超次元偶像二宮飛鳥のセカイ   作:関ち出張所

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≪Review by Asuka≫

 

 Dimension-3としての活動は予定通り、六月末までの約一か月間続いた。

 最初こそ危ういユニットだったけれど、最終的にボクも志希も終わりを惜しむ程度には楽しんでいた。ユニット活動が終わってからは、志希とは親しい友人として付き合うようになった。

 

 Pの言う()()とやらでは、Dimension-3の後はCAERULAというユニットを結成することになっていた。

 CAERULAの予定メンバーはボクの他に塩見周子、速水奏、鷺沢文香、橘ありす。いずれも超人気アイドルと言うべき逸材で、彼女達が一堂に会したというだけで話題になること間違いなし。しかも予定されていた曲もそこはかとなくSF感があって、それはボクのアイドルイメージに親和性がある。つまり次なるステップアップとしては、これ以上相応しいものはないと思えるユニットだった。

 しかし結局、別のユニット、しかも二宮飛鳥に期待されていたアイドル像からかけ離れたコンセプトのLittlePOPSに加入することになった。

 というのも、“ALD”の出目がそうなったからだ。

 

 Pが持っていた不思議なサイコロをボクは“ALD”と名付けた。

 Anti Laplace's (demon) Dice 略してALD。

 

 蘭子の初ライブの日以降、ボクのアイドル活動に関して何らかの選択が必要な場合にはALDを使って選ぶことにした。

 その方法はPが言っていた通りだ。

 何か選択できるタイミングがあればどんなときにでも、そして仮に強い第一候補があったとしても、あえて幾つか別の選択肢を考える。そして各選択肢をALDの六面のいずれかに対応させた後でALDを振り、その出目の選択肢を採用する。ちなみに出目は絶対――出た以上は必ずそのルートを選択する。もちろん振り直しも無し。

 どんなユニットを結成するかなんていう超重要案件も、どのライブやテレビ番組に出るかということも、グラビアの水着の柄なんかを決める為にもALDを振った。その他、Pと一緒にいるときには食事場所やメニューなんかもALDで決めたりした。

 

 そうしてALDを振り始めてから三か月ほどが経った。

 その間にボクはLittlePOPSの他にも二つのユニットで活動し、中規模のライブに六回、大規模のライブに二回出場した。またライブ以外にも、グラビアやグッズの監修、バラエティ番組への出演など実に様々なお仕事をした。

 サイコロに身の振り方を任せるなんて、率直に言って馬鹿げていると思う。しかし楽しかった。Pとあーだこーだと言い合いながらサイコロの目――ボクの可能性――を検討することは、実に楽しかったんだ。

 それに、ALDに任せた選択肢とはいえ、いつだってPはボクに全力を出すよう仕向けてくるわけで、それを乗り越えてやることには達成感があった。

 

 その結果として、二宮飛鳥は『コンセプトブレブレな中堅アイドル』という実に有り難い評価を世間様より賜ってしまうことになってしまったわけだが……。まったく、ままならないモノだ。

 でもその甲斐あってか、二宮飛鳥と神崎蘭子を関連付けて語られることは回避できた。

 

 一方、蘭子はこの三か月で大きく羽ばたいた。蘭子の奇跡のステージはまぐれや錯覚なんかじゃないんだから当然の結果だろう。

 期待の新人と見做された蘭子は小規模ライブをさっさと卒業し、中規模ライブに引っ張りだこになった。そしてその度に不可思議なパフォーマンスで観客を魅了した。当然ファンも倍々に増えていく。そして二か月もすれば蘭子の主戦場は大規模ライブへと移っていた。その頃には神崎蘭子というアイドルの、特異な才能を疑う者はほとんどいなくなっていた。

 蘭子が純然たる自力でそこまで至った時点で、ボクはアイドルとして彼女に完全に抜かされてしまったことになる。そのことについて、悔しくなかったといえば嘘になる。かといって、まともにやり合ったところで現状は勝てる見込みはない。だから今は雌伏のときなのだと、自分で自分を納得させていた。

 しかし、それがある種の平和ボケであったということを、ボクとPは唐突に思い出させられることになった。

 

 

 

 

 

≪Observation by Asuka≫

 

「え~マジっすかぁ……容体は? ………あぁ、それなら良かったです。いえ、それは……あー………なるほど……はい、はい……」

 

 Pの居室でのレッスン後の報告と雑談を終え、帰宅しようとしたときだった。タイミングよく部屋の電話が鳴ったのだが、珍しくPの声のトーンが低かったので、ボクはドアノブを捻るのを止めソファへと戻ることにした。

 普段はヘラヘラしているPの表情が随分と曇っている。そして電話の相手の言葉を受け流すような「はい」を何度も繰り返した後、電話を切り天井を仰ぎ見て「はぇ~~」と気の抜けた鳴き声を出した。

 

「何か問題が……?」

「良いニュースと悪いニュース。それと最悪なニュースと最高なニュース。どれから聞きたい?」

「っ! ……その順でいい」

「明後日のライブだが出演会場が変更になって、なんと大規模会場で演れるようになった」

「へぇ……」

 

 聞けば、ボクたちの出る予定だった中規模会場の音響設備に致命的な故障が生じたため、その会場でのライブは中止、出演予定のユニットは比較的近隣で開催される幾つかのライブ会場へと編入されることになったらしい。そしてボクたちのユニットは幸運にも大規模会場へ振り分けられたのだ。

 

「じゃあ、悪いニュース。高垣ちゃんと鷹富士ちゃんは元から、別の外せない仕事で欠場ってことだったよな?」

「……そうだね。だから明後日のステージは亜季さん、涼さんとの三人で――」

「その二人も欠場になっちゃった」

「はぁ!?」

「さっきの電話、大和Pさんが病院から掛けてきたんだけど、二人ともノロにやられたってさ」

「いやいや、その二人とはさっきまで一緒にレッスンを……」

 

 午後から夕方まで続いた今日のレッスンを思い返してみる。すると確かに、中盤ごろから二人の動きは極端に悪くなっていた。いつもならバテるのはボクが一番なのに妙だと感じていたのだが、そのときにはもう発症していたということか?

 

「あっ、もしかしてボクも危ないのか……? ノロの感染力は凄まじいというし。二人とは昨日もレッスンで会ってる……」

「いや、見たところ……うん、飛鳥は大丈夫だ」

「見てわかるものかい?」

「まぁな。不安なら手洗いしっかりしとくといい」

 

 冗談っぽくもあるが、実際のところ体調に異常は全く感じない。であれば現状はPの言う通り、手洗いうがいをしておく以外にすべきことは無い。気にしても無意味だ。

 

「その二人も欠場となると残りはボクだけになるわけだけど、ステージはどうなるんだ?」

「飛鳥のソロだ。本来は五人で歌う曲でも、CDにソロバージョンも収録してるんだからイケるだろ? って、ライブの責任者が言ってるらしい」

「それは……そうだけど……」

「ソロは不安か?」

 

 これまで一人でステージに立ったことはない。いつもユニットの一人として歌っていたから。しかし事情はどうあれ、大きな舞台にソロで立つというのはアイドルという人気商売においては喜ぶべきだろう。

 

「不安はあるよ。でも、やれなくはないと思う」

 

 むしろ不安なのはPの苦虫を嚙み潰したような表情、まだ聞いていない最悪のニュースのことだ。

 

「それで最悪のニュースなんだが」

「う、うん……」

「その大規模ライブの元々の出演者の中に、神崎ちゃんがいた」

「え……」

「しかもライブ構成の再編成の結果、飛鳥の出番は神崎ちゃんの直後になった。つーか、飛鳥がトリだ」

「ええ………」

「この順番はアレだな。十中八九、神崎Pが仕組みやがったな。ハハ……」

「えええ………」

「つまり――」

「いや、いい。理解っている……」

 

 つまり。合同ライブの大詰め、蘭子のパフォーマンスに魂を魅了され、抜け殻になったオーディエンスに向かって、ボクは歌わなければならないということだ。歌い切ったのに一切反応のない会場の情景が頭に浮かんで、背筋に悪寒が走る。それが現実のものとなったとき、ボクがまだアイドルを続けたいと思えるか甚だ疑問だった。

 

『十月半ば、大規模ライブ、蘭子と衝突』

 

 それはいつか聞いたようなシチュエーション。三か月前、Pが予言したことそのままが起ころうとしているのだ。それを避けるためにALDを振り続けていたというのに。

 

「なぁ……P。これは何なんだ? ボクたちの三か月は一体何のために……。もしかしてただ回り道をしていただけなのか?」

 

 無意識に語気が荒くなっていた。別にPを責めたかったわけじゃない。不気味だったんだ。この状況を招いた一つ一つの要因は紛れもない偶然や不可抗力。でも、だからこその不気味さがあった。まるで、ボクたちを定められた運命へ引き戻そうとするような、得体の知れない力が働いているように思えてしまう。

 

「キミはどう思っているんだ?」

「……わからない」

「ッ!? 何を無責任な!」

「ふっ……違うぜ、飛鳥。そういう意味じゃない。どうなるか、わからないんだ。これが最高のニュースってやつさ」

「は…?」

 

 いつの間にかPはいつものいやらしい笑みを浮かべていた。

 

「三か月前の時点では、成す術なく敗北する未来しか見えなかった。だが今は、どうなるか予測できない。神崎ちゃんに負けるのか勝てるのか、それとも~~!? いや、マジでわからんなんなんコレェ」

「そんなにか……」

「俺たちは今、分岐点にいるんだ。そしておそらく、どのルートに入るかを決めるのは、You……飛鳥だ」

 

 出た、英語。

 

「……つまり結局は、当日のボクのパフォーマンス次第だと?」

「That's right!」

「………ライブの結果がどうなるかわからないことが最高のニュースだって?」

「勝利の約束されたイージーゲームなんて、飛鳥の趣味じゃないだろう?」

 

 Pはそう言って、右の口角を吊り上げ挑戦的な笑みを浮かべる。これをされるとボクが乗ってしまうこと、この男はちゃんと理解っているんだろうなぁ。

 

「……フッ! 他人事だと思って! まぁいいさ、やってやる! これまでで最高のパフォーマンスを見せてやる!」

「それでこそ二宮飛鳥だ!」

 

 まぁ、いいんだけどね。伸るか反るか分からない勝負が一番面白いのは確かだ。

 

「きっとこのライブが Third Stage の climax だろうな」

「……あぁ、久しぶりに聞いたね、それ」

 

A SUKA The Idol だとかいうふざけた叙事詩(?)だったっけ。たしかThird Stage は“叛逆のステージ”という設定にしていたな。

 結局のところ、ボクがすべきは全力でのライブ。それはいつもと変わらない。分かり易くて有り難いね。

 

 

 

 

 

≪Observation by Ranko≫

 

『よもや、かの白騎士までもが明日のミサへと召喚されるとは。大いなる祝福は約束されたようなもの。共に天界への扉を叩こうぞ!』

 

 飛鳥ちゃんに送ったメッセージを改めて眺める。既読表示が付いてからもう5分くらい経つけど、まだ返信は来ない。

 

「て、天変地異か……?」

 

 最近は飛鳥ちゃんと連絡取ってなかったのに、急に送ったからびっくりさせちゃったのかな? 文章もいつもの感じにしちゃったし……。

 

「やっと飛鳥のライブが観られるんだもん……」

 

 明日の合同ライブに飛鳥ちゃんも出ることになったって聞いて、居ても立っても居られなかった。飛鳥ちゃんのステージが観れたのは、Dimension-3のあのライブが最初で最後になっちゃってる。出来ることなら全部観に行きたいけど、初ライブをしてからというものすごく忙しくなって、とても時間がとれない。

 

「ほんとうに素敵だったなぁ~~」

 

 飛鳥ちゃんと一ノ瀬志希さんの、自分たちのすべてを曝け出すような熱唱。あの衝撃は今も私の胸に鮮明に残っている。プロデューサーは「友達贔屓でそう感じるだけよ」なんて言うけど、あのライブ以上に感動したライブはまだ観たことがない。

 

「ムフフ……!」

 

 だから本当に明日が楽しみ! しかも歌う順番は私の方が先だから、落ち着いた気持ちで飛鳥のライブが観れるし! そこはプロデューサーに感謝!

 

 ――ピコン

「きたぁ!」

 

 メッセージの受信音に機敏に反応して、携帯を持ってベッドにダイブする。

 

『明日のライブ ボクは全身全霊を以って臨む』

 

 飛鳥ちゃんからのとても簡潔なメッセージ。その簡潔さからは寧ろ飛鳥ちゃんの強い意気込みが感じられた。

 

「ゴ、ゴクリ……!」

 

 明日はスゴイことになりそう!

 私も頑張ろう!

 

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