「…で、なんだ。お前の用とは。」
とある屋敷のとある部屋。上座に座る男性が下座に座る少女を見る。男性は足を崩し、少女は正座で。
「お願いがあります。」
数秒の沈黙の後、少女が口を開く。
「私の高校入学…高度育成高等学校への入学を認めて頂けないでしょうか。」
頭を下げる。俗に言う土下座である。
「…」
それに対し答える男性の言葉は…
―*―*―*
桜が舞う。
人が歩いている。あ、自転車が通り越した。
そこの2台の自動車は互いに互いの車を追い越してまるで競争をしているみたい。
あ、鳥。
「…待った。」
私の脳内の語彙力とIQが段々幼児レベルに退化していることに気付き、思わず呟いてしまう。最後なんてもう風流の欠片すらない。なんだよ『あ、鳥。』って。
確かに久しぶりに島の外に出た。だが、それでも私はこれから高校生なのだからもう少し大人な感想を思い浮かべたっていい筈だ。
「ねぇ。席、譲って貰えないかな?」
ふと声がしたので声の主がいるであろう方向を見る。
「そこ、優先席だし、おばあさんに座ってもらった方がいいと思うの。」
声の音量的に私に向かって話しかけていたのかと思ったら違ったらしい。
声の主は隣に座っている男子に向かって話しかけていたらしい。声の主も男子も私と同じ制服ということは私同様あの学校の入学者なのだろう。
「…無益な事をしなければならない?」
どうやら男子の方は譲る気がないらしい。
「でも…」
「ねぇねぇ。」
えっ?という声と共に私の方を見る彼女。(言い忘れていたが、声の主は女子だ。)
「別にそれ以上の言及はしなくてもいいと思うよっ。だって、見るからに譲る気がなさそうじゃん?」
「でも…!」
「でも、貴女の優しさを水泡に帰するなぁんてことはないよ?」
反論をしようとする彼女に被せて告げる。
「だって私が席を譲ればいいだけの話じゃん?確かに確かに男子の席は優先席。でもバスの優先席は一席ではない。私が座っている席だって優先席だし、なんならなんなら、こっちの方が降車口に近いじゃん?おばあさんは降車が楽だし、貴女はそれ以上にお願いをしなくてもいい。これって一石二鳥じゃん??ってことでおばあさん、どーぞ!」
そう。自分が座っていたのも優先席。多分彼女はおばあさんがより近かった男子へと向けて…または体力がありそうという意があって言ったのかもしれない。でも降車口に近い方がおばあさんだって楽だ。多分、そこに座っていたのが男子ではなく、華奢な女子ならば彼女は私に話しかけただろう。それに、言ってなかったが、男子自身もそのまま口論をせずに落ち着いて席に座ってられる。言い様によっては一石三鳥ものなのだ。
「ありがとうねぇ。」
「いえいえっ、当然のことでしょっ!」
そう言いまた視線を窓に向ける。
「ねぇねぇ。私からもお礼を言わせて。ありがとう!」
「別にいいよ~。誰かへの利点は多い方がいつかあたしにとって凄くいい利点となって帰ってくる。それに、今日は座ろうって思っていた席、既に座っていた人がいたからそこの席に座りたいとか思ってなかったし。さらにさらにー、バスで立っているのは体幹が鍛えられるって確かどっかで紹介していたよ?女子は体幹があった方がいいって言われた覚えがあったから、ちょーどいい機会だし。」
ただし、自分の言われた、や紹介していた、は小学生卒業前迄のではあるが。
「それでもありがとう。ねぇ、その制服って…。」
「貴女と同じ学校に自分も進学するの。もし、同じクラスになったらよろしくね?」
「うん!私の名前は櫛田桔梗。君は?」
なるほど。コミュニケーションが高そうだと思っていたが、これ程までとは…まさか、学校の敷地に入る前に同学年の名前を知ることになるなんて。
「私は東雲水樹。前はきーちゃんとか呼ばれてたからそう呼んで!」
「わかった。きーちゃん、よろしくね!」
「うん。よろしくなのです!」
そんな自己紹介をして雑談に入る。
雑談をしながらバス内を軽く見渡すとかなりの数の新入生が。まぁ、そうだよな。
(…いた、)
後部座席の中の1人に目が離せなくなる。
「きーちゃん?どうしたの?」
「否、なんでもないよ?ただ、ちょっとかっこいい人を見つけちゃって。」
「えっ、どこどこ?」
「ほら。」
やはり女子。イケメンという言葉には釣られてしまうのだろう。
桔梗ちゃんが探しているときにも私の目は件の人…彼を見つめている。
以前入試でちらっと見て以来なのだが、私の目に間違いはないだろう。
(待っててください!我が主様…!)
只、見られていた彼は
「…何故俺をずっと見つめているんだ?」
そんな疑問が頭から離れないみたいだが。