後方にて情報収集に努めてくれ」
「グァォ」
「やれやれ、私も彼と意思疎通が出来ればな。ゴー、
「
「そうだ。何が起きていようとも、やることは変わらん―――」
「ふぅむ、アルトリウスが突入したようだな。相変わらず先陣を切っている」
「キアランは?」
「もう動いている頃だろう。アルトリウスらには目を引き付けて貰わねばな」
「…王を先んじて討ったとて、
「オーンスタインよ、やはり…」
「やらねばならぬのだ。"深淵"が広がる前に………幸いと言うべきかあそこは
「…惨いことだ―――」
「ゴグァゥ…」
「キアランがついた頃には既に"深淵溜まり"になっていたようだ……」
「公王たちは深淵に呑まれたか…彼女は?」
「引き際が分からぬわけでもあるまい。勿論無事とのことだ」
「ならば良し。"癒し手"の準備はどうだ?」
「グゴゥァ」
「既に配置についているそうだ」
「壁への工作も順調か………"癒し手"たる彼らに背負わせるにはこれは重すぎるかもしれんな」
「彼らにこの所業の片棒を担がせるのは忍びない…それでも、やるのだな」
「………」
「…アルトリウスを退かせろ。ゴー、お前の部隊で後退を支援してくれ」
「………ベルリオーズよ、ロスヴァイセに伝達してくれ」
「…グォゥ」
「―――水を流せ、封水だ」
"小ロンドの惨劇"と呼ばれる
ようやく後始末が一段落ついたということらしいのだが、グウィンドリン様は今後のことを思ってなのか深いため息を吐いていた。
というのも、今回の一連の流れからアノール・ロンドより神々が離れ始めたのだ。
単純に小ロンドへ行ったことに対しての反感もあるだろう。
深淵を封印するためとはいえ、小ロンドの民諸共全て水の中に沈めたのだから…
この出来事を含んだ"一連の流れ"とは、一つ目に"小ロンドの惨劇"が起きたこと。
二つ目にその後に神々のみに対してだがグウィン王より"不死の使命"なるものが公表されたこと。
そして………
「今一度お考え直しを!王自身がそれを成す必要があるというのですか!」
アノール・ロンドの本城。
王の玉座の間にて、群青色のマントが特徴的な鎧を纏った騎士が声を荒立てている。
"小ロンドの悲劇"にて新たに"銀狼"の二つ名を拝命した四騎士の一人、アルトリウスはこの行為が愚かであると理解した上でそれでも声を上げざるを得なかった。
「…アルトリウスよ、これは王の決定なのだぞ」
「ゴー…!それでも言わずにいる訳にもいかん…!オーンスタイン!キアラン!貴公らも何故黙っていられる!?」
「………アルトリウスよ、我々もお前と同じ思い…だが、最早これ以外に方法はないのだ」
「他の者にソウルを分け与え代行させれば良いことではないか…!私でも良い!王が力を失う
「それは出来ぬのだ」
その言葉に今まで一言も口を聞いていなかった、小柄で白磁の仮面を被った女性。
"王の刃"の二つ名を持つ"キアラン"がすぐさまオーンスタインへと問う。
「それはどういうことだ?オーンスタイン」
「…」
「オーンスタイン!」
「………」
「アルトリウス」
「…!」
キアランの問いに答えず、
アルトリウスの勇ましい声が白亜の大部屋に虚しく響く中、それを嗜める声が一つ。
威厳のある老いた風貌、白い髭と頭髪を持ち落ち窪んだ目元に鋭い眼光を持つ偉丈夫…太陽の都市の創始者であり王であるグウィンの声だ。
「
「………何故陛下でなくてはならないということは…教えてはいただけないのですね…」
「…」
「アルトリウス…」
キアランが心配するようにアルトリウスの名を呟くように口にする。
しかし納得がいこうがいくまいが彼も誉れある四騎士の一人。
銀狼の騎士は先ほどの悲痛な叫びをあげた時とは打って変わり、背筋を伸ばし、淀みない動作で玉座へ近づくとそこに跪く。
他の四騎士も王であるグウィンも、アルトリウスが自身の心を抑え込み、悲壮な覚悟を示そうとしているということを理解する。
アルトリウスは四騎士の中でも最も若い。
だからといってその感情を曝け出す未熟さが許されるわけではない。
しかし人と違い個人との付き合いが非常に長くなることが多いのが神族だ。
それは家族のような繋がりとなり、それ故にその姿は好意的に取られていた。
だからこそ彼の抱える痛みも皆理解できるのだ。
されど四騎士とは、誰よりも王の"騎士"たる姿を示さなければならない。
最早先程の王に口答えするような未熟な輩は消え去っていた。
王が
安心して旅立てるようにと、
アルトリウスに続き、オーンスタインとゴー、キアランも彼の意を汲みそれに習う。
そこに言葉はなく、しかしこの光景を見ていた王の補佐である
王の背に開かれた大窓から差し込む陽の光が彼らを黄金色に照らしている。
この時、アノール・ロンドの頭上の陽は最も高い瞬間に達していたのだろう。
…しかし後は傾くばかりなのだと、誰もが心の中で予感していた。
四騎士が玉座の間から立ち去った後、グウィンは独り言ちる。
「…最早これしか
彼は自身が火継ぎを
人を
もう何もかも手遅れ、だからこそ燃やすしかないのだ。
自身の
"火継ぎ"
それが王の口より直接全ての民へと伝えられた。
不死人の出現に伴い、それを阻止するべく王自らが身を捧げること。
そうすれば不死の呪いは人から消え去るのだという。
"火継ぎ"が具体的に何をするのかを理解している者はどれくらいいるのだろうか?
かく言う私もよくわかっていない側の一体ではあるのだが…
とは言え、王の莫大なソウルを使う何らかの儀式?によって"火の陰り"というのを解消できるということは頭に脳ではなく石が詰まっている私でもわかる。
フィリアノール様が示唆していたことはこのことだったのだ。
小ロンドの件で嫌と言う程にその"恐怖"を見せつけられた。
やはり輪の都とは…―――
…おや?そういえばカラスのじぃやが"火の陰り"について知っているようだったがどこで知ったのだろうか?
私とは比べようもない程長生きなので知っていてもおかしくはないのだが…
あーイザリスのこともあれ以降話していなかったから今度また聞いてみよう。
とにかくこの"小ロンドの惨劇"、"不死の使命"、"王の火継ぎ"というこれらの一連の流れによって都市に住まう神々が離れていっているのだ。
王が火を継げば不死人はただの人へと戻ると知って尚。
ちなみに"不死の使命"に関しては私も関係者である。
こんなよくわからない存在なせいもあって他のガーゴイルとは違う立場に納まったのだが、簡単に言えば「
我々"青銅のガーゴイル"は来るべき時が来れば"鐘のガーゴイル"と呼称を改め、壁外の"試練の鐘楼"にて"不死の使命"を帯びた不死人の力を試すことが決まっている。
しかし私はヨルシカ様の護衛兼話し相手であったり、公爵様の話し相手であったり、"暗月の剣"や"教会の鐘守"等々………肩書がやたらと多い被造物であるので別枠となったのだ。
私としてはこの身を太陽の都市に住まう神々や人々の未来のために投げ出すことに躊躇はないのだが…
それで失うには惜しい人材(?)であり、力量も十分なので不足の事態があればこれを解消できるだろうとグウィンドリン様のお墨付きで判断され監視役という立場になる予定だ。
ヨルシカ様のことを考えての采配なのだろう。
具体的なことはまだ検討する箇所が多いためか聞かされていないが、"
"監視役"と言うのだから恐らく報告も必要だろうから。
…と言っても、この"不死の使命"自体当分先の話のはずだ。
多くが察しているが不死の呪いを祓うことができるのは一時なのだろう。
でなければ今このタイミングで準備を始めるわけがない。
しかしグウィン王のソウルを捧げることで続く平穏が短いわけがないと………そう信じたい…
そういえばアノールロンドに程近いウーラシールでも、闘技場の様な試練を用意しているとかシフが漏らしていた。
これも追々わかるだろうから今は気にする必要もないだろう。
…話が脱線したが、そう、神々の都離れが進んでいるという話だ。
"小ロンドの惨劇"にてなんらかの理由で不死人が急激に増え、私は直接目にすることはなかったが"ダークレイス"と呼ばれる敵性存在が出現したことが神々の不安を煽ったのだ。
ダークレイスが何者かはわからないが、最も多くを討ち取ったアルトリウス殿と共に行動していたシフによれば何か危険な技を扱う
…ただそれの効力は結局わからなかったという。
これはダークレイスであろうともアルトリウス殿とシフ相手にはその技を行う余裕がなかったからだろう。
大盾を持ってるのにアルトリウス殿には攻撃を当てること自体がそもそも難しいのだからそうなっても仕方がないだろう。
無事で何より。
"不死人"の大量発生と"ダークレイス"の出現、それらの神々へ与えた"人間"への懐疑心と恐怖は大きかった。
そして"深淵"。
私は後方支援を命じられてしまったのでそれがどんなものか、或いは何を意味するものなのかわかっていない。
それは多くの神々も同じだったようで、だからこそ小ロンドに対する対処からここを見限る神が多かったのだろう。
事態を深刻に捉えていたのは王家の神々とその関係者だったと思う。
認識の差が生み出してしまった事態でもあるのだ。
…だが、誰が噂したのかこんな言葉を聞くようになった。
"深淵が神を喰らいにやってくる"
深淵って人物なの?と間抜けな疑問を浮かべてしまったことは置いといて、こういった噂のせいで人と深淵を結び付け、余計に神々が恐怖心を募らせ、都市から離れることを検討し始める。
王が命を賭して火を継ぐのだからせめてそれを見届けてからでもいいじゃないかと思ってしまうのは無責任な考えだろうか。
さらに先程私が関係者でもあると言った"不死の使命"によって神々はもう戦々恐々だった。
というのもこの試練だが、本城のみとはいえアノール・ロンドも組み込まれている。
なので既に本城付近の物価はとても安い。
誰も住みたがらないもの。だから早いですって。
その流れに便乗してそこら一帯を、最近迎え入れているレッサーデーモンや巨人たちの住まいとして整備し始めたグウィンドリン様も中々ちゃっかりしてらっしゃるが。
…加えてこの火継ぎ前なのに敢行される都離れにはグウィン王が不在となることまでもが関係しているようなのだ。
火の神フラン様に
古くからいる神がグウィン王が火継ぎに向かうタイミングで見限って去らないようにと、その対策に王も苦心しているらしい。
しかし………
「ねぇベル?せっかくなのだから私の
「ゴゥ…」
もっと苦心しているのはヨルシカ様への対応だということを私は知っている。
グウィンドリン様が愚痴を零してたので。
今のヨルシカ様はやっとこさ連れて行ってもらった工房で作ってもらった将来の眷属用の槍をブンブンッ!と振り回している状態だ。
ヨルシカ様の加護により眠りの魔法を得たその槍は対象を眠りへと誘い、著しく集中力を乱すことができるという代物となっている。
グウィンドリン様も予想外だった加護を得た槍は、小ロンドの件から立て続けに起こった出来事のせいか結局量産の件は流され、これ一本だけとなってしまったという。
…なんで"眠り"なんでしょう?むしろその槍に付いている"槌"の部分で叩き起こす姿しか想像できないのですが…いや、"起床"の加護とか言われてもあれなんですけど。
眠らせては叩き、眠らせてはぶっ叩きというルーチンをグウィンドリン様に敢行するヨルシカ様の後ろ姿を想像してつい身震いしてしまう。
ついグウィンドリン様で想像してしまったが、今そのタコ殴り予備軍はどちらかというとグウィン王である。
聞けばこれを機に本城の近場に引っ越すことでいつでも気軽に城へと入れるようにし…いつでも気軽に王の火継ぎを阻止するための殴り込みをするつもりと言うではないか。
…だけど本当はヨルシカ様は寂しいだけなのだろうと思う。
「グォァ…」
「…わかっていますよ…ベル。お父様を止めることなどできません。それが人のためというならば尚更に…ですがだからこそ、それまではせめて義務と責任とは関係のない思い出をたくさん作って欲しいと思うのは間違っているのでしょうか?」
ヨルシカ様の言葉は寂しさと優しさに溢れていた………はずだった。
その台詞はその手に持っている槍を置いてから言ってほしかったです。
紫色のオーラを纏ってますよ?
FPを削る?何ですかFPって?
「ですが何もしないなどという選択肢があるでしょうか?私を止めないでください、ベル。例えお兄様をよっこらせしてでもお父様の元へ向かいます…!そして、都を離れようとする神々をお父様より聞き出してどっこらしょするのです!」
「グォゥ!?」
本命はそっちですか!
それとグウィンドリン様が"暗月のタタキ"にされてる想像をしてしまったのはやっぱりあなたのせいですね!?
駄々洩れの思念が私に伝わってきてたんですね…だめですよ!最近ようやく小ロンドの件の後始末が済んだんですから!今このタイミングで百年ぶりのお転婆再発しないで下さいよ!ちょっと気持ちはわかりますけどっ………ちょっ…待っ……ヨルシカ様!?ヨルシカ様ー!?
―――ヨルシカ様が不安で不安で寂しくて、その気持ちの捌け口を見つけられないからこうしているのだということは分かっているのです。
フィリアノール様も戻らず、長子殿も去り、そしてグウィン王もその身を薪として捧げてしまう。
神々も太陽の都市を見限り、一時的に人は都市内へ戻ってくるのだろうけどそれも一体いつまでそのままでいられるのか…
傾き始めた陽は沈み続け、人々はいつか来る夜ばかりが続く世界を思い浮かべ始める。
私もいつか、壊れてしまうだろう。
私は、いや私たちは壊れることを恐れやしない。だけれど置いて行ってしまうことの、覚悟はできていない…
あぁヨルシカ様やグウィンドリン様に仕え続けることは叶わないのだろう。
それでもこのソウルだけでも、最後までそばに残すことはできないのだろうか…
思わず生まれた不安を私はそっと心の奥へと押し込む。
百年ぶりの逃走劇を目にして近所の方々が楽しそうに声援を送っているのを聞き流しつつ、私は本格的に捕縛するために石の翼を羽ばたかせた。
お待たせしてしまい申し訳ないです。
アルトリウスの"銀狼"の二つ名はオリジナル。
"ダークレイスを狩った"→"闇を祓った"→"そういうのに対して銀って定番だよね"というあれ。
ちなみにその前は"群青の狼"とかだったのかもしれませんね。
群青は絵の顔料として
小ロンドの件ですが、時系列が難しい。
今回の王の火継ぎ前という展開だとイングウァ―ドら封印の番人は不死でなくなる時期ができてしまいますね。
しかし彼はアルトリウスとの面識はなかったようですから、それを考慮して今作ではイングウァードら"癒し手"は小ロンドを封印した初代"癒し手"の末裔ということに。
代々"封印の番人"をしつつ、イングウァードらの世代で不死になってしまったのでそのままずっと続けているという設定としました。
というか水で封印した(出来た)理由がさっぱりです。
何故"癒し手"なのかも…うぅむ。
なのでなんか清めて聖水みたいにして洗面台とかの排水管の悪臭対策にやる封水みたいな感じでやったということに…臭い物には蓋をすればいいのです。
さらにはグウィンの火継ぎのタイミングがわからなさすぎて辛いです。
今作ではノリで決めていきますよ!
あと後世でボロクソ言われてますがうちのグウィンは人のために身を焼きます!
小ロンドのことが相当堪えたようです。
というかフラムトの言葉が正しければゲーム本編までまだ1000年以上ある事実!