・非生物にも書き込める→非生物も本にできる。
詳しい理由やその他の補足は主に活動報告にて行います。
月日は流れ、雄英高校ヒーロー科実技試験当日。
露伴は、さっさとガイダンス室に入り用意された資料に目を通していた。
受験のために色々詰め込んだので筆記試験には自信がある。
元より露伴は、咄嗟に
実技試験は……『
「これはちと厳しいか?」
敵となるのは機械である。
故に、本にするのならともかく、書き込むのは不可能だ。
何機か本にして…………いや、不可能か。射程距離から出た時点で再び動き出してしまう。
機械相手でも本のページはちぎれるのだろうか。やってみた事がないからわからんが。
露伴はどう対応するか考えながら資料を読み込んだ。
ちなみに福内は普通科の高校を受験する。
連絡先は交換しているからいつでも会えるし、漫画のネタになりそうなものが絡まない限り会いたいとは思えなかったので正直どうでも良かったが、露伴がそれを本人に伝えると福内はショックを受けていた。
「おや、あれは…………」
緑の蓬頭を見つけ、例の事件を思い出す。
似たような髪の人間もいるので確証はないが、何となくあれが例の事件で飛び出して行った少年である気がした。
偶然にも席は隣。露伴はチャンスだとばかりに声をかけた。
「なあ君、六ヶ月くらい前にあったヘドロ事件で
「へ!?」
少年の首が、面白いくらいの勢いで露伴の方を向く。
受験前だとかの遠慮など存在しない。一度火の着いた好奇心を消化する術はない。
好奇心の暴走特急を目の前にして、少年はしどろもどろになる。
「えっ、あ、その…………」
「おいおい、何も取って食おうってわけじゃあないんだからさ。そんなに緊張しないでくれよ。ぼくは岸辺露伴、漫画家だ」
これが少年でなかったとしても、これから受験!という時にいきなり話しかけてくるような見知らぬ人間がいればびっくりしただろう。
しかもヒーロー科の試験会場であるのに、自己紹介で迷わず漫画家だと名乗る。
中学の制服を着ていなければ不審者として追い出されていたかも知れなかった。
「あ、み、緑谷出久です……。その、何か用で……かな?」
緑谷と名乗った少年は、初対面にも関わらずグイグイ話しかけてくる露伴に気圧されていた。
そもそもが内気な少年なのだ。こんな不審人物、どう対応するのが正解なのかと悩むのも無理はない。
おまけにどことなく年上のような雰囲気で喋るので、うっかり敬語が飛び出しそうになる。
悪いのは露伴だった。
「いやなに、実はヘドロ事件の時にたまたま通りかかってね。君が助けに飛び出たのが印象に残ってたんだ。よければ後であの時の話を聞かせて貰いたいんだが」
「ぼ、僕に…………?」
「他の誰に聞くって言うんだ。そう、君だよ君」
完全に萎縮してしまった緑谷に露伴は首を捻って、はたと思い付く。
「いやなに、君を糾弾するために取材がしたいんじゃあないんだ。ぼくは単に、非力な少年が友人を助けようと――――」
「おい、俺とコイツはダチじゃねえ」
静かに怒りを堪えたような声で、緑谷の右隣に座る少年がそう言った。
露伴はそれを気にも留めなかった。
いや、正確に言えば内容は聞いたが少年は無視した、という感じか。
「つまり友達でもない他人を助けようとしたと。いやァすごいなァ〜〜〜〜、中々できる事じゃあないよ!」
「あ、ありがとう……?」
「このクソ野郎…………ッ!」
ここが雄英の試験会場でなければ喧嘩になっていただろう。
露伴がわざわざ大袈裟に緑谷を褒め称えたのには少年を煽る意図があった。理由は特になかった。
ただ、コイツをからかったら面白そうだなというイタズラ心があったのみである。
少年はいきなり自分を煽ってきたこの変わったヘアバンドの漫画家に腹を立てたが、ここが雄英高校の試験会場だった事を思い出して怒りを飲み込む。
試験前に揉め事を起こすのは得策ではない。
ツンツンとした粗暴そうな外見の割に、冷静に物事を見る事のできる男だった。
「で、ついでにその
「おいクソナード、もし少しでも俺についてこいつに話したらその瞬間ブッ殺すからな」
露伴は自分の事を棚に上げて、コイツ、ホントにヒーロー志望か?と疑う。そもそも露伴は漫画家志望というか漫画家なので、土台が違う気がしないでもないが。
別に一対一なら『
露伴はまあ
そろそろ試験について説明する時間になる筈だった。実際、サングラスをかけたヒーローが講演台に上がっている。
緑谷がブツブツ呟いているのを聞くに、プレゼント・マイクというヒーローらしい。
「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」
シン、と静まり返った講堂内で、プレゼント・マイクにコールを返す者はいない。
諦めたのか、その後のコールは全て自分で行っていた。涙ぐましい努力である。
「質問よろしいでしょうか!?」
不意に受験生達の中から手が挙がる。
プリントの4種目の
そして先程から騒がしい露伴達の方へ顔を向ける。
「ついでにそこの縮毛の君と妙なヘアバンドをしている君!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
「ハァ〜〜〜〜?何故このぼくがきさまのような小僧に――――」
「ちょ、ちょっと岸辺くん!?あと、後にして!」
怒っている理由を推測こそしたが、そもそも資格の有無を決めるのは少年ではなく雄英だし、自分がそれに捕らわれる必要はないとも思っていた。
それ故に何か反論をしかけた露伴を、緑谷が慌てて止める。後とは即ち試験終了後の事だった。
不機嫌そうではあるが大人しく黙った露伴に、緑谷は内心ほっとした。流石の露伴も、くだらない揉め事を起こして受験できなくなっては困るのだ。
「試験前に喧嘩はNONO!それじゃ受験番号7111くんのお便りに答えていくぜ!」
4種目の
各会場に一体なら、巨大か強力かのどちらかだろうと推測。
強力で、かつ遠距離攻撃の手段を持った
巨大なだけであれば敵ではない。
以前福内で勝手に検証して、スタンドが一般人には見えないものである事は理解している。
機械の目に対してはどうか知らないが、そもそもスタンドには物理攻撃など効かないのだから、本体への攻撃にさえ気を付ければどれだけヘブンズ・ドアーが突出してもダメージを受ける事はない。
それなら
「それじゃあ出久くん、ぼくは違う会場だから」
「あ、うん……」
短い時間会話しただけであったが、あの人大丈夫だろうか――――緑谷は会場へ向かう露伴の背を見ながらそう心配した。主に、誰かと喧嘩しないかの方面で。
・・・
露伴が着いた頃、試験会場には既に多くの人間がいた。
露伴達の話が聞こえていた受験生は、自身を漫画家だと名乗っていた彼の様子をチラチラと窺っている。
迷いなく漫画家だと名乗るような人間がどうしてこんな所にいるんだ、といった様子だった。
そんな視線を集めている張本人は、模擬市街地の広大さに驚き、感心していた。
試験のためにここまでコストをかけるのかとか、予算はどこから出ているのかとか、色々と考える事はあった。
しばらくして、この場を監督する教師であろう髪の長い女性が口を開いた。
確かあれはミッドナイトというヒーローだったか。
「試験開始よ!」
喋るや否やいきなり開始か――――と少し驚きはしたものの、特に戸惑う事もなく露伴は試験の舞台である模擬市街地へと駆けていく。
『
それに、もし『
他の受験生の様子を見たい気持ちはあっても、そんな余裕はなかった。
「『上に吹っ飛ぶ』ッ!」
露伴は自身に書き込んで上空まで飛ぶと、敵の姿を大まかに確認する。
そして次に、『ゆっくり地面に落ちる』と書き込んだ。
着地した頃には既に足の速い受験生が先に進んでいたが、大切なのは自分のペースで敵を倒していく事だ。
露伴はまだ他の受験生が向かっていないであろう
「『
見つけた
ページに書き込む事は無理でも、破る事は可能だったらしい。何の抵抗もなく、人からページを破りとる時と同様に簡単に破れる。
全ページ破るのにはやや手こずるが、元が機械なだけあってページ数はそう多くない。
自慢のハンドスピードを駆使して一瞬で破り捨てていく。
幸いだったのは、この
これならば機動力の低い露伴であってもポイントを稼ぐ事ができる。
ミサイルを飛ばして攻撃してくる3Pの機体はともかく、その鉄の体で直接攻撃してくる1Pや2Pの
3Pの機体も、危なげこそあるものの問題はなかった。ミサイルはヘブンズ・ドアーのスタンドヴィジョンで叩いて直撃を避け、爆風に乗って近付き、本にしていく。
「今でようやく26ってとこか?」
その場にいる機械を再起不能にした露伴は、再び『
それの繰り返しで、着実に点数を稼いでいった。
「ふーーー…………これで54ポイントか」
3Pの機体に至っては完全に無傷で打倒する事などできないし、試験も終盤になる頃には露伴の体にはいくつもの細かい傷ができていた。
息を落ち着けていると、ふと足元に振動が走った。同時に、背後から何か重たい音がして振り返る。
そこにいたのは、ビルをも砕く巨大な仮想敵だ。
丁度背後のビルを踏み潰しながら出てきた巨大な
そのまま何の感情もなく、ただ目的地に向かうまでの進行上の障害物として、露伴を押し潰そうとする。
「うおッ!?」
露伴はそれを『
着地に失敗し、体をぶつけた。落ちていた瓦礫にひっかかり、皮膚が裂けて出血する。
しかし、チャンスはあった。
「『
手をついた
露伴の右手がブレる。
その動きに従ってヘブンズ・ドアーが0P敵の足へと触れた。
0P敵はバラバラと本になって前方へ傾くが、腕が支えになっていて倒れることはない。
「これを倒しきる必要はないが…………。ここからは射程距離から出ないようにポイントを稼がなくちゃあならないな」
巨大ロボットは、その巨大さ故かページ数も非常に多い。
これは破るよりも本のまま放っておく方が良いなと判断して、近場に
幸いにも、巨大ロボットが傅いた音に引き寄せられて、多くの
それを利用して一匹ずつ本にしてページを破っていく。多対一になりそうな時は、倒した
「試験終了ーーーーーーッ!」
その合図を聞いて、露伴はふっと気をゆるめる。これで終わりらしい。
模擬市街地はあちこちに破壊の痕が見え、これは破壊された街を描く際のリアリティーに繋がるなとぼうっと思った。
後でここの写真を撮らせてもらえないか聞いてみようなどと考えつつ、試験終了後の案内が放送されるのを待つ。
「お疲れ様お疲れ様〜〜〜。ハイハイ、ハリボーだよ。他の会場も回らなくちゃならないからちゃっちゃっと行くよ。怪我した子はいるかい?」
回っていたのは、リカバリーガールと呼ばれるヒロインだった。
治癒力を活性化させる個性の持ち主で、人や物に関わらず
露伴はここぞとばかりに手を挙げる。
体には回避に失敗したり着地に失敗したりで、細かい傷であったりが沢山できている。露伴は個性による治療がどういうものなのかを知らないので、体験するのには丁度良かった。
「はい、チユ〜〜〜〜〜」
リカバリーガールの唇が伸びて露伴に触れると、たちまち露伴の体にあった傷が治っていく。
代わりにどっと疲れたような感じがして、彼女の個性による治療は体力を使うのか、と知った。
・・・
一週間ほどして、露伴の自宅に手紙が届いた。
中には薄べったく丸い機械と数枚の書類が入っており、露伴はとりあえず機械の方を起動させる。
「私が投影された!」
途端、空中に動画が展開される。
そこに映っていたのはオールマイトだ。
これには露伴も、流石に驚いて目を丸くする。
「実はこの春から雄英で教師を勤める事になっていてね。それじゃあ早速試験の結果だが…………筆記も実技も合格点だ!おめでとう!」
合格通知がくると、肩の荷が降りた気分だった。白い布についたちょっとした汚れが取れた時のような爽快さがあった。
正直に言うと、ほんのちょっぴりだけ『落ちてるんじゃあないか?』という不安があったのだ。それが台風が通った後の空のように晴れ渡っている。
「ちなみに実技試験、実は
そこで映像は終わった。
同列1位の、もう1人以上の人物については教えられなかったが、きっとプライバシーを考えての事だろう。
そういうとこしっかりしてんだなァ……とがっかりしながら、同封されていた書類へと手を伸ばすのだった。
お気に入りや評価、ありがとうございます。励みになります。
50件もお気に入りして頂けるとは思っていなかったので、嬉しい限りです。
次回更新は9/8の20時を予定しています。
追記
誤字報告ありがとうございます。
(操作方法がよくわからず手動で修正を行いました。そのため誤字が直っていないかも知れませんが、決して無視したわけではありません)
・同率→同列