色んなスピンオフの強化要素引き込んでおいてなんだけどヘブンズ・ドアーが強過ぎる…………。
岸辺露伴、という漫画家がいる。
いずれ週刊少年ジャンプという週刊誌で『ピンクダークの少年』という傑作を連載することになる未来の天才漫画家。
今ですら週刊誌で定期的に行われる新人賞を総ナメにしている、15歳の少年。
彼は、この奇妙な現状に戸惑っていた。
「
30を超えた自分の姿が、まるで15歳だった頃まで巻き戻ったかのような違和感。
杜王町に引っ越す以前に暮らしていた家に、漫画家として軌道に乗る前に使っていた安物の家具。
露伴はまず真っ先に、何らかのスタンド攻撃によって過去へとタイムスリップしたのか?と疑った。
――――いや、違う。
露伴がそう気付くのに、時間はそうかからなかった。
確かに自分が『週刊少年ジャンプ』で連載していた記憶はあるし、年齢も、15歳なんてとうの昔に過ぎ去った覚えがある。
しかし。それとは別に、超人社会などとも呼ばれるこの現代で15年間生きてきた記憶も、確かにあるのだ。
それは無個性でありながら、類稀なるセンスと圧倒的なリアリティー……つまり描写力で新人賞を手に入れ、来年度から連載を始めないかと打診されたつい最近までの…………この世界の住人としての記憶だ。
そして何より、世界観が違いすぎる。
「幻覚や夢を見せるスタンド…………じゃあないな。現実の事を思い出させたところで不利になるだけだからな」
そういえば、と露伴は空条承太郎がアメリカに行き、敵スタンド使いとの戦いで仮死状態になった時の事を思い出した。
SPW財団によって厳重に保護されており、自分も意識を回復させられないか、協力した覚えがある。
それからしばらくして、世界の時間が加速し――――それ以降の記憶はない。
露伴は限られた情報の中で推測を立てた。
ビッグ・バン理論。
宇宙が爆発と共に生まれ以降膨張を続けているという宇宙論で、それに付随して宇宙が同じような出来事を無限に繰り返しているという説がある。
『宇宙の膨張が限界まで達して収縮し、再びビッグ・バンが起こる』という原理らしいのだが、もしそれが本当で、時の加速がそれを起こすまでになっていたのなら。
「最悪なのはぼくが記憶障害か何かで狂っているって可能性だが…………」
唐突にスタンド使いである記憶を思い出したりするなど、あまりに奇跡的すぎる。
事実は小説よりも奇なりということわざがある通り、往々にしてこういう出来事は起こるものではあるが。
もし自身が異常な精神状態にあるのなら、手の打ちようがなく、尚且つ確かめる術すらもないので仮定しておくのみだ。
それから、スタンド使いだった記憶が蘇った今、確認しなければならない事がある。
「『
それは無個性であると診断された新しい世界において、スタンドが現れるのかどうかだが。『
「フム…………能力にも衰えはなさそうだ」
机を本にして手に入った情報はおおよそ商品情報に書かれている事ばかりであったが、重要なのは内容ではなく、『
それから一つ気になるのは、この超人社会においてもスタンドは一般人には見えないのか、という事だった。
どちらにせよ個性が発現したという届出はしなければならないが。
・・・
雄英高校とは何かと聞けば、世界中の名だたるヒーローが通っていた名門校だとか、倍率300越えの超難関校だとか、大体そんな感じの答えが帰ってくるだろう。
人によっては平和の象徴オールマイトの出身校だとか、自分の好きなヒーローの名前を出す人もいるかも知れない。
むしろそう尋ねれば知らないのか!?という顔をされ、一体どういう環境で生きてきたんだ?と今までの人生に勝手に思いを馳せられ、挙句勝手な妄想で同情される事になるかも知れない。
というか、少し前に客観的な意見を得るためにそう質問した事のある露伴は、そういう勝手な妄想を世に撒こうとした記者と打ち合わせをしているところだった。
「ナアナアナアナア、いいか、まずぼくは雄英高校について何も知らないから聞いたんじゃあない!あくまでぼく以外の人間にとってどういうものかを知りたかったから聞いただけだ。それをやれ岸辺露伴は常識知らずだの可哀想だの落書きするみたいに脚色しやがって!ぼくは実在する漫画家であって、架空のキャラクターじゃあないんだぞッ!」
「す、すみませんッ!」
少し寂れた通りにある落ち着いた喫茶店のある一席では、露伴より10歳程年上の記者が怒り心頭といった様子で怒鳴る露伴に対し、内心どう思っているのかは知らないが慌てて頭を下げていた。
露伴は、驚いて反射的に頭を下げたといった様子にもムカついたが、なによりも漫画のネタになる話と交換条件の上で行ったインタビューで、話した内容がことごとく捏造された挙句、質問内容は明かさないという契約を破られた上、しかも勝手な妄想で同情を誘うような――例えば、どこから調べたのか両親が不在がちな事を槍玉に挙げ、十分な愛情を受けられなかっただとか――そういうチープな設定を練り込まれていたのだ。
露伴も大人であるし、ある程度の捏造なら許していた…………かも知れない。
自分の美学には反する事ではあるが、ちょっとした捏造をしなければまともに記事も書けないような三流がいるのを知っているからだ。当然、もし許したとしてもそんな会社のインタビューは二度と受けないだろうが。
しかし今回のは大分酷かった。
当然ではあるが何の根拠もない妄想で、不特定多数の人間に勝手に可哀想なやつだと下に見られるのだから、腹が立たないわけがないのだ。
しかも岸辺露伴という男は、かなりプライドが高く自己中心的だった。
おそらくこの記者には、岸辺露伴が15歳である事から、漫画界の常識というものを知らないだろうという悪意があった。
だからインタビュアーには出版する前に原稿を見せてもらえる権利がある、という事を意図的に教えずに校正を通そうとしたのだ。
スタンド使いとして目覚める前の、『
「とにかく、このまま訂正せず勝手に出版しようっていうんなら、こっちにも考えがあるぞ!」
「わ、わかってますとも!きっちり訂正した上で出版させて頂きます!」
わかっていないからこうなったんだろう。そうは思ったが、これ以上長引かせるのも時間の無駄だと切り上げる。
漫画のネタにもなりゃしないと悪態を吐いたところで、インタビューを受けてしまった事実は変わらないのだからどうしようもない。
ほぼ責問に近い打ち合わせを終え、露伴はさっさと帰路につく。
「ム、なんだか騒がしいな…………」
その道中にある商店街で、人集りができているのを見つけた。
こんな街中で一体何が起こっているというのか。好奇心を惹かれた露伴はその中心を見るために、人混みを掻き分け、その最前列へ向かう。
人混みを掻き分けながら環境音と野次馬の話を聞き取った感じでは、どうやら中学生が敵に捕まっていてるとかで、ヒーローの救助活動が上手くいっていないらしかった。
今スケッチブックを持っていないのが惜しい!などと思いつつも、最前列へ躍り出た露伴はその光景を目に焼き付ける。
そしてそこで、露伴にとって最高だとも思える展開が訪れた。
「…………ッ!」
「馬鹿ヤロー!止まれ!」
同じく中学生か、怯えを飲み込んだような表情で人混みの中から飛び出していった少年の姿に、露伴のテンションは最高潮だ。
これだよこれ!と言いながら野次馬から引ったくったサインペンで二の腕にスケッチする。助ける気などは微塵もない。
むしろ、後でどうにか本にして読めないものか、とまで考えていた。
「ああクソッ、ここからじゃあ何て話しているのか聞き取れないぞ…………!」
人混みから出て近付こうとする露伴を野次馬の規制に当たっている警察官が止める。
先に飛び出た中学生がいる分、他に出ようとする人間がいないかをしっかり見張っていたらしい。余計なお世話だ、と露伴は思う。
敵は自分に近付いてきた少年の姿を視界に入れ、排除しようとする。
「しぇい!…………っ、かっちゃん!」
少年はそれを、リュックを投げて目くらましにする事で逃れた。
そしてそのまま、敵の粘性の体へ飛び込んで、人質である少年を助けようと掻き分けようとする。
名前を呼んだ辺り、人質になっている少年は友人だったのかも知れない。
「しかも素手か…………!もしかしてあいつ、無個性なんじゃあないか!?いいぞッ、最高だッ!」
自分の身も顧みず友人を助けようとする少年の姿は、露伴にとって最高のネタだった。
しかしリュックによる目くらましなど一瞬の効果しかなく、視界が回復した敵からの攻撃を防ぐ手立てなど、少年にはない。
少年の身を案じたヒーローが慌てて飛び出す中、誰よりも速く2人の中学生の手を掴んだ者がいた。
「なッ、オールマイトだと……!?」
「プロはいつだって命懸け!!!!DETROIT SMASH!!!」
オールマイトの一撃により、敵は吹き飛び雨が降る。
正に少年漫画の第1話みたいな展開だった。
極上のイタリア料理を前にしたみたいに、露伴はごくりと息を飲む。
右手一本で敵を散らし天気を変えたオールマイトに、野次馬達は歓声を上げた。
その中で露伴は、目に焼き付けた光景を漫画にするため、二の腕のメモが雨で消える前にと慌てて家まで走った。
きっと、あの少年は雄英を受験するだろう。
なんとなく岸辺露伴の漫画家としての直感がそう告げていた。
雄英高校ヒーロー科。
必要な時に取材する、ではいけないのだ。
自分の目で、いずれヒーローとなる金の卵達が成長していく様を見なければならないッ!
そう決意して、露伴は進学する先を雄英高校に決めた。
メタを追加しました。
※インタビュイー:インタビューをされる人。interviewee。